新刊紹介:「経済」11月号

 「経済」11月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは11月号を読んでください)
■巻頭言「続・新古典派への逆襲」
(内容要約)
・石水喜夫氏(厚生労働省労働経済調査官、「労働経済白書」の執筆者の一人)が、近著「ポスト構造改革の経済思想」(新評論)でケインジアンケインズ派)的な立場から小泉構造改革とそのバックボーンとなった新古典派(一般には新自由主義と言われることの方が多いが)を厳しく批判していることを評価。もちろん、言わなくても分かると思うが、「経済」はケインジアンとは立場が違うので細部では石水氏と意見が違うだろう。それはともかく、問題にならないよう、表現を当然選んでいると思うが、石水氏のような官庁エコノミストが小泉構造改革批判書を堂々と出版できるというのは、いよいよ、新自由主義が支配層からも見捨てられつつあると言うことか?(希望的観測)

■随想「民主主義は忙しい」(有原誠治
(内容要約)
自民大敗は喜ぶべき事である。
・自民が大敗したのは、国民の批判をばらまきでごまかそうとしたからである(例:「アニメの殿堂」こと「メディア芸術総合センター」)。なお、有原氏(アニメ監督)は「アニメの殿堂」的なものは必要だと思うが、政府の進め方は関係者の意見を幅広く聞くなどの手続きを取っておらず拙速だったとしている。
・しかし民主党にも小泉構造改革支持者が存在するので今後の監視が必要(そこで日本共産党の活躍ですよ!)

■世界と日本
【「バーナンキFRB議長の再任」(合田寛)】
(内容要約)
・ブッシュ時代に任命され、リーマンショックにも責任があると批判され、「再任はないのでは?」と思われたバーナンキFRB(連邦制度準備理事会)議長の再任が決まった。
リーマンショックから脱出するため、FRBは金融緩和策をとっているが、こうした策は度を過ぎると、バブルやインフレを生みかねない。といって、うかつに引き締めると不況が深刻化してしまう。どうコントロールしていくかがバーナンキ氏には問われている。

■特集「社会保障で経済再建へ」
【二宮厚美さんインタビュー「新しい政治状況と経済危機の打開」】
(内容要約)
自民党が敗北した理由は、以下の点にあると考える。
1)小泉構造改革で地方経済はボロボロにされ、伝統的な集票マシン(建設会社や医師会など)が機能しなくなった。自民党を支持する余裕が彼らになくなってきたし、支持しても、小泉構造改革続行(公共事業削減、医療費抑制等)では彼らにとって自殺行為だからである。
2)そうした地方経済のボロボロぶりにリーマンショックをきっかけとした世界不況が追い打ちをかけた。
3)こうした状況下で、民主党は「国民の生活が第一」と脱構造改革をアピールした。
・日本の不況が深刻なのは、小泉構造改革により外需依存(特にアメリカ依存)がさらに強まったからである。
・日本が不況から脱出するためには内需重視の経済政策に転換すべきである。そのためには社会保障の充実が大切である。
民主党の「国民の生活が第一」はどこまで本気か疑わしく監視が必要。例えば民主のスローガン「脱官僚」は下手をすると、「民活万歳」+「公務員叩き」(つまり小泉政治の亜流)にしかならない恐れがある。(そこで日本共産党の活躍ですよ!←しつこく)

【横山壽一*1社会保障構造改革の破綻と転換」】
(内容要約)
・小泉社会保障構造改革は次のような問題を引き起こし挫折した。
 深刻な格差社会の登場
 コムスングッドウィル・グループ)の不正発覚
・こうした状況を打開するため、福田内閣は「社会保障の機能強化のための緊急対策:5つの安心プラン」を、麻生内閣も、「骨太の方針」の社会保障費抑制方針の修正を打ち出した。しかし、これらは社会保障費の財源を消費税増に求めるなど、問題の多いものであった。

【布川日佐史*2「貧困対策と生活保護の改革課題」】
(内容要約)
・日本の貧困対策は貧困である。それは日本においては「失業者・貧困者は怠け者(頑張れば就労できるはず、豊かになれるはず)」「失業・貧困対策は怠け心を助長する」「財政危機なんだから、失業者・貧困者に予算措置なんか出来ない。国の為に我慢しろ」と言うイデオロギー*3を(小泉構造改革以降、特にだが)マスコミや政府与党などが流布し、それに十分な反論が行われてこなかったからである。
・現状の生活保護受給要件は緩和されるべきである。生活保護をもっと使いやすいものにしなければならない。
・当然予算も今以上に措置されるべきである。
・担当職員はもっと増やすべきであり、人員削減などすべきでない。

【実践リポート「地域からつくる福祉のネットワーク」】
(内容要約)
 当事者*4によるNPO法人「ほっとポット」(http://hotpot.sakura.ne.jp)、「東京介護福祉労組」(http://www.tokyokaigoro.org/index.html)、「京都ヘルパー連絡会」の活動紹介。

■対談「『官製ワーキング・プア』と自治体の役割」(川西玲子×小林雅之
(内容要約)
・川西氏は前・自治労連副委員長、小林氏は自治労連・東京公務公共一般副委員長。
・官製ワーキング・プア問題とは人件費削減を目的に、職員の非正規化、民間委託が進んでいるが、非正規職員や委託先社員はまともな給与がもらえず生活がろくに出来ないという問題である。*5
・当面の課題の一つとして、日本が批准していないILO条約94条を批准させること、公契約法、公契約条例の制定運動が大切。*6

■特集「情報通信法制は何を変えるか」
 自民党政府の進めてきた情報通信法制改革の分析と批判だが良く分からないので、タイトルだけ紹介。良かれ悪しかれ新政権によって情報通信法制も一定の変更があるのだろうが(有名なのでは「電波料下げる」とか「日本版FCC」とか)。

・井上照幸「情報通信法制とプラットフォームビジネス」
・須藤春夫「放送メディアの枠組みは確保できるか:財界支配の政策形成過程」
・山下唯志「『構造改革』路線と日本の情報通信」

■豊福裕二「サブプライムローンの拡大と住宅バブルの崩壊」
(内容要約)
・超低金利による住宅バブルがサブプライムローン問題を引き起こした。バブル崩壊前の日本の銀行が「土地神話」により、甘い審査で貸し付け、一方、借りる側も「土地神話」で甘い気持ちで借りてひどい目にあったのと同じ事がアメリカでも起こった。

■知見邦彦「AIGの破綻と金融証券化の呪縛」
(内容要約)
AIGが破綻したのは保険本業の失敗ではなく、CDS取引の失敗であった。AIGは「保険会社と言うより既に投資銀行」だったのである。

■企画「現代フランスと労働者」(第3回)
【深澤敦「フランス家族政策の歴史的展開 家族手当を中心に」】
 何故、フランスが少子化を克服したのかを「家族手当を中心に」説明。なお、深沢氏も指摘していることだが、「フランスは日本に比べたら労働者の権利が強い」、「フランスは国民の政治意識が高い(例えばストライキやデモが日本と違い珍しくない)」というのもこの問題では大きいのではないか?*7

*1:最近の著書「社会保障の再構築」、「社会保障の市場化・営利化」(以上、新日本出版社

*2:最近の著書「生活保護の論点」(山吹書店)

*3:そうしたイデオロギーは、格差社会の深刻化により批判され、力を弱めつつあると思うが、残念ながら消えて無くなったわけではないだろう。未だに小泉純一郎の息子・小泉進次郎がデカイ態度だし。(あんな奴を遊説で使うという自民党には呆れる。それとマスコミも少しはあいつを批判しろよ!)

*4:藤田孝典氏(ほっとポット代表理事)、野村智氏(東京介護福祉労組書記次長)、浦野喜代美氏(京都ヘルパー連絡会代表世話人

*5:最近では「官製ワーキングプア」(布施哲也著)と言う、そのものずばりの題名の本も出版されている。なお、官製ワーキング・プアには学校の非常勤講師、栄養士などがいるので決して単純業務ではないことに注意。

*6:国・地方自治体が民間業者と契約を結ぶ際、業者所属の労働者の賃金、労働条件が適切なものになるよう注意せよという内容の条約。公契約法、公契約条例も趣旨は同じ。
 なお、最近成立した公共サービス基本法は「国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする」としており、不十分ながらこれまた趣旨は同じと言えよう。

*7:フランスは少子化を克服した国として、近年注目を集めている。深沢論文でも、牧陽子「産める国フランスの子育て事情」(明石書店)、横田増生「フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由」(洋泉社)が一般向け書籍として紹介されている。