新刊紹介:「前衛」11月号(追記・訂正あり)

 「前衛」11月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 「前衛」11月号について、私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは11月号を読んでください)

日本共産党創立87周年記念講演「歴史の大局で到達点をとらえ、未来を展望する−総選挙の結果と『建設的野党』の役割」(志位和夫
(内容要約)
・総選挙の結果について、まず支持者への御礼の言葉と、力及ばず議席増出来なかった事へのお詫びの言葉。
・今回の総選挙の分析
 小泉構造改革が生んだ格差社会への審判と見るべきである*1。したがって「自民党ノー」「政権交代エス」であっても「民主党エス」ではないことに注意。
・今後の方針
 選挙前に表明したように「建設的野党」、「是々非々」の方針で行く。
民主党への批判や要望
 消費税増税憲法9条改定、比例定数削減、日米FTA(農業が打撃を受けるから)、高速道路無料化(CO2削減に反するから)には反対。
 子ども手当自体には反対しないが、そのために配偶者控除、扶養控除を廃止するようなら批判する。(マスコミ報道だと時期など細かい点はともかく廃止が既定路線らしいが)
 日米核密約解明、沖縄米軍基地の県外移設(出来れば国外移設)、インド洋からの自衛隊撤退は約束した以上絶対にやってもらう。(もちろん以前、小沢氏が言っていたインド洋からの自衛隊撤退撤退の代わりにISAF参加みたいなことでは反対するのは言うまでもない)

【11/1:追記】
県外移設問題については、民主党は明らかに動揺し始めている。国外移設どころか、国内移設ですらやる気があるかどうか?

■三浦一夫「構造変化する世界に日本外交を考える」
(内容要約)
 アメリカの覇権主義が挫折した今、日本の外交には「従米からの脱却」「自主独立外交」が求められる。(なお、そういう意味で鳩山首相日中韓三ヶ国首脳会談や、東アジア共同体構想の提唱などは一定の評価が出来ると思う。何故か極右には評判が悪いが。)

■特集・貧困問題の解決は政治の責任
宇都宮健児「いまこそ貧困をなくす施策の実施にふみ出すとき」】
(内容要約)
・宇都宮氏は反貧困ネットワークhttp://www.k5.dion.ne.jp/~hinky/)代表。弁護士。
・内容は多岐にわたるので、一点だけ紹介すると、宇都宮氏は政府が貧困対策以前にまともな貧困調査を行っていないことを批判し、まず調査を行い結果を公表すべしとしている。

【後藤道夫「データが告発する日本の貧困の実相」】
(内容要約)
・日本では貧困世帯が増加している。
・その理由として、低所得非正規労働者(いわゆるワーキング・プア)の増加、社会保障の脆弱さがあげられる。

【中島哲「母子家庭の生活困窮をどう解決していくか:生活保護母子加算廃止問題を通じて」】
(内容要約)
生活保護母子加算は復活されるべきである。
・もちろん、それだけでは母子家庭の厳しい状況は改善しないのでありプラスアルファが必要(そのためにはまずきちんとした調査が必要)

【青砥恭「高校中退が作り出す若者の貧困」】
(内容要約)
・「学費が払えない」等の経済的困難による高校中退*2をなくすために、一日も早い高校無償化を実施すべし。無償化実現前でも、授業料減免、奨学金給付など、あらゆる手を打ち中退を防ぐべし。(まあ、民主党は高校無償化やるって言ってるからやるんでしょう、いつどんな形*3でやるかは、ともかく)
・なお筆者の青砥氏には「ドキュメント高校中退」(ちくま新書)という著書があるそうなのでそれを読むとより一層、氏の考えがわかるのであろう。

大久保賢一「原爆症裁判の到達点と今後の課題」
(内容要約)
原爆症裁判原告団と、政府(麻生政権)との間で「確認書」が締結されたことは良かった。
・しかし、細部はまだ決まっていないことが多く、今後詰めていかなければならない。鳩山新政権の動向が注目される。

■小特集・国連障害者権利条約と特別支援教育*4 
 内容が上手く要約できなかったのでタイトルの紹介と簡単なコメント。
・杉浦洋一「障害児教育対象児の激増にどう応えるのか」
清水貞夫「権利としての障害児教育の実現を−キーワードとしての合理的配慮*5とインクルーシブ教育*6

 なぜ、障害児教育対象児が激増しているのか、と思ったがどうやら、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)など、従来、障害児教育の対象とされていなかったものが近年では対象にされていることが背景にあるようだ。

■論点「世界でも異常な日本の国家公務員の政治活動規制」(須藤正樹)
(内容要約)
・公務員が休日に政党ビラを投函した行為が、国家公務員法違反として起訴された事件について、「外国ではこれほど厳しい規制を行っていない」事などを理由に批判。
・以下は私の感想。裁判で無罪判決が出ればいいのだが。最悪、有罪判決が出ても、新政権には「現行法の改正」「現行法改正前でも今後は起訴処分は行わない」と言う対応を取ってほしい。(今後、この件で千葉法相が「不起訴」とするよう、指揮権を行使しても、極右以外は批判しないのでは?)

■メディア時評
【新聞:政権交代に全国紙は(金光奎)】
(内容要約)
政権交代についての全国紙の社説を論評。
朝日、毎日:新政権に政治の変革を求めており評価できる。
読売、産経、日経:ネオリベあるいは極右の立場から、「郵政民営化を後退させるな」「インド洋から自衛隊を撤退させるな」「政策の継続性が必要」「社民党国民新党に遠慮するな」等と主張。金光氏は当然「それでは政権交代の意味がない」」「社民党国民新党に失礼」等と批判。

【『バンキシャ!』検証番組を見る(沢木啓三)】
(内容要約)
日本テレビバンキシャ」の誤報問題で検証番組が放送された。
・検証番組は基本的には真摯な反省として評価できるが以下の点は問題だったと思う。
 検証番組ではBPO放送倫理・番組向上機構)の勧告文章が頻繁に引用された。そのため、「BPOの勧告にうまく画像を当てはめただけでは?」と言う印象がぬぐえなかった。どこがBPOから勧告を受けた部分で、どこが自主調査で判明した部分かもっとはっきりわかりやすくした方が良かったのではないか?
 同様の問題を起こし、検証番組を製作したテレビ朝日の「ザ・スクープ」では鳥越俊太郎キャスター(当時)が自ら反省の弁を述べているが、「バンキシャ」では、福澤朗キャスターの反省の弁はなかった(検証番組の進行は局アナウンサーの井田由美氏が行った)。
 視聴者は福澤氏自身の明確な反省の弁を求めていたのではないか?

■特集・いまなぜ原発プルサーマル計画なのか
 内容が上手く要約できなかったのでタイトルの紹介と簡単なコメント。
・野村存生「原発の危険を増幅するだけのプルサーマル計画」
・中秋喜道「孤立化の道を進む玄海原発プルサーマル
・和田宰「伊方原発、いまある危険の増幅に反対する幅広い共同」
・高野博「急を告げる、女川原発3号機でのプルサーマル導入の動き」
・太田勤「全世帯に住民アンケート調査、泊原発プルサーマル計画に厳しい批判」

 野村論文は政府と電力業界が進めてきたプルサーマル計画(ウランとプルトニウムの混合燃料を既存の原発で使用すること)を危険極まりないとして批判。なお、政府の最終方針は、プルトニウムを使用する高速増殖炉(成功の見通しが立っていないが)であり、政府の立場でもプルサーマルは暫定的なものであることに注意。(プルサーマルも、高速増殖炉も自公時代の方針なので政権交代で方針変更の可能性があるが)
 その他の論文は各地からのプルサーマル反対運動の報告。*7

【10/31追記】
自民党小池正勝議員の質問に対し、鳩山首相は、プルサーマル高速増殖炉は継続の方向と答弁したらしい。うーん。社民党は党として反対だったと思うし、民主党内にも反対派はいるのでは?。何故こんな答弁を・・・(私が危惧したとおりの結果?)。だからといって自公政権でよかったとまで言う気はないが・・・。

■シリーズ「『韓国併合』百年と日本の進路」
【吉岡吉典(遺稿)「戦後日本と『韓国併合条約』(下)」】
(内容要約)
・10月号の吉岡吉典(遺稿)「戦後日本と『韓国併合条約』(上)」の続き。
・韓国の民主化が進んだこと、韓国が経済大国になったこと等から、政府も一定の反省を韓国側に示すようになった*8。特に有名なのが河野談話村山談話*9*10である。しかしこうした動きには安倍晋三氏、中川昭一氏などのタカ派の巻き返しもあり、安心は出来ない。
(なお、当面、安倍氏の政権放り出し、中川氏のもうろう会見などの醜態で彼らもおとなしくせざるをえないと思う。また、米国下院決議の経験から「河野談話の否定」など、あまり無茶なことをやろうとすれば、左翼とか中国、韓国以前に同盟国・米国からも「日本は外交の駒として使えない」と見捨てられることを彼らも学習しただろう。そもそも、アメリカにとって韓国は同盟国なので「極右の嫌韓言動」など望んでいるわけがない。また、アメリカにとって、「反米でない保守」なら誰でも良いのであって、冷戦も終わったことだし無理してまで、極右を支持する必要など無いのだ。)

【12/6:追記】
吉岡氏の本号掲載論文を収録した著書『「韓国併合」100年と日本』(新日本出版社)が刊行されたので紹介。

■読者の声
 11月号の「読者の声」から一部引用。

10月号のメディア時評・テレビの「スポーツ番組の問題点」を共感をもって読みました。スター選手一辺倒の姿勢には、少々うんざりです。(中略)特にバレーボールがひどいように思います。そうせざるをえない理由があるのでしょうか。

 特に「フジテレビの女子バレーボール」がひどいように私も感じますね(「かおる姫」とか、ある種のアイドル化、スター化)。
 「そうせざるをえない理由」は「そうしないと視聴率が取れないから」(視聴者のレベルが低い)で、「バレー協会もそれを黙認しているから」でしょう。

*1:それプラス安倍氏に代表される極右路線も反発を買ったのかもしれない

*2:もちろん、経済的困難だけが中退の原因ではないので、そういったものには別途、対策が必要。

*3:生徒の家庭にお金を配る、個々の学校にお金を配る等、やり方はいろいろ考えられる。高校の義務教育化というのも考えられる。

*4:特別支援教育とは障害児教育とほぼ同義。

*5:「合理的配慮」とは国連障害者権利条約に出てくる概念。

*6:インクルーシブとはエクスクルーシブ(排他的)の対立語で、「包括的」と言う意味。従って何となくなら分かるのだが、インクルーシブ教育の正確な意味は良くわからなかった。

*7:もちろん原発の是非と、原発以上に危険と言われるプルサーマル高速増殖炉の是非は一応別である(原発には賛成だがプルサーマル高速増殖炉には反対と言うことがあり得る。)。この問題では、与党になった社民党原発に批判的)の頑張りに期待したい。なお、電力労組がプルサーマル推進の立場ということ、CO2削減の為には原発が必要という論が一部から出ていることが、この問題での不安材料。本当に原発がCO2削減に役立つかどうかは疑問なのだが。

*8:被害国の民主化の進展や経済大国化から日本が一定の反省を示さざるを得なくなったのは韓国だけではなく、中国や東南アジアもそうだと思う。もちろん、日本国内における平和運動の力も忘れてはなるまい(過大評価は禁物だが)。

*9:韓国併合条約についてどう思うかと吉岡氏に国会で質問された村山首相は、「植民地支配に問題はあったと思うが、条約自体は法的に有効に締結された」という趣旨の答弁をし、韓国国民の反発を招いている(後に「有効かどうかはともかく、対等な立場で締結されたとは言えない」と言う考えである旨、答弁を修正)。
 吉岡氏は答弁修正を評価しながらも、「違法・無効」という答弁がついに得られなかったことを残念がっている。なお、韓国併合に性格が似たものとしては、旧ソ連バルト三国併合があると思うがアレは国際法的にどうなのだろう?(そして極右はアレをどう思っているのだろう?)

*10:もちろん河野談話村山談話が特に有名なだけであってその後も反省表明は続いている。吉岡氏は他に、橋本龍太郎首相と金泳三大統領の首脳会談、小渕恵三首相と金大中大統領の首脳会談及びそこでの日韓共同宣言(http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/kaidan/yojin/arc_98/k_sengen.html)を紹介している。