今日のMSN産経ニュース(5/26分)(追記・訂正あり)

■【産経抄ゴジラの復活 5月26日
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140526/ent14052603110001-n1.htm
 ゴジラ第1作は「反核反戦」の思いを形にしたものだ、その先人たちの思いを我々は今後も引き継いでいこう、集団的自衛権行使容認などもってのほかだという文章が朝日に乗ったのだそうです。でそれに対する産経の反論。

 映画評論家の樋口尚文さん*1によれば、少なくとも元祖ゴジラは、反戦反核をテーマにした映画ではなかった。8年間もの軍隊生活を送っている本多監督から、直接聞いた話だという。「監督が作りたかったのは戦後の暗い気分をアナーキーに壊しまくってくれる和製『キングコング』のような大怪獣映画」だった(『グッドモーニング、ゴジラ*2国書刊行会)。

 ところがこの樋口説が全くの嘘っぱちであること(仮に樋口の言うように本多監督に反核反戦の思いがゼロでも、脚本家には大ありで、それは第1作ゴジラ登場人物の言葉から明白)が皮肉にもはてなブックマークで暴露されます。「娯楽色を強めていった第2作以降」はともかく「第1作」は「反核反戦の思い」にあふれていたと言う事が指摘されます。
 そしてこの産経の「樋口文章要約」が正しい*3のならば、おそらく「樋口も産経も」
1)「ゴジラ第1作を見ていないか」
2)「見た上で虚言を吐いてるか」
どっちにしろ信用できない人間であることや
3)彼らにはおそらく反核の思いも反戦の思いもないこと(産経は日本核武装論ですからね)
も明白になります。「産経のこの樋口文章要約が曲解ではなく正確な要約ならば」樋口本は一冊も読まないのが賢明でしょう。「何らかの方法で、裏を取らないと記述が一切信用できない嘘つきの本」を読むことほど空しいこともありません。まあ、このゴジラの話の場合「裏を取るまでもなく」第1作を見てれば「嘘つくな、それあんたら(樋口や産経)に善意に理解しても映画に反核精神が希薄なんじゃなくて監督に希薄なだけだろ」で終わってしまうほど「産経が紹介する樋口の主張」は酷い話ですが。
 さて産経の虚偽を指摘するブクマを紹介しておきましょう。
 ちなみに小生は「反核の思いがないってホントかよ?(ゴジラって核実験で生まれたんじゃねーの?)。大体樋口だけじゃねーの、そう言う事言ってるの?」という主旨のブクマをつけたのですが恥ずかしいことにゴジラ第1作を見てないし、知識もないのでそれ以上の突っ込みは出来ませんでした。

http://b.hatena.ne.jp/entry/sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140526/ent14052603110001-n1.htm
id:hobbling
 ゴジラってどう見ても反核テーマじゃん
id:sandayuu
 初代ゴジラでは、ゴジラの襲撃で焼け出された避難民にガイガーカウンターを向けるシーンもあるんだが、それも反核のメッセージとは無関係なんですかねえ。
id:filinion これはひどい
 それじゃあ、芹沢博士の「原爆対原爆、水爆対水爆、その上さらにこの新しい武器を人類の上に加えることは、科学者として、いや、一個の人間として許すわけにはいかない」って台詞はどう解釈されるんですかね?
id:YukeSkywalker
 脚本家がはっきりと「最後の山根博士の台詞に原水爆反対の悲願を込めた」と明言してるわけだが。
id:jaikel
 「やすらぎよひかりよとくかえれかし*4」を聞いて反戦なんか関係ないよとよく言えるもんだな。第五福竜丸事件にも影響を受けているのに反核関係ないというのもあり得ない。
id:yellowbell
 志村喬演ずる山根博士の不朽の名セリフ「あのゴジラが最後の一匹とは思えない。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界の何処かに現れて来るかも知れない…」をどう聞いたらこうなるのか

ちなみに産経がこういうデマを吐くのも

第5作『三大怪獣*5 地球最大の決戦』でゴジラが(注:ラドンモスラとともに「地球人の敵」キングギドラと闘う)人類の味方として扱われて以降、ゴジラは恐怖の対象としての側面が薄まっていった。そして(注:ゴジラが「地球人の敵」ガイガンと闘った)第12作『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』以降は完全に子供たちのヒーローとして描かれた。(ウィキペ『ゴジラ』)

なんでしょうね。もちろんそうしたゴジラの「性格の変化」が悪いとは言いません。当初「恐怖の対象だったゴジラ」は「子どもたちのヒーロー」へと変化したわけです。ちなみにゴジラの二番煎じで大映が作った「ガメラ」ももともとは、ゴジラ同様「恐怖の対象」でしたが次第に「子どもたちのヒーロー」へと変化していきます。

【追記】
1)産経のデマについては
『『ゴジラ』(本多猪四郎監督)と反戦反核についてのつぶやき(2014.05.27)』
http://togetter.com/li/672398
も紹介しておきましょう。

奥様の本多きみさんによる『ゴジラのトランク:夫・本多猪四郎の愛情、黒澤明の友情』(宝島社*6)だと田中友幸プロデューサーから「水爆実験がモチーフだと言われて、中国から引き上げてきた時の広島を思い出したわけなんだ」と奥様に話して引き受ける決心を固めたと書いてある。 「被爆地を通過する列車の中で、人間が地球に対して犯してしまった罪はどういう結果をもたらすのかって考えたからね」「被爆地をこの目で見た者として伝えられることがあるはずだ、と。うん、力が涌くよ。それで決心がついたよ」と本多猪四郎監督は本多きみさんに語ったという。

じゃ監督だって「反核の思い」じゃないですか。産経だと「きみ夫人が嘘ついてる」と言い出すかも知れませんが。
まあ、仮に樋口説が正しくても「はてなブックマークが紹介する芹沢博士や山根博士のせりふ」を考えれば「監督には反核の思いは希薄だった」てことにしかならず「映画自体に希薄」なんてのは詭弁、デマ以外何物でもない。
2)他にも産経批判を紹介。

松浦晋也*7のツィート
 これを書いた記者(論説委員?)は多分「ゴジラ」をちゃんと観ていないのではないかな。
産経抄ゴジラの復活 http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140526/ent14052603110001-n1.htm
 「(注:戦争で死んだ)お父様のところに行くのよ」と叫んだ母が子をかばい、そこにゴジラが瓦礫を降らせるカットを観ていれば、こうは書けないはずだと思う。

青井邦夫氏のツィート
 当時の双葉十三郎*8などは、無理に反戦反核的な気分を持ち込んだことで娯楽映画としてつまらなくなった、というようなことを書いてたようですね。双葉先生はアメリカ的な娯楽モンスター映画を期待していたようです。

ゆうきまさみ氏のツィート
 病院の廊下に累々と横たわる負傷者の放射能を計ったり、女子学生たちが鎮魂歌を歌うシーンがあったり、「また疎開か」と嫌気混じりで言うシーンがあったりで、メッセージは明瞭ですよね。

『森森森』氏のツィート
 犯罪的な記事。本多猪四郎自身が第五福竜丸事件に触発されたと述べていたはず。映画中に「長崎の原爆でやっと助かったのに、原爆マグロに今度はゴジラ?」と通勤列車で愚痴る女性もいます。


■【正論】エリート律した「負い目」の喪失
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140526/edc14052603120001-n1.htm

 いまの地位は偶然と幸運に恵まれたことによるかもしれないという自卑と、才能と能力によるものだという自尊の両方がせめぎあう不安感情だけがエリートの胸底に宿りやすくなった。それは、自らをただす負い目とは微妙に異なる感情である。自分はその地位に値しないのかもしれないという不安に由来する自尊感情の揺らぎにしかすぎない。
 そのせいだろうか、経営幹部や政治家の中には不安の裏返しともいえる傲慢な振る舞いをする人が少なくない。周囲にイエスマンだけを置きたがる傾向も目立つ。

 「いまの地位は偶然と幸運に恵まれたことによるかもしれないという不安感情」「自分はその地位に値しないのかもしれないという不安」「不安の裏返しともいえる傲慢な振る舞い」「周囲にイエスマンだけを置きたがる傾向」 
 これが全て見事に当てはまる人と言ったら「岸信介元首相の孫という『偶然と幸運』がなかったら今の地位に就けたかわからない現総理・安倍晋三」でしょう。何せ集団的自衛権容認の答申を出した審議会は「反対派が一人もいない」「容認派しかいない」という「傲慢ぶり」「イエスマン配置ぶり」です。
 が、そうは産経が思ってないことは言うまでもありません。「傲慢で、周囲はイエスマンばかり」の具体例としてあげられてるのは「民主党の総理」です。産経の言う「民主党の総理」が「鳩山氏、菅氏*9、野田氏*10」のうち誰のことか*11知りませんし知りたいとも思いませんが彼らと安倍とどっちが

「いまの地位は偶然と幸運に恵まれたことによるかもしれないという不安感情」「自分はその地位に値しないのかもしれないという不安」「不安の裏返しともいえる傲慢な振る舞い」「周囲にイエスマンだけを置きたがる傾向」

に当てはまるかといったら安倍でしょう。
 「安倍信者以外には」安倍批判としか読めない文章を書きながら「安倍はそうではない」と強弁。まあ、滑稽な文章ではあります。

【追記】
他にもいろいろ思いついたことがあるので書いてみます。

高度成長時代の経営エリートには、戦闘で死んだ戦友やビジネスマンとして海外に赴任中、敵艦により撃沈され、海の藻くずと消えた同僚のことがいつも頭をよぎると言っていた人が少なくない。

 そういう「負い目」が「二度と戦争をしてはいけない」という思いを生み、戦後日本の平和運動の基礎となってきたと言っていいでしょう。そう言う意味で「護憲=左派」では必ずしもない。
 もちろんそういう「負い目」は産経にはありません。ないどころか「あの戦争は聖戦だった」と居直るのだから話になりません。
 そして安倍にもそんな「負い目」はないでしょう。安倍の場合、仮に「国策を誤って自衛官を死なせたところで」バカだから何の「負い目」も感じないんじゃないか。

*1:著書『「月光仮面」を創った男たち』(2008年、平凡社新書)、『ロマンポルノと実録やくざ映画:禁じられた70年代日本映画』(2009年、平凡社新書)など

*2:初版は1992年、筑摩書房国書刊行会は増補版で2011年。

*3:ただし産経の場合「脚本家や俳優はともかく、少なくとも本多監督には反核の思いは希薄だった」というだけの樋口氏の文章を「映画それ自体に反核の思いがなかった」と曲解している疑いがあるので「グッドモーニング、ゴジラ」を読まないと何とも言えませんが

*4:劇中歌『平和への祈り』のこと

*5:ゴジララドンモスラのこと

*6:2012年刊行

*7:著書『増補・スペースシャトルの落日』(2010年、ちくま文庫

*8:映画評論家。著書『外国映画ぼくの500本』(2003年、文春新書)、『日本映画ぼくの300本』(2004年、文春新書)、『ミュージカル洋画ぼくの500本』(2007年、文春新書) など

*9:橋本政権厚生相、鳩山政権財務相を経て首相

*10:鳩山政権財務副大臣、菅政権財務相を経て首相

*11:もしかして全員ですか?