五十嵐仁「戦後政治の実像」p129−136「縄と糸の取引」

「kojitakenの日記:アメリカの言いなりになった政治家は誰か」
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20101028/1288271069
はいわゆる「縄と糸の取引」を取り上げているが、これについては五十嵐仁「戦後政治の実像」p129−136も取り上げている。
・五十嵐氏は「縄と糸の取引」に佐藤が踏み切った背景には「2つのニクソンショック(金・ドル交換停止とニクソンの電撃訪中)」があったと見る。これについて五十嵐本が紹介する佐藤日記に寄れば、アメリカは事前に相談もなく、こういう方向でやるから了承してくれと直前に簡単な連絡があったきりだという(しかも連絡したのはニクソン大統領本人ではなくロジャーズ国務長官であった)。
佐藤はこうしたアメリカの日本を無視するかのような態度をニクソンが「縄と糸の取引」にすぐ応じるよう圧力をかけてきたと理解する。
・五十嵐氏は「縄と糸の取引」には次のような大きな意味があったとする。

1)沖縄が様々な問題含みとは言え復帰したこと。ただしこれは沖縄問題が日本にとって国内問題化したことでもあった。
2)日本の産業構造が繊維などの軽工業から重化学工業に転換したこと
3)その後、沖縄基地問題原発問題、農産物自由化問題などで反対運動を黙らせるために金をばらまく手法が一般化したこと。
 ちなみに五十嵐本に寄れば、竹下登は「スコッチウィスキーに比べ酒税が安すぎると言うことで酒税を上げたときのこと」について「僕の発想は角さん的。焼酎業者には最終的には廃業補償すればいい」と思ったと著書「政治とは何か」に書いているという。
4)こうした手法が一般化したことで金権政治がより深刻化したこと。
5)通産相としてこの問題を解決した田中角栄が産業界(日米関係が悪化することを恐れ産業界はこの問題の早期解決を望んでいた)や佐藤栄作自民党執行部に恩を売り、ポスト佐藤の地位を確実なものにしたこと。

 五十嵐氏はなぜか上げていないが
このほかに
6)日本の対米従属が進んだこと
7)ばらまきによる財政破綻がすすんだこと、をあげてもいいのではないか。

・ちなみに、五十嵐氏は「縄と糸の取引」の実行者が田中角栄であることを指摘し「田中が反米政治家であるとするロッキード陰謀論(米国が田中を失脚させた)は成立しない、田中は反米どころか親米政治家だとしている」としている。
なお、『私が今までに読んだ本の紹介(五十嵐仁編)』(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20090801/1249250921)でも指摘したが以下の理由から五十嵐氏はロッキード陰謀論を全面否定している。

ロッキード陰謀説は陰謀の具体的な5W1Hがあいまいであること(誰がいつどこで田中失脚を画策したのか)」
ロッキード事件を契機にむしろ田中の権力は、田中の「田中派大戦略」によって、『闇将軍』『唯角史観』『角影内閣』『田中曽根内閣(中曽根内閣のトップは田中、所詮中曽根などみこしに過ぎないという皮肉)』などと言う言葉ができるほど、田中の派閥拡大戦略によって強大化したこと(田中の政治力を奪った直接の原因は脳梗塞)」
ロッキード事件発覚で、(陰謀論者が陰謀実行者だとする米国に)状況が有利になったという事実が認められないこと」
「田中以外にもロッキード事件発覚で(日本にも海外にも)政治的ダメージを受けた者がいること(ロッキードは日本以外にも西ドイツやイタリアなど広く賄賂を送っていた)」