私が今までに読んだ本の紹介(笠原十九司編)

笠原十九司
 都留文科大学教授。南京事件についての著書が多数あり、歴史修正主義の皆さんから嫌われている「立派な」歴史学者の一人である。*1
 私が持っている笠原氏の著書は以下の通りです。
 「南京事件と日本人」(柏書房)、「南京事件論争史」(平凡社新書)、「『百人斬り競争』と南京事件」(大月書店)、「南京大虐殺否定論・13のウソ」(共著、柏書房
 南京事件についての主要な嘘とそれに対する反論を手っ取り早く知りたければ、「南京大虐殺否定論・13のウソ」が有益だろう。*2もういい加減「南京には30万人も人はいなかったから30万人虐殺はあり得ない」「便衣兵狩は合法だから虐殺じゃない」*3などという低レベルな否定論はやめてもらいたい物である。*4
 「南京事件と日本人」は、「Ⅱ章 南京事件の記憶の抹殺者たち」に興味を持って購入(「Ⅱ章」以外はあまりよく読んでない)。
 「Ⅱ章」では南京事件の被害者・李秀英氏、夏淑琴氏をニセ被害者呼ばわりする東中野修道らが厳しく批判される。(確か、この本の出版後に、裁判で惨敗したんですよね?)*5
 「南京事件論争史」は「南京事件」の「論争」の歴史を説明した物。笠原氏が指摘しているように、この論争は「アポロは月に行ったか・行かなかったか論争」などと同レベルの物で、通常の学問論争(邪馬台国所在地論争など)とはまるで性格が違う物であることに注意が必要である*6
 「『百人斬り競争』と南京事件」はいわゆる「百人斬り」をネタに「南京事件」を否定しようとする南京事件否定派がいるため書かれた本(本来、「百人斬り」の有無と「南京事件」の有無は関係ないのだが)。*7
 「百人斬り」は事実であると思われること、「百人斬り」的なことは処刑された野田、向井だけがやっていたわけではなかったこと(当時の地方紙に戦意高揚記事として野田、向井以外の人間の「百人斬り」的記事が掲載されている)など、が指摘される。*8*9

*1:他に歴史修正主義の皆さんから嫌われている「立派な」歴史学者としては、永井和氏(京都大学教授)、吉見義明氏(中央大学教授)(以上、従軍慰安婦研究)、林博史氏(関東学院大学教授、沖縄戦研究)などがあげられる。

*2:笠原氏は「第3章.リアルタイムで世界から非難を浴びていた南京事件」、「第5章.数字いじりの不毛な論争は虐殺の実態解明を遠ざける」、「第11章.妄想が生み出した『反日攪乱工作隊』説」、「第12章.南京大虐殺はニセ写真の宝庫ではない」を執筆している。

*3:なお、前者には「当時の南京には30万人以上いたと思われるので、可能性としてなら30万人虐殺はあり得る」「それに全ての学者が30万人説を取っているわけではない(少なくとも日本人学者で30万人説はいないのでは)。従って批判として不当」「死亡人数が正確にわからないのは南京虐殺に限らない」、後者には「便衣兵の存在は認められていない」「例え便衣兵でも処刑には法の手続きが必要だが日本軍がそうした手続きを取った記録は存在しない」と反論すればよいだろう

*4:否定論はデタラメ垂れ流すだけだから楽でいいだろうが、研究者の側は、歴史学だけでなく、時に法律知識や軍事知識もある程度身につけなければならんから大変だと思う。(しかも、歴史修正主義者が反日呼ばわりするし)

*5:東中野らの本は内容はもちろんヒドイが表現もヒドイ。笠原氏も批判しているが今時、著書に平気で「支那」と書くのは、無神経すぎる。

*6:。「アポロは月に行かなかった」を笑う人間の中に「南京事件否定論者」が時にいるのは何だかなと思う。

*7:少なくとも軍が取材に協力している以上、捏造だとしても軍主導の捏造(戦意高揚目的?)であり、記者が軍を無視して(あるいはだまして)勝手に捏造したなどあり得ない。記者のみを「捏造」呼ばわりして非難する人間は全く何を考えているのだろうか?

*8:なお、野田、向井の行為は「据え物『百人斬り』」(捕虜の非合法殺害)と思われる。そのように中国側も認識していたからこそ、戦犯裁判で死刑判決が出たわけでもある。

*9:裁判判決文が野田の名前を「野田岩」(正しくは「野田毅」)と何故か誤記していることを指摘し、国共内戦の混乱で、十分な審理が行われず、結論ありきだったのではないかという疑い(もちろん野田、向井無罪とは言ってないが)を笠原氏が提示している点は好感が持てる(笠原氏を「反日」「中国の手先」呼ばわりする人間はこうした「中国に不利なこと」も笠原氏が指摘していることをどう理解しているのだろうか?)。