今日のMSN産経ニュース(2/2分)(追記あり)

■【慰安婦漫画】「日本を激怒させる展示会」 波紋の仏漫画祭閉幕へ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140202/erp14020219340003-n1.htm

「日本を激怒*1させる展示会」−。こう題する記事を掲載したのは、中道左派オピニオン誌ノーベル・オブザバチュア*2
 日本政府が韓国政府の展示に懸念を表明したほか、日本女性でつくる非営利団体が日本人1万2000人分の署名を集め、展示に反対する嘆願書を日刊紙シャテント・リーブル*3に送付してきた*4事実を紹介した。

やれやれですね。その「日本女性でつくる非営利団体」とは具体的にどこか調べて書く程度の取材能力も産経にはないんでしょうか。それとも「どこかわかってるが極右団体なので名前を隠してる」んでしょうか。


■【慰安婦漫画】韓国展実施を後悔、仏主催者「すべて不満」

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140202/erp14020221470004-n2.htm
韓国の作品の政治メッセージに問題はないのか
 「答える立場にない。彼らが何をしたいのかまでは知らない。芸術家は自分の意見を表現する権利がある」
韓国の展示に満足か
 「(批判など)展示がもたらしたすべての出来事に不満がある。もっと違った形でやることができた。しかし、もう起きてしまったことだ。主催者は(この結果に)だれも満足していない」
日本側の作品を拒否した理由は
 「彼らは、政治活動を禁ずるこの私有施設で許可を得ず記者会見をやった。主催者側の意向を無視して文化を語る場で政治活動を始め、その政治宣伝の内容が歴史的事実の否定を禁止するフランスの法律に抵触していると忠告したのにやめなかった。彼らはルールと法を破った」
歴史的事実の否定とは
 「彼らは、日本政府も認めている慰安婦の存在すら認めていない。こうした極右思想・団体とは戦う」
誤解があったのでは
 「いや、彼らはルールと法を破った。日本の漫画愛好家はいつでも歓迎だが、ルールに従えないのなら来ないでほしい」

 もう誤解の余地もないくらい、主催者が「幸福の科学漫画」を見事に斬って捨ててますね。要するに河野談話否定論なんてもんはフランスでは「ホロコースト否定論」と同類に扱われてるから排除されたという話でしょう。一方、韓国漫画はそこまで酷くないと認識されたから排除などされなかった。
 この記事内容で『韓国展実施を後悔、仏主催者「すべて不満」』なんてタイトルをつけるのは詐欺同然でしょう。どこにも「韓国企画展を後悔」と読める文章はないと思いますね。「不満がある」というのは「やらなければよかった」と言う後悔とは違う。まあ、「主催者が故意に表現を曖昧にしているのか」表現が曖昧な上に産経が「もう少し具体的に言って欲しい」などと突っ込んでないので「何がどう不満か」よくわかりませんが。
 つうかメインの内容は明らかに「幸福の科学漫画批判」です。
 まあ、本文読めば「タイトルのインチキ」はわかりますけどね。


■【産経抄】2月2日
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140202/trd14020203140000-n1.htm

 米国でとんでもない本が出版された。アイリス・チャンという中国系女性の『ザ・レイプ・オブ・南京』である。1937年の南京攻略に関して、史実とはまるでかけ離れた日本軍の「蛮行」を書き立てた書物だ。

・なお、チャンの本は邦訳が2007年に同時代社から出てるようですが、読んでないので何とも評価出来ません。
・チャンの本について研究者から問題があるという指摘があったのは事実です。同時代社から出た邦訳のアマゾンレビューにも

本書は、柏書房が1998年に翻訳本の出版を計画している。
しかし、あまりの事実誤認の多さに手を焼き、しかも著者がほとんどの修正に応じなかったため、並行して解説本を出版しようとしたところ、著者の同意が得られなかったため、出版出来なかったという曰く付きの本である。

云々と書いてあります。柏書房が問題にしたことについて同時代社がどう処理したのか、「柏書房同様、問題視し解説などで一定の批判を加えた」のか、はたまた「出版それ自体を重視しあえてそういった問題は放置した」のかは不明です【追記:後で説明しますが解説本を別途出版したようです。柏書房と同様の問題意識があったわけです】。
 なお、柏書房からは南京事件関係著作として南京事件調査研究会編『南京大虐殺否定論13のウソ』(1999年)、J・フォーゲル編『歴史学のなかの南京大虐殺』(2000年)、笠原十九司*5南京事件と日本人』(2002年)、笠原十九司・吉田裕編『現代歴史学南京事件』(2006年)といった本が出ています。
・ただ産経の場合「南京事件は中国の捏造」ですからね。チャンの本以上に問題です。
・なお、チャンの本についてウヨは「レイプ=強姦」と誤読させようとすることがありますが、この場合は「レイプ=残虐行為、不法行為」とでも訳するのが適切でしょう。「強姦行為もあった」んですがそれオンリーではありませんので。放火や強盗、捕虜の虐殺などといろいろありました(もちろん虐殺以外は軍の組織的犯行ではなく、個人の暴走でしょうが、個人の暴走も一定の数を超えれば『それを阻止できない日本軍の責任』が問われるのは当然です)。

女性の乳房を切り落とすような「蛮行」は日本の歴史には全く出てこないことだ。

 すごいですねえ。「南京ではなかった*6」や「日中戦争ではなかった*7」じゃなくて「日本の歴史では1度もない」そうですよ。はっきり言って産経のこの文章は明らかな嘘だと思いますけど。何を根拠に「そんな事は日本の歴史で1度もない」なんて言えるんでしょうか。

センセーショナルな表現が米国人の日本観に悪影響を与えたことは確かだろう。

それはどうですかね。そう決めつける根拠があるんでしょうか。そもそもチャンの本の記述の是非はともかく南京事件(南京での虐殺や放火、強盗、強姦などの犯罪行為)それ自体は否定できません。
 東京裁判では松井石根(事件当時、中支那方面軍司令官)が、南京のBC級戦犯裁判では谷寿夫(事件当時、熊本第6師団師団長)が責任を問われて死刑判決を下され、処刑されています。
 そしてそうした過去の過ちを反省して今の日本があるという「建前」なんですから「その建前が本音でもある」と理解されれば「昔の日本は酷かったけど今は違うんだね」で何の問題もない。
 『ナチス時代にホロコーストがあった』ドイツなんかそうでしょう。フランスなど隣国はもはやドイツをあの種の危ない国家とは見なしていない。
 一方、日本はドイツと違って反省が本気か疑われている。全国紙・産経が堂々と南京事件否定論かましたり、与党政治家からもその種の「戦争正当化(「アジア解放の聖戦」論や自衛戦争論)や残虐行為否定の失言」が出たりするからです。そもそもこの産経抄自体が「河野談話否定論」というとんでもない代物です。

フランス・アングレーム国際漫画祭での韓国政府の企画展も、そのひどさでは引けをとらないようだ。例によって慰安婦がテーマだが、日本の軍人が少女を集団で拉致したり暴行したりする漫画が十数点もあるという。漫画とはいえ、何の根拠もない作り話である。

全ての慰安婦が拉致だと言ったら嘘になりますけど、そういうケースもあったのは事実です。
従って漫画が「慰安婦は全員日本軍の拉致」と言っていない限り何の問題もありません。
まあ、漫画を見ないと何とも評価出来ませんが。産経は平気で嘘つきますからね。その嘘が当事者の抗議でばれたあげく謝罪に追い込まれたことが何度もあります。
 

NHK会長の発言をめぐり、慰安婦問題にあれほど関心を示したはずの一部新聞は1日現在、漫画祭にはほとんど触れていない。

一部新聞ってどこのことなんですかね。まあ、俺個人は触れるべきだと思いますが触れないのは「慰安婦問題で安倍政権と対立することを恐れてるから」でしょう。
一方「籾井会長発言」は完全に政治問題化し、海外でも騒がれてるから「報じないわけにはいかない」わけです。
情けない話だと思いますが、産経の妄想してるような「韓国の漫画が酷いから、韓国に気を遣って報じない」なんて話ではない。

国会でも衆院予算委で民主党がNHK会長を追及した。しかし漫画祭で政府の対応を問う場面はなかった。

どう問うてほしいのやら。韓国の展示は河野談話に合致してますから日本政府は批判のしようがないんですけど。「河野談話否定論が事実上党方針」の極右政党・維新以外そんなことは政府に問わないでしょう。
 そして維新に問われても安倍も適当にはぐらかすしかないでしょう。変な事を答えたらそれこそ今以上に日韓関係が悪化しますよ。

今や慰安婦問題が韓国の「反日外交」に利用されていることは明らかだ。

安倍が河野談話否定論なんかぶちかますから、慰安婦問題で日本が非難されるんでしょうが。全て安倍が悪いのですが、そうは理解しない産経には絶句ですね。

政府だけでなく、政治家や民間も真剣に立ち向かわねばならない。

確かに「産経の言うのとは別の意味で」真剣に立ち向かうべき問題です。
まずは安倍を政権から引きずりおろす事が必要でしょう。安倍がこの問題で適切な対応をすることは無理でしょう。安倍を首相の座からおろせば即、問題が解決するわけではありませんが、おろさない限り問題は解決しないでしょう。
そもそも「安倍が総理にならなければ」こんなこともなかったんですけどね。
1)「谷垣おろしで安倍を総裁にした自民党*8
2)「谷垣おろしに抵抗できなかった谷垣氏の無能さ」
3)「安倍自民を衆院選参院選で勝利させ、未だに安倍に50%台の支持を与える日本人マジョリティ」の罪は重いと言えるでしょう。


【追記】
http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20140125#c
「つうこうにん」という方から
「ザ・レイプ・オブ・南京」関係の書評として
『「ザ・レイプ・オブ・南京」を読む』
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20071212/p1
『「ザ・レイプ・オブ・南京」を読む』について(1)
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20071224/p2
をご紹介いただきましたのでここで紹介しておきます。
 『「ザ・レイプ・オブ・南京」を読む』は柏書房が出版しようとして挫折した『ザ・レイプ・オブ・南京』の解説本が出版されたものです。つまり柏書房の問題意識は同時代社も持っていたし、それがこうして形になったと。
なお、id:Apeman氏書評に

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20071224/p2
日本側の研究者(名前が挙げられているのは吉田裕*9)からのアイリス・チャン批判

と書いてあるようにチャンに対する批判それ自体は「まともな歴史学者」からも行われてることを指摘しておきます。チャンを批判することそれ自体は「歴史修正主義」ではなく問題は「批判内容」であるわけです。「南京事件は捏造」などという「産経的批判」が論外であることは言うまでもありません。

*1:中道左派の新聞ですから当然これは日本への批判的記事でしょう。「激怒」というのも「怒るべきでないことで怒るなよ」という批判の意味合いでしょう

*2:はてなブックマークの指摘に寄れば『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』が正しいらしい。外国語表記がデタラメとはさすが産経

*3:はてなブックマークの指摘に寄れば『シャラント・リーブル』が正しいらしい。外国語表記がデタラメとはさすが産経

*4:主催者ならまだしも、日刊紙に送っても意味がないと思うんですが

*5:著書『南京事件』(1997年、岩波新書)、『南京難民区の百日:虐殺を見た外国人』(2005年、岩波現代文庫)、『南京事件論争史』(2007年、平凡社新書)など

*6:実際どうなのかは無知のため知りません

*7:実際どうなのかは無知のため知りません

*8:谷垣氏(現・法相)が総理ならこんなことにはならなかったでしょうし、せめて石破(現・自民党幹事長)や石原jr(現・環境相)が総理なら今ほど酷い状況にはならなかったでしょう。

*9:著書『天皇の軍隊と南京事件』(1986年、青木書店)、『昭和天皇終戦史』(1992年、岩波新書)、『日本の軍隊:兵士たちの近代史』(2002年、岩波新書)、『日本人の戦争観:戦後史のなかの変容』(2005年、岩波現代文庫)、『アジア・太平洋戦争』(2007年、岩波新書)など