新刊紹介:「経済」4月号(その2:それ以外)(追記・訂正あり)

「経済」4月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

■随想「小繋の山に国際交流の桜」(早坂啓造*1
(内容要約)
 昨年岩手で行われた国際コモンズ学会記念講演会(http://www.aiina.jp/npo/sche/sche03r_1210.php?ViewY=2013&ViewM=06&ID=27参照)の紹介。

参考

http://ameblo.jp/takaya-bunko/theme-10070720253.html
 米デューク大のマッキーン教授の講演を聴きました。英語だらけでちんぷんかんぷん、なれど持続可能な社会の実現、これは今日の人類の最大の課題であり、テーマです。講演の後、3時間に及ぶシンポジュームの参加者は約40名、コモンズ論の権威であるマッキーン教授に日本の大学の教授・准教授が学者のプライドをかけて論戦を挑む?、滅多にない構図、いや、滅多に見られない光景に出くわして、編集長も内心おだやかでありません。岩手大学の早坂先生が、県立大の三浦先生が、シンポジュームでマッキーン教授に真正面から質問する。そのやりとりは真剣で、驚くほど緊迫したものでした。

http://i-i-net.seesaa.net/pages/user/m/article?article_id=25700302
早坂先生、(中略)ある資料集に次のように記されています(ちょっと長いですが、そのまま引用しますね)。
「実は、入会の歴史を見ると、明治以来、近代化・成長の嵐のような進展の中で、『遅れた制度』・『前近代の遺物』・『邪魔もの』として異端視され、制度的に排除され、戦後の高成長の陰で、事実上ほとんど消えかかったのですが20世紀末あたりになって、近代化とグローバリゼーションの果てに『乱伐』・『森林破壊』・『林業衰退』という矛盾が爆発的にあふれ出し、近代化路線の政策の180度転換を余儀なくされてきたのです。
 その中で、日本に限らず、まさに地球規模で見直されてきたのが、『略奪型林野利用』にかわる『入会型共同管理と利用』という方向です。1970年代から、東南アジア・大洋州中南米などで、熱帯林の乱伐や商業用の生態系を無視した大規模植林のために、林野から追い出された住民たちが、日本を含む多国籍大企業の侵入を阻止するために道路封鎖を行なったり、『先住民の慣習的権利』つまり『入会権』を守ろうと、裁判に訴えたりして力強い抵抗運動を展開しているのです。
(中略)
 この流れの中で、岩手の山野を覆っていた『入会』の歴史を振り返るということは、けっして、ただ過去の思い出とか、歴史の記録というだけの、後ろ向きの仕事にとどまるのではなく、現状の変革、そしてまさに未来にもつながる事業であると共に、日本の経験を国際的にも発信して、地球規模の連帯を強め、共通の事業を推進して行く条件も熟してきつつあると思うのです。」
(早坂啓造「岩手の入会訴訟の歴史の側から:辰治との出会い」布施辰治資料研究準備会編『布施辰治 植民地関係資料集Vol.2』2006年3月)


■世界と日本
【韓国・仁川空港の闇:強いられた非正規労働の犠牲(洪相鉉)】
(内容要約)
朝鮮日報『「仁川空港から学ぼう」 日本関係者が訪問ラッシュ』によれば

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/23/2014022302512.html
 仁川国際空港公社は23日、中部空港、成田空港、関西空港など日本の主要空港の関係者らが視察のため相次ぎ仁川空港を訪問していると明らかにした。
(中略)
 仁川国際空港はこのほど、各国の空港運営会社でつくる国際空港評議会(ACI、本部モントリオール)が発表した国際空港サービス評価「ASQ」で最高点を獲得し、9年連続でトップに立った。

とのことだがこれに対し、仁川空港で起こった非正規労働者のストを指摘。仮にサービスが評価出来るとしても非正規の犠牲の上に成り立つサービスが手放しで評価出来るのかと批判している。

参考
レイバーネット『韓国:全国の非正規が仁川空港非正規スト支持を宣言』
http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/strike/2013winter/1387806417367Staff


【貸出減少の中小企業金融(桜田氾)】
(内容要約)
 アベノミクス実施後も中小企業への貸し出し増加は見られず「アベノミクスで景気回復→貸し出し増加」という単純なシナリオは成立していない。中小企業向け貸し出しを増やす為の政策実施が求められる。

参考
赤旗
アベノミクス それホント?、大胆な金融政策で融資増額を期待…、中小向け、最低水準のまま』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-20/2013072006_02_1.html
『中小企業向け貸出残高調査、大手銀は減 地銀は増』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-01-24/2014012408_01_1.html


【労働者派遣法「改正」(中西基)】
(内容要約)
 安倍内閣が目指す労働者派遣法改悪への批判。

赤旗
『安倍首相 労働者派遣法 改悪を弁明、実態は「半永久的」化』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-02-23/2014022301_04_1.html
『派遣会社の要求そのもの、法案要綱、安倍内閣は業界の代弁者か』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-03/2014030302_01_1.html


特集「大震災3年「人間復興」への課題」
■「福島原発汚染水の実態:正確な調査にもとづき対策を」(柴崎直明)
(内容要約)
・汚染水対策をするにはまず実態把握が必要だが、それが充分なされているとは思えないと批判。
・また、政府はいわゆる「凍土方式」を実行するとしているが「費用面や耐久性」などの点で凍土方式が最善とは言えないのではないかとして再検討を要求している。


■「原発再稼働を狙う「規制基準」:これでは事故・被ばくは防げない」(立石雅昭*2
(内容要約)
・昨年7月に原子力規制委員会が発表したいわゆる「新基準」への批判。

参考
赤旗
『あす施行 原発新基準 穴だらけ、原発再稼働は論外』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-07/2013070703_01_1.html
原発 手抜き審査 重大事故対策 事業者任せ、規制委、独自解析せず』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-01-10/2014011001_01_1.html
『“夏までには審査終える”、原発「合格」に“お墨付き”、規制委 更田委員が異例発言』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-01-20/2014012010_01_1.html


■「原発防災計画と原発立地自治体の財政分析:京都の取り組みから」(池田豊
(内容要約)
脱原発は重要だが、一方で脱原発が現実化するまでは原発事故に備えた防災計画(避難計画)の策定が必要とし、「隣県福井県原発がある」京都府舞鶴市の防災計画を分析。「86000人の市民をバス、鉄道等で移動することは不可能ではないか」としながらも「国がきちんとした防災計画を造っていない以上、その責任を舞鶴市にのみ追わせることは出来ない」とし、国の防災計画策定を求めている(もちろん現実問題、避難の困難性を考えれば一番現実的なのは脱原発であろうが)。
脱原発は大事だが「原発補助金に依存している自治体(例:福井県)」にとってはおいそれと飲める物ではなく、脱原発を現実化するには「原発補助金付け」となっている自治体財政、自治体経済をどう「原発依存から脱却していくか」という道筋を造る必要がある。
・なお、福井県原発銀座化を推し進めた人物としては熊谷組社長の熊谷太三郎の存在が重要である。

熊谷太三郎(ウィキペ参照)
熊谷組創業者・熊谷三太郎の二男として福井市に生まれた。
・1933年4月、飛島組(現在の飛島建設)社長の後援により福井市議選挙に当選、まもなく市議会議長となり、飛島組の取締役にもなる。
・1938年1月、飛島組から独立し、熊谷組が創設され、父・三太郎が社長に、太三郎が副社長となった。1947年に市長に当選(1959年までつとめた)。
・二代目社長を経て会長となった熊谷は1962年、福井を地盤に自民党参議院議員となり、福田内閣科学技術庁長官、原子力委員会委員を勤め、一兆円事業である高速増殖炉もんじゅの建設を猛烈に推進。福井の若狭湾沿岸を原発銀座と呼ばれる地帯に一変させ、原発建設により一躍、熊谷組は北陸の中小ゼネコンから日本の準大手ゼネコンとなった。
 1963年より福井短期大学(現在は廃止)の学長に就任している。1992年1月15日死去。享年85歳。


特集「アメリカの貧困層と対策」
■「アメリカの社会保障オバマ・ケア」(本田浩邦)
(内容要約)
・公的医療保険制度が存在しないアメリカにおいて公的医療保険類似の制度として導入されたのがいわゆるオバマケアである。
オバマは当初は「国が保険料を徴収するシングルペイヤー(単一支払者方式)」を主張していた(ちなみに日本の方式がこれである)。しかし上院の過半数共和党が支配する現実の前で「シングルペイヤー」は不可能と判断、次善の策として打ち出したのが「貧困者を経済支援し民間保険への加入を推進し無保険者をなくす」というオバマケアであった(ただしオバマケアですら共和党、特にティーパーティーは批判しているが)。もちろん共和党とは別に「シングルペイヤー支持派」の中からも「悪しき妥協」という批判は存在する。
 ちなみに『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』『シッコ』などで知られるマイケル・ムーア
1)「自分はシングルペイヤーが最善だと思う」が
2)現実的に無理である以上妥協それ自体はやむを得ない、問題はそれが容認できる妥協かどうかだ
3)オバマケアは許容可能なレベルの妥協だと思う、問題はオバマケアを今後どう改善していくか、共和党の巻き返しによるオバマケアの後退、骨抜きを許さないかだ、
としてオバマケア支持を表明している。「シングルペイヤー支持派」の多くはムーア同様、オバマケアを一応支持していると見られる。


■「米国における移民労働者と低賃金労働」(佐藤千登勢*3
(内容要約)
アメリカで移民労働(多くは違法移民である)が蔓延している分野は「農業、食肉、縫製」であるがこれらには「長時間低賃金労働」と言う共通点がある。
 「長時間低賃金」であるからこそ「移民」に頼らざるを得ず、また「移民」と言う弱い立場であるからこそ「長時間低賃金」という過酷な労働環境が改善されにくいという悪循環の構造にある。
 こうした状況をどう改善していくかが問われている。


■「アメリカ社会の悪夢:貧困層増大・格差拡大と建国の理念*4」(瀬戸岡紘*5
(内容要約)
・「アメリカにおける格差拡大と貧困層の増大」、にもかかわらず「ティーパーティーのような格差拡大を助長する新自由主義的運動」について「当の貧困層の中にすら一定の支持者がいること*6」を指摘、そうした状況をどう変えるかがアメリカの重大な課題としている(そうした問題はアメリカ限定ではないが)。
 なお、筆者は米国の「貧困層増大」「格差拡大」について触れた最近の著作として以下の物を紹介している。
 クルーグマン『格差はつくられた:保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』(邦訳:2008年、早川書房
 ピムペア『民衆が語る貧困大国アメリカ:不自由で不平等な福祉小国の歴史』(邦訳:2010年、明石書店
 ハフィントン『誰が中流を殺すのか:アメリカが第三世界に堕ちる日』(邦訳:2011年、阪急コミュニケーションズ)
 マレー『階級「断絶」社会アメリカ:新上流と新下流の出現』(邦訳:2013年、草思社
 小林『超・格差社会アメリカの真実』(2006年、日経BP社)
 堤『ルポ貧困大国アメリカ』(2008年、岩波新書)、『ルポ貧困大国アメリカ2』(2010年、岩波新書)、『(株)貧困大国アメリカ』(2013年、岩波新書


■「国鉄分割・民営化30年:問われるJRの経営」(近藤禎夫*7
(内容要約)
・新幹線(東海道、山陽)、山手線などのドル箱路線を持つ東日本、西日本、東海の経営は順調な物と言える。これに対し、不採算路線の多い北海道、四国、九州の経営は極めて厳しいものがある。北海道の度重なる鉄道事故も「貧すれば鈍する(経営危機のために安全対策がおろそかになっている)」面が否定できない。
・またJR貨物の経営もトラック貨物に押され厳しい状況にある。
・こうしてみると「民営化の是非」はひとまずおくとしても「分割」は大きな失敗だったと評価せざるを得ない。
 「東日本」と「北海道」、「西日本」と「九州」「四国」を統合するか、統合しないまでも何らかの形で「東日本、東海、西日本の三社」が「北海道、四国、九州」を経済的に支えるシステムを作るべきである。
・貨物については「トラック便の鉄道への切り替え」でCO2削減効果が期待できることも考えれば政府が「企業の鉄道貨物利用を促進する何らかの政策」を実施すべきである。
・なお、東海が計画している「新幹線リニア化」については
1)建設費用がどれほどかかるかわからない
2)利用者によって建設費用が回収できるかわからない
3)その結果、在来路線廃止が行われる危険性がある、ことから賛同できない。

参考
赤旗
リニア新幹線計画に反対する、東海道新幹線地震津波対策、大震災の鉄道復旧こそ、志位委員長会見』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-18/2012051801_01_1.html
リニア新幹線の建設に反対する、東海道新幹線地震津波対策、大震災の鉄道復旧こそ、2012年5月17日 日本共産党
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-18/2012051804_01_0.html


■「長期不況下の中央集中とサービス産業」(飯盛信男*8
(内容要約)
・統計データ上、1990年代以降の長期不況において雇用増加が見られるのはいわゆる第三次産業(サービス産業)であり、第一次産業第二次産業の雇用は減少している。
・なお、サービス産業労働者の増加はもっぱら大都市圏(首都圏、近畿圏、東海圏)に偏っておりこうした偏りをどう是正するかは今後の課題である。


■対論「「侵略未定義」発言」と歴史認識:安倍発言、軍『慰安婦』問題、戦争責任」(山科三郎*9、渡辺憲正*10
(内容要約)
 ドラえもんのび太の対話形式で書いてみる。
のび太「安倍首相の『侵略の定義は定まっていない』発言」をどう理解したらいいんだろう?」
ドラえもん「客観的な歴史認識と言うよりは『定義がはっきりしないから日中戦争、太平洋戦争は侵略かわからない』として日本の戦争を正当化したいと見るべきだろうね。と同時に『あの戦争はフィリピン*11、インド*12インドネシア*13などアジア民族を欧米列強の支配から解放しようとする戦争であった』『自衛戦争であった』と安倍首相が積極的に肯定することが出来ないということでもあるだろうね。積極的に肯定できないから『侵略戦争に定義はない』という逃げの発言になるわけだ」
のび太「でもその理屈だと『旧ソ連・ロシアの北方領土支配が侵略かわからない』『ヒトラーポーランド侵攻が侵略かわからない』『旧ソ連のアフガン侵攻が侵略かわからない』『フセインクウェート侵攻が侵略かわからない』などということになって国家の軍事行動を一切批判することが出来なくなるんじゃないかな?。それにその理屈だと『東京裁判は冤罪だ』と言ってるのに等しいと思うけど?。『侵略の定義はない』という主張が正しいかどうか以前にそうした主張は日本の過去の政治的言動に矛盾するんじゃないかな?」
ドラえもん「そうだね。そこが安倍首相ら『日中戦争・太平洋戦争正当化論者』にとっての苦しみなんだが、といって『アジア解放の戦争』『ハルノートではめられた、自衛戦争だ!』などと公言することも国内外の批判を浴びるために難しいんだ。なお,安倍首相の問題ある言動としては他にも
1)河野談話見直し論
2)南京事件否定論者・百田尚樹氏をNHK経営委員に任命
3)靖国神社への参拝
などがあげられる」


参考
赤旗
『成り立たない 安倍首相「侵略の定義」否定発言、国際社会で生きる道なくなる』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-12/2013051203_01_1.html
主張『安倍首相「歴史」発言、侵略の定義否定は許されない』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-12/2013051202_01_1.html
『“戦後の世界秩序否定”、首相の侵略定義発言 市田氏が批判』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-14/2013051402_01_1.html

*1:著書「『資本論』第2部の成立と新メガ」(2004年、東北大学出版会)

*2:著書『地震列島日本の原発柏崎刈羽と福島事故の教訓』(2013年、東洋書店

*3:著書『軍需産業と女性労働第二次世界大戦下の日米比較』(2003年、彩流社)、『アメリカ型福祉国家の形成:1935年社会保障法ニューディール』(2013年、筑波大学出版会)、『アメリカの福祉改革とジェンダー:「福祉から就労へ」は成功したのか』(2014年、彩流社刊行予定)

*4:アメリカ建国の理念としては「個人の自由」と「社会的連帯」があるが前者が後者よりも幅をきかせ「新自由主義擁護のイデオロギー」と化しているのが今の米国と筆者は理解している。

*5:著書『アメリカ 理念と現実:分かっているようで分からないこの国を読み解く』(2006年、時潮社)

*6:もちろんそこには支配層によるイデオロギー宣伝(いわゆる自己責任論など)があるわけだが、当の貧困層に属する支持者は「自発的である」と思っているところが厄介ではある。

*7:著書『JRグループ:「民営化」に活路を求めた基幹鉄道』(共著、1990年、大月書店)、『鉄道原価計算制度史の研究:国鉄民営化までの軌跡』(1992年、大月書店)

*8:著書『サービス産業』(2004年、新日本出版社)、『構造改革とサービス産業』(2007年、青木書店)、『日本経済の再生とサービス産業』(2014年、青木書店)など

*9:著書『人間発達の哲学』(1986年、青木書店)、『自由時間の哲学』(1993年、青木書店)

*10:著書『近代批判とマルクス』(1989年、青木書店)、『イデオロギー論の再構築:マルクスの読解から』(2001年、青木書店)、『戦後マルクス主義の思想:論争史と現代的意義』(共著、2013年、社会評論社

*11:アメリカが植民地支配

*12:イギリスが植民地支配

*13:オランダが植民地支配