【産経抄】10月13日

 今日の産経抄は俳優・エッセイストの池部良氏を取り上げてますが、私は池部さんと言われても「誰?」という感じです。ウィキペディアを見ればそのはずで、池部さんが俳優として本格的に活動したのは、1980年代後半まで。1990年代以降の20年間はテレビドラマに出ていないのですから(むしろエッセイストとして活躍した。「徹子の部屋」に出たときは「現役俳優のつもりだがお呼びがかからない」と言ったそうだ。)。池部さんのエッセイとやらも読んだことはないのでさっぱりちんぷんかんぷんです。

映画「青い山脈」が封切られたのは61年も前の話だから、池部良さんといえば、「昭和残侠伝」シリーズの風間重吉を思い浮かべる読者の方が多いかもしれない。

・そう言う読者の方も今では少ないと思いますけどね。「昭和残侠伝」が封切られたのは今から約40年前のこと。小学生、中学生がヤクザ映画を見ると思えません(そもそも小学生、中学生がヤクザ映画など好きではないだろうし当時そんなことをやろうとしたら確実に不良呼ばわりでしょう。いや成人指定で見れなかったのかな?)。したがって、当時見た人間はどんなに若くてもおそらく高校生。となれば、この映画をリアルタイムで見た人はどんなに若くても今では50代後半です。
 もちろん、リアルタイムでなくても見ることは出来ますが、そんなことを言ったら「青い山脈」だって同じ事です。
・そもそもウィキペディア青い山脈」を見ると分かることですが池部さんの出た61年前の「青い山脈」が一番有名とは言え、その後も何度もリメイク*1されてるそうだし、主題歌「青い山脈」は映画と関係なく懐メロで有名だから「青い山脈」の方が有名でしょう。「青い山脈」は作者・石坂洋次郎の代表作としても有名ですし。

単身、敵のやくざに殴り込む高倉健に「ご一緒、願います」と番傘をさしかけ(なぜか雪が降っている)

「なぜか雪が降っている」
いや、お約束だから、それは。「なぜ悪人たちは遠山奉行が金さんって気づかないの?」「なぜシリーズ探偵って絶対に死なないの?」みたいなことを言われても。

日本映画俳優協会のリーダーとして暴力団との絶縁を宣言したばかり

 ウィキペディア池部良」によれば「1965年、映画俳優(石原裕次郎里見浩太郎山城新伍ら)が暴力団のために拳銃を密輸していたことが明るみに出た」ことが絶縁宣言のきっかけだそうです。これほど人気俳優が名を連ねていると言うことは一部の不心得者ではなく当時の芸能界は公然とヤクザとつるんでいた(むしろ拒否することの方が難しい)と言うことでしょう。
 しかし、「池部さんが出演自粛を検討する」云々以前にヤクザと絶縁したのならヤクザ映画も作るなと言う声はPTA辺りから出なかったんでしょうか(出なくていいんですが)。今やそんな声が出ずとも不人気のためヤクザ映画が封切られることはなく、まずビデオでしか見られませんが。

引き受けたのは、祇園の旅館に押しかけてきた名物プロデューサーの「高倉を池部はんのお力で男にしてやってもらえまへんやろか」という声涙倶(とも)に下る説得に感じ入ったからだという。

「名物プロデューサー」
 ウィキペディアに寄ればこの名物プロデューサー氏は俊藤浩滋氏。自他共に認める「東映ヤクザ映画のドン」であり、任侠映画女優として一世を風靡した藤純子(現・富司純子)は実の娘。ということは俊藤氏は尾上菊五郎氏の義父、寺島しのぶ尾上菊之助姉弟の祖父ですね。

「高倉」
 高倉とは「昭和残侠伝」主演の高倉健さんのこと。ウィキペ「高倉健」によれば「昭和残侠伝」が健さん出世作である。池部氏ほどではないがテレビに最近出ないから最近の若者は知らないかなあ?。
 中国で公開された主演映画「君よ憤怒の河を渉れ」(無実の罪を着せられた現職の検事が、執拗な刑事の追跡をかわしながら真犯人を追っていくアクション映画。以下「憤怒」)で中国では一時、最も有名な日本人俳優となり、知らない人がいなかったとかいろいろな伝説があります(ウィキペディア高倉健」参照)
 ググった限りでは「憤怒」はかなりご都合主義的な作品*2のようですし、健さんの代表作として少なくとも日本でこれを上げる人はあまりいない*3と思うのですが、文革直後ですからね。娯楽映画など中国には大してなかったのでしょうし、巨悪と正面切って戦うヒーロー・健さんの姿に文革で酷い目に遭わされた中国庶民は拍手喝采を送ったのでしょうか?
・なお池部氏は、「昭和残侠伝」以降も何度か健さんと共演しています(「憤怒」、「駅 STATION」「居酒屋兆治」)

戦没学生の慰霊碑を母校(注:池部氏の母校は立教大学)に建てようとしたら「戦没者は、戦争加害者であり平和を願う大学の理念に背く」と断られた、先輩も大学当局を糾弾してほしい、と。

 これが事実だとしてもこれだけでは何とも言えません。
 「戦没学生の慰霊碑」があの戦争を肯定するとてつもなく戦前右翼チックなものだったとか何か重大な問題を抱えた代物かも知れませんし。
 まあ、産経にとってはあの戦争は「自衛戦争」「アジア民族解放戦争」なんでしょうが。
 ファンでないからどうでもいいといえば、どうでもいいんですが「健さん*4の恩人の一人」池部氏が産経的右翼だったら嫌だなあ(産経が持ち上げる人間ってそう言うのばかりだからな)。
 大体、追悼文で右翼色全開にするなよ(笑)

こんな大学が東京六大学のひとつかと思うと悲しくなる。

 むしろ産経のような「こんな新聞」が一番売れてないとは言え、一応、五大全国紙の「ひとつかと思うと悲しくなる」。
 それとどうでもいいんですが、東京六大学って単に東京六大学野球やってるってだけで知的レベルとか関係ないんですが。
 たとえばこういうことを言ったら「学校差別」と激怒する人もいるでしょうが六大学の立教大学より、そうでない上智大学の方が世間的な評価というか人気は高いですよね?

エッセーという池部さんが遺したドスは死後も錆(さ)び付いていない。

 池部さんは「ヤクザ映画もやった人気俳優」であって「ヤクザ俳優がライフワーク」じゃないんだからこのたとえはおかしいだろ?

*1:1988年のリメイク版には池部氏が出演している

*2:もちろん健さんが自らの無実を証明し、悪は滅びるのだがこの辺りがかなりご都合主義な代物らしい

*3:ウィキペディア高倉健」を見ればわかるが、健さん日本アカデミー賞ブルーリボン賞など多数の賞を受賞しており普通はこれらの作品を上げるだろう。

*4:大ファンではありませんが一応健さんファンです。