今日のMSN産経ニュース(6/15分)(追記・訂正あり)

■田母神戦争大学の白熱講義(中)「『戦争できる国』のほうが戦争に巻き込まれない」(溝上健良)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140615/plc14061507000001-n1.htm
 批判ブクマもつけましたけど改めて突っ込み。

週刊ポスト』6月20日号に門田氏が6ページにわたって寄稿していた。いわく「朝日新聞『吉田調書スクープ』は『従軍慰安婦虚報』と同じだ*1」。
(中略)
 ブロゴスといえば最近、ジャーナリスト・田原総一朗*2の「リアリティがない朝日新聞毎日新聞、それでも存在意義があるこれだけの理由」*3と題した記事が載っていた
(中略)
 「嫌中憎韓本」(?)をめぐっては6月7日、天下の共同通信が「『嫌』に頼らず考えて 100超の書店でフェア」と題する、河出書房新社の「今、この国を考える 『嫌』でもなく、『呆』でもなく」との販促活動を紹介した原稿*4を配信していた。
(中略)
 小紙では以前に類書として『女子と愛国』*5を紹介しているので、ここに再録しておきたい。
 【書評】『女子と愛国』佐波優子著(平成25年12月8日)
(中略)
 せっかくなので、ここで河出書房新社の好著を紹介しておこう。西修*6 著『図説 日本国憲法の誕生』*7(本体1800円+税)。
(中略)
 また6月27日には僚紙サンケイスポーツより「ガールズ&パンツァー新聞」が発売されるので、ぜひお買い求めを。

 ブクマにも書きましたけど酷いですね。「全文引用すると長くなるので適当に省略しました」が、これ全部、田母神の講演内容に、もちろんかけらも関係ない。それも田母神の講演と関係ない事で「数行使う」のならまだしも「全体9ページのうちの4ページ」も使ってるんだから呆れます。
 書きたい事なら、テーマと全然関係ない事を無理矢理こじつけて*8記事にぶち込んでいい、ってのが産経の社員教育なんでしょうか?。「田母神講演と関係ない」と同時に「門田氏の朝日批判記事」「田原氏の記事」「共同通信の記事」「溝上記者の佐波本書評、西本紹介」、「サンスポの「ガルパン新聞」紹介」、どれも「溝上氏がどこかで書きたかった事」という以外にはどう見ても相互に何のつながりもないわけです。ここまで支離滅裂な記事を一応「プロの端くれ」が書いて、一応「全国紙」がネット掲載する(紙でもこんな酷い記事が掲載されてるんでしょうか?)。どんだけレベルが低いのかと思います。
 そんな事をする暇があったら田母神講演の内容をもっと深く掘り下げるべきでしょう。俺が田母神だったら怒りますよ、「関係ない事書くな」「そんなに俺の講演には書きたい事がないのか」と。
(追記:黙然日記『産経溝上記者の再起動』(http://d.hatena.ne.jp/pr3/20140615/1402919407)によれば、この暴走、溝上記者個人は「ネタでやってて、会心のできと勘違いしてる」ようですが、勘違いも甚だしい。id:pr3氏も指摘していますが産経社内に彼に指導というか、何か指摘する人はいないんでしょうか?。せめてばっさり4ページ全部削って田母神講演部分だけ載せるぐらいの事はして欲しい。あんな記事をそのまま載せるというのは彼個人「だけ」ではなく産経の評判も落とすでしょうに)
 さて次に田母神講演への突っ込み。

 戦後の日本は、ものすごい勢いで日本社会がぶち壊されてきたと思います。いま、年金問題が起きています。少子化問題が起きています。老人の孤独死の問題が起きています。こうしたことは戦後、日本の家督相続制度や大家族制度が壊されたこと*9が大きな原因ではないかと思うんですよね。

 法制度である「家督相続制度」はともかく、法制度でも何でもない「大家族の減少と核家族の増加」は別に誰かが画策したことではない。日本人の多数がそれを望んだからそうなっただけです。
 で「大家族の減少」の是非はともかく今更「大家族の増加」なんて無理でしょう。
 そんな馬鹿な事をほざく暇があったら田母神は、まともな年金制度対策、少子化対策孤独死対策を語ったらどうなのか。

戦争が終わって2DKの住宅がいっぱい作られた。『戦争が終わって住むところがないから、とりあえず小さな家でもいい』というのが主たる狙いではなかったんです。これはアメリカ占領軍が、日本の大家族制度をぶち壊すことを狙いに、2DK住宅がいっぱい作られたんです

 ブクマにも書きましたがこういう馬鹿げた陰謀論を元空自幕僚長が言って恥ずかしくないのか。誰が考えたって「広い家より2DKの方が作りやすい」という供給側の理屈と、「大家族じゃないから2DKで充分、その方が安いし」という需要側の理屈がマッチしただけじゃないですか。

 公民館が全国津々浦々に作られましたが、何のために作ったんですか。昔は地域共同体の中心に神社がありました。集会は神社で行われていたんです。みんな何かあると神社に集まっていたんです。日本国民と神社とを切り離すために、公民館が全国津々浦々にいっぱい作られたんです。

 つうか戦前は「神社は非宗教」て扱いですけど、戦後はそうじゃないですからね。地域の集会を神社でやったら政教分離原則上問題があると思いますし、何でここまで公民館(まあ、文化会館とか公民館以外の集会所についても田母神の態度は同じでしょうが)を敵視するのか?。
 大体公民館があったから神社が田母神の言うように重要性が落ちたのか。公民館を今からでも廃止すれば神社の重要性が上がるのか。全然そんなことはないと思いますよ。

よその国で普通にできることが日本では普通にできない。例えば総理大臣の靖国参拝。これは外国では、総理大臣や大統領が戦没者のところにお参りするのはごく普通のことですよね。

 靖国とアーリントンを同一視するいつものやり口です。「アーリントンは無宗教だが靖国神道」「靖国には未だにA級戦犯が英雄として合祀されてる」ことを考えればこんな言い訳は通用しません。
 どうしても靖国に首相に来てほしかったら「アーリントンのような無宗教化」「A級戦犯分祀」は最低限必要でしょう。
 が、まあ、靖国はそんなことしない*10でしょうし、そこまでやるくらいなら「千鳥ヶ淵の追悼でいい」と個人的には思います。

総理の靖国参拝も、私は毎月やったらどうかと思うんです。そのうち中国も韓国もくたびれて何も言わなくなりますよ

どんだけ中韓を舐めれば気が済むんでしょうか。

『日本はいい国だ』という報道はいまなおできていない

 そんなことはない。例えば日本人が何かいいこと(例:野依氏のノーベル賞受賞、なでしこジャパンの活躍など)をすればメディアは「よかった、よかった」と好意的報道をするわけです。
 田母神は「何があろうと日本を褒めろ、日本に欠点なんかないんだ」と無茶苦茶な事を言うから「できてない」となるだけの話です。

日本という国を私は大好きなんですね。自分の国を悪くいいたい、そういう人はいったい何なんだと私は思うんです。『そんなに日本が嫌いなら、どうぞ中国にでも韓国にでも行ってください』と、私は本当にいいたいですね

 たとえば靖国参拝については米国やEUも批判していますが「そんなに日本が嫌いなら、どうぞ米国にでもEU(英国、フランスなど)にでも行ってください」と田母神が言わない当たりが「中韓への差別意識」「欧米へのヘタレ態度」を示していて滑稽だなと思います。

 社民党の党首だった福島瑞穂さん*11なんかは『戦争できる国』にするんですかというわけですが、福島さん、実はその通りなんです。『戦争できる国』のほうが、戦争に巻き込まれないんです。これは歴史をみれば分かります。プロレスラーに飛びかかるバカはいないんです、強いから。

 田母神は福島氏の主張を全然理解していませんね(故意に曲解してるのかも知れませんが)。
 田母神のたとえで言えば「相手が殴りかからなくてもプロレスラーが殴りかかる権利=集団的自衛権」と理解しているのが福島氏ら集団的自衛権反対派です。
 田母神のように「プロレスラーが襲われたときにプロレスラー本人が反撃する権利(それだと個別的自衛権だと思いますが)」と理解してるわけではない。
 「相手が殴りかからないのに自分から殴りかかっていい」とするのと、「相手が殴りかからない限り自分からは殴らない」とするのとどちらが喧嘩を助長するかといったら前者でしょう。
 前者の立場の米国は世界中で戦争していますが、後者の立場の日本はそうではないわけです。
 そして今回の「集団的自衛権容認論」は「俺一人で殴ってると疲れるから、日本よ、お前が俺の代わりに殴ってくれ(米国)」と言う面(アメリカだけで軍事行使してると負担が大きいから日本も自衛隊を派兵して肩代わりしてくれ)が明らかにある。それのどこが「『戦争できる国』のほうが戦争に巻き込まれない」んでしょうか。明らかに米国の戦争に巻き込まれてる。

集団的自衛権の行使のように、よその国がやっているようなことを普通にできるということは、抑止力を高めることになるんです

 田母神が本気でそう思ってるのか、故意に詭弁を吐いてるのか知りませんが、安倍らは「集団的自衛権には国連軍参加や多国籍軍参加も含まれる」「地理的範囲に限界はない(日本の裏側でもOK)」としてるんだから「抑止力(日本防衛)」という話では全然ありません。

*1:慰安婦虚報などとバカを言ってる時点で門田氏のお里が知れます。「ああ、阿比留や古森と同レベルのバカウヨなんだな」と。

*2:著書『ジャーナリズムの陥し穴:明治から東日本大震災まで』(2011年、ちくま新書)、『原子力戦争』(2011年、ちくま文庫)、『私が伝えたい日本現代史1934〜1960』『私が伝えたい日本現代史1960〜2014』(2014年、ポプラ新書)など

*3:http://blogos.com/article/88000/参照。なおリンク先を読めばわかりますが、ここで田原氏が言うリアリティ云々とは「右傾化する日本人には私・田原も含めて安倍批判者にリアリティが感じられなくなってるのではないか」という自戒の言葉であって、内容の是非はともかく、産経のような形で朝日を罵倒してるわけではありません。

*4:共同配信の記事としてはたとえば日刊スポーツ『「嫌」に頼らず考えて』(http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20140607-1313800.html)。また、共同の記事ではないがこの件については例えば、毎日新聞『Listening:<時流・底流>売れる「嫌韓嫌中」本 若手出版人が「この国考えて」』(http://mainichi.jp/journalism/listening/news/20140602org00m040004000c.html

*5:2013年、祥伝社

*6:著書『日本国憲法を考える』(1999年、文春新書)、『日本国憲法はこうして生まれた』(2000年、中公文庫)、『憲法改正の論点』(2013年、文春新書)、『国防軍とは何か』(共著、2013年、幻冬舎ルネッサンス新書)など

*7:2012年刊行

*8:こじつけが成功してるようには見えませんが

*9:少子化について言えば「大家族が壊れたから少子化になった(田母神)」のではなく「少子化だから大家族が減った」のであって因果関係が全く逆です。

*10:分祀したらどうか」と言われて猛反発しています。

*11:社民党幹事長、党首、鳩山内閣消費者問題等担当相などを歴任。現在、社民党副党首。著書『結婚と家族:新しい関係に向けて』(1992年、岩波新書)、『裁判の女性学:女性の裁かれかた』(1997年、有斐閣選書)、『迷走政権との闘い』(2011年、アスキー新書) など