新刊紹介:「経済」9月号

「経済」9月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは9月号を読んでください)


■随想「原子炉安全審査体制に思う」(林弘文)
(内容要約)
・日本の原子炉審査は大学教授が非常勤で本務の片手間に行っている。一方、たとえば米国は専門の常勤スタッフが審査を行っている。
・日本の審査組織は原発推進機関との区分けがきちんとなされておらず信用性に欠ける。浜岡原発訴訟で2007年に中部電力側証人として出廷し、どう見ても公平中立とはいいかねる班目春樹氏が2010年に原子力安全委員会委員長に選任されたことはその一例である。こうした日本の状況は改められてしかるべきである。

■世界と日本
南スーダンが独立(夏目雅至)】
(内容要約)
南スーダンの独立は「スーダン南部は石油の産出場所」なのに「北部ばかりが経済発展」していることへの不満が背景にあった。
・独立はしたものの紛争の火種はまだ残っており予断を許さない。
火種1)南北間の国境画定:まだ細かい点は未確定である。特に産油地帯アビエイの扱いが注目される。
火種2)北部の施設の使用料問題:石油地帯は南部に集中しているが、石油加工施設や輸出のためのパイプラインなどは北部に集中している。当面は使用料を払って、北部の施設を南部が使用することになるがこの点まだつめた話がなされていない。

【好業績の3月期決算(小栗崇資)】
(内容要約)
・企業の業績は好調だが、その利益を賃金アップなどの形で社会に還元する方向が見えない。企業の社会的責任として、そうした社会への還元を行うべきだし、政府もそうした方向へ政策誘導していくべきである。

【銀行の3月期決算(桜田氾)】
(内容要約)
・銀行の業績は好調だがその主要因は国債運用であり、貸し出しではないので素直に喜べない。銀行の社会的責任(企業の育成など)として、貸し出し業務へ力を入れるべきだし、政府もそうした方向へ政策誘導していくべきである。

■特集「学びの場からみた子どもの貧困」
【子どもの育ちと貧困克服の展望(浅井春夫*1)】
(内容要約)
・日本の貧困率OECD加盟国では最下位のグループに分類される。
・子どもの貧困が、特に深刻な形で表れるのが教育問題である。学費の問題から進学をあきらめる子供は決して少なくはない。
・子どもの貧困はいわゆる「貧困の継承」「貧困の連鎖」(親から子どもに貧困が継承されそこから抜け出せない)という問題がある。
 このような子どもの貧困是正のための政策視点としては「劣等処遇の原則(最低レベルの生活保障)」を「積極的な格差是正の原則」に切り替えていくことが必要である。具体的政策としては「子どもの医療費の無償化」「教育費の無償化」「給付式奨学金の拡充(現在は貸与式が主流)」などが考えられる。

【高校生に笑顔をください 私学授業料無償化へ(島田和秀)】
(内容要約)
・筆者は大阪府の私立高校教員。大阪では例のアホ知事「橋下徹」が「金がなくて学校に行けないのはいけない奴が悪い」という「子どもが泣く街大阪」クオリティで政策を進め、「政治とワイドショーの区別がつかないらしい」関西マスゴミが橋下におべっかを使い、大阪の愚民どもがマスゴミと橋下を支持するという笑えない現実があるので、大変だよなあと複雑な思いにならざるを得ない。

参考
「SANK-Yのブックマーク / 子供が泣く街大阪」
http://b.hatena.ne.jp/SANK-Y/%E5%AD%90%E4%BE%9B%E3%81%8C%E6%B3%A3%E3%81%8F%E8%A1%97%E5%A4%A7%E9%98%AA/

定時制高校の学習権保障 貧困に負けず(宮下与兵衛*2)】
(内容要約)
定時制には貧困家庭の子どもが多い。
これは
1)貧困家庭の子どもは平日、自らも働かなければならないことが珍しくない。その場合、定時制で学ぶほかない。
2)(もちろんいいことではないが)今の日本において、定時制は希望者の少ない、いわゆる「底辺校、学習困難校」であることが少なくない。
そして「貧困と学力には明らかに相関関係があるため」、貧困家庭の子供は「底辺校、学習困難校=定時制」となりやすい、
からである。
その意味で定時制での「子どもの貧困」の取り組みは全日制以上の大変さがあるといえる。

■座談会「大震災・原発事故とジャーナリズム:転換期の時代に問われるもの」(野中章弘、須藤春夫、桂敬一、金光奎)
(内容要約)
・野中の「うちの綿井はイラク報道を、石丸は北朝鮮報道を頑張ってるんですよ」と言う自画自賛がキモかった。大体、イラク報道はともかく、あそこの北朝鮮報道なんてただの叩きなんだから頑張られてもはた迷惑なだけだろ。
野中なんか呼ばなきゃいいのに。野中がいなければ多分もっと実りある座談会になったと思う。
野中と石丸を「褒め殺し」応援してらっしゃる「スーパーゲームズワークショップエンターテイメント」(http://sgwse.dou-jin.com/)を参考までにご紹介しておく(マジレスしとくとここのエントリ主は綿井のことは一応それなりに評価はしてるようだが)。
・つうか他の人間が震災と原発に絡めた発言してるのに、「マスゴミがやってないことを僕らはやってるんですよ」と自画自賛が始まる野中ってバカですか?
・他の人間の発言をまとめると
「未だに原発推進報道をしている産経、読売、日経は酷い」「方向転換した朝日、毎日は評価できるが過去の反省が重要」といったところか。この座談会で指摘があり、id:kojitaken氏も確か指摘していたが1970年代、朝日の報道を原発万歳に持って行ったのは当時の論説主幹・岸田純之助だからな。

■「市民が情報発信者に ネット・メディアがつなぐ思い」(白石草*3
(内容要約)
・アワー・プラネット・ティービー(http://www.ourplanet-tv.org/)主催者の白石氏による活動の紹介。

■「被災地から再建・再興を考える(上):復興構想会議提言批判」(日野秀逸)
(内容要約)
・復興会議委員には被災現場の人間は入っていないし、被災地の声に耳を傾けようとした形跡も見られない。それどころかこの機会に火事場泥棒的に「水産特区」など、復興とは必ずしも直結しないものを進めようとしている疑いがあり評価できないという批判。

■「東北の水産業 震災の実態と課題」(片山知史)
(内容要約)
・現場の問題点を把握したうえでそれに対処することが大切。現場の声でも何でもない水産特区を震災復興を口実に強行しようとすることは許されない。

■「農のいきづく日本へ・その4:世界食料不安時代の到来と食料主権(下)」(久野秀二*4
(内容要約)
・まず国連の提唱する「食料への権利」の意義についての説明。
・次にビア・カンペシーナなど世界各地の食料主権運動の説明。
・食料主権論に関連してTPP問題についての説明(勿論筆者はTPPには食料主権への配慮がないとして批判的である。)。

参考

http://www.fao.or.jp/kids/jp/righttofood.html
FAO(国連職業農業機関)
 食料への権利とは何でしょうか?
(中略)
 食料への権利は、飢えから自由になる権利と同じではありません。飢えから自由になる権利は、国が国民を飢え死にさせないという法的義務を負っていることを意味しています。もっと詳しく言うと、政府が、多くの場合国際的な支援を受けて、国民の飢えからの自由の権利を守るために行動しなければならないのは、大きな災害が起きた時に限られます。
 しかし、食料への権利は、すべての人権と同じように、単に人々の命を守ることだけに関わってはいません。人々の健康と尊厳を守ることに関わっているのです。食料への権利は、すべての人が、健康で活動的な生活を送るために十分な量と質の食料に、いつでも身体的にも経済的にもアクセスできることを意味します。
(中略)
 食料への権利そして人権一般について、もっと知らなければならないことがあります。権利は紙に書かれた考えに過ぎないということです。権利は、人権に関する法律が制定され施行されて初めて現実のものになります。残念なことに、多くの国は、食料への権利を法律にしていません。20ヶ国ほどが、憲法に食料への権利を明記しています。
 何が問題なのでしょうか?1つには食料への権利の法律に何が含まれなければならないのかに関する混乱があります。いくつかの国は、食料への権利によって飢えている人すべてに無償で食料を提供しなければならないと考えました。そんなことは実際にできないし、また自分で問題の解決策を探そうとする人々の努力を弱めると言うのです。
 しかし、食料への権利は、政府が無料の食料を配布することを意味しているのではありません。では、どんなことを意味しているのでしょうか。

■三つの言葉
食料への権利を実現するにあたり国が負うべき義務を理解するには、「尊重」「保護」そして「実現」の3つの言葉を知るだけで十分です。
• 国は、すべての人の食料を得る権利を尊重することを、法的に義務づけられる。このことは、国が表現の自由や信仰の自由を妨げてはならないのと同様に、国は人が食べるために十分な食料を得ようとまっとうに努力することを妨げてはならないことを意味する。
•国は、すべての人の食料を得る権利を保護することを、法的に義務付けられる。このことは、強い事業上の利益や社会的慣習によって人々が十分な食料を得ることが不可能にならないよう、国が注意を払うことを意味する。企業が従業員に生活するに足りる給与を支払うことや企業が食料や他の必需品に適切な価格設定をすること、またジェンダー、人種および宗教に基づく差別によって収入を得る機会が拒否される人がいないことも含まれる。
•国は、もし人々が自分の力だけでは食料を得ることができない時には、すべての人の食料を得る権利を法的に実現することを義務づけられる。このことは、国が、孤児、病人、障害者、高齢者を含む社会的に最も危険にさらされた人々を支援するための社会的セーフティ・ネットが設けられることを保障することを意味する。

ビア・カンペシーナ(ウィキペ参照)
 中小農業者・農業従事者組織の国際組織。世界69カ国(バスク自治州を含む)、148の農業組織により構成されている(ちなみに日本では農民運動全国連合会が加盟している)。
 自らの土地で食料を生産する権利を指す「食料主権」という概念を最初に用い、1999年以来市場原理主義に基づく「農業改革」に抗すべく世界的なキャンペーンを展開している。

■概説
 1992年に設立。加盟組織の構成員総数は約2億5,000万人。ビア・カンペシーナとはスペイン語で「農民の道」を意味する。
 土地・水・種子及び他の天然資源の保全、食糧主権、持続可能な農業生産を目的とし、経済関係の中でジェンダーの平等や社会正義のために小さな農民組織の連帯と協力を発展させることにあるとしている。
 4月17日「国際農民闘争の日」と9月10日「国際的なWTO加盟との闘いの日」を運動上重要な日として挙げている。前者は1996年、ブラジル・パラー州エルドラド・ドス・カラジャスで「土地なし農民運動」(MST)会員19人が軍警察に殺害された日(「エルドラド・ドス・カラジャスの虐殺」)であり、後者は2003年、メキシコ・カンクンWTO閣僚会議にある農民が「WTOは農民殺しだ!」と掲載された旗を持って抗議自殺した日である。

■「統計でみる「構造改革」と国民生活3:中小企業の動向と日本経済」(高木貞二)
(内容要約)
中小企業についての統計からは以下のことが分かる。
・中小企業数は明らかに減少の一途をたどっている。その多くは中小企業の倒産、廃業とみられる。
・「中小企業景況調査」のデータからは「売り上げ単価は下がり続ける」一方、「原材料仕入れ単価は上がり続けている」ことがうかがえる。
 こうしたことより中小企業の苦しい経営状況がうかがえる。 

■編集後記

政権交代からわずか2年、民主党政権の無様さが際立つ。
(中略)
脱原発依存」を記者会見で発表した翌日に、閣内不統一で「個人の見解」と釈明する菅首相の無責任さ

「閣内不統一」
要するに与謝野経済財政担当相と海江田経産相と。

「無責任さ」
まあ、そうなのだがそんな菅でも、他の民主党幹部に比べると脱原発ではずっとマシであるところが泣ける。

*1:著書『脱「子ども貧困」への処方箋』(2010年、新日本出版社

*2:著書「学校を変える生徒たち―三者協議会が根づく長野県辰野高校」(2004年、かもがわ出版

*3:著書「ビデオカメラでいこう 」(2008年、七つ森書館

*4:著書『アグリビジネスと遺伝子組換え作物』(2002年、日本経済評論社