新刊紹介:「経済」6月号

「経済」6月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■巻頭言「TPPと『攻めの農業』」
(内容要約)
 具体的策も示さずに、口先だけで「攻めの農業」と言っても説得力がないという安倍批判です。


■世界と日本
「中国の所得分配制度改革」(平井潤一)
(内容要約)
 中国も「所得格差」の問題を理解しており、その是正を打ち出していると言うことです。もちろん「スローガンとして打ち出す」のと「それを具体的政策にして実行し成果を上げる」のには隔たりがあります。「格差是正をやる気がある」と口先で言うからと言って本気でやる気があるかどうかはわかりませんし、「本気だ」としてもこういうものは「やる気があれば成功する」という精神論でどうにかなるもんでもありません。
 しかし中国政府は「自分はうなるほどの金を手にしながら」、「世界統一賃金」「年収100万円も当然」などという寝言を抜かす「日本を代表するブラック企業ユニクロの創業者」と「彼を野放しにする日本社会」ほどキチガイではないと言うことです。まあ、中国がまともというよりも日本が異常すぎるだけですが。


■巻頭座談会「アベノミクス批判:日本経済の再生を論じる」(岡田知弘*1、鳥畑与一*2、藤田実、増田正人、米田貢*3
(内容要約)
アベノミクスについては安倍サイドがその内容を1)大規模な金融緩和、2)大規模な公共事業の実施、3)規制緩和による新規産業の育成、4)最近ではそれプラスTPPも経済振興策としてあげられる、と説明していますので、この座談会においても、そうした理解で安倍批判が行われます。
・まず、座談会ではアベノミクスは1)大規模な金融緩和を除けば、全く新しくも何ともないことが指摘されます。『2)大規模な公共事業の実施』は小渕、森内閣に実施したが「思ったほどの成果がない」としてポスト森である小泉、安倍政権が否定した政策です。
3)規制緩和による新規産業の育成も小泉時代から自民党が言ってきたこと(しかし実現できなかったこと)です。なお、安倍はこの規制緩和に「解雇規制の緩和」「ホワエグ導入」などの「ブラック企業育成政策」「労働者いじめ政策」を平然と持ち出していることに注意が必要です。
 座談会でも「労働者の賃金下落を助長する政策を打ち出すとは何のための景気回復なのか?。企業の業績さえ上がればそれでいいのか?」「労働者が安心して働けないような社会では内需が縮小し、景気回復にも反する」と批判されます。
4)TPPの最初の言い出しっぺは民主党政権ですし、安倍政権が「TPP」を経済成長戦略として言い出すのはわりと最近です。「公約違反ではないか」という批判に対して泥縄的に持ち出した言い逃れと見るべきでしょう(TPPについてはもちろん様々な批判がありますがアベノミクスの本筋ではないように思いますし、TPPにまで触れる力量が小生にないのでTPP批判は省略します。)。
 また「新しい政策」である1)大規模な金融緩和も「新しい」のは「過去に例を見ない大規模緩和」というところだけで「金融緩和それ自体」は以前からしています。
 以前から「金融緩和(金利引き下げや日銀の国債購入)」はしてきたのですが、あまり効果がなかった。これをアベノミクス支持派(日本型リフレ派*4)は「緩和が足りない」とするわけですが、安倍批判派は「足りないとする根拠がない。無茶苦茶な緩和はかえってダメージでないか」と批判するわけです。
・なお、「アベノミクスは新しいんだ」と宣伝したいが為に、安倍の宣伝ももっぱら1)大規模金融緩和、に集中しますし、批判派もそれに対応して1)に批判を集中させる傾向があるように思います。
・「1)大規模金融緩和」の成功の証として安倍サイドは「株価高と円安」を宣伝するわけです。しかしそういえるかどうかは疑問と批判派は批判します。
その理由は座談会が指摘するものとしては以下の通りです。他にもいろいろな批判が考えられるんじゃないかなと思います。
A)株価や円相場はかなり、「投機的な要素」で決定する物です。「株価や円相場」が「アベノミクスによる経済好転」で「株価高や円安の方向に行った」と見る根拠は今のところありません。
B)円安は「輸出企業にとってはメリット」ですが「輸入企業にとってはダメージ」です。そして輸入企業にとってのダメージ緩和策が今のところアベノミクスには明白な形ではありません。
C)日本が円高だったのは「なんだかんだ言っても日本が一番、景気がいい(アメリカやEUに比べて)」と言う要素が大きい。でその要素はアベノミクスでどうにかできるわけがないし、実際、アベノミクス以前と以後でその点に違いはないわけです。円安がいつまで続くかはかなり疑問です。
D)株価高が米国で重要視されるのは「米国では株を資産保有する人が多い」から株価高が「消費者の所得をアップさせる→消費意欲があがる」という構造があるからです。日本では株を資産保有する人は米国に比べ少ないので株価高それ自体が消費をアップさせるという構造にありません。もちろん「株を資産保有しない日本人が悪い」というのはおかしいでしょうし、アベノミクスは別に「日本人の株式保有を大規模に推進する方策」が組み込まれているわけでもありません(なお、この不況時、よほど手元に金がある人間でない限り、「虎の子の資産」を資産がパーになる恐れのある株式に投入したいとは思わないでしょう)
 むしろ「日本の資産保有は預貯金が多い」事を考えると大規模な金融緩和はかえって「利子が付かないから消費を減らす」という逆の効果さえ考えられます。


特集「南アジアと日本:インドを中心に(上)」
■「南アジア地域協力連合:その理念と実践」(中村平治*5
(内容要約)
「おはようニュース問答」調で書いてみる(参考:紙屋研究所『「赤旗」の「おはようニュース問答」にこらえ切れない笑い』(http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/ohayou-news-mondou.html))。
太郎「経済の今月号と来月号で『インドを中心に』南アジアのことについて解説していくんだ」
次郎「どうして?」
太郎「インドはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一角として注目を集めてるからね。それに最近麻生財務相がインド万歳って言ってるじゃないか。ああいうインド万歳論にはあまりにも問題があると思うのでこの際、『まともなインド知識を日本に広めよう』『インドの周辺諸国についても説明しよう』ということだよ。まずは南アジア地域協力連合(SAARC(サールク))について説明しよう」
次郎「何なの、それ?」
太郎「インド、パキスタンバングラデシュスリランカブータン、ネパール、モルジブアフガニスタンの8カ国からなる地域共同体なんだ。中国、韓国、日本、米国、EUなどもオブザーバー国として参加している」
次郎「最近出来たの?」
太郎「設立自体は1985年で結構歴史があるんだ。ただインドとパキスタン対立もあってなかなか思うような経済的成果が上がらなかったんだ。最近、2004年に南アジア自由通商協定(SAFTA(サフタ)が締結されてからは貿易額も増えているんだ。また2010年には南アジア大学(SAU:サウ)という大学がニューデリーに設立された」


■「インド経済の現状:経済自由化から現在まで」(絵所秀紀*6
(内容要約)
太郎「インド経済は1991年から外資規制の撤廃や、関税引き下げと言った経済自由化によって高度成長を達成しているんだ」
次郎「いいことずくめじゃないか」
太郎「いやそうは言えないよ、いろいろと問題がある。まず第一に雇用はあまり増えていない。第二に格差問題がある。貧乏人と富裕者の格差、貧乏な州と豊かな州の格差は明らかに拡大している。こうした問題点が解決されなければどれほど成長に意味があるかは疑問だし、格差問題は『貧乏人、貧乏州がどんどん貧乏になればインド人の消費意欲に水を差す』と言う意味で成長のブレーキになるかもしれないんだ。」


■「インドの人口・人材と発展」(木曽順子*7
(内容要約)
太郎「インドは1991年には8億5000万人程度の人口だったのに、今や12億人の人口にまで人口が増えているんだ」
次郎「人口の増加は『労働力の確保』『消費者の確保』と言う意味で経済成長にはプラスだね」
太郎「残念ながら話はそう単純じゃない。昔に比べれば状況は改善されているが、あるデータに寄れば2011年現在でインドの農村女性の識字率は58%程度なんだ。識字率が100%に近い日本では信じられないことだが未だに文字が読めない人がインドには沢山いると言うことだね。インドは経済先進国に比べると教育の面で劣っていると言わざるを得ない。人口が多くても教育レベルが低いのでは経済成長の上ではむしろマイナスになる危険性が大きいんだ。教育の充実が急務と言えるね」


■「北インド農村の生活とジェンダー」(八木祐子)
(内容要約)
次郎「ジェンダーって何?」
太郎「厳密さを無視して平たく言うと『社会における男性、女性のあり方』だね。北インド農村での伝統的なジェンダーはこの八木論文によれば『嫁が直接舅に口をきくのは無礼だ』など、『昔の日本みたいな男尊女卑』の傾向があるようだ。」
次郎「でも、インドも近代化しているしそんなのは時代遅れになってるんじゃないの?」
太郎「その通り。八木論文も伝統的ジェンダーは『女性の高学歴化や社会進出』などで変化していると言っている」


■「パキスタンにおける国家建設の軌跡」(濱口恒夫)
(内容要約)
次郎「パキスタンって言うと軍事政権の国ってイメージがあるなあ」
太郎「そのイメージは残念ながら間違っていない。パキスタンの歴史を簡単に見てみよう(ウィキペディアパキスタン」参照)。
 1947年に誕生したパキスタンは1958年にアイユーブ・カーン陸軍総司令官の軍事クーデターによって軍の独裁体制になる。この軍独裁体制は1971年の印パ紛争でのパキスタン敗北、東パキスタン(今のバングラデシュ)の分離独立によって崩壊する。国民の領土ナショナリズムによる軍批判が軍政を崩壊させたわけだ。」
次郎「それで民政に移管するわけだね」
太郎「パキスタン人民党党首のズルフィカール・アリー・ブットが1971〜1973年まで大統領を、1973〜1977年まで首相をつとめた。しかし1977年にジアウル・ハク陸軍参謀長によるクーデターが起こるんだ。ブット政権末期にはブット批判派の一人・アフマド・ラザー・カスーリー暗殺未遂事件が起きる。ブットの犯行ではと、野党のブット批判が高まる中、ハクはクーデターを実行、自らが大統領に就任する。そしてブットを『カス―リー暗殺未遂事件の黒幕』として処刑するんだ」
次郎「それでハクはどうなるんだい」
太郎「1988年に飛行機墜落事故でハクは死亡する。ソ連東欧の民主化の影響もあってブット元首相の娘ベナジル・ブットが人民党を率いて躍進、首相に就任する。しかし軍の影響力がなくなったわけではなかった」
次郎「というと?」
太郎「ブットは1988年に首相に就任するが軍の圧力を受けた大統領によって1990年に解任。1993年に第二次ブット内閣が成立するがこのときも1996年に軍の圧力をうけた大統領によって解任されてるんだ。とはいえこの時点では『軍の影響力が強いが一応民主主義』だった。1999年にまた完全な軍政に戻ってしまうんだ」
次郎「ムシャラフ陸軍参謀長(後に大統領)によるクーデターだね」
太郎「ああ。しかしムシャラフに否定的な議会、最高裁ムシャラフとの全面対決の道を行き、結局ムシャラフは亡命を余儀なくされる。過去の軍政と違いムシャラフの軍政が短期間で終わったことはパキスタンの民主主義が力を強めているということだろうね。なお、パキスタンでアイユーブ・カーンやジアウル・ハクの軍政が長期間続いた理由の一つとしては米国がパキスタン軍事独裁を黙認したことが上げられる。印パ紛争時代は、インドがソ連に近づいたのに対し、パキスタンは米国に近づいた。またソ連のアフガン侵攻時には、パキスタンは反ソ連イスラムゲリラや米軍のために前線基地を提供したんだ。タリバンの生みの親はパキスタンと言われるのも『反ソ連イスラムゲリラを国内で育成した』と言う過去があるからなんだ」


■「バングラデシュ・ブーム:日本が魅かれる事情」(村山真弓*8
次郎「バングラデシュは昔はパキスタンの一部だったと思うけどどうして独立したの?」
太郎「バングラデシュは昔は東パキスタンと言っていた。今のパキスタンが西パキスタンだね。東パキスタンは次第に西パキスタンに不満を高めていくんだ。たとえば東パキスタンの最大民族はベンガル族で使われている言葉はベンガル語だ。一方、西パキスタンの最大民族はウルドゥー族でウルドゥー語だ。最終的には東パキスタンの猛反対でベンガル語公用語になったが、当初西パキスタンベンガル語だけを公用語にしようとしていたんだ」
次郎「そうした不満が積もり積もって1971年の分離独立になるわけだね。ちなみに村山論文タイトルのバングラデシュブームってのは何だろう?。韓流ブームみたいにバングラデシュドラマが日本ではやってるなんて話は聞いたことがないけど」
太郎「村山氏の言ってるブームというのは2つに分けられる。1つは日本企業の進出だね。」
次郎「へえ。でもそんなの南アジア全体がそうで、バングラデシュに限らない気がするけどね。もう一つは?」
太郎「ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行バングラデシュの銀行なんだ。」
次郎「グラミン銀行の創設者の邦訳本が出てることは知ってるけどブームって言う程かなあ?」
太郎「最後に今の日本にもつながる問題じゃないかと思う面白い最近のバングラデシュの問題を紹介したいと思うんだ。」
次郎「何だい?」
太郎「バングラデシュ独立時にパキスタンバングラデシュ独立を阻むために、バングラデシュ内の独立反対派を支援して、反対派に独立派の暗殺をやらせてるんだ。被害者からは『暗殺の下手人である独立反対派を裁くよう』何度も政府に要請がされていたが、今までは無視されていたんだ」
次郎「どうして?」
太郎「第一に、それをやるとパキスタンとの関係が悪化しかねない。第二に暗殺犯一派はバングラデシュにおいて今でも無視できない政治力を持っていると言うことだね。従来、バングラデシュ政府は『暗殺犯一派の政治力を恐れて』彼らを追及して敵に回すより懐柔する路線を取ってきたんだ」
次郎「しかし被害者の声に押されてついに裁判を開始するに至ったと言うことだね」
太郎「まあ、そういうことだ。よくネトウヨは『中韓は日本のやった昔のことで騒ぎすぎ』なんて言うけれど、このバングラデシュの裁判話一つ見るだけでもそういう物言いがきわめて問題の多いものであるとわかると思うんだ。ただもちろん、『暗殺犯一派』は裁判には猛反発している。今後の状況がどうなるかまだわからないんだ」

参考
産経新聞『「戦犯」に死刑判決 バングラデシュ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130121/asi13012121150002-n1.htm


■「スリランカの現状と課題」(足羽與志子)
(内容要約)
次郎「スリランカって言うと多数派タミル族と少数派シンハラ族の民族対立とか内戦ってイメージがあるな。」
太郎「武装組織タミルイーラム解放のトラ(LTTE)は政府の軍事攻撃で崩壊し、内戦は終結したがその傷跡は今も大きいんだ。民族対立が平和的に解決したわけではない事には注意が必要だ。今も民族問題はスリランカの重大な問題なんだ」


■「ネパールの政治・経済事情」(伊藤ゆき)
(内容要約)
太郎「ネパールって言うとどんなイメージがあるだろう?」
次郎「ヒマラヤ観光。最近まで王国だったけど、王政が廃止された。あとどんな政治勢力だか知らんけどネパール共産党毛沢東派(マオイスト)を名乗る政治勢力が存在するね。今時マオイスト名乗ってる政治勢力が連立政権とは言え政権与党ってのも珍しい。まあ、そんなところかな」
太郎「ネパール経済の特徴としては『外部依存型経済』と言うことが上げられるね。経済活動のかなりの部分が『海外への出稼ぎ労働』と『海外からのODA』なんだ。実は発展途上国ではそういう国は珍しくないけどそれでは国の近代化が阻害される。とはいえ無茶苦茶な近代化で自然を破壊してはネパールの重要産業である観光に響く。どうやって近代化を進めていくかが大きな課題だね。」


■「モルディブ:幻の「楽園のクーデタ」」(濱口恒夫)
(内容)
「おはようニュース問答」式に書くのが難しいのでこれは普通に書きます。
 モルジブの何が「楽園」かと言えば「観光地として楽園」ってことですね。1970年代の主産業は漁業だったそうですが今は観光が主産業。
 行ったことがないのでよく知りませんが、海で泳いだり、ダイビングしたりするんでしょう。日本人観光客にとっては「南国リゾート」と言う意味ではサイパンだのハワイだのニュージーランドだのと扱いは似たようなもんでしょう。
 もちろんモルジブに限らず「観光地として旅行客に楽園」ってのは「その住民にとって楽園」って事を意味しません。当たり前ですけど。
 では「幻のクーデター」って何なのか?。それではウィキペ「モハメド・ナシード」を見てみましょう。

ウィキペ「モハメド・ナシード」
 モルディブの政治家。初めて民主的に選出された大統領である(第二共和政第3代大統領:2008-2012年)。モルディブ民主党の創設者。
 長期独裁政権を築いたアブドル・ガユーム大統領に2008年の大統領選挙で勝利した。
 2012年1月に刑事裁判所判事のアブドラ・モハメドが職権乱用などを行ったとして逮捕を命じたことにより野党が大統領辞任を要求。反政府デモが勃発し、これに警察当局が参加したことを受け国内は混乱が極まり、2012年2月7日に大統領辞任を表明。副大統領のワヒード・ハサンが大統領に昇格した。2月8日には「兵士たちから銃を突きつけられ、辞任を迫られた」と述べ、クーデターであったことを示唆。

「幻のクーデター」となるのはワヒード・ハサン側がクーデターだと認めないし、国際社会もそれを容認してるからです。どう見ても怪しいですけどね。誰しも考えるのは「75歳と高齢ながら未だ健在」の「アブドル・ガユーム」がナシード失脚劇の黒幕の一人ではないかと言うことですがこういうのは証拠がないとなあ。なお、今年の9月に大統領選挙があるそうです。どうなることやら。
せっかくだから初代大統領「イブラヒム・ナシル」、二代大統領「アブドル・ガユーム」も見てみましょう。

ウィキペ「イブラヒム・ナシル」
 モルディブの政治家で第二共和政初代大統領(1968〜1978年)。
 モルディブは1965年にイギリスから独立したが、当時のモルディブはスルタンであるムハンマド・ファリド・ディディを頂点とする君主国(モルディブ・スルターン国)であった。ナシルはスルタンのもとで首相を務めたが、国民投票により、1968年11月11日にモルディブは共和制に移行。ナシルは初代大統領に就任した。
 ナシル政権下、モルディブの近代化が進んだ。島国の閉鎖的な社会を、観光を中心とする開かれた社会へと変貌させ、経済的な成長も概ね良好に達成された。また、モルディブに英語を基礎とした近代教育や、テレビ・ラジオを普及させたのもナシル政権である。だが一方、政治的には大統領による権威主義体制が敷かれ、政権への反対意見は容赦なく抹殺された。この体制は、1978年11月11日よりナシルに代わり政権を担当することとなったアブドル・ガユーム大統領の政権下でも続いた。
 政権移譲後の1980年、ガユーム政権に対し反乱を企てるも、失敗に終わっている。
 政権移譲後はシンガポールに在住し、同国国民として生活していたが、2008年11月に現地で死去した。この時、首都マレの共和国広場には半旗が掲げられた。

ウィキペ「アブドル・ガユーム」
 モルディブ第二共和政第2代大統領(1978〜2008年)。1972年に海運局長、1974年に首相府特別補佐官、1976年に国連の常駐代表、1977年に運輸相を経て、1978年大統領選で当選。ガユームが長期政権を維持し続けたのは、モルディブでは議会が大統領選挙の候補者を選出し、国民が信任投票を行う形をとっており、しかも議会が与党の独占状態だったからである。このため民主主義に反すると欧米を中心に非難され、2003年の大統領選挙直後から国内でもモハメド・ナシードが創設したモルディブ民主党が中核となった民主化運動が起こり、圧力に抗しきれなくなったガユームは複数政党制を容認するに至った。
 2008年10月29日、ガユームは大統領選挙でナシードに破れ、30年にも及ぶ政権は終焉を迎えた。


■「ブータン:国民総幸福最大化の実験国家」(濱口恒夫)
(内容要約)
次郎「ブータンは国民幸福最大化云々と自称しているね」
太郎「ああ、だが濱口氏はそれは手前味噌だと批判しているんだ」
次郎「どういうことだい?」
太郎「国連開発計画(UNDP)が『平均寿命』『就学年数』『1人当たり国民所得』から算出した人間開発計画(HDI)という指数がある。当然、この指数が高いと言うことは『平均寿命が長くて』、『就学年数も長くて』『1人国民当たり所得も多い』ってことになる。まあ、HDIが高ければ高いほど経済的な意味では幸せだと言っていいだろうね。」
次郎「なるほど、君の言いたいことがわかったよ。ブータンHDIが低いんだね。」
太郎「ああ。2010年のHDIは世界平均が0.679なのに対してブータンは0.518と平均を下回ってるんだ。僕は『貧しくても、寿命が短命でも、幸せだと思ってれば幸せ』というのは全然違うと思うんだ。ましてや『ブータン政府がそれを言う』ってのはブータン政府が貧乏国家であることを居直ってるだけだと僕は思うんだ!」
次郎「君も言うなあ。」



■誌上シンポジウム「東京の社会保障:現場の実態と課題」(高橋光幸*9、高橋貴志子、白神薫、河添誠*10、前沢淑子)
(内容要約)
 ポスト石原の「猪瀬都政」になっても続く、社会保障の軽視の実態を簡単に説明したうえで、「次長課長の河本バッシング」に見られるように日本では異常な福祉バッシングが支持される「異常な社会状況にある」がくじけずに、闘っていこうではないかと言う話です。
 正直、今の日本人ほど「同胞に冷たい鬼畜のような国民」ってのは古今東西珍しいんじゃないですかね。


■「韓国のグローバル志向輸出主導型成長モデル:日本は「韓国モデル」に学ぶべきか」(佐野孝治)
(内容要約)
「学ぶべきか」というのはもちろん反語であり、「いや、学ぶべきではない」という落ちの訳だがでは何故学ぶべきではないのか。
問題点1)貿易依存度の高さ
 韓国経済の貿易依存度は高く、これは韓国政府ではコントロールしがたい為替レートや原油価格の変動がもろに直撃する経済構造だと言える。
問題点2)雇用回復、賃金上昇なき景気回復、そして格差の拡大。OECD加盟国ワースト1位の自殺率
 韓国経済は確かに好調だが問題はそれが「大企業の業績」にとどまっており、「失業率の低下」「賃金の上昇」に結びついていないことである。そして「ジニ係数が上昇」、つまり「格差が拡大」している。格差拡大だけが理由ではないだろうが韓国の自殺率はOECD加盟国中ワースト1位である。李明博批判が現在強まってる理由の一つはこの格差問題であり、やる意思、能力があるかどうかはともかく、朴クネも「思いやりのある資本主義」等の社民主義・福祉主義的スローガンを出さざるを得なかったわけだ。
問題点3)特定企業の政治力が強すぎる
 たとえばサムスン財閥と政府との癒着問題である。これについては
スーパーゲームズワークショップエンタテイメント
『孫忠武って死んでたんだ』
http://sgwse.dou-jin.com/Date/20110218/
三星問題 転向記者は死んだが、転向検事は生きている その1』
http://sgwse.dou-jin.com/Date/20110221/
を紹介しておく。 

*1:著書『道州制で日本の未来はひらけるか:民主党政権下の地域再生地方自治(増補版)』(2010年、自治体研究社)、『震災からの地域再生:人間の復興か惨事便乗型「構造改革」か』(2012年、新日本出版社

*2:著書『略奪的金融の暴走:金融版新自由主義がもたらしたもの』(2009年、学習の友社)

*3:著書『現代日本金融危機管理体制』(2007年、中央大学出版部)

*4:リフレ派でもクルーグマンのようなまともなリフレ派は「安倍が中韓と敵対して輸出にブレーキをかけるまねをしてること」「景気を良くするとしながら、そうして生まれた利益を国民に還元する策がないこと。それどころか『ホワエグ導入』などで賃金下落傾向を助長しようとしていること」を批判しているそうですが日本のリフレ派は単なる安倍万歳のバカが多いので「日本型」と一部(濱口桂一郎氏など)から呼ばれるわけです

*5:著書『インド史への招待』(1997年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー)

*6:著書『開発経済学とインド:独立後インドの経済思想』(2002年、日本評論社)、『離陸したインド経済:開発の軌跡と展望』(2008年、ミネルヴァ書房

*7:著書『インド・開発のなかの労働者:都市労働市場の構造と変容』(2003年、日本評論社)、『インドの経済発展と人・労働:フィールド調査で見えてきたこと』(2012年、日本評論社

*8:著書『バングラデシュを知るための60章(第2版)』(共著、2009年、明石書店

*9:著書『はなまる保父の「いいたいねっと」通信』(1997年、あゆみ出版)、『保育・子育て政策づくり入門―保育者と保護者がつくる希望のプラン』(2010年、自治体研究社)、『「クラスだより」で響き合う保育』(共著、2011年、かもがわ出版

*10:著書『労働、社会保障政策の転換を―反貧困への提言』(共著、2009年、岩波ブックレット