【産経抄】8月14日

映画にもなった水上勉氏の『五番町夕霧楼』の結末は哀しくも美しい。京都の遊郭に売られた夕子が恋人を失い、病を得て、丹後半島の生まれ故郷で自ら命を絶つ。

まずはウィキペディア「五番町夕霧楼」であらすじの紹介。「霧と影」*1、「雁の寺」、「飢餓海峡」、水上勉ミステリーセレクション(光文社文庫*2の「眼」*3、童話「ブンナよ木から下りてこい」しかきちんと読んだことはありませんが、水上作品ってエンドがあまりハッピーエンドではない気がする。

ウィキペディア「五番町夕霧楼」
 
 戦後間もない昭和25年ごろ、丹後の寒村・樽泊の木樵の娘・夕子は、貧しい父、肺病の母と3人の妹のために京西陣の色町・五番町夕霧楼に自ら売られて遊女となる。西陣の織元である好色な老人・甚造の贔屓を得て、1年後には夕子は五番町で一、二を争う売れっ妓になっていた。だが夕子には同郷の幼友達であり、恋人である青年僧の正順がいた。だが夕子を妾にしようとしていた甚造は、正順が住み込んで修業している鳳閣寺の住職に彼の廓通いを密告する。夕子はその頃から体の不調を訴え、肺病を患い入院してしまう。一方、信徒の浄財で豪遊する寺の高僧たちの姿を見て、正順は修行に幻滅していた。ある日、住職と衝突した正順は幻滅と怒りから寺に放火(注:金閣寺放火事件にヒントを得ている)し、逮捕されたのちに自殺する。新聞で事件を知った夕子は病院を抜け出して故郷の与謝へひとり戻り、正順を追って自ら生命を絶ったのだった。

 なるほど、今日は水上勉氏が題材なんだなと思うと無理矢理、「靖国問題」に持って行き民主党政権の閣僚は一人も8月15日に参拝しないという抄子の無茶苦茶ブリには呆れます。
 水上氏には不破哲三氏との共著「一滴の力水」があります。
 したがって少なくとも抄子のような極右ではないでしょうからなおさら失礼です(読んだことはありませんが、極右なら共著は出さないでしょう)。
 以下はバカバカしいので引用しませんが簡単に突っ込みます。

・抄子は参拝がないと嘆いていますが自民党政権時代も参拝しない閣僚はいました。
・抄子は中国、韓国の意見など知ったことかという態度ですが冗談は止めてほしい。隣国とそんな態度でよい関係が築けるとは思えませんし、日本は加害者の立場なんですが。
・そもそも「中国、韓国」のみが反対しているという抄子の主張自体間違いです。
 国内にも批判者はいます。たとえば、A級戦犯合祀自体、保守派にも批判者はいます(例:「富田メモ」で示された昭和天皇の考え)。A級戦犯は戦死者ではないから本来合祀はおかしいのです。
・また、政教分離問題について全く触れていないのにも恐れ入ります。愛媛玉串料違憲訴訟判決を考えると、公式参拝違憲の疑い大なのですが。
靖国に行かなくても追悼は出来ます。また、平和遺族会全国連絡会など、日本遺族会と違って靖国に批判的な遺族会もあります。
 王希亮「日本遺族会とその戦争観」(http://www.ne.jp/asahi/tyuukiren/web-site/backnumber/02/ou_izokukai.htm)によれば、日本遺族会に参加している遺族は全遺族の約56%です。
 そもそも日本遺族会自体、当初は遺族救済を目的としており、靖国については今のような右翼的な考えではありませんでした。

*1:共産党徳田分派関係者が経営する会社が起こした取り込み詐欺事件がモデル。当時、水上氏はこの会社に勤めており酷い目に遭ったという。読んだときはそう言うことを知らなかったので、松本清張「眼の壁」に似てるなとしか思わなかった。この事件については「一滴の力水」でも、共産党に長い間好意が持てなかった理由として語られていたと思う。

*2:水上勉ミステリーセレクションには「眼」の他に「虚名の鎖」、「死火山系」、「薔薇海溝」がある。水上氏は水俣病を題材にした『海の牙』で1961年(昭和36年)に第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞しており、デビュー当時は松本清張のような社会派推理作家という扱いであった。「雁の寺」「飢餓海峡」、「五番町夕霧楼」も犯罪事件が起こるのでミステリーと言えなくもない。

*3:取り込み詐欺がネタであり松本清張の「眼の壁」に似ている