水曜ミステリー9『逆光:保護司・笹本邦明の奔走』(ネタバラシあり)

http://www.tv-tokyo.co.jp/mystery9/index.html
 保護司・笹本邦明(橋爪功)は身元引受人の工務店社長・太地喜三郎(丸岡奨詞)と17年の刑期*1を経て仮出所となった名本登(萩原聖人)を迎えに行く。
 数週間後、刑事の石出誠(田中哲司)が笹本を訪ねてくる。ある旅館で宿泊中の女性・真柄きよ子(奥山佳恵)が(注:首つりの状態で)死んでいた件で、きよ子の死亡は自殺に見せかけた他殺事件の可能性があり、容疑者として名本があがっているのだという。出所した際の名本の様子から、事件を起こすとは信じがたい笹本が事実確認に向かうと、名本はきよ子と会っていたことは認めたものの、死亡したことは知らなかった。きよ子と名本は同郷の幼なじみで、刑務所の中にいるときも手紙のやりとりをしていた仲だった。
出所後に一度だけきよ子が訪ねてきて一緒に旅館に入ったが、名本は泊まらずに帰り、その時はまだきよ子は元気だったという。名本の証言を信じた笹本は疑いを晴らそうと試みるが、石出は前科がある名本が犯人と決め付けるような取り調べを行う。
 一方笹本の計らいで、名本は箱根の人里離れた場所の家具職人・上島作太郎(品川徹)のもとで働くことに。ところがしばらくして、その近くのモーテル裏の雑木林で若い女性の首つり死体*2が見つかって…。
【原作】水上勉*3「その橋まで」*4

 原作を後で読んでみようかと思いました。こういう話は刑事の視点で描かれることが日本のドラマでは多いように思いますが「名本を信じようと奮闘する笹本」の視点から描かれてる点が評価出来ますね(なお、終盤まで殺人事件の犯人が誰なのかはわかりません。犯人はわかりますがそれは別に笹本の推理によるわけではなく警察の通常捜査によるものです。「水曜ミステリー9」は謎解き物が多いですが、この作品は、別に謎解きミステリではないですね。サスペンスですかね。まあ、ネタバラシすれば犯人は名本ではないです)。
 日本の刑事ドラマでは「犯罪者は極悪人」であるかのように描かれますし、マスコミ報道も本当にそういう報道ばかりで、うんざりしますが、このドラマの「名本」は「元・凶悪犯罪者ではあるが根っからの悪人ではない」「笹本の期待にこたえようとしているらしい」という造形をされてるわけです。なお、出所した名本の生活も楽ではない。世間の偏見や「刑務所での生活に慣れてしまってること」などで名本は苦しむわけです。
 そういえば今村昌平『うなぎ』の山下拓郎(役所広司)(妻を殺害し、妻の浮気相手にも重傷を負わせたため無期懲役となるが仮釈放される)なんかも「殺人鬼」と言う描かれ方ではなくそういう描かれ方でしたね(原作は吉村昭『闇にひらめく』。なお、『闇にひらめく』に似た内容の作品『仮釈放』も映画作成においては参考にされている)。
 落ちも『うなぎ』に似ていますかね。単なる偶然だと思いますが。『うなぎ』ではトラブルを起こした山下は刑務所に収監され、名本もトラブルを起こして刑務所に収監されます。「凶悪犯罪を起こしたわけではない」と言う意味では救いがありますが、「刑務所への収監」と言う点では救いがない。
 山下はともかく名本にいたっては「俺みたいな奴が外でやっていけないことがよくわかった」「刑務所の方が気楽でいい」とまで自嘲するに至ってるわけです。
 ただ山下と名本の出所を待つ人間がいる点は一つの救いの訳です。まあ山下の場合、待ってくれる相手が恋人(?)服部桂子(清水美砂)ですが、一方、名本の場合、保護司・笹本(橋爪功)でまるで色気がない点は違います。

*1:人妻とつきあっていた名本は痴情のもつれの末、人妻を殺害、夫にも重傷を負わせ無期懲役の判決を受ける。

*2:もちろんこれも殺人の疑い濃厚なわけです

*3:水上と言えば『海の牙』で1961年に第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞し、当初は社会派ミステリ作家扱いされていました。内田吐夢監督、三国連太郎主演の映画によって代表作となった『飢餓海峡』(1963年刊行)も殺人事件が題材です。

*4:1974年に新潮社より刊行