新刊紹介:歴史評論2月号

・「歴史評論」2月号(特集/フランス革命*1は「終わった」*2のか?)の全体の内容については「歴史科学協議会」のサイトを参照ください。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/rekihyo/

・以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは2月号を読んでください)

■「『小説フランス革命』の刊行を開始して」(佐藤賢一
(内容要約)
・著者はヨーロッパを中心とした歴史小説で知られる作家。『小説フランス革命』(完結したわけではない)の刊行を開始した現在の時点での感想。


■「サン・ジュストにおける政治と暴力」(山崎耕一*3
(内容要約)
サン・ジュストはいわゆる山岳派の恐怖政治において、ロベスピエールとともに中心人物として活動した政治家。テルミドールのクーデターにより、失脚、ロベスピエールら同志とともに処刑される。
・何故ロベスピエールではなくサン・ジュストを取り上げるのかについて筆者は次のように説明している。
 ロベスピエールにはルソーの強い影響が認められるため、恐怖政治の指導理念はルソーの影響を受けたと語られることが多い(これのレベルがひどくなると、渡部昇一あたりのルソー危険思想云々になる)。しかし、サン・ジュストにはルソーの影響はあまり認められず、「恐怖政治の指導理念はルソー」的物言いの妥当性には疑問がある。
 サン・ジュストは著書『革命及びフランス憲法の精神』において死刑制度に否定的である。その彼が何故恐怖政治での死刑に賛成したのか(変節したと言うことなのか?)を考えることには意義があると思われる。
・本論文にも書いてあるし、ウィキペディアにも書いてあるが、テルミドールのクーデターには「パリ以上に行き過ぎた弾圧を行っていた地方派遣議員(ジョゼフ・フーシェ*4、ジャン=ランベール・タリアンら)は、ロベスピエールの追及を恐れて先制攻撃を画策していた」(ウィキペディア)と言う面があることに注意。恐怖政治でのテロは全てが中央の命令による物と言うわけではなかったし、フーシェやタリアンがテルミドールのクーデターに荷担したことはロベスピエールにとっては保身目的の裏切り以外の何物でもないだろう。
・またサン・ジュストも政治には「徳と理性」が必要としており手放しでテロを容認しているわけではない点に注意。
・なお、筆者は『革命及びフランス憲法の精神』において死刑制度を否定した彼が恐怖政治での死刑に賛成した事は少なくとも彼個人の論理においてはおそらく矛盾や変節、妥協ではなかったと解釈している。今ひとつわからないのだが、よく死刑賛成派の言う「命は大事だし冤罪も良くない」が、「救いようのない人間(サン・ジュストだと「革命の敵?」)は殺すしかない」的なことなのだろうか?。
・話はずれるが、死刑賛成派は原理的にはサン・ジュストを批判することは難しいのではないか?、と思う。誹謗中傷になってしまうので、一緒とまでは言わないが、「殺すべき人間がいる」と言う点では違いがないのだから。(サン・ジュストにとって殺すべき人間は「革命の敵」(政治犯?)、一般の死刑賛成派にとっては「凶悪犯」(典型的には大量殺人)と言う違いはあるが)


■「フランス革命期における秩序正しい暴力―ノール県ウプリヌHoupline村食糧騒擾の事例から―」(佐藤真紀
(内容要約)
・ノール県ウプリヌHoupline村食糧騒擾の事例について説明。
・村当局の食糧輸出について、村民は実力行使でこれを阻止した(米騒動的な理由?)。
・ここで重要なことは、村民の暴力はあくまでも、人間殺傷が目的ではなくその限りにおいて「秩序正しい暴力」だということである。一方、村当局の側も村人の殺傷までは行っておらずその限りにおいて「秩序正しい暴力」であった。


■「戦時下のフランス革命―銃と自由―」(西願広望)
(内容要約)
フランス革命戦争については、次のような要素があった。
 「国民皆兵*5による戦争」(総力戦の起源)
 「世界戦争」(フランス革命を打倒しようと、周辺列強が介入しようとしたから。当初はフランス防衛的要素が強かったが、ナポレオン登場後は次第にフランスによる侵略戦争化していく)
 「革命の輸出戦争」(アメリカとソ連が各地でやらかしたようなものではなく、ナポレオンが征服した土地において自己の利益のため、旧体制を打ち壊したという結果的な物だと思うが。話が思いっきりずれるけど「革命の輸出」でググるソ連関係ばかりがヒットするな。なお、昔はともかく現代において「革命理念の輸出」ならともかく、「革命の輸出戦争」が許されないのは言うまでもないだろう)


■「二〇〇周年以降のフランス革命研究の現状」(ピエール=セルナ)
(内容要約)
・セルナ氏が去年の9月に日本で行った講演の抄訳。
・いろんな事言っててまとめづらいなあ。とりあえず、セルナ氏の主たる研究分野が総裁政府時代だと言うことは分かった。セルナ氏曰く、派手な「ナポレオン時代」や「ジャコバン時代」が注目されやすいが、地味な総裁政府時代も重要とのこと。
(一般人ならそうだろうなと思いますが研究者でもそうですか、ふむ)


■「「ベルンシュタイン文庫」資料群に迷い込んで」(近江吉明)
(内容要約)
・うまくまとまらないので「ベルンシュタイン文庫」でググって出て来た記事を貼り付けとく。
専修大学「「ミシェル・ベルンシュタイン文庫」からフランス革命を考える」
http://www.senshu-u.ac.jp/news/news_2007/002058.html


■「フランス革命とハイチ―最近の研究動向から―」(浜忠雄)
(内容要約)
フランス革命を考えるときは同時期に起こったハイチ革命(ナポレオンは弾圧に動いた)を考えることが重要だというお話。国内の民主革命は反植民地主義を意味しなかった(フランスだけじゃないが)というお話。
・筆者によれば、フランスにおいてハイチ革命研究の業績は未だに少ないとのこと。筆者はインドシナアルジェリアでの植民地支配の記憶をよみがえらせるという理由(一種のトラウマ)ではないかと推測している。まあ、日本でも歴史修正主義とかあるからな、分からんでもない。
・なお、筆者には以下の著作がある。
 「ハイチ革命とフランス革命」(1999年、北海道大学図書刊行会)、「カリブからの問い―ハイチ革命と近代世界」(2003年、岩波書店)、「ハイチの栄光と苦難―世界初の黒人共和国の行方」(2007年、刀水書房)


■「フランス革命と映画」(西願広望)
(内容要約)
・最近の物限定。「フランス革命ってすばらしい」という感動的な物は最近は少ないらしい。

(例)「ジェファソン・イン・パリ」(1995年、英国)
 アメリカ大使として革命下のパリにいたジェファソンは自由という理想を唱えるにもかかわらず、黒人奴隷を持ち続け、娘の信仰の自由を認めない。


■歴史の眼「「つくる会」教科書採択問題を考える―杉並区を中心に―」(山本直美)
(内容要約)
・前半。杉並区での「つくる会」教科書採択は反対の声を無視した、山田区長の子分たち(杉並区教育委員)による完全な出来レースだったというお話。なお子分の一人(大蔵雄之助)は明らかな統一協会人脈で杉並区の将来に恐怖を感じざるを得ない。
・後半。山田は、友達の中田宏と中央進出狙ってるから注意した方が良いよ。しかも自民にも民主にも山田と仲良しのタカ派(つーか「統一協会シンパ」とか「歴史修正主義者」とか)がいるから中央進出は絵空事じゃないかもよという話。
 山田の人脈は統一協会とかチャンネル桜とか田母神とか危ない人脈が多いから怖いよ、という話(ちなみにチャンネル桜で放送された山田と田母神の講演会では横田夫妻が家族会を代表して出席したとの事。終わってるな、家族会と横田夫妻。蓮池兄弟もつらいなあ)。


■文化の窓「郷土と「偉人」―熊本と横井小楠(1)」(猪飼隆明)
(内容要約)
横井小楠(幕末・明治の政治家)は熊本出身だし、熊本に史跡もあるし去年は生誕200年で行事もあったけど地元の人でも知らない人が多かったよという話。
・理由としては
 小楠が暗殺されたのは京都で熊本じゃない。
 小楠は主たる活動場所が熊本ではなく、福井だったからと言うのがあげられる(福井藩主・松平春嶽に招かれ藩政改革にあたった)。あまり熊本出身と強調すると、小楠の才能を当時の熊本藩重役は見抜けなかったのかよ、恥ずかしいということにもなるしね。
・まあ、理由は違うけどそう言う人は他にもいるよね(例:誕生自体は広島市だが、育った場所から北九州市出身と言われることが多い松本清張。記念館も北九州市にある)。


■編集後記
 これについては文章を引用しコメント。

2月11日と言えば、私にとっては、休みではない「休日」の第一号なんですが、

 一瞬、意味が分からなかったのだが、2月11日に各地で行われる「建国記念の日」批判集会(歴史学系)にコミットしていると言うことのようだ。

 最近は自分の意志に反して休ませてくれない「休日」が増えてしまいましたね。所定の授業回数をきっちりクリアせよとのお上からのお達しにより、各大学が国民の祝日を開講日に指定するようになったって話ですよ。

 以下、「いろいろ事情はあるんだろうけど、祝日は休むべきじゃ?」というぼやき。
 これに対しては次のような反応があると思う(他にもあるかもしれないが)。

1)「民間はもっと厳しいんだ!」「祝日が本来の開講日なら開講は仕方ない」
2)「学生の間くらいは祝日は休むべきだ」
3)「日本人は働き過ぎじゃない?」「何のための『国民の祝日』なんですか?」

 うーん、2)や3)だとゆとりがあっていいんですけどね(苦笑)

*1:フランス革命といった場合に何を意味するのかは重要。一番長くとらえれば、王政復古まで(ナポレオン失脚まで)と言うことになるだろう。

*2:なお、「フランス革命は終わった」は従来のフランス革命研究を批判した歴史家フランソワ・フュレの言葉として有名。もちろん「フュレの批判は正しいのか」「正しいとしてもフュレの研究の方向性は正しいのか?」「フランス革命研究はいかにあるべきか」等は当然議論がある。

*3:著書『啓蒙運動とフランス革命―革命家バレールの誕生』(2007年、刀水書房)

*4:ジロンド派山岳派→総裁政府で警視総監→統領政府で警視総監→ナポレオン帝政で警察大臣→王政復古で警察大臣。変節が半端ないこと、政治警察部門を担当したことからあまりイメージが良くない。

*5:今は国民皆兵は逆に時代遅れになっているが