・本書は北朝鮮で出版された「北朝鮮の英雄」*1力道山の伝記漫画の翻訳版。一応断っておくが、北朝鮮を理解する一つの素材として翻訳したのであって、柏書房や訳者がこの本の主張を全面支持しているわけではもちろんない。
・反日的な部分(「民族差別で力道山は横綱になれなかった」「力道山は朝鮮民主主義人民共和国の支持者*2だったので日本の反動勢力に暗殺された」等)*3や金日成万歳的な部分、力道山万歳的な部分(力道山の勝利を勝手に水増し)は予想の範囲内*4だが、「何でこんな事を、ネタか?」「その発想はなかった」、と言う「面白い」部分があるのでそこを中心に紹介。
p60
力道山「この白丁野郎が」
力道山の生きていた時代でも「白丁」*5は差別発言だと思う。社会主義国家(建前に過ぎないが)が差別発言かましていいのか?
p119
ザ・デストロイヤーが力道山にかける四の字固めが足四の字ではなく、腕四の字になっている。作者は資料を探さなかったのか?
p121−122
デストロイヤー「力道山、君がプロレスの世界王者に君臨している秘訣をちょっと教えてくれないか」
力道山「秘訣だなんて。まずは自己紹介からしておこう。俺の本名は金信洛。朝鮮民主主義人民共和国の生まれだ。」
デストロイヤー「君がプロレスの世界王者に君臨している秘訣が今はっきりと分かったよ」
何その会話。「主体思想」が力道山が「プロレスの世界王者に君臨している秘訣」なのか?
デストロイヤーは「主体思想」の支持者なのかよ?
非常に善意に理解すれば、「朝鮮人に対する差別や貧困から『負けてたまるか』というハングリー精神が生まれ、力道山は強くなった」って意味かもしれないが多分そうじゃないんだろう(まあ、こういう精神論的な考えもどうかと思うが)。
いや、確かに力道山を刺したのは「暴力団の村田勝志」だけどね。力道山が末端組員の名前まで知っているわけが(以下略)
昔の大映ドラマかよ。
ちなみに、力道山が何故死んだかについては医療ミス説など様々な説がありよく分かっていないようだ。日本版ウィキペディアでは、力道山が絶対安静にすべきところ暴飲暴食したと書いて、「要出典扱い」になっているが。(根拠レス記述が多いんだもの、本当、どうしようもないな、日本版ウィキペディアは)
なお、力道山についてはいろいろな本があるが、比較的入手しやすい最近の物として、村松友視「力道山がいた」(朝日文庫)、岡村正史「力道山」(ミネルヴァ日本評伝選)がある。
*1:力道山が北朝鮮出身であることは業界では公然の秘密だったようだが、それが秘密でも何でもなくなるのは彼の死後しばらく後のことである。
*2:力道山が本当に支持者だったかは不明。なお彼は北出身で親族も北にいるのだから北の政治体制に疑問を感じていても公然と批判することは難しい点に注意が必要だろう。
*3:当時の日本に朝鮮人に対する強い差別意識はあったろうし、それが力道山の人生に影響を与えたかもしれない。しかし、この本は根拠レスで何でも差別と決めつけすぎである。特に力道山へのテロを政治的テロと見なすのは無茶すぎだ。プロレス興業利権を巡る争いでしょ、常識的に考えて。
*4:絵があまり巧くないのも予想の範囲内
*5:朝鮮の被差別民のこと。日本のえた、非人などに当たる