新刊紹介:「歴史評論」12月号

特集『2012年 歴史学の焦点』
詳しくは歴史科学協議会のホームページをご覧ください。興味のある部分だけ紹介する。
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/
 
■「東アジア世界論の現状と展望」(広瀬憲雄*1
(内容要約)
 西島定生の提唱した「東アジア世界論(冊封体制論)」への批判と筆者が現在、提唱する「東部ユーラシア世界論」の説明。「東部ユーラシア世界論」というのは単に地域を広げたのではないという話。
 筆者曰く西島説には以下の問題点がある。それを克服する試みが筆者にとっての「東部ユーラシア世界論」である。
1)西島説では中国王朝に匹敵する北方、西方の諸勢力の存在が除外されている
2)西島説は中国王朝の力が強い隋、唐前半期を中心に分析しているが、力が弱まった北宋南宋なども分析できる枠組みが必要(金と南宋の関係は一貫して金が上位であった)
3)西島説では先進地域(中国)から周辺地域という流れを重視するが結果、周辺諸国の主体性が軽視される傾向がある。


■「近現代天皇研究の現在」(河西秀哉*2
(内容要約)
 正直、河西論文はわけがわからなかった。ビックス(昭和天皇に厳しすぎる?)と伊藤之雄昭和天皇に甘すぎる?)に好意的でないことぐらいしかわからん。
 なお、河西いわく「私の力量と紙幅の関係」からもっぱら取り上げられている「近現代の天皇」は昭和天皇である。明治天皇大正天皇にも簡単に触れられているが。
 訳がわからないので、河西が紹介した諸著作の名称だけあげる。なお、河西はユニークな視点の著作として右田裕規天皇制と進化論』(2009年、青弓社)をあげている。小生も以前、本屋で斜め読みして「右田見解の是非はともかく、面白い視点だ」とは思った(本格的には読んでいない)。右田は「本来矛盾するはずの『進化論と天皇神話』をどう戦前日本はどう両立させようとしたのか」と言う視点で天皇制を分析しようとしている。


明治天皇
飛鳥井雅道「明治大帝」(1989年、筑摩書房
伊藤之雄明治天皇」(2006年、ミネルヴァ日本評伝選


大正天皇
原武史大正天皇」(2000年、朝日選書)
古川隆久大正天皇」(2007年、吉川弘文館人物叢書
ディッキンソン「大正天皇」(2011年、ミネルヴァ日本評伝選


昭和天皇
吉田裕「昭和天皇終戦史」(1992年、岩波新書
升味準之輔昭和天皇とその時代」(1999年、山川出版社
ビックス「昭和天皇(上)(下)」(2002年、講談社
山田朗昭和天皇の軍事指導と戦略」(2002年、校倉書房
後藤致人「昭和天皇と近現代日本」(2003年、吉川弘文館
永井和「青年君主昭和天皇と元老西園寺」(2003年、京都大学学術出版会)
伊藤之雄昭和天皇立憲君主制の崩壊」(2005年、名古屋大学出版会)、「昭和天皇伝」(2011年、文藝春秋社)
原武史昭和天皇」(2008年、岩波新書
茶谷誠一昭和天皇側近たちの戦争」(2010年、吉川弘文館)、「宮中から見る日本近代史」(2012年、ちくま新書
富永望「象徴天皇制の定着と形成」(2010年、思文閣出版
加藤陽子昭和天皇と戦争の世紀」(2011年、講談社
鈴木多聞「『終戦』の政治史」(2011年、東京大学出版会
高橋紘*3「人間昭和天皇(上)(下)」(2011年、講談社
古川隆久昭和天皇」(2011年、中公新書



■「高度成長期研究の現状と展望」(荒川章二*4
(内容要約)
・なお筆者は高度成長期を「1955年から1973年の石油ショック期まで」としている。
・うまく内容要約できそうにないので著者と同様に高度成長期を扱った最近の著作として大門正克編「高度成長の時代(1)、(2)、(3)」(2010〜2011年、大月書店)、大門正克編「新生活運動と日本の戦後:敗戦から1970年代」(2012年、日本経済評論社)を紹介しておく。
 筆者・荒川が「沖縄問題」「在日朝鮮・韓国人問題」を重要視していることくらいはわかった。そうした問題についての近刊として、荒川は以下の物をあげている。

【沖縄問題】
吉次公介「日米同盟はいかに作られたか」(2011年、講談社
林博史「米軍基地の歴史」(2012年、吉川弘文館
櫻澤誠「沖縄の復帰運動と保革対立」(2012年、有志舎)


【在日朝鮮・韓国人問題】
李鐘元ほか編「歴史としての日韓国交正常化(1)、(2)」(2011年、法政大学出版会)



■文化の窓「ソウルで考えたこと5:ソウルに住んでいる日本人」(君島和彦*5
(内容要約)
 ソウルジャパンクラブ(ソウルの日本人会)主催の「歴史セミナー」で筆者が講師を務めたという話。もちろん「韓国の近現代史=日本の侵略オンリー」ではないが、「日本の侵略」は「重要な事実」だから、それに触れないわけにも当然いかない(触れるのを完全に避けたらその方が不自然だ)。
 で、そういうことをしても在韓日本人の誰も怒ったりしないという話。まあ当たり前だが。韓国近現代史を学びに来て「日本植民地支配とかの日本人にとって気持ちのいいとはいえない負の歴史が全く出てこない」講義が行われると思う方がバカだし、日常生活だって「そういうことを完全スルーできること」等おそらくないのだろうから。新聞、テレビなどでもそういう日本批判報道はあるだろう。要するに筆者が何が言いたいかといえば「無反省なウヨってる日本人」「韓国を敵に回してやってけると思う時代錯誤な日本人」がいることは事実だがそうでない日本人もいる、日韓関係を楽観視するのも問題だが、悲観視しすぎるのも問題という事を言いたかったという話。


■編集後記(大橋幸泰)
後記を一部引用。

編集長の任期を終えるにあたり、私の一押しの映画のセリフで(中略)締めくくらせて下さい。
(中略)
主人公の少年と(中略)その両親に向かって(中略)秘密結社のKは次のようにいいます。
「おまえたちが本気で21世紀を生きたいなら行動しろ、未来を手に入れてみせろ」
その後、未来を取り戻そうと行動した主人公の活躍は涙なくしてみられません。

なんだその作品?、俺最近映画見てないからわからないな(いや昔からあまり見てないが)、と思い安直だがKのセリフでググってみる。
結論
「私の一押しの映画」=「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」
「秘密結社のK=イエスタディ・ワンスモアのリーダー・ケン(津嘉山正種)」

*1:著書『東アジアの国際秩序と古代日本』(2011年、吉川弘文館

*2:著書『 「象徴天皇」の戦後史』(2010年、講談社選書メチエ

*3:共同通信の皇室担当記者出身という「皇室に半ば身内意識があるであろう」高橋の著作が歴史書として評価できるのか疑問に思うが

*4:著書『豊かさへの渇望(全集日本の歴史16)』(2009年、小学館

*5:著書『教科書の思想:日本と韓国の近現代史』(1996年、すずさわ書店)、『日韓歴史教科書の軌跡―歴史の共通認識を求めて』(2009年、すずさわ書店)