大島渚『悦楽』(ネタバレあり)

今回はid:Bill_McCrearyさんの『1965年の加賀まりこ』(http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/56b6ee3b24d93538c55d237ad67eb6ff)で紹介されている映画『悦楽』について触れてみましょう。
 しかし『棺の中の悦楽』を『悦楽』と短縮してしまったのはどうなんですかね?。映画タイトルだけ見ればエロ映画のようですが、ポイントは『棺の中』ですよね。『棺の中』とあることによって『ああ、普通の悦楽じゃないんだ』と見る側もわかるわけです。
 なお、小生、既に『1965年の加賀まりこ』(http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/56b6ee3b24d93538c55d237ad67eb6ff)コメント欄で

大島渚、悦楽」「棺の中の悦楽」でググったんですが、ヒットしたサイトを見る限り、なんか暗そうな話ですね。しかし山田風太郎作品というと暗いイメージしかないなあ。


>原作と大島の相性の悪さも感じます。


「大島=暗い話*1」 「山田=暗い話」、ぴったりじゃないか!と言う気もしますが、性格が違うんですかね。

と書いています。
 『山田=暗い話』というのは例えば「大島渚、悦楽」「棺の中の悦楽」でググって見つけた次のエントリを読んでいただければわかるんじゃないかと思います。


山田風太郎ミステリー傑作選(悽愴篇):棺の中の悦楽』
http://d.hatena.ne.jp/uruya/20120308/p1

 まあ、ミステリーというのは『悽愴篇』なんて銘打たなくても、『犯罪事件(たいていの場合、殺人事件)が起こるのが*2ミステリー』なんだから悽愴なのは当然です。悽愴じゃない殺人というのは普通ない。
 普通『松本清張ミステリー傑作選(悽愴篇)』とか言う本はない。わざわざ悽愴篇と銘打つ当たり、しかも悽愴篇のタイトルになるあたり相当暗い話なのかという気がします。
 さてさて。他にもいくつか「俺的に」面白いエントリを見てみましょう。

http://to4roh.nobody.jp/who0304.htm
「棺の中の悦楽」
 大島渚監督により映画化されているが、監督は作者から「あなたには私の作品は向いていないです」との手紙を貰ったらしい。

「らしい」ってのは何が根拠なんですかね。山田が「手紙を送った」と本にでも書いたのか、大島が「手紙をもらった」と本にでも書いたのか。
しかし事実だとしたら山田風太郎って人もすごいなあ。よほど「俺の作品イメージと違う」と思ったんでしょうかね。山田風太郎的にはどんな監督がお望みなのか?。大島による映像化のどこが気に入らなかったのか?

http://plaza.rakuten.co.jp/KarolKarol/diary/200709050000/
『悦楽』大島渚監督(日本1965)

このエントリは完全に落ちをネタバレしていますので念のため断っておきます。

 貧乏学生の脇坂*3は家庭教師をしている金持ちの娘匠子(加賀まりこ)を秘かに深く愛するようになっていた。匠子も屈託なく天真爛漫な様子で脇坂になついていた。匠子はもう忘れているらしいが、小学生の頃男に暴行され、両親(成瀬昌彦、氏家慎子)は今もその男に強請られていた。両親にその男へ金を届けることを頼まれ、匠子を愛する脇坂は金を届けた後その男(小林昭二*4)を尾行し、列車のデッキから突き落として殺害した。今は安サラリーマンの脇坂のボロアパートにある夜速水という農産省事務官が訪れる(小沢昭一*5)。速水は脇坂の殺人現場を見ていたと言う。速水は横領した公金9800万円のうちの3000万円*6の入ったトランクを脇坂に無理矢理預け、たぶん5年ぐらいになるだろう刑期を終えて出所してくるまでその3000万円を預かって欲しいと言う。金に手を出したら殺人を目撃したことを警察に話すと言うのだ。しかしそれから4年後「匠子の花嫁姿をぜひ見て下さい」と結婚披露宴の招待状が届き、匠子は有名化粧品会社社長と結婚してしまった。脇坂は3000万円を1年間で派手に使ってしまい、あとは自殺をしようと考えた。そして次々と4人の女*7を月100万円で買う脇坂の生活が始まるのだが・・・。

で落ち。

 匠子が訪ねてきた。この1年の間に女連れの羽振りの良い脇坂を何度か見かけたと彼女は言い、夫の会社が倒産寸前でお金を貸して欲しいと言うのだ。そのためなら脇坂に何でもすると言う。脇坂は殺人を目撃された弱味に付け込まれて3000万円を無理矢理預けられ、それをこの1年間ですべて使ってしまったことを話すが、自分の役に立たないと知って匠子は脇坂を非難して去っていく。それでも脇坂は殺人の理由を匠子に話しはしなかった。すべてを失い、毒のカプセルを手に呆然とさまよう脇坂に警官が迫る。殺人容疑で逮捕するという。カプセルを口に入れて密告者を警官に問うと、答えは匠子だった*8。毒薬を吐き出した脇坂は警官に連行されていく。

あまり落ちが悽愴に思えないんですが小説と映画だと落ちが違うんですかね。それとも「あこがれていた匠子」が「金の亡者であること」が脇坂的に悽愴なのか?。このエントリ筆者はあっさり書いてますが小説や映画だと「匠子のいやらしさ」がうんざりするほど強調されるんでしょうか?。ま、脇坂にとって清純派イメージだったろう匠子(加賀まりこ)がいきなり「金をよこせ」「金のためなら何でもするから(まあ、エロ方面で何でもするんでしょうね)」と登場したら確かに脇坂の立場だと萎えるかもしれない。
 当時の加賀ファンもびっくりでしょう。落ちは「今の加賀まりこのイメージ」にはぴったりかもしれない(笑)。
 でも悪いけど「悽愴篇」のタイトルになるほど悽愴とも思えない。匠子が脇坂を罵倒して去った段階で密告は十分予想可能ですしね。

自分の役に立たないと知って匠子は脇坂を非難して去っていく

人の金を何だと思ってるんですかね。大体、脇坂が羽振りがいいなんておかしな話で普通「やばいことをして得た金では?」と思うところでしょうに。

*1:id:Bill_McCrearyさんも以前『大島映画にはハッピーエンドはないんじゃないか』と書いています

*2:アニメになった米澤穂信氷菓」など「犯罪の起こらないミステリー」という一部例外はありますが

*3:中村賀津雄

*4:俺的には仮面ライダーおやっさんのイメージが強い

*5:俺的には『小沢昭一の小沢昭一的こころ』のイメージが強い

*6:当時の3000万だから貨幣価値変動を考えると今のいくらなんでしょうかね?

*7:野川由美子八木昌子、樋口年子、清水宏

*8:ミステリーだからこうなるんでしょうが実際には『出所後の報復防止』のために言わない気もしますね