新刊紹介:「前衛」5月号(追記・訂正あり)

「前衛」5月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは5月号を読んでください)

■緊急特集「東日本大震災 救援・復興支援を」
【被災者の実情・要求 いま政治がなすべきこと(高橋千鶴子)*1
(内容要約)
・被災地の視察報告。被災地住民の意見をくみ上げた上で、地元自治体、ボランティア等、各種団体と連携しての早急な被災地支援が望まれる。共産党も出来る限りのことはしたいと考えている。

東日本大震災下の福島原発災害:専門家・技術者・作業員を総結集して危機打開を(柳町秀一)】
(内容要約)
・今回の福島原発事故は日本の原発政策に重大な問題があることを明らかにした。福島原発だけでなく他の原発にも問題はないか見直しが急務である。
民主党政権は「原発推進」の態度だが、むしろ原発政策を「積極的推進から、段階的撤退」へと大幅に見直すべきではないのか。

■「議員定数削減問題の表層と深層」(森英樹)
・議員削減論の目的は「ターゲットが何故か比例だけ」「無駄削減というなら政党助成金にメスを入れるべきなのに何故かそう言わない」点から見て明らかに少数政党潰しが目的である。菅内閣の比例削減の真の目的を強く国民に訴えていく必要がある。

■「日本の政治に混迷と堕落をもたらした「政治改革」:第一部・21世紀臨調の歴史的所業と最近の“異変”」(小松公生)
(内容要約)
・『日本の政治に混迷と堕落をもたらした「政治改革」』の推進者としていわゆる「21世紀臨調」を上げることが出来る。
21世紀臨調のサイト(http://www.secj.jp/index.htm)を見ると、この組織に異変が起こっているらしいことが読み取れる。サイト上を見る限り、21世紀臨調の最新ニュースとしてトップに出てくるのは「2010年6月20日」日付であり、個人サイトではない、大組織のサイトであるにもかかわらず更新が長期間にわたってストップしているらしいという不可解なことが分かる。
 何故21世紀臨調サイトは長期間にわたって更新がされないのか。臨調サイドの説明がないので推測するしかないが、民主党政権の支持率が低迷するが、自民党政権も支持率が上昇しているわけではないという状況の中、臨調として、「メンバーの多様な意見を集約して臨調の意見として公表するだけの能力」を失っているのではないかと筆者は推測している。

【追記】
 その後、「緊急提言:復興の道筋を早急に定めよ」 (2011/4/13)というのがアップされているが、それ以外には全く更新がないようだ。


■「障害者自立支援法の廃止と新法制定のゆくえ」(笠井昂)
(内容要約)
・政府は自立支援法の廃止と新法の制定を打ち出した具体的法案は未だ提出されていない。「具体的な法案提出をうながすとともに出された案にチェックを行う」必要がある。

■「中小企業基本法のゆがみをただす政治への転換を」(藤野保史
(内容要約)
・現行の中小企業基本法は「先進的ベンチャーへの支援」という方向にあまりにも傾きすぎている。ベンチャー支援イコール中小企業支援ではないはずだ。

■「オバマ政権の世界経済戦略とTPP」(萩原伸次郎)
(内容要約)
・TPPは日米財界の要望による農業分野と医療分野の構造改革が目的の一つと考えられる。しかし、その結果「食料の安全」「医療の安全」が保障されるかは疑問であり、十分な検討が必要である。

■「日本は「韓国モデル」に学ぶべきか:韓国経済のV字型回復と両極化」(飛鳥隼人)
(内容要約)
最近、一部の経済マスコミから「不況克服策を韓国に学べ」という主張がなされているがそれは正しいのか。筆者は以下の点よりそれは誤った主張と批判する。
1)韓国経済の脆弱性
・韓国の貿易依存度は2009年現在で、82.4%。これは日本の22.2%と比べ格段に高い数字であり、韓国経済が為替レートや原油価格の変動に影響を受けやすい経済であることを示している。また、韓国は対外負債残高の対GDP比が82%と高く、国債金融市場の混乱が波及しやすい経済である。
2)財閥系企業の独占
・現代・起亜自動車の国内シェアは80.5%、サムスン電子の国内シェアはTV54.5%と特定の大企業の市場独占が深刻な状況になる。
サムスン電子の李会長は脱税と背任で有罪が確定し、会長職を辞任したが、刑の確定からわずか4ヶ月で特別赦免*2され、会長に復帰した。韓国社会では「サムスンは法の適用外か」と言う批判が起こっているという。

サムスンのブラックぶりについて】

http://sgwse.dou-jin.com/Entry/260/
■今の岩波書店は韓国の三星財閥以下
 韓国の三星財閥(日本での呼称はサムスン)は労働組合の結成を絶対に認めない無労組経営で有名ですが、今の岩波がやってる事はある意味それよりもひどい事でしょう。

http://sgwse.dou-jin.com/Entry/224/
三星問題 転向記者は死んだが、転向検事は生きている その1
 先日、かつて三星(日本での呼称はサムスン)財閥を追求して勇名を馳せながら、後に考えを180度転向させて腐敗堕落した韓国のあるジャーナリストのお話をしました。が、世の中は不思議な物で、三星財閥をめぐってはこのジャーナリストと全く逆の人生を歩んだ人間がいたのです。検事を退官後に弁護士になり(韓国にももちろんヤメ検弁護士はいます)、そして三星グループの法務チーム長に天下りしたこの人物は、しかしながら後に三星を退職して良心宣言をし、その不法行為を告発する書を世に出しました。その人物の名を尋ねれば金勇茢と答えました…。
 陰と陽、仁王像に阿と吽、暗殺拳北斗神拳南斗聖拳といったように、万物はすべからく一対をなして構成されているとはよく言われますが、まさに三星財閥を告発した人間にも北斗と南斗のように全く性格の逆な一対の韓国人が存在していたのです。
 かつて1988年に「韓国三星財閥の内幕―巨大企業の暗黒と李一族の野望」を出し、それまでも民主化運動陣営に属して活動してきた孫忠武というジャーナリストは、しかしながら後に最も卑劣な振る舞いをして転向する事になりました(2010年に米国で病死)。
 一方、ソウル地検特捜部首席検事だった金勇茢という検事はそれと全く逆で、弁護士になって三星財閥の秘書室(ここは創業者・李秉竽の時代から会長の社命を伝達するグループの事実上の司令塔でした)に入り、法務部チーム・財務部チームの理事として働きながら、2004年に退職。2007年に天主教正義具現全国司祭団の助けを得て「転向」と言うか良心宣言して、それまでの三星グループが行った不正行為を告発したのです。そして問題の書「三星を考える」(2010.01.29社会評論発行)を出版しました。以下のリンク先は韓国の代表的なネット書店「アラジン aladin」の同書通販頁です。

三星を考える」金勇茢 著
http://www.aladin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ISBN=8964350502&partner=pressian

韓国にはアマゾンがなく、代わりにこうしたネット書店が主流を成しているようでした。同書刊行時は日本でもそれなりに話題になったようなのですが、なぜか翻訳出版もされずに現在に至っています。これこそ訳すべき特ダネのはずなのですが…。一応最初の一部だけを訳しているブログがあったので参考までにリンクを貼っておきます。

http://plaza.rakuten.co.jp/tsuruwonya/diaryall

(中略)
上記韓国ネット書店アラジンの同書通販ページに書かれている紹介文は以下の通り。

 2007年、大韓民国を騒がせた「三星疑惑」告発の主人公・金勇茢弁護士の本。「三星を考える」という題名のこの本は「弁護士・金勇茢が真にしたい話」というコピーを掲げている。本の内容の一部は良心告白当時にすでに公開されたもの達だ。そこへ金勇茢弁護士が7年間働いてみて体験した三星に対する話を付け加えている。
 金勇茢弁護士がしたいという話は本の隅々で見つける事が出来る。三星に入社する前、彼が持っていたグローバル企業の幻想は全て崩れた。彼は三星が仕出かした不正を無数に目撃した。彼を苛んだのは三星が不正を仕出かしたという事実ではない。むしろ日常的に行われる不正こそが三星が存在する根拠の一つだという事実、それが彼を苛ませた。
 彼は尋ねたかった。先進経営と世界的な競争力だけで三星を作れないのか? 三星はすでに韓国企業の範疇を超えている。今日の三星を築く為に、ただ前だけを見て走って来た。ならば、まさに今こそ暫し三星を再考せねばならぬ時ではないか? 金勇茢弁護士は読者達が自身の文を通じて三星を考える「時」を実感するようになる事を望んでいる。
(訳 ZED)

 こちらは高麗書林の通販頁。日本での注文ならこちらの方が早いかもしれません。ただし全2巻の大部の著なのであしからず。
http://www.komabook.co.jp/search/search_result.php

 孫忠武の本が三星財閥創業者・李秉竽の時代から2代目・李健熙への継承までを描いた本であるならば、金勇茢の本はまさに現代の新自由主義・グローバル経済下における三星を描いたものです。三星財閥全体を俯瞰するには両方とも読むのが一番良いのですが、現状の日本人読者には難しいのが歯痒い所でしょう。片や絶版のプレミア本、片や未訳ですから。
 しかしながら同書に対する三星側の対応は孫忠武の時代とあまり変わらず、自社系列の中央日報中央日報三星系企業)を含む保守三大紙「朝・中・東」*3はおろかハンギョレ新聞(やっぱ最近のハンギョレは変!)までもが全て広告掲載拒否、ソウル駅の広告まで撤去されたと言いますが、インターネットの時代にそんな事で言論を封じられるはずもなく、かえってネット上の話題を呼んでベストセラーになりました。
 そこに描かれた三星財閥の姿はかつて創業者時代の「政商」ぶりが一層激化したものとも言えるでしょう。「不正こそが三星が存在する根拠の一つ」とまで言われるほどに。かつての金権怪物・李秉竽が時の軍事政権を抱き込み、日本の保守・右翼的経済人と癒着して財を成し、それを受け継いだ後代の三星ははたしてどうだったでしょう。
 「渉外」という言葉があります。日本の企業社会であればタカリ屋の総会屋やヤクザ・右翼といった反社会勢力(いわゆる「反社」)との窓口になって、それの口止め料を都合する窓口となる総務部の一部署や担当者を指しますが、三星財閥における「渉外」とは力のある高級官僚に対する「賄賂」を指す社内用語でした。そしてグループ総帥・李健熙がグループ社長会議の度に最も関心を示した案件が不動産と「渉外」だったのです。高級官僚への贈賄こそが財閥トップの最も感心を示した案件とは!

http://sgwse.dou-jin.com/Entry/221/
■孫忠武って死んでたんだ
 孫忠武という名を聞いても今の日本の若い人には分からないかもしれません。が、かつて韓国の民主化運動に関わった古株であれば聞いた事のある人は割といるんじゃないでしょうか。この男は韓国のジャーナリストで、軍事政権時代に朴正煕や全斗煥といった大統領達、さらには統一協会三星財閥(いわゆるサムスン Samsung グループの事。本来ならば「サムスン」ではなく「サムソン」の方がより朝鮮語本来の発音に近い。日本での正式名称とはいえ、あまり不正確な発音表記を筆者は好まない為、当ブログの記事でこの財閥グループについて述べる際は基本的に漢字表記の「三星」を使用します)の批判記事を書いてアメリカや日本に亡命したり国家保安法違反で逮捕された事が度々ある上に、日帝植民地時代の独立運動家であった金九暗殺事件の真相を追究したルポルタージュや関連資料の発掘といった骨太な取材・執筆活動で一世を風靡した記者でした。かつてはね。そう、かつて昔は、です。
 その孫忠武が去年の10月19日にアメリカで死んでいたという話をたった今知りました。筆者も久しく忘れていた名前なので、懐かしいとは思いつつも、まあ寂しい終わり方だったなという感じです。特にこの男の若い頃と晩年の「落差」(注:ZED氏曰くただの反共売文屋に転落したらしい)を考えるとなおさらでした。
 筆者もこの男の昔の本(日本で出版された金九暗殺事件と三星財閥本の訳書)を持っていますが、確かにあの当時に買っておいて良かったと今でも思います。内容的にも資料的にもかなり充実している上に、それらの多くは現在入手困難なので、大きな図書館でもなければ読めないでしょう。ちなみにそれらの一つにして、この男がジャーナリストとして最も輝いていた頃の代表作の一つである「韓国三星財閥の内幕―巨大企業の暗黒と李一族の野望」(韓国語原書は1988年刊行。日本語版は1990年刊行)という本は今や結構なプレミアが付いているようで、アマゾンの古書出品物を見たら3000円(出版時の定価は税込みで1300円)という値が付いていました。当時もそんなに発行部数が多くはなかったでしょうし、あるいは三星グループ自体が大きく成長して世界的に進出した現在においては、その創業一代記がより一層内容的に見るべき点が多いと評価されたのではないでしょうか。
 現在の三星電子では半導体工場労働者に白血病や奇形児出産、自殺が頻発して大きな社会問題となっている(ここ最近のプレシアンではほとんど連日この問題がトップ記事です)一方で、李健熙会長&李在鎔社長のトップ2親子(こうした韓国の財閥経営者世襲も石丸次郎は批判したためしがない! もし一度でもしていたなら誰か教えて下さい)は連日のように江原道平昌郡への2018年冬季五輪誘致活動にばかり熱を上げている有様です。この冬季五輪誘致活動にはもちろん大統領の李明博も積極的で、三星電子の件と併せて日本で全く知られていない現在の韓国のトップニュースの一つと言って良いでしょう。平昌は過去に2度連続して誘致に失敗しており、仮に誘致出来たとしても長野の二の舞にしかならないのは明白なのですが。李健熙は韓国IOC委員も務めており、自社労働者の労働環境や生活を一切省みずにスポーツ道楽と利権に熱中しているブラック企業経営者ですが、こうした三星グループの現在のブラック企業ぶりがどこに源流を発しているのかを知る上でも同書は優れた資料と言えるでしょう。20年以上も前の本とはいえその輝きは今でも色褪せていない、三星財閥を語る上で絶対に外す事の出来ない基礎資料となっています。
とは言え同書は当時韓国で著者と三星の間で裁判になり、最終的に和解で決着が付きながらそこに「韓国では今後出版しない」という条件が付きました。おまけに著者も死んだ以上、日本でも韓国でも今後復刊される可能性はほぼゼロに近いでしょう。いずれの機会に同書の内容は詳しく紹介したいと思います。

3)「雇用なき経済成長」「格差拡大」
経済成長しているが、失業率は依然深刻で、目立った賃金上昇もみられない。筆者は参考文献として「韓国ワーキングプア88万ウォン世代」(2009年、明石書店)を上げている。

■「今日の「閉塞社会」の根源 "雇用破壊"を問う」(牧野富夫)
(内容要約)
筆者の言う雇用破壊は「雇用劣化」と言った方が適切かも知れない。失業だけではなく「雇用の質の低下」(低賃金、長時間労働、不安定雇用など)が「閉塞社会」を招いているということである。

■特集「日航不当解雇は何をもたらすか」
【もうけ最優先の「効率化」がこわす安全(穀田恵二)】
【歪められた日本の航空行政をただしてこそ(津惠正三)】
日本航空の整理解雇の無効は明白である(山口泉)】
(内容要約)
日航の経営破綻は「無駄な空港」「ホテルリゾート開発の失敗」など、経営陣、政府の失策によるところが大きい。にも関わらず雇用確保に全力を尽くさず、解雇とはトンでもない話である。そもそも日航解雇は判例の整理解雇4要件
1)解雇の必要性
2)賃金カットなどの解雇回避義務を尽くしたか
3)解雇者の人選の妥当性(組合潰しなど不当な人選でないか)
4)手続きの妥当性(事前に解雇対象者や組合に事情を説明し、納得してもらうような策を取ったか)
に違反する疑いの強い解雇である。

■論点
【世界経済を襲う食料・原油価格の高騰(金子豊弘)】
(内容要約)
・食料・原油価格の高騰には3つの理由があると言われる。
1)需要の拡大
2)干ばつなど災害による供給の減少
3)商品先物投機
1)、2)はある程度やむを得ないことだろうが、3)による高騰は筋の通らないことであり、投機の規制が急務である。

■暮らしの焦点
【なぜ柔道事故は続くのか(代田幸弘)】
(内容要約)
・来年4月から武道必修化がなされるが、今のままでは柔道事故(最悪、死亡や身体不随など)が相次ぐのではないかという警鐘の文章。諸外国の柔道事故と比べ、あるいは日本での他のスポーツ事故と比べ、日本の柔道事故発生率は高く、筆者はその理由を柔道関係者の事故予防取り組みが不十分だからとして、諸外国の取り組みを参考に、柔道事故防止の取り組みを強めるべきとしている。

■文化の話題
【演劇:「ハムレット」と「日本人のへそ」(関きよし)】
(内容要約)
劇団東演の「ハムレット」とこまつ座井上ひさし追悼公演「日本人のへそ」の紹介。

【映画:冤罪を晴らす人々から与えられる励まし(児玉由紀恵)】
(内容要約)
布川事件をテーマとしたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」の紹介。
公式サイト:http://shojitakao.web.fc2.com/

■メディア時評
【新聞:「安全神話」をめぐる各紙の態度(金光奎)】
【テレビ:大震災をどのように報じたか(沢木啓三)】
(内容要約)
・メディアの原発事故報道にはまだまだ不十分な点があるのではないかという批判。

■スポーツ最前線
「女子車いすバスケットボール」(遠藤福太郎)
(内容要約)
日本における女子車いすバスケットボールの活躍紹介。

*1:東北比例選出の党衆議院議員

*2:ググったところ「五輪誘致活動で協力を得るなど」のもろに政治的決定らしい

*3:朝鮮日報中央日報東亜日報