新刊紹介:「経済」9月号

「経済」9月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

■巻頭言「『要請』と言う名の介入」
 何のことかというのは以下の赤旗記事参照。要するに「立場の弱い大学に「予算権限」を握る政府が『要請』するのは強要も同然だ」と言う批判。「こんな事が許されるのなら、政府による大学授業としての原発安全神話の普及だって論理的には実行できる」というのはおっしゃるとおりだろう。給与の件も事実上の強制であり、どちらも違法行為の疑いが否定できない。まあ、強制して何が悪いと言わないのは「少しはまとも」だが。こうした事態に対し、「難しいとは思うが、大学人はこうした政府の問題行為に対し行動する責務があると思う」と言う巻頭言筆者の言はおっしゃるとおりだ。

赤旗

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-06-12/2012061215_01_1.html
財務省の消費税増税PR 43大学で押しかけ講義」
 宮本議員は、お茶の水女子大学和歌山大学などの例をあげ、正規の講義時間を削って財務省の講義にあてていることを批判。安住財務相は「何が悪いのか不思議だ。学生にとっても役に立つ」「財務省と大学の合意でやっている」と開き直りました。
 これに対し、宮本氏が「合意というが大学から講師派遣の要請は1件でもあったか」とただすと、安住財務相*1は1件もなかったことを認めました。
 宮本氏は「まさに『押しかけ』だ。予算を握っている財務省からいわれたら、大学はなかなか断れない。正規の講義で広報活動を行うこと自体暴挙だ」とのべました。
(中略)
 ある国立大学関係者は、「43大学とは驚いた。財務省はその何倍も働きかけているはずだ」といいます。
 別の国立大学の関係者は、「政府の答弁は問題がどこにあるかまったくわかっていない思考停止だ」とのべ、「宮本議員の質問は、大学を政府の広報機関として利用したという事の真相を掘り下げたものだった」と語りました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-06-22/2012062204_01_1.html
国立大の給与下げ強要、政府圧力 運営費交付金を減額
 野田内閣が、全国の国立大学法人(90法人)に対し、教職員(13万人)の給与の大幅削減を不当なやり方で強要していることが、21日までに明らかになりました。
 2月末に成立した国家公務員の賃下げ法をうけて、野田内閣は、同法による給与削減の対象でない国立大学法人独立行政法人に対しても、同等額の7・8%削減を「要請」しています。
 文部科学省が5月14日付で各法人に発した「民主党行政改革調査会からの資料要求に係る再調査依頼について」と題する文書は、「国家公務員の給与特例法に準じて職員給与規程を改定済」かどうかのほか、「労使交渉中の場合、終了時期のメド」などまで記載して提出することを求めています。
 国立大学法人などの教職員は公務員でないため、給与削減を行うかどうかは、労使交渉によって決定すべきものです。給与改定したかどうかとあわせて、各法人での労使交渉について、交渉終了時期まで国に報告させることは、労使関係への国による不当な圧力となります。
 しかも、5月11日の閣僚懇談会では、国家公務員の給与削減と同等の額を運営費交付金から減額するとし、安住財務相は会見で、国立大学300億円、独立行政法人300億円、特殊法人100億円の減額になるとのべています。財政面からも、各大学の給与削減を強要しようというわけです。
 これらは、国立大学を法人化する際に、「法人化前の公費投入額を十分に確保し、必要な運営費交付金等を措置するよう努める」、「『良好な労働関係』という観点から、関係職員団体等と十分協議が行われるよう配慮する」とした国会付帯決議(2003年)にも反しています。


■世界と日本
中国経済の「成長鈍化」(平井潤一)】
(内容要約)
 政府は「バブル発生を抑えようとしている」ため、一定の成長鈍化は予想の範囲内だが、だからといってもちろん不景気を望んでいるわけではない。どう適切な経済政策を打ち出していくかが注目される。
 

【金融機関の3月期決算(桜田氾)】
(内容要約)
・金融機関の経営は一応黒字だが、貸し出しは伸び悩んでいる。不況克服のためにも貸し出し増加が望まれる。


特集「財界・大企業と内部留保
■「「内部留保」の膨張と21世紀日本資本主義」(大木一訓)
■「内部留保論の現代的課題:その全体像と分析方法」(小栗崇資*2
■「内部留保とは何か、何に使っているか」(谷江武士)
■「データ分析:2011年度決算にみる内部留保の動向」(垣内亮)
■「「新型経営*3」による「雇用・賃金破壊」と内部留保の急膨張」(藤田宏)
■「税負担率の算定分析:法人税制と内部留保の拡大」(田中里美)
■「大企業の内部留保をどう活用するか」(木地孝之)
■「世界の巨大企業における内部留保の状況」(田村八十一)
(内容要約)
・内容的には「内部留保の増加」を「法人税の減税」などで「まともな再分配をしないことにある」「まともな再分配をすべき(法人税課税の強化)」とした上で、各企業に内部留保の社会への還元を求める、そしてそれを実行させるために政治運動を強める必要があるというのが全ての論文に共通する内容。
・個別の論文にも俺に可能な範囲で言及する。
・藤田論文は内部留保の増加原因として「ネオリベ路線に基づいた低賃金労働によるコストカット経営」をあげ、このようなことを続ければ大量のワーキングプアが発生し、重大な社会問題になると批判する。
・田中論文は「租税特別措置などで実際の法人税負担税率が低いこと」を「内部留保の増加原因」としてあげ、租税特別措置を原則廃止すべきだとしている。


特集「ストップ!TPP 見えてきた「壊国」路線」2
■「TPPと国民主権」(福田泰雄*4
■「日本の食の安全を売り渡すTPP」(山浦康明)
■「 金融・サービス分野でのTPP交渉と金融自由化」(松本朗*5
■「TPPは中小企業になにをもたらすか」(相田利雄)
(内容要約)
・以前から行われているTPPへの批判の続き。ここでは「食の安全」「金融・サービス分野」「中小企業」がテーマとされているので、それらについて触れた赤旗の記事を紹介してみる(追記:「金融・サービス分野」「中小企業」はいい批判記事が見つからなかったのでとりあえず保留)。

【食の安全】
赤旗
「米の4頭目BSE牛 輸入緩和迫るTPP、消費者の不安 解決されず、科学的審議 時間をかけて」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-04-30/2012043005_01_1.html
「米が露骨な対日圧力、輸入米食べよ、BSE牛緩和、通商代表部報告書」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-04-04/2012040401_01_1.html
「“大腸菌ポテト”輸入 米国が強要、TPP参加で食が危ない」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-01/2011110101_01_1.html


■「「略奪的」ファンド規制の国際的動向と日本」(鳥畑与一*6
■「銀行ファンドの支配で、ものづくりはどうなるか:電子機器メーカー「カイジョー」の事例から」(北健一*7
(内容要約)
ここでの「略奪的ファンド」とはいわゆる「ハゲタカファンド」の事だと理解すればいいだろう。会社の建て直しよりも、債権回収を重視し、債権回収のためなら会社の切り売りもなんとも思わず、時に違法行為すらする連中と理解すればよろしい。そういった問題についての総論が鳥畑論文で、「カイジョー」と言う具体例を取り上げたのが、北論文である。日本においては「ファンドが債権者として企業経営に介入した場合の労働者保護(安易に首切りなどできないようにする)」規制が弱い。規制を強める必要があるだろう。
 なお北氏は以前「経済」に
ルポ「ファンドは事業会社に何をもたらすか:昭和ゴムの経営・職場を守る闘い」(北健一)と言う論文を書き、それを俺も「新刊紹介:「経済」11月号(追記・訂正あり)」(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20101008/1281158775)で簡単に紹介している。
 今回のカイジョーの記事について簡単に紹介。カイジョーに乗り込んできたファンド会社は「フェニックス・キャピタル」。北氏曰く「三菱東京UFJ銀行」と関係の深いファンドである。北氏の造語か、世間一般にそう言う言葉があるのか知らないが、北氏はこうした銀行と関係の深いファンドのことを銀行ファンドと呼んでいる。北氏の理解ではフェニックスは人減らしのため、かなり悪質なパワハラ行為をした疑いがあるという(訴訟が現在継続中)。また、銀行への債務は減ったものの、北氏の取材では目立った売り上げ増や新商品の開発も認められなかったという。結局、銀行への借金返済こそ最大の目的とする典型的なハゲタカファンドの一種だったのであろう。
 たとえばカイジョーは債務返済のため、子会社カイジョーソニック(現・ソニックhttp://www.u-sonic.co.jp/)をタキオニッシュホールディングス(http://www.tachyonish.com/)に売却したが、売却できると言う事は一定の利益が見込めると言うことであり、短期ならともかく、中長期的視点では北氏が指摘するように売却には疑問符がつくのではないか。なお、カイジョーは最終的には澁谷工業(http://www.shibuya.co.jp/)に売却され、その時点でフェニックスもカイジョーの経営から去ることとなった。


■「米国視察記・「オキュパイ」運動と労働組合運動」(岡田則男)
(内容要約)
 筆者はいわゆるオキュパイ運動を評価しながらも、米国の右派の力はあなどれない物があるため、過大評価は禁物としている。
 またオキュパイ運動参加者の中には、民主党関係者が「オキュパイ運動は既成の運動への批判から生まれたのに民主党応援団化しようとしている」との批判があるらしい。

*1:菅内閣防衛副大臣民主党国会対策委員長を経て現職

*2:著書『内部留保の経営分析』(谷江武士氏との共著、2010年、学習の友社)

*3:ネオリベ路線に基づいた低賃金労働によるコストカット経営のこと。平たく言うとブラック企業経営と同じだろう。

*4:著書『現代日本の分配構造』(2002年、青木書店)、『コーポレート・グローバリゼーションと地域主権』(2010年、桜井書店)

*5:著書『円高・円安とバブル経済の研究』(2003年、駿河台出版社)、『入門金融経済』(2009年、駿河台出版社

*6:著書『略奪的金融の暴走』(2009年、学習の友社)

*7:著書『その印鑑、押してはいけない! 「ハンコください」が招く悲劇』(2004年、朝日新聞社)、『武富士対言論』(2005年、花伝社)、『高利金融―貸金ビジネスの罠』(2008年、旬報社