新刊紹介:「経済」5月号(追記・訂正あり)

■特集「マルクス資本論』のすすめ2011」
【『資本論』はどのようにして形成されたか――マルクスによる経済学変革の道程をたどる(1)(不破哲三)】
(内容要約)
不破氏の新連載第1回目。内容は今ひとつ良く理解できなかった。

【『資本論』の魅力:スミス、リカードからマルクスへ(平野喜一郎)】
(内容要約)
マルクスを理解するには、マルクスが批判的に継承したスミス*1リカード*2の経済学について一定の理解が必要だという話。

ウィキペ「アダム・スミス
 スミス以前の低賃金論に反対して、その成員の圧倒的多数が貧しい社会が隆盛で幸福であろうはずはないとして高賃金論を展開した。

 スミスは経済学を知らない「世間の半可通」に勘違いされてるような単純な市場万歳主義者ではなさそうだ。またスミスには「道徳感情論」という道徳哲学の著書があることを忘れてはいけないだろう。

【追記】
 スミスについてはhamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)「松尾匡センセーの引っかけ問題に引っかかる人々」(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-b671.html)も参照して欲しい。
 

【『資本論』研究とメガ*3の意味:メガの編集・刊行状況によせて(大谷禎之介)】
(内容要約)
・新メガ編集の意義について、当事者の一人である筆者による説明。

【読書案内:不破哲三マルクスは生きている(連続セミナー版)」科学的社会主義への新たなすすめ(山口富夫)】
(内容要約)
・不破氏の著作「マルクスとともに現代を考える」(新日本出版社)に収録された論文「マルクスは生きている」の紹介(なお、不破氏には「マルクスは生きている」(平凡社新書)と言う名の著書がある)。
 不破氏は現代資本主義が抱える問題として「貧困・格差問題」「環境問題」を上げ、その解決の道が自分(不破氏)はマルクスにあると思っているが、いずれにせよ、この問題を解決しない限り「人類の未来は明るいとは言えない」とする氏の考えは正当と言えるだろう。

▼『資本論』の目で現代社会を解剖する
【日本経済分析とマルクス経済学(藤田実)】
(内容要約)
・「生産と消費の矛盾(要するに不況のこと)」をキーワードに「資本論」の有用性について説明。

金融危機と金融規制:『資本論』の目で(鳥畑与一*4)】
(内容要約)
・「資本論」には金融について触れた箇所がある。マルクス時代と今では金融システムはかなり違うが、「資本論」の金融論から得られるモノ(金融規制の重要性など)は大きいと思う。

【『資本論』からみた日本の雇用問題(戸木田嘉久)】
(内容要約)
・資本家が剰余価値を大きくするためには、労働の強度を上げるなどして、搾取をすすめる必要がある。それを是正するモノとして法的規制や労働運動が非常に重要である。

【環境問題と科学の視点(畑明郎*5)】
(内容要約)
・今とは規模が違うとは言えマルクスの時代にも環境問題は存在し、「資本論」においても一定の指摘がなされている。
マルクスエンゲルスの環境問題認識については
久野秀二「環境問題と史的唯物論」(鰺坂・中田編著『現代に挑む唯物論』所収)についての紙屋研究所の書評(http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/hisano.html)が参考になるだろう。
 例えば、紙屋研が紹介する、エンゲルス「自然弁証法」より「猿が人間化するにあたっての労働の役割」(『資本論』ではないが)の
「われわれは、われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎることはやめよう。そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐する。」は重要なポイントだろう。

▼『資本論』学習のすすめ
【大学での経済学教育の現状と『資本論』学習(米田貢)*6
(内容要約)
中央大学経済学部教授である筆者が大学で行っている授業「金融論」とゼミ「現代日本経済分析」の簡単な説明。

【労働者教育と『資本論』の学習(吉井清*7)】
(内容要約)
関西勤労者教育協会(http://www5.ocn.ne.jp/~morikin/)の一員として、長く活動してきた筆者(現在、協会会長)への「どのようなきっかけで協会の活動に参加することになったのか」等のインタビュー記事。

▼専門研究と「資本論
【財政学(安藤実)】
(内容要約)
マルクス主義の立場に立つ財政学者として大内兵衛*8、宇佐美誠次郎*9について簡単に触れられている。

■「サンデル*10教授の正義論をめぐって」(牧野広義*11
(内容要約)
・サンデル正義論についての批判的批評。

■「世界は金融規制を強化できるか」(合田寛)
(内容要約)
まだまだ不十分な点が多いが、リーマンショックを契機に欧米諸国で金融規制が強められている点は評価できる。規制の流れをどれだけ強められるか今後の課題である。

*1:主著「国富論

*2:主著『経済学および課税の原理』

*3:メガは「マルクス・エンゲルス全集」の略称。従来のメガ(旧メガとも呼ばれる)はソ連の影響力が強いときにソ連主導で編集されたため問題があるとの認識の基現在編集されているのが新メガである

*4:著書『略奪的金融の暴走』(学習の友社)

*5:著書『拡大する土壌・地下水汚染』(世界思想社

*6:著書『現代日本金融危機管理体制』(中央大学出版部)

*7:著書『一生に一度は「資本論」を読んでみたい』(学習の友社)

*8:財政学の著書では著作集1巻「財政学大綱」、2巻「日本公債論」(1974年)、3巻「昭和財政史」(1975年)

*9:財政学の著書では「財政学」(1986年、青木書店)

*10:ハーバード大学教授。著書『これからの「正義」の話をしよう:いまを生き延びるための哲学』(早川書房)など。ウィキペによるとサンデルの邦訳が出たのは1992年の『自由主義と正義の限界』(三嶺書房、原書は1982年)で明らかに最近の人ではないのだが、彼が一般に知られるようになったのは日本では2010年に放送されたNHK教育の例の番組以降だろう。テレビ恐るべし。最近では小林正弥「サンデルの政治哲学:<正義>とは何か」(平凡社新書)と言った入門書もあるようだ。

*11:著書「『資本論』から哲学を学ぶ」(学習の友社)、「現代唯物論の探求」(文理閣