新刊紹介:「経済」10月号

「経済」10月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは10月号を読んでください)

■巻頭言「その場しのぎ」
(内容要約)
 日本の自転車政策の後進性への嘆き。1970年代、自転車と自動車の事故が急増した対策として、自転車も歩道を走れるような法改正がされたが、それが今度は自転車と歩行者の事故を増加させたことを筆者は「まともな交通政策を立てずにその場しのぎでやるからこうなる」と批判。

参考
赤旗「列島だより・自転車道定着へ模索」

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-03-30/2009033013_01_0.html
 自転車は環境にやさしく、経済的で健康維持にも最適な交通手段として見直されています。
 自転車利用のあり方を考えるうえで欧米諸国の取り組みが参考になります。
 その特徴は次のように整理できます。
 まず自転車施策について、マスタープラン(オランダ)、利用計画(ドイツ)、国家自転車戦略(イギリス)などを制定して、目標や計画を持って取り組んでいることです。そして一定の期間をおいて、目標の実施状況を点検し、評価を加えるためのレビュー(再検討)をおこなっています。
 具体的な施策としては(1)自転車の走行、駐車のための施設の整備(2)自転車と公共交通機関との連携(列車内への自転車の持ち込みを推進するための施策を含む)、そして衝突などを防止するための安全向上策(3)通勤や通学のほかにレクリエーションとしての自転車利用を積極的に推進していることも共通しています。
 とりわけヨーロッパの交通政策の際立った特徴は、歩行者、自転車、クルマそれぞれが同等の移動の権利と義務を持つということです。そのうえで「ヒトが最優先」という原則を置き、自転車もクルマと同等に計画的に交通政策を講じています。
(中略)
 各国とも国が計画や指針を示し、地方がそれに則って政策を具体化することがもっとも効率的であり、交通の改善、まちづくり、利用者の要望に応えることになるとの共通認識があるようです。また政府地方機関だけでなく、NGO(非政府組織)も積極的に取り組みに参加しています。
 地球規模の環境破壊を解決するうえでも、クルマにたいする依存度の上昇による二酸化炭素排出量の驚異的な伸びを抑制することが求められていますが、自転車利用は現実的な代替手段といえます。日本においてもようやく施策充実の端緒が見えてきましたが、より具体的な施策の実現が望まれます。


■随想「横浜市民は、負けてはいない」(藤岡貞彦)
(内容要約)
横浜市育鵬社の教科書が採択されたことを嘆きながらも以下のことを指摘し、単なる敗北とは考えてはいない、今後の更なる取り組みが必要としている。
・今回の採択で横浜市から完全に自由社版が消え去ったことは「不幸中の幸い」であった(産経に見捨てられて、自由社グループは消滅の一途をたどるのであろう。喜ばしい事だ)。
育鵬社教科書は教育委員の全員一致で採択されたわけではなく、意見が分かれた。育鵬社教科書に賛成した委員は、中田前市長時代の委員であり、一方、反対した委員は、林現市長の選任した委員である。林氏は別に左派的と言える市長ではなく、その林氏の選んだ委員が反対したことによって、育鵬社版の異常さが改めて明らかになった。


■世界と日本
【いまなぜ円高か(小西一雄)】
(内容要約)
・長期不況でかつ震災で打撃を受けた今、円高なのは「ドル」「ユーロ」「元」に比べたら日本円が評価できると言うことにすぎず喜べるものではない。
・日本としては各国との協調的金融政策によってこれ以上の円高を阻止するとともに、従来の輸出偏重を改めて内需拡大により、円高があっても経済打撃を受けにくい経済構造にしていくことが必要である。


米国債格下げの背景(合田寛)】
(内容要約)
米国債の格下げの背景には財政赤字と経済の停滞がある。これをどう解決していくかがオバマ政権の課題である。


【ユーロ危機と国民生活(宮前忠夫)】
(内容要約)
・ユーロ危機を克服するため、EUは、財政赤字累積国(ギリシャアイルランドポルトガル)に財政再建策を義務づけた。その内容に対し、欧州労連(欧州最大の労働組合団体)は庶民増税、福祉切り捨てによる国民イジメであるとして、批判を強めている。


【中国の高速鉄道事故(平井潤一)】
(内容要約)
高速鉄道事故に対し、中国世論は厳しい批判を浴びせた。これに対し、(あまりに鉄道省の対応が酷いこともあって)政府も十分な対応の実施を表明している。

参考
赤旗

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-08-04/2011080401_04_1.html
中国高速列車事故、「人命軽視」問われる
 マスコミやインターネットの報道を通じて、当局の対応は人命の軽視だとの厳しい批判が中国国内でわき起こりました。
 地元政府は事故後半日で「生存者はいない」と早々に救助活動を打ち切りましたが、その12時間後に2歳の女児が発見・救助されました。
(中略)
 追突した先頭車両をショベルカーで破壊し、穴に埋めるという当局のやり方に、「証拠隠滅」だとの非難が集中し、事故1日半後という運行の早期再開に対しても、安全無視と強い批判が出ています。(注:世論の批判を浴びたため、車両は26日になって掘り出され、保管場所に移されました)
 2歳の女児救出のニュースを伝える国営の中央テレビで、女性アナウンサーは、涙を流しながら、鉄道省の反省と十分な調査を促しました。国営メディアとしては異例のこのコメントは、いま中国社会でこの事件がどのように受け止められているかを象徴する一コマです。
 中国当局は事故後2度にわたってメディアに「否定面の報道を控えるよう」指示を出したといわれます。しかし、中国の一部メディアはなお、駅責任者の告発を掲載するなど抵抗する姿勢を見せています。
 こうしたなか、温家宝首相は28日現地入りし、遺族を訪問し、負傷者を見舞い、事故現場に内外記者を集めて異例の記者会見をおこないました。温首相は、事故への対応や原因究明について国民が「多くの疑問」をもっていると認めました。そして「事故調査・処理の全過程を公開・透明にし、社会と大衆の監督をうける」「腐敗問題があれば決して容赦はしない」と言明。「安全が最優先」との原則を明らかにしました。
 犠牲者の遺族は、「高速鉄道の不安が現実になった」「事故隠しは許せない」と27日には温州南駅で横断幕を掲げて行政の対応に抗議しました。
 首相が約束した「公開・透明」原則が貫徹できるかどうかが問われています。
(中略)
 事故についての国民や遺族の不満が収まらない背景には、今年2月に「規律違反で解任」された劉志軍鉄道相をはじめとする鉄道省の腐敗問題があります。2003年から鉄道相を務めてきた劉氏は、関係業者から10億元(約120億円)以上の賄賂を受け取ったとされます。
 劉氏は高速鉄道推進の先頭に立ち、北京―上海間高速鉄道を「2年半の工期で10年秋に完成させた」当事者でした。
 解任後、ネットでは「賄賂の分だけ、安全にかける経費が削られたのではないか」「速いだけの鉄道でいいのか」などの批判が一気に噴出しました。
 後任の盛鉄道相は、6月末の開業に当たって、最高時速を当初計画の350キロから300キロに下げる措置をとっています。
 しかしその北京―上海の高速鉄道も開業後の1カ月で、停電による運休や大幅遅れ事故が10回近く起こっています。「高速鉄道は大丈夫か」そんな不安が高まる中での今回の大事故でした。


■特集「社会保障の対決点」
【政府・社会保障改革会議報告批判】
「子ども・子育て新システムの本質と児童福祉の課題」(伊藤周平*1
介護保険2011年「改正」の問題点」(林泰則)
「介護現場から12年目の告発」(田原清子)
「「社会保障と税の一体改革案」と医療改悪」(相野谷安孝*2
(内容要約)
・うまく要約できなかったので詳細については原文に当たって欲しい。論者全てに共通していることは、一部評価できる点もあるが、全体としては民主党政権社会保障政策は自民党時代とかわらず、社会保障費抑制の論理が前面にでているという批判である。


デンマークの「福祉」見て歩き・人間的価値を大切にした実践(品川文雄)】
(内容要約)
・筆者のデンマーク福祉現場の視察報告。うまくまとまらないので要約無し。最近デンマークの福祉政策は注目されており(まあ、デンマークに限らず、ヨーロッパの多くの国が日本より福祉が進んでおり注目されているのだが。ドイツとか北欧三国とかそうだよね?)、本もいくつか出ているそうなので最後にググって見つけたそうした著書をいくつか紹介。
 なお、「幸福度世界一」というのはギャラップの世論調査でそう言う結果が出たらしい。そう言う結果が出たからと行って本当に幸せとは限らないが、「国民の大多数が不幸と思ってる社会」よりはましだろう。


湯沢雍彦「少子化をのりこえたデンマーク」(2001年、朝日選書)
高田ケラー有子「平らな国デンマーク―「幸福度」世界一の社会から」(2005年、NHK生活人新書)
澤渡夏代ブラント「デンマークの高齢者が世界一幸せなわけ」(2009年、大月書店)
野村武夫「「生活大国」デンマークの福祉政策」(2010年、ミネルヴァ書房
ケンジ・ステファン・スズキ「デンマークが超福祉大国になったこれだけの理由」(2010年、合同出版)
鈴木優美「デンマークの光と影」(2010年、壱生舎)
千葉忠夫「格差と貧困のないデンマーク」(2011年、PHP新書)


【福祉・保育労働者は低賃金でよいか:「市場重視の社会保障改革」の経済学的本質】(関野秀明)
(内容要約)
・「待機児童が増加しているのは保育所、幼稚園が少ないから」「保育所、幼稚園が少ないのは保育士の高賃金が保育所、幼稚園経営の足かせになっているから」とする鈴木亘(著書「財政危機と社会保障」(2010年、講談社現代新書)など。なお鈴木の社会保障についての論は待機児童問題に限らない(そしてそれら他の論(年金問題等)も多くの論者に批判されているし、ググると批判エントリもいくつか見つかる)が本論文は待機児童問題のみを取り上げている)への批判論文である。
・筆者に寄れば「鈴木のいう高賃金は何ら根拠が無い」らしい。筆者が紹介する浅井春夫編「福祉・保育現場の貧困」(2009年、明石書店)に収録されている調査結果によれば、月収15〜25万円が6割を占めたという。従って鈴木の言う「高収入」とは筆者が紹介する調査結果に問題がなければ、鈴木の虚言ないし、「統計のトリック」なのであろう(残念ながら、筆者は鈴木の「インチキのからくり」については分からなかったのか触れていない)。
・また鈴木が保育所・幼稚園に税金投入されていることが競争意識を阻害し待機児童の増加を助長していると非難していることについても、日本の保育所・幼稚園への補助金は諸外国と比べ低く、鈴木の説が正しければ、諸外国においては日本以上に待機児童問題等の問題が発生していると考えなければならないがそのような報告がない以上鈴木の非難には根拠が無いと批判している。
・なお、最後に私が見つけたこの問題関係の鈴木批判エントリをいくつか紹介する。

参考

きょうも歩く「鈴木亘氏の再評価は中止。相変わらず改革勢力vs抵抗勢力新自由主義神話」
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2010/10/1013-bedc.html
 文芸春秋鈴木亘学習院大教授の保育所の論文を読む。
 少しはまともになったかと思ったが、やはり勧善懲悪物語。東京の公立保育所にお金がかかりすぎるという話をむりやり待機児童問題に結びつけ、世間のルサンチマンに呼びかけて、自らの経済イデオロギーを押し込むパターン。
 とにかくこの人の頭にあるのは民=効率的、公=非効率という決めつけと、世の中を改革勢力対抵抗勢力という単純な社会にする理解。
 民と公は統治・被統治の関係しか思い浮かべられないのかも知れない。それぞれ一長一短あって、その時々にその目的に応じて使い分けるべきものだと私は思うのだが。
 儲かりもしなくて、労働集約型産業で、ガバナンスが容易でない保育所事業は、公費の積み増しがなければ儲からず、人件費が高騰すればたちまち経営方針を転換しなければならない。規制緩和したから、バウチャー制にしたからと、容易に公立保育園以上の質の保育事業者が参入するとは思えない。
(中略)
 下手な小細工をして、制度を複雑難解にしたり、収拾のつかないトラブルに備えながら民間参入を無理矢理促すことがどうなのかと思うところもある。
 規制ゆるゆる民間参入促進路線をいくらやっても効果がないと私は思う。あまりやりすぎると、劣悪事業者を招き入れる危険性が排除できなくなる。
 それより、待機児童問題が問題なら、保育所が増えるかだけを考えるべきだ。いくらやっても事業者が出てこないなら、明治期の鉄道建設や製鉄事業ではないが、東京都内では公立保育所を肯定して公立保育所の新設を求めた方が問題解決が早いのではないかと思っている。
(中略)
鈴木氏のような勧善懲悪物語を信じて改革やってみて、今の保育所にまつわる諸問題、特に、最大の問題となっている待機児童問題が解決するんですかということ。この問題、そんなに甘い問題じゃないというのは、いろいろな話を聞くとよくわかる。
(中略)
 鈴木氏を再評価できるかと思ったが、やはりダメ。もっと役に立つ議論をしてほしいものです。

博多連連『これはヒドイたとえ話だ--ミネラルウォーターと保育園(鈴木亘)』
http://ryuseisya.cocolog-nifty.com/hakata/2010/08/---1623.html
(前略)
 保育所を「ミネラルウォーター」という嗜好品(水道水はあるが、もっとおいしい水を飲みたいから購入する)にたとえる鈴木氏のセンスは、あまりにズレまくり、というほかない。
 鈴木亘教授にとって、「保育所は嗜好品」なのね。
 家ではちゃんと水道水が使えるし、安全性も供給量も確保されてるけれど、「おいしい水を飲みたいから」わざわざミネラルウォーターを購入する。現在の保育所はそういうもんだと鈴木教授は認識しているわけだ。
 今、主に大都市部では保育所が足りず待機児童が大勢いる。
 待機児童の親たちは「人気のスイーツ買いたい!とお店の前で行列つくってる」のと同じって言ってるんだね(人気のスイーツでもipadでもヨン様に会えるツアーチケットでもいいけど)。
 考えてみれば、鈴木教授のような考え方は、これまでの、ある人々の「保育所観」と同じかもしれない。
 「家で母親が世話してりゃいいものを、わざわざ保育所に預けて母親が働くという“趣味・贅沢”をやっている(低所得や母子家庭の人は例外だからしょうがないけどさ)」と。
(中略)
こういう考え方が若い世代に支持されるとしたら…頭が痛い。

博多連連『鈴木亘「待機児童の元凶は公立保育士の高給」ってホントか?』
http://ryuseisya.cocolog-nifty.com/hakata/2010/10/post-df22.html
(前略)
 鈴木教授(保育園をミネラルウォーターにたとえた人)は
・公立保育所の保育士給与が高い
・保育士の組合等、既得権益者が規制緩和に反対している
・認可の規制が強く、保育所の参入障壁が高い
ことにより、保育所が増えず、待機児童が減らない と主張している。
 鈴木氏の言う通りなら、保育士の給料を下げれば(そして規制緩和すれば)保育所をたくさん作れることになる。
 なんなら保育士を全部非正規(パート・バイト)にして年収を3分の1程度(600万円を200万円にするとか)すれば、保育所が劇的に増えそうな気がするのだが、そうはいかんのではないか。
 だって、多くの自治体はすでに正規保育士採用を減らし、非正規(臨時)職員を多く雇っているのだ。非正規ならもちろん人件費は安い。
 また、公立保育所の民営化も進められている。民間(私立)保育所の保育士が高給ということはない。
 東京都では認証保育所認定こども園といった認可保育所より規制の緩い保育施設が増えていて、これらの施設で働く保育士も高給ではない。
 それでも待機児童は解消されていない。どころか増えている。
 「高給」でない保育士を増加させているにもかかわらず、である。
 保育所新設・定員増は行ってきたが、入所希望者の急増に追いついていないのだ。
 保育所新設・定員増が追いつかない主な理由は、ハード面の問題ではないだろうか。
 保育所の恒常的な運営費はほとんど人件費だけれど、保育所を新たに作るには土地・建物・設備が要る。
 時給800円のバイトを集めて公園で乳幼児の世話してもらえば親は安心して預けます…ってわけないんだから。
 特に大都市部は地価が高く用地取得も大変である。保育所一つ作るにも費用や時間がかかり、そうそう増やすことができないでいるのだと思う。
 鈴木氏は文藝春秋の記事で「保育産業は医療や介護産業に比べてもはるかに税金投入率の高い『補助金漬け産業』」と書いている。
 近年、山の中や郊外に老人ホーム、施設をよく見かける。施設入所の高齢者は毎日家族が送り迎えする必要がないから山の中でも良く、地価が安いから立派な施設が作れるのだろう。
 しかし、働く親が毎日送り迎えする保育所は山の中には作れない。作ったって申し込む人がいない。
 職場か自宅にほど近い場所でないといけない保育所新設の難しさがあるんじゃないだろうか。
 公立(正規)保育士の給料が元凶、というタイトルは編集部がつけたのだろうが、鈴木氏もしつこく給料の高さを書き連ねている。「保育所を増やす策」を探るよりもむしろそっち(公立保育士の給料高い)を訴えたいのかと思えるほどだ。

博多連連『鈴木亘保育所規制緩和」--なんでわざわざややこしいことを』
http://ryuseisya.cocolog-nifty.com/hakata/2010/10/---90b0.html
 文藝春秋2010年11月号「待機児童80万人の元凶 公立保育所の給料が高すぎる--鈴木亘学習院大学教授)」 について、続き。
 鈴木氏は、待機児童解消のためには保育所規制緩和し、自由価格・自由競争にすべきだと言う。
 その伏線として、
認可保育所の保育料があまりに安い
・公立保育所に投入される税金があまりに高い
ことを、東京都のいくつかの区・市のデータを挙げて述べている。
 例えば、武蔵野市や区部では、公立保育所のゼロ歳児一人あたりに月額50万円前後の保育運営費(人件費や管理費・事業費等、保育にかかる費用)がかかっている。対して、親が負担する保育料はずっと安く、最高でも57,100円(武蔵野市)。
 こんなにアンバランスな認可保育をやっているからお金が他に回らず、待機児童解消もできないのだ、そこで、規制緩和、自由価格、自由競争だ、と。
しかし、自由価格・自由競争では低所得者や障害児など弱者が保育所を利用できなくなるおそれがある。
それについては、別途、個人に直接補助金を渡すのが良い。
というのが鈴木氏の主張。
 気をつけたいのは、上記の「50万円」とか保育料とかは、東京区部・市の富裕自治体の話だということ。
 全国どこでもゼロ歳児に50万円かけているわけではない。そして、この額は一部は国が出す補助金だが、大半は自治体が出すお金。東京区部では9割以上が自治体分。
 東京区部などは保育に金をかけられることで知られており、近隣の他県他市の人は「東京は別格だから」と言っている。
 鈴木氏も同誌で書いているが、国が算定している基準保育料はけっして安くない。
 3歳未満:上限10万4,000円  3歳以上:上限10万1,000円
 保育を実際に運営するのは国でなく各自治体(区市町村)。保育料も自治体でそれぞれ決めている。
 自治体は上の基準保育料を上限としてそれより安い保育料にし、不足分は自治体が補っている。安くしないと親の負担が大変だからだ。
 中でも東京の富裕自治体の保育料減額・税金投入はきわだって多い。その一番極端なのがゼロ歳児の税金50万円:保育料5万数千円というわけ。
 こういうきわだった例を基準にして、国の保育制度を「規制緩和せよ」は妥当でないと思う。
 規制緩和で企業が参入しやすいようにとのことだが、保育に企業が参入できる地域は限られている。人口が少なく待機児童もいない町に企業が保育事業参入するわけがない。
 しかし、国の制度として自由価格・自由競争となったら、企業が来ない町でもあおりを喰ってしまうのではないか。
 行政が保育に十分な税金を投入できず(財源がないから)、さりとて民間でも担い手がなく、えらく乏しい保育水準になってしまわないか、と懸念する。
 ちょうど、三位一体の改革により、
・義務教育費の国庫負担割合を減らした→地方の教員の非正規化が進んだ
・保育費の一般財源化→自治体は使い道が自由に→保育予算縮小
のように。
 待機児童が多いのは東京なのだから、待機児童対策の規制緩和を東京基準でやっていいじゃないか。待機児童のいない地方は別の政策を独自にやればいい。
という理屈もあるが、
いや、それだったら、東京で独自にやれば?。国の制度いじらなくても。
 鈴木氏や、多くの方が驚く「安すぎる保育料」「高すぎる税金投入」は、国基準でなく東京が独自にやってきたことだから、東京の区・市が変えればいいんじゃないの?。(俺の注:もちろん東京の制度に対する鈴木批判が正しいかどうかという問題もあるが) 中・高所得者の保育料を上げ、低所得者はそのまま。税金投入は公立の分を減らして待機児童対策に多く回す。こうした策は今の制度のままで可能でしょう。
 わざわざ国の制度として自由価格・自由競争にして保育料全体の料金上昇を誘い、低所得者等は別途に手間をかけて補助金支給で支援。
 なんでそんなややこしいことしないといけないのかわからない。
 自由価格・自由競争による効率化といってもね。保育の何を効率化するのだか。給料の高い公立正規保育士を駆逐できるから?。 正規で何が悪いの?。(俺の注:鈴木のような)大学教授を非常勤パート教員ばかりにすれば効率化して私学助成金が削減できると言われたらそうするの?。
 効率の良い保育所って。運営費の安い保育所かしら。コストの安いバイト保育者が大半で入れ替わりが激しくて担当がすぐ変わってそのたび「ウチの子はアレルギーで云々」を説明して。親と子には非効率なんだけど(てか効率以前の問題が)。経営悪化で突然撤退されたら目も当てられないし。
 マイナスもいろいろありそうな自由価格・自由競争をいったん経た上で待機児童を減らす、という回り道をするより、自治体が直に待機児童を減らす策を考えるほうが「効率的」ではあるまいかと。
(後略)


■座談会「変わりつつあるアジアと世界:非同盟運動50周年記念会合に出席して」(吉川久治、緒方靖夫、面川誠*3
(内容要約)
・今年行われた非同盟諸国外相会議、非同盟運動50周年記念会合の報告。

参考

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-05-28/2011052807_01_1.html
赤旗「期限切り核廃絶 声明採択、非同盟諸国外相会議 閉幕、パレスチナ独立国家建設を支持」
 第16回非同盟諸国外相会議と非同盟運動50周年記念会合は27日、期限を切った核兵器廃絶への取り組みを強化することを明記した声明を採択して閉幕しました。パレスチナ問題では、1967年の第3次中東戦争以前の国境線に基づく独立国家建設を支持する宣言を採択しました。
 「核兵器の全面廃絶に関する声明」は、「具体的な期限を区切り、世界的な核軍縮核兵器の全面廃絶を実現するための具体的提案を、非同盟諸国が策定する」ことを確認。「核兵器廃絶の方法を明確化するための高官級国際会議の開催のために努力する」としています。
 25日に採択された「バリ記念宣言」も、「核兵器のない世界に至る唯一の道は、全面かつ完全な核軍縮だ」と強調しました。
 3日間の一般討議では、「核軍縮の最も実効的な方法は、多国間交渉による核兵器禁止条約だ」(アニファ・マレーシア外相)、「厳格で効果的な国際的統制下での全般的かつ完全な核軍縮が必要」(モレノキューバ外務次官)といった声が相次ぎました。
 「パレスチナに関する宣言」は、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家が可能な限り早く国連に加盟できるよう努力するとして、パレスチナ国家未承認の非同盟諸国に対して早期承認を呼び掛けました。現在、同諸国120カ国のうち30カ国が未承認です。
 主催国インドネシアのマルティ外相は記者会見で、「パレスチナの国連加盟は、和平プロセスを進展させる大きな後押しになる」と強調。「国連常任理事国に働きかけを強める」と述べました。
 宣言は、「1967年の国境線に基づいたパレスチナ国家承認に向けて、いくつかの国家が取った重要な措置を強く歓迎する」と表明しました。
 オブザーバー参加したセルビアのイェレミッチ外相は、1961年に第1回非同盟諸国首脳会議が開かれた同国の首都ベオグラードで9月に閣僚級の記念会合を開くと述べ、各国に参加を呼び掛けました。
 会議では、世界的課題に非同盟運動の取り組みを包括的に整理した「最終文書」も採択しました

*1:著書『雇用崩壊と社会保障』(2010年、平凡社新書)、『医療・福祉政策のゆくえを読む―高齢者医療・介護制度/障害者自立支援法/子ども・子育て新システム 』(2010年、新日本出版社

*2:著書『医療保障が壊れる』(2006年、旬報社

*3:著書『変わる韓国』(2004年、新日本出版社