新刊紹介:「前衛」3月号(追記・訂正あり)

「前衛」3月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは3月号を読んでください)

■「展望を語り、新しい政治の流れを」(市田忠義*1
■「労働組合におけるいっせい地方選挙*2の意義」(野原弘)
■「労働者がいっせい地方選挙の先頭に立とう」(盛本達也)
(内容要約)
・ここ何号か続いてる「いっせい地方選挙で頑張ろう」記事。民主の支持率は低迷しているがそれは既成政党不信やマスコミによるポピュリズム(官僚叩きなど)万歳・ネオリベ万歳のため、新党(みんなの党や橋下や河村などの地方新党)に流れ、共産への得票に必ずしも結びつかない、今後も苦しい選挙が続くと思うが頑張ろうという分析は正当かつ誠実なものと言えよう。残念ながら最近の選挙で必ずしも大勝利してるわけではない以上、党内外に対し、あまり景気のいいことを言えるはずもないが。
 その点、根拠もなく「小沢で全てが変わる」と「小沢万歳」する小沢信者は実にお気楽な人々だと思う。
 なお、こうしたポピュリズムに付いては、たとえばid:kojitaken氏のブログなどが参考になるだろう。他にも調べればネット上にポピュリズム批判はたくさんあるであろうが。
・本来こうした状況を批判すべき「左派」のうち一部(金光翔氏が批判する岩波「世界」や週刊金曜日など)は「小沢万歳」「佐藤優万歳」だから、金光翔氏ではないが、あまりのバカさに泣けてくる(共産はそういう左派でないことは不幸中の幸い)。
・まあ、とにかく頑張って1議席でも2議席でも共産の議席を増やしていただきたい。

■「海外派兵を加速する新「防衛大綱」と「日米同盟の深化」」(山根隆志)
(内容要約)
民主党菅政権の新防衛大綱批判。この大綱の目的の一つを「アメリカの求めに応じたイラクやアフガン型の海外派兵の積極化」にあるとみて批判。
・なお、民主党PKO派遣5原則(停戦合意の存在、受け入れ国の同意、要件が満たされなくなった場合は撤退するなど)の見直しを主張している。
・小沢氏がISAF参加論を唱えたことが今更ながら思い出される。

【南米変革の流れ(緒方靖夫、神田米造)】
(内容要約)
・緒方氏、神田氏は日本共産党を代表しブラジルのルセフ大統領就任式に出席し、連立与党のブラジル共産党と懇談した。またこの機会に、ウルグアイを訪問、連立与党のウルグアイ共産党と懇談した。その報告。
 様々な困難はありバラ色ではないものの、「アメリカの裏庭と言われた南米に、連立政権とは言え共産党参加の政権が出来るとは」言う趣旨の両氏の感想には同感。
ウルグアイ1984年まで軍政で、民政移管後もネオリベ親米の二大政党(国民党、コロラド党)が政治を支配してきたがそれに対する対抗運動がついに一定の成果を上げたと言うことらしい。二大政党の害悪を改めて実感。


■「TPPは日本の農業、地域経済、国民生活をどこに導くか」(鈴木宣弘)
(内容要約)
・TPPをバラ色のように描くマスコミと菅民主党への批判。
・「新刊紹介:経済3月号」(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20110211/3625410897)でも指摘したがTPPは農業限定ではない。外国人労働者の移入で日本人失業という事態が生まれないとは言い切れない(少なくとも財界と菅内閣は人件費削減の為、それを狙っているだろう)
・農業について食糧安保や景観保護といった機能を無視し、安さのみ指摘するのは適切でない。
・農業に対する一定の保護はアメリカやヨーロッパもやっていることであり、必ずしも不当なこととは言えない(自国農業を保護しながら、日本は農業保護するなと無茶苦茶なことを言うのがアメリカ。)。
・TPPについてアジア諸国は必ずしも乗り気ではない(自国の工業が、日本や米国の輸出で壊滅的被害を受けるおそれがあるため)

■特集「社会保障とルールある経済社会づくり」
【日本の社会保障の後進性と打開への道(唐鎌直義)】
(内容要約)
・筆者は日本の生活保護の後進性として「諸外国と比べ対象者が極端に限定されていること」と「その結果、生活保護受給者に対して『落伍者』といったレッテル貼り(スティグマ)が発生していること(従って受給したがらず、状況が死亡など最悪の事態になりやすい)」を上げている。
・ちなみに筆者に寄れば『ハリー・ポッター』の作者J・K・ローリング生活保護を受けながら第一作を書き上げたという。日本ならば「働かず小説書きという道楽をしている」呼ばわりされ、小説は世に出なかったであろうという筆者の指摘は残念ながら事実であろう。

ウィキペ「J・K・ローリング
 英語教師としてポルトガル在住中に結婚。一女ジェシカが生まれたが、夫との不和のため夫の元を飛び出しジェシカを連れて帰国後離婚。小説が売れる前の1990年代、離婚後の生活苦と貧困でうつ病になり、「自殺も考えた」ことがあると英北部エディンバラ大学の学生誌に明かした。
娘の存在に支えられながら数ヶ月をかけてうつ病を完治させ、貧しいシングルマザーとして生活保護を受けながら『ハリー・ポッターシリーズ』第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』を執筆。執筆当初は収入が低く、冷暖房費の節約の為、カフェに居座って執筆していた(注:日本だと確実にカフェから追い出されると思う)という。

【追記】
唐鎌論文については、紙屋研究所「唐鎌直義「日本の社会保障の後進性と打開への道」」(http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20110211/1297447019)を紹介しておく。

【フランスの労働・社会保障制度の形成過程(米沢博史)】
(内容要約)
 フランスの労働・社会保障制度の制度内容とその形成過程の紹介。

■論点
【「痛み」を拡大する国保都道府県単位化(相野谷安孝)】
(内容要約)
民主党政権がすすめる国保の市町村単位から都道府県単位への変更が、事実上、国保赤字の「一般会計繰り入れの縮小」などとセットになっており、国民負担増を招いている。
 都道府県単位化が必要としても少なくとも現行路線での都道府県単位化はやめるべきである。

【旧政権以上に原発推進にのめり込む民主党政権鈴木剛)】
(内容要約)
民主党は「CO2を出さないから温暖化対策になる」とし、自公政権以上に原発推進にのめり込んでいる。しかし、原発には放射性廃棄物の問題があり無責任極まりない。
 なお、民主党衆院選挙で「原子力安全・保安院原発規制機関)を経産省の所管から分けて独立性を高め、原発規制の信頼を高める」という趣旨の公約をしていたがそれは未だに実現されていない。

■暮らしの焦点
【いまなぜ「復興災害公営住宅」からの追い出しか(高瀬康正)】
(内容要約)
・神戸市など行政は、契約期間が終了したとして「復興災害公営住宅」からの被災者の立ち退きを迫っているがこうした行為には正当性は認められない。
 契約期間については延長が可能であり、過去に市は被災者に対し、「延長の可能性」を認めていた事実があるからである。

■文化の話題
【美術:黒に込めた願い−滝平二郎の画業(武居利史)】
(内容要約)
・昨年12月から今年1月まで、茨城県近代美術館で開催された滝平二郎展の紹介。

ウィキペ「滝平二郎
 切り絵、版画作家。1921年茨城県新治郡玉里村(現:小美玉市)に生まれる。県立石岡農学校(現:茨城県立石岡第一高等学校)在学中は風刺漫画に関心を寄せていたが、卒業後は木版画へと向かう。
 1970年から1977年にかけ朝日新聞日曜版に独自の切り絵を連載し、好評を博すと共に名が広まった。
 2009年5月16日、がんのため死去。88歳没。

・なお、ウィキペも武居氏も指摘しているが、滝平氏の代表作としては、児童文学作家・斎藤隆介氏の諸作品(「ベロ出しチョンマ」「モチモチの木」など)の挿絵が上げられる。

【映画:時代劇の新しい流れ「武士の家計簿」と「最後の忠臣蔵」(伴毅)】
(内容要約)
・映画「武士の家計簿」と「最後の忠臣蔵」の紹介。
 今まであまり取り上げられることのなかったネタを取り上げた「武士の家計簿」は新しい流れと言っていいだろうが、「最後の忠臣蔵」って(面白いかどうかはともかく)新しいだろうか?
 忠臣蔵映画が大石を主人公に討入までを描くパターン*3が多いことを考えれば、討ち入り後を描いたというのは忠臣蔵映画として新しいかも知れないが。

参考)
武士の家計簿」公式サイト(http://www.bushikake.jp/index.php
最後の忠臣蔵」公式サイト(http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/main.html

【演劇:時間の流れと舞台 前進座初春公演とこまつ座「化粧」(関きよし)】
(内容要約)
 前進座初春公演「初春景江戸人情(はるげしきえどのやさしさ)」(http://www.zenshinza.com/stage_guide/kuzuya/index.html)と、こまつ座の「化粧」(http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/2010/11/post-12.html)の紹介。

■スポーツ最前線「技術と芸術を楽しめるフィギュアスケート」(辛仁夏)
(内容要約)
フィギュアスケートにおいては技術と芸術という二つの要素があり、各選手は各選手なりに技術と芸術の両方で高得点を上げようと努力している。各選手がどのような努力をし、どのような表現力(芸術性)や技術を身につけているのかを知ることが出来れば、フィギュアスケートをより楽しむことが出来るだろう。

■メディア時評
【新聞:消費税増税とTPP参加求める全国紙(金光奎)】
(内容要約)
金光氏の前衛1月号コラム「TPP報道にみる新聞の現状」、2月号コラム「菅内閣の消費税増税を歓迎するのか」と内容はかなりかぶる。
 本来、何度も同じネタ(TPPや消費税)で書くべきではないだろうし、金光氏もそうしたいのだろうが、マスゴミ(まさにゴミ)の酷さに憤りを覚え、書かずにはいられなかったと言うことか。

【テレビ:視聴者が番組を採点する(沢木啓三)】
(内容要約)
・視聴者による番組批評サイト「QUAE」(http://quae.jp/)の紹介。
 沢木氏も指摘しているがサイトで集計結果(最新の集計結果は去年の大みそかの番組)を見ることが出来るし、意見があれば自分も番組の採点に参加できる(次回の採点は2月28日の番組を予定)。

■「ヨーロッパの財政危機と欧州版IMF構想などの対応策」(相沢幸悦)
(内容要約)
・ヨーロッパの財政危機とそれに対する「欧州版IMF構想などの対応策」の紹介。
 なお、筆者はヨーロッパは社民主義の長い蓄積があり、財政危機対応において米国のような単純な新自由主義政策がとられることはないとみている。

■「困難を抱えた若者の支援と地域ネットワーク」(佐藤洋作)
(内容要約)
・ひきこもりなど困難を抱えた若者に対する支援の現状や課題についての説明。

*1:党書記局長、参議院議員

*2:いわゆる統一地方選挙のこと

*3:最近ではNHK大河ドラマもこのパターンだったし、確実に人気が取れる王道パターンではある。