新刊紹介:「経済」11月号

「経済」11月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■世界と日本
【国際協同組合年と金融(桜田氾)】
(内容要約)
 今年は国連の定める国際協同組合年だが日本政府の取り組みは鈍い。協同組合を侵攻すする政策の展開が求められる。なお、タイトルに金融と入ってるのはこの文章が「信組、信金労働金庫」といった組合型金融機関を主なテーマとしているからである。もちろん、組合は金融機関に限られるわけではなく、農協、漁協、生協などもある(なお、これら「金融活動がメイン業務でない」組合もJAバンクなど、副業としての金融活動はできる)。

【中国の農村でも格差拡大(平井潤一)】
(内容要約)
 中国の都市だけでなく、農村部でも格差の拡大が統計上認められるという話。なおその主たる原因は農業外収入(出稼ぎ)であり、農業収入の引き上げ策が急務である。


特集「転換のとき、政治を問う」
■対談「日本の政治変革と国民のたたかい:民意に背く政治から国民が決める政治へ」(笠井亮渡辺治
(内容要約)
【1.民主党政権の3年間はなんだったのか】
 民主党政権の3年間は公約違反の3年間であった。この理由としては、「従来通りの自民政治維持を求める自民、公明、アメリカ、財界、それらに追随するメディアに対し、民主党に改革を挑む決意も能力も戦略もなかった」「そうした民主党執行部の裏切りに対し、党内左派は無気力(そもそも批判すらしない)であり、かつ党外のリベラル、左派運動(もちろんその中には笠井氏及び彼が所属する共産、渡辺氏及び氏に代表されるリベラル、左派系の学者も入る)も力不足であった」があげられる。

【2.決められない政治と三党談合、橋下維新の会】
・野田政権は「決められる政治」をスローガンに三党合意を正当化したが国民の批判は厳しい。
・こうした中、「自民、民主もダメだ、第三極が必要」と言う声に乗っかる形で出てきたのが維新の会である。維新の会は今のところ一定の支持を得ており、警戒が必要である。
・一方で、「維新の会」の極端な右翼ぶり、ネオリベぶりへの反発から、「維新に比べれば自民、民主の方がマシ」と言う動きが出てくる可能性にも一定の注意が必要であろう。


【3.ここに来ての「改憲」策動をどう見るか】
改憲案のポイントとしては、次の点が上げられる
1)アメリカや財界の要請に基づく集団的自衛権容認が最大のポイントである
2)自民党改憲案が「天皇元首化、自衛隊国防軍化、軍法会議の設置、戒厳令既定の創設」等と過去に例を見ないほど極右的であることに注意が必要。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-04-28/2012042802_03_1.html
自民党が新改憲案、国防軍天皇元首・非常大権
 自民党は27日、2005年にまとめた改憲案・「新憲法草案」の改訂版として、「日本国憲法改正草案」を発表しました。
 改定案は、平和主義、人権、統治機構改憲要件にいたる現行憲法の全面改定を目指すものとなっています。
 現行憲法前文から侵略戦争への反省や平和的生存権を削除し、9条2項を削除する「新憲法草案」の内容を維持したうえで、さらに9条の全面的な改定に踏み込んでいます。
 「新憲法草案」で「自衛軍」としたのを「国防軍」と書き換え、国防軍規定(9条の2)には、秘密保全法の根拠規定を置くとともに、軍法会議の設置を盛り込みました。「9条の3」として国の領土保全、資源確保の義務を盛り込んでいます。
 第9章に「緊急事態」という口実で有事法制規定を導入。外部からの武力攻撃、内乱、大規模自然災害などの緊急事態において、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」「何人も…国その他の機関の指示に従わなければならない」とされ、政令による権利制限を可能としています。旧「大日本帝国憲法」の天皇による「非常大権」と同様の権限を政府に与えるものです。
 また、天皇の元首化、日の丸(日章旗)・君が代の国旗・国歌化、皇位継承元号の制定、家族の尊重など、「新憲法草案」にはなかった保守性を前面に出しています。
 改憲のための国会発議の要件を、衆参両院の全議員の3分の2以上の賛成から「過半数」へと緩和する点は変わっていません。

 

【4.「原発なくせ」「九条の会」などの国民運動の発展】
 こうした状況を打開するためにも反原発運動や護憲運動(九条の会など)などとの政党(ここでもっぱら議論対象になっているのが共産党だが)の連携が必要である。

【5.来るべき国政選挙と政党の責任】
 消費税増税ストップ、原発再稼働ストップをなんとしても実現しなければ行けないと考えている。そのためには共産党も来るべき国政選挙で全力で頑張りたとえ1議席でも議席増を果たしたい。
 政治のあるべき方針としては経済政策、福祉政策では「反ネオリベ」「社民主義」、外交安保政策では「平和主義」の立場に立つことが必要であり、それこそが政治の対立軸であるべきだ。


■「日本の貧困と生活保護バッシング」(唐鎌直義*1
(内容要約)
 いわゆる「河本騒動」による生活保護バッシングへの批判。赤旗記事紹介で代替する。
赤旗
生活保護抑えないで、生存権裁判支援する会 芸人利用の攻撃を批判』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-27/2012052701_03_1.html
『芸能人問題で生活保護攻撃、「冷静な議論を」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-29/2012052901_03_1.html
関係団体が声明主張「生活保護たたき、生存権奪う“便乗改悪”やめよ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-29/2012052901_05_1.html
『親族に「扶養」説明責任、生活保護受給者 厚労省がたたき台』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-09-29/2012092901_04_1.html
生活保護、「貧困は個人責任」公的責任は放棄』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-09-30/2012093002_02_1.html


■「いじめに潜む病理:人間力回復の社会改革を」(村山士郎)
(内容要約)
・いじめに十分な対応ができない理由としては「大人の側の多忙さ」が一つの理由としてあげられる。「教師や保護者の過重労働をどう軽減し子どもとふれあう時間をつくっていくか」と言う問題意識が必要。
・いじめ問題の背景には「イラク人質問題での自己責任論」「生活保護問題でのお笑い芸人河本つるし上げ」とような「いじめを容認する日本社会の歪んだ意識」があると思われる。そうした問題をどう解決していくかというのも今後の課題だろう。


■「東アジアの平和と日本:米中関係と日本外交」(川田忠明)
(内容要約)
 日本の右派マスコミは「中国の軍事的脅威」「米中対立」を声高に唱え「日本は中国ではなくアメリカの側につくべき」と叫んでいる。
 「中国の軍事的脅威」「米中対立」は一面の真実であるが、一面の真実に過ぎずそればかり強調することは虚偽に近い。米国と中国は経済的に相互依存関係にあり、全面的な敵対関係になることはあり得ないと見るべきであるし、中国の隣国である日本にとって右派マスコミの主張するような「中国敵視政策」はおよそ現実的なものではない。


■「日米経済関係の展開と「失われた20年」」(萩原伸次郎*2
(内容要約)
 1990年代の日米構造問題協議以降、日本の経済政策はアメリカの方針「新自由主義」を大筋で支持するものであったが、これが日本に格差社会という重大な問題を生み出した。格差社会を是正するのではなくかえって助長する経済政策をとり続けたという意味で、日本は「失われた20年」を経験したと言えるだろう。


■「年金「空洞化」の闇を光に」(公文昭夫*3
(内容要約)
 筆者は日本の年金の特徴を「高い」「低い」「危険」と表現している。
「高い」:年金保険料が世界的に見て高いという話
「低い」:であるにもかかわらず、年金給付が低い。年金保険料が上がっていくのに、給付が下がっていくというのだから踏んだり蹴ったりである。
「危険」:年金制度としてやっていけるか危険。保険料が高くて給付が低いのでは「入りたくない」と言う人が増えていくのも当然だろう。
 また、グリーンピアなどで年金積み立てを毀損したと言う問題もある。
 こうした問題をどう改善していくかが年金の重要問題である。たとえば「年金保険料が高すぎる」「制度としてやっていけるか不安」と言う問題の解決としては積立金制度をやめて税方式(もちろんその場合も低所得者に配慮した租税が求められることは言うまでもない。財界の主張する全額消費税でまかなうなど論外である)にすることが一つの案として考えられる。

参考
赤旗
グリーンピア破たんの責任は、消えた年金4000億円、歴代厚相の地元に集中」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-05-30/15_01.html
「年金保険料の損失3682億円、二束三文で売却、保養基地「グリーンピア」」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-01-04/2006010415_01_2.html
「年金積立金、市場運用で損失18兆円、制度改悪 自公の責任大きく」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-07-14/2009071404_01_1.html
「無年金・低年金問題共産党はこう解決、国民年金8.3万円へ底上げ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-08-20/2009082003_01_1.html


特集「フクシマは発信する」
■「東北再生に欠かせないユニバーサルデザインの視点」(関根千佳*4
(内容要約)
ユニバーサルデザイン国立国語研究所の日本語訳(?)だと『万人向け設計』)とはアバウトに言えば「様々な人が施設を使用しやすくするための対応をすること」。
具体的には
身体障害者や高齢者に配慮し障害者の建物の段差をなくしたりスロープをつけたりする」
「外国人にもつかえるよう、日本語だけでなく外国語表示を設置する」
「盲人のために点字表示を設置したり音声でアナウンスしたりする」
色盲の人間でも見やすいカラーリングの表示」
などと理解すればそう外れてはいないと思う。
つまりは
1)「避難所や仮設住宅においてそうした視点が大事」
2)「被災した建物を再建する場合は、元通りにするのではなくユニバーサルデザインの視点から再建すべき」と言う話である。現実問題、難しいとは思うが。
 

■座談会「メディアは市民とともに動けるか」(東海林智*5、水島宏明*6桂敬一*7
(内容要約)
 対談内容に関連したエントリをいくつか紹介して、内容要約に替える。


薔薇、または陽だまりの猫『「厳重注意」を受けるべきは誰か〜NHK「ETV特集」スタッフへの「注意処分」を考える〜』
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/0cabe93fd5f30e423b87be470b95fad9
OurPlanetTV「国会記者会館の屋上使用をめぐり、裁判提訴」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1447
「すきすきたねまきの会」
http://www.tanemakifan.net/


■「日本の競技スポーツ、その活躍と今後:ロンドン五輪の結果分析から」(広畑成志*8
(内容要約)
文科省が作成した「スポーツ基本計画(以下、計画)」では「オリンピックでは過去最多を越えるメダル数の獲得」を目標としており、今回のロンドン五輪ではその目標は達成できた。
・一方、計画は「夏季五輪では国別ランキングで5位を目指す」となっているがこれは達成できなかった。またJOCの目標「金メダル15個獲得」も達成できなかった。
・今回大いに活躍したのが金メダルはなかったもののメダル数11個の水泳である。メダル数で判断する限りは、世界トップレベルの選手育成に成功していると言える。
・一方、不振が目立った競技としては柔道とマラソンが上げられる。
・競技力の向上のためには、スポーツ選手を支える体制作りが必要であり、国、自治体の施策の充実が求められる。


■「事業所・企業数把握の変遷と『経済センサス』の実施」(高木貞二)
(内容要約)
 2006年まで行われていた「事業所・企業統計調査」にかわって2009年から開始された経済センサスについて、「なぜ経済センサスが新たにつくられたか」「事業所・企業統計調査と経済センサスの違いは何か」等について説明。
 「違い」はよくわからなかった。
 「なぜ経済センサスが作られたのか」はわかった。従来、事業所対象の経済統計としては「事業所・企業統計調査」「商業統計調査」「サービス業基本調査」があったが似たような調査が3つもあるのは手間なので1つにまとめたということらしい。またこれらの3つの調査は調査時期が違うので単純比較できないというのも1つにまとめた理由である。


■「携帯電話の国際ローミング・トラブル」(高野喜史)
(内容要約)
 国際ローミングというのは携帯電話が海外でも使えるようにするサービスのこと。このサービスについて最近、高額の使用料を請求された、納得がいかないと言うトラブルが増えている。トラブルの最大の原因は国際ローミング料金の高止まりにあると思われる。国際ローミング料金引き下げのための手を業界ないし、政府によって打つ必要があるのではないか。


■研究余話12「次世代教育・ドイツと日本」
(内容要約)
 次世代に対する教育といってもここでもっぱら論じられているのは「ドイツを見習い歴史捏造主義(南京事件否定論慰安婦違法性否定論など)を野放しにせず加害の歴史を教育しよう」と言うお話。

*1:著書『脱貧困の社会保障』(2012年、旬報社

*2:著書『日本の構造「改革」とTPP:ワシントン発の経済「改革」』(2011年、新日本出版社

*3:著書『年金不安50問50答』(2003年、大月書店)

*4:著書『ユニバーサルデザインのちから』(2010年、生産性出版)

*5:著書『貧困の現場』(2008年、毎日新聞社

*6:著書『母さんが死んだ』(1994年、社会評論社現代教養文庫)、『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』(2007年、日テレノンフィクション)

*7:著書『現代の新聞』(1990年、岩波新書

*8:著書『終戦ラストゲーム:戦時下のプロ野球を追って』(2005年、本の泉社)