山家悠紀夫『暮らし視点の経済学』(2011年9月、新日本出版社)

以前「私が今までに読んだ本の紹介(山家悠紀夫編)」(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20090803/1249250921)で紹介した山家氏の新刊。以前も説明したが山家氏の立場は「反小泉構造改革・反新自由主義」であり、ヨーロッパ社民主義を範とした経済政策を唱えている。
目次は以下の通り

序 章 日本経済社会、三つの課題<2011年3月11日以降>
脱原発社会への道
2 災害からの復旧、地域の復興へ
3 暮らしの再建と日本経済の建て直し


第1章 「構造改革」政策下の日本経済<2007年以前>
1 「構造改革」とは何だったのか
不良債権問題を考える


第2章 サブプライム問題・リーマンショックと日本経済<2008年>
サブプライム問題とその背景
サブプライム問題と日本経済
3 世界の問題、日本の問題


第3章 大不況下の経済政策<2099年>
1 連続した愚かしい政策
2 必然だった政権交代


第4章 民主党政権の誕生・変質と人々の暮らし<2009年秋〜2011年>
1 期待を裏切った民主党政権
2 いのちと暮らしの危機をどう克服するか


終 章 財源問題を考える<2011年3月11日以後>1 財政の現状はどうなっているか
2 財源をどこに求めるか


あとがき

序章では3.11以降の課題として
1「原発事故の収束と脱原発の実現」
2「震災からの復興」
3「震災前から続いている課題の解決」の3つがあるとし、1、2の課題について山家氏の考えが簡単に述べられている(3について第1章以降で述べられる)。

・第1章から第3章では自民党政権での経済政策がざっと振り返られる。小泉構造改革成功論や新自由主義成功論が虚構でしかないことが、サブプライム問題・リーマンショックを契機とした世界的な不況で明らかになり、かつ小泉政権末期に格差問題が表面化したことによりポスト小泉の総理は構造改革の修正を唱えたが、結局うまくいかず、民主党に政権を奪われるという流れが説明される。
・第4章は民主党政権についての山家氏の評価である。子ども手当や高校無償化など評価に値する政策もあるものの、政権交代前に公約された後期高齢者医療制度廃止や派遣労働規制は先送り、ないし中途半端なものに終わった上、菅政権での消費税増税論表明以降、自民党路線と変わらないものになったとの評価が語られる。
この理由として、山家氏は、財界と米国の抵抗に対し、易々と屈服したからであり、民主党社民主義的な経済政策公約を実現する道筋について、(党内に新自由主義派がいたこともあり)明確化する能力も意思もなかったからだと酷評している。
・第5章において、財源はもっぱら所得税法人税累進課税の強化(日本の税率はヨーロッパに比べて低いので少なくともヨーロッパ並みにすることには問題などないはず)に求めるべきであり、「消費を冷やし景気に悪影響を与える」「逆進性のある」消費税増税などもってのほかと批判している。
国債の日銀引き受け論については法律で禁止されており、弊害が大きい上、そのようなことをしなくても国債の売却は従来可能であったし、(日銀引き受けでないと不可能なほど発行せず)従来レベルの国債発行なら今後も売却可能であるとして批判している。
・コストカット論についても、福祉、教育のカットといった新自由主義的なものではなく、真に不要な不急な支出か十分検討した上でカットが求められるとしている。
公務員の給与カットについて山家氏は「人件費のカットには限界があること(むやみにカットすると官製ワーキングプアを生んだり、公務員の士気をスポイルしてしまう)」「公務員の給与カットは民間にも波及し、景気に悪影響を及ぼす危険がある事」から安易なカット論には批判的である。