新刊紹介:「前衛」10月号

 「前衛」10月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
 http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 「前衛」10月号について、私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは10月号を読んでください)

■特集・加速する世界の新しい秩序作り
【座談会「世界の構造変化の奥深さと広がりを実感した旅:エジプトでの非同盟諸国首脳会議とニカラグアの革命式典に参加して」(緒方靖夫、菅原啓)】
(内容要約)
・エジプトでの非同盟諸国首脳会議とニカラグア革命*130周年式典の参加報告。緒方氏は共産党副委員長(国際局長兼任)、元参議院議員、菅原氏は共産党国際局員。

【鈴木勝比古「アジアにおける平和の共同体作り:ASEANの役割を軸として考察」】
(内容要約)
ミャンマー軍事独裁政権問題に有効な手が打てないなど様々な問題(ほとんどの問題はASEAN東南アジア諸国連合)だけのせいではないが)があるとしながらも、ASEANASEANから派生して生まれた組織(「ASEANプラス3」、「ASEAN地域フォーラム」)がアジアに果たす役割を高く評価。

【面川誠「G192の挑戦:国連が挑戦する世界秩序づくりの試み」】
(内容要約)
 G192とはあまり聞かない言葉だが、国連総会のことである(国連加盟国が192カ国だから)。G5(国連安保理常任理事国5カ国)やG8(サミット参加国8カ国)、G20など、特定の国に勝手なことは決めさせないと言うことを意味している。


■友寄英隆「中小企業の新たな役割と党綱領の立場:世界的経済危機のもとで」
(内容要約)
・日本企業を立て直すには大企業だけでなく、中小企業の役割が大事。
・中小企業を応援する政治を行う必要がある。


■特集・破綻する「医療改革」 どう打開するか(下)
(内容要約)
岩手県花巻市大迫町地区、京都府北部地域(福知山市綾部市舞鶴市宮津市京丹後市与謝野町伊根町)での取り組みを紹介。


山下芳生「学生とトーク:日本の未来と日本共産党を語る」
(内容要約)
・「共産党参議院議員である山下氏が行った講演会と学生との質疑応答をまとめた文章」(前半)とivote(http://www.i-vote.jp/)なる学生団体が行った各党政治家(つまり共産だけでない)と語る会での「山下氏と学生との質疑応答をまとめた文章」(後半)。
(なお、当日、会場ではなく、後日はがきやメールで質問というケースもあったようだ。)
・なお、「失礼ながら賛同できない、共産には投票できない」と言う学生のメールも「1つの意見」として好意的に(?)紹介しているところは好感が持てた。


■論点「『教育は無償』が当たり前の社会に:お金のあるなしで学ぶ権利が左右されていいのか」(佐古田博)
(内容要約)
・今回の衆院選では、「給付制奨学金の実施」、「幼稚園無償化」(自公)、「公立高校無償化」(民主)など、従来と違い、教育費負担軽減が重要テーマとなった選挙であった。
 「自己責任論」「受益者負担論」は影を潜めた。そのことは素直に喜びたい。(私の意見:野党の民主はともかく、自公は、ずっと与党なんだから今頃寝ぼけたこと言うな、と思う)
・総選挙後にどのような政権がつくにせよ*2、これらの公約は最低限、守らせなければならない(私の意見:もちろんプラスアルファが必要なわけだが。とりあえず、日本とマダガスカルしか留保してない例の高等教育無償化条項を批准しよう)。


■論点「アイヌ民族の生活の権利を守るために:政府の有識者懇談会『報告書』の内容と今後の課題」(原島則夫)
(内容要約)
・審議会報告について、以下の点は評価できる。
 委員に関係者として、加藤忠・北海道ウタリ協会理事長、高橋はるみ・北海道知事、常本照樹・北海道大学法学部長(北海道大学アイヌ先住民研究センター長兼任)を加えたこと。
 アイヌ先住民族と認めたこと。
 道外のアイヌも対象にするよう政府に求めたこと。
 政府に新たな立法措置を求めたこと。
・一方で報告書に「アイヌへの明確な謝罪の言葉」が無いことは問題である。


■暮らしの焦点「住宅地の建築紛争を招く規制緩和の転換を」(日置雅晴)
(内容要約)
規制緩和容積率の緩和、建築確認の民間開放等)によって、住宅地の建築紛争が増加している。ヨーロッパを見習い、もっと規制を強化すべきである。
・なお、現状でも行政指導など、あらゆる手段で建築紛争を未然に防止すべきである。


■メディア時評
【新聞:64回目の「8・15」(金光 奎)】
(内容要約)
終戦記念日「8・15」の社説について、全国紙より地方紙に見るべきものが多かった。(オバマ核廃絶演説を取り上げ日本も応援すべきと論じた北海道新聞京都新聞、田母神の核武装論を批判した中国新聞(広島)など)
・全国紙についての金光氏の批判は以下の通り。
朝日:戦争の記憶を受け継ごうというまともな社説。ただ地方紙に比べると政府批判が弱い。
読売:追悼のあり方について結論を出すべきという社説(無宗教の国立追悼施設推進派でしたっけ、読売)。話を「追悼」に限定しすぎ。
産経、日経:国際貢献・国際平和のために改憲せよという社説。当然、護憲派の金光氏は最も厳しく批判。
毎日:温暖化防止・省エネルギーの社説。「温暖化防止・省エネルギーも広い意味では平和だけど、8・15なんだから」と批判。

【テレビ:スポーツ番組の問題点(沢木啓三)】
(内容要約)
・テレビのスポーツ報道は視聴率偏重でゆがんでいる。(視聴率偏重でゆがんでいるのはスポーツ報道に限らないが。)
・具体的には以下のような問題があげられる。
 TBS「世界陸上」のメインキャスターが何故か俳優の織田裕二
 フジテレビのバレー中継にはいつもジャニーズタレントが登場し、ジャニーズが主役化している。また、メダルを取ることは失礼ながら、今の実力ではかなり困難なのにもかかわらず、やたら「メダルが取れる」と煽る(そして取れない)。
 テレビ朝日の「全英オープン」中継では、成績があまり良くないにもかかわらず、石川遼ばかりがクローズアップされた。*3*4


■美術「生き続ける菊タブー 沖縄県立博物館・美術館の場合」(北野輝)
(内容要約)
・4月に行われた美術展で「昭和天皇の写真をモンタージュした作品」の展示を沖縄県立博物館・美術館が拒否するという事件があった。
・これは菊タブー(天皇/皇族タブー)ではないのか?
・地元紙や左派メディア以外この問題をほとんど取り上げないことも問題である。


■音楽「日本近代音楽館の閉館」(小村公次)
(内容要約)
・作曲家の自筆譜などを収集している日本近代音楽館が来年3月末に閉館となる。(資料は明治学院大学図書館に移管)
・こうした施設が国や地方自体ではなく、民間任せの上、民間だと運営を続けていけない日本の現状はお寒い。


■スポーツ最前線「日本ラグビーW杯・日本代表強化の課題」(大野晃)
(内容要約)
・2019年ラグビーW杯の開催が日本に決まった。それまでに大幅なレベルアップをしてほしい。
・そのためには、日本ラグビー協会が中心となった根本的改革が求められる。(まずはどうやってラグビー人気を高めるかだと思う。)*5


■特集・戦争体験と国民
中村政則「戦争の体験を聞くということ・私とオーラルヒストリー」】
(内容要約)
・「昭和の記憶を掘り起こす―沖縄、満州ヒロシマナガサキの極限状況」(2008年、小学館)を出版した歴史学者中村政則氏(一橋大学名誉教授)へのインタビュー。
・なお、中村氏によると「被爆者に水を飲ませてはいけない」というのはどうやら都市伝説らしい。(むしろ、火傷により体から水分が失われているので、飲ませた方がいいらしい)


【野田正彰「戦争被害者の極限体験によりそう」】
(内容要約)
・「戦争と罪責」(1998年、岩波書店)、「虜囚の記憶」(2009年、みすず書房)の著者・野田正彰氏(関西学院大学教授)へのインタビュー。


■シリーズ「『韓国併合』百年と日本の進路」
【吉岡吉典*6(遺稿)「戦後日本と『韓国併合条約』(上)」(解題・中塚明)*7
(内容要約)
・戦後の日韓間の対立は、日本が植民地支配を正当化することによって起こることが多かった。有名なものとしては久保田妄言、高杉妄言が上げられる。
・久保田妄言とは、第3次日韓会談(1953年)での久保田貫一郎主席代表の失言のことである(当時は吉田茂内閣)。久保田は「私見として言うが、当時日本が(朝鮮に)行かなかったら中国か、ロシアが入っていたかもしれないと考えている。」、(何故カイロ宣言に「朝鮮人民の奴隷状態」という語があると思うのかという韓国側代表の詰問に)「私見であるが、それは戦争中の興奮した心理状態で書かれたもので、私は奴隷とは考えない。」等と発言、韓国側を激怒させ、会談を中断させた。これに対し、当時の緒方竹虎副総理(元・朝日新聞主筆)、岡崎勝男外相(元・外務事務次官)、木村篤太郎保安庁長官ら*8は久保田を擁護した。
・高杉妄言とは、高杉晋一(三菱電機相談役)が1965年、主席代表就任の記者会見で行った失言のことである(当時は佐藤栄作内閣)。高杉は「今、韓国の山には木が一本もないと言うが、これは朝鮮が日本から離れてしまったからで、もう20年ほどつきあっていたらこんな事にはならなかっただろう」等と植民地支配を正当化する発言を行った。久保田妄言の二の舞となることを恐れた政府、外務省はオフレコ扱いとしマスコミ*9もこれに協力した。
 しかし、赤旗がスクープ報道し、発覚した。なお、吉岡氏によれば、当時の韓国政府は「共産党のでっち上げだと思う」と高杉をかばう立場に立ったという。

*1:1979年のサンディニスタ民族解放戦線FSLN)によるソモサ独裁政権打倒のこと。

*2:この文章が執筆された時点では結果が不明だから。与党となった民主が公約を守るか注目しよう。

*3:まだ若いのだから、石川の成績が悪いのはもちろん当然。問題はマスコミであり、こういう報道を続けているとプレッシャーで石川遼がつぶれかねないのでは?。

*4:沢木氏の主張は正論だと思うが、正論で行ったら今の状況ではスポーツ報道(特にバレー中継などのマイナースポーツ中継)が消えかねないのが厄介なところ。また、スポーツ報道のゆがみを喜んでいる視聴者の方もレベルが低いと思う。

*5:野球にせよ、サッカーにせよそれなりのレベルに達しているスポーツは皆一定の人気があると思うので。

*6:2009年3月1日死去。元共産党参議院議員

*7:奈良女子大学名誉教授。著書に『近代日本の朝鮮認識』(1993年、研文選書)、『歴史の偽造をただす―戦史から消された日本軍の「朝鮮王宮占領」』(1997年、高文研)、『司馬遼太郎歴史観―その「朝鮮観」と「明治栄光論」を問う』(2009年、高文研)等がある。なお、解題において、中塚氏は生前、吉岡氏がNHKの「坂の上の雲」(司馬遼太郎)ドラマ化を大変心配していたと書いている。私も心配だ。

*8:保安庁は今の防衛省

*9:もちろん朝日新聞を含む。緒方の件などを含めて考えると朝日の主流はどう好意的に見ても穏健保守なのだが、ネット右翼は左翼呼ばわりするんだよな。