新刊紹介:「経済」7月号

「経済」7月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■随想「戦争体験の風化と偏狭なナショナリズム」(福地創太郎)
(内容要約)
 戦争体験の風化により安倍晋三のような「偏狭なナショナリスト」が首相になり日本を極右反動的な路線にもって行っているのではないのかという批判です。


■世界と日本
アメリカ最賃引き上げへ(洞口昇幸)】
(内容要約)
 詳しくは産経新聞『選挙前の賃上げ目論むオバマ氏、共和党が徹底抗戦』(http://sankei.jp.msn.com/world/news/140606/amr14060621450011-n1.htm)参照。最低賃金引き上げを目指すオバマと反対する共和党の戦いが激化しているという話。
 なお、産経記事も

コネティカットやハワイなど7州では今年に入り、州独自の最低賃金引き上げ法が成立した。

と書いているように、オバマ最低賃金引き上げ方針はそれなりの支持を得ており、今後が注目される。


オバマ来日とTPP協議:日米協議の現状と日豪EPA合意の問題点(北川俊文)】
(内容要約)
 赤旗の記事紹介で代替する。
オバマ来日とTPP】
「日米首脳会談 「共同声明」異例の先送り、TPP閣僚協議を継続」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-25/2014042501_01_1.html
「日米首脳会談について、志位委員長が会見」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-25/2014042501_02_1.html
日豪EPA
「牛肉関税引き下げ 日豪EPA「大筋合意」、国会決議踏みにじる」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-08/2014040801_03_1.html


【韓国・セウォル号沈没事故:新自由主義が産んだ大惨事(洪相鉉)】
(内容要約)
・何故事故が起こったのかの分析。
1)セウォル号の社員は非正規社員であり、雇用が不安定であった。また儲け主義の行きすぎで、安全対策には全く経費が使われていなかった。まさに新自由主義が産んだ惨事と言える。
2)一方で「新自由主義」とは矛盾するかのようにも思われる「官民癒着」が温存された事も事故を助長した。現在、韓国では「船舶点検が癒着でザルだったのではないか」という批判が起こっている。
 なお、こうした「官民癒着」のことを韓国三大紙(朝鮮日報中央日報東亜日報)の日本語インターネット版は「官マフィア(マフィアも同然の腐敗官僚集団と言う意味か?)」と呼んでいる。
【2014年6/8追記】
 「官民癒着疑惑」について、産経『【経済裏読み】「亡命」図った「セウォル号」会社オーナーの“自分さえ良ければ”…逃げ続け「指名手配」、韓国揺るがす疑獄に拡大との見方も』を一部引用してみます。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140608/waf14060807000002-n1.htm
 安全をないがしろにし、乗客を危険にさらしながら得たカネの一部は、政治家や天下った元官僚らの懐に消えた疑いがあるという。
■韓国揺るがす疑獄事件?
 東亜日報によると、捜査当局は全羅北道の蔡奎晶元副知事への事情聴取を行った。蔡氏は2001年〜06年6月の間に副知事のほか、益山市長などを歴任し、その後、同社の関連会社代表に就任した。 検察は、蔡氏に対し、数億ウォンもの資金が貸し出されていることなどに注目。蔡氏が(セウォル号事故を起こした清海鎮海運オーナー)兪氏への裏金作りに加担、政官界へのロビー活動も行っていたとみているという。
(中略)
 清海鎮海運の急成長をめぐっては、政治家、官僚らが不正に関与した可能性が極めて強い。
 東亜日報によると、兪容疑者は1997年に、別の海運会社を経営破綻させ、2年後に、事業をほぼ受け継ぐ形で清海鎮海運を設立。仁川〜済州間の旅客船運航を独占して急成長を果たした。
 その経緯がすでに怪しいが、同社は過積載を繰り返し、安全運航も十分ではなかった。にもかかわらず、政府機関の選ぶ「顧客満足度の優秀船社」に4度も名を連ね、仁川市は物流発展大賞を授与した。
 要するに、同社を含めた海運業界と、行政側とは“ズブズブな関係”にあったのだろう。
■悲惨な事故を起こした船の検査…1時間で「良好」
 朝鮮日報中央日報(いずれも電子版)によると、船舶の安全検査を行う韓国船級協会には多数の官僚が天下っていた。しかも検査は杜撰だった。例えば、セウォル号は浸水すれば自動的に46隻の救命艇が下りて使用できる仕組みだったが、実際に使用できたのは1隻だけ。同協会は今年2月にその検査を実施したが、わずか1時間あまりで「良好」と判定していた。要するに、見逃したのだ。
 合同捜査本部は5月12日夜、セウォル号の救命装備の安全点検を怠った検査担当者を偽計業務妨害などの疑いで逮捕した。


【中小企業の動向と金融(桜田氾)】
(内容要約)
 企業の倒産件数が減った事を理由に安倍政権は「アベノミクスの成功」を叫ぶが、休廃業件数も含めれば「活動を停止した企業の数」は決して少なくはなく、アベノミクスが成功しているとはとても言えない。
 このような状況下、金融機関の企業への貸し出しもあまり増えておらず資金運用先は未だに国債購入が多い。


特集「日本の貿易赤字と対外関係」
■「日本の主要製造業の現状:輸出・輸入構造の変化を中心として」(吉田三千雄*1
(内容要約)
 日本の貿易赤字は近年増加傾向にある。これについては国内生産の減少(つまり現地生産の増加)が大きな原因と思われる。
 論者によっては「どこで作ろうと日本企業の製品なら問題ない、貿易赤字が増えてもおそらく日本製品の販売数が大きく減ったわけではない」との声もあるが果たしてそれでいいのだろうか。産業空洞化の問題を軽視しすぎだと考える。


■「日韓経済関係の歴史・現状と課題:韓国の視点からみた経済関係」(佐野孝治)
(内容要約)
 安倍政権登場以前から「純粋に経済的な理由から」韓国経済における中国の占める割合(輸出入額等)の増加と、日本の割合の低下が起こっていたが「安倍政権の登場による関係悪化」によりそうした傾向にさらに拍車がかかっているように思われる。韓中FTA交渉はかなり進んでいるのに対し、日韓EPA交渉が現在停滞しているのも明らかに政治の影響があると思われる(もちろん「日本(あるいは中国)相手に市場開放した場合のデメリットの問題」という純粋に経済的な問題もあるが安倍政権誕生後の日韓関係悪化が交渉停滞状態を助長している事は否定できない)。早急な日韓関係改善が望まれる。


■「貿易データにみる中・日・米の関係」(桜谷勝美)
(内容要約)
 日本の対米輸出は「既に米国市場が開拓し尽くされた」ということもあってか、横ばい状態だが、日本の対中輸出はかなりの伸びを記録している。中国市場が当面、日本経済や地域経済(アジア経済)、世界経済に与える影響は大きいと思われる。


■「差し迫る『3つ子の赤字』は何を意味するか」(友寄英隆*2
(内容要約)
「3つ子の赤字」とは「財政赤字」「経常赤字」「家計赤字」の3つである。既に財政赤字は長年の問題だが「経常収支」「家計収支」については黒字額は減っているものの「現在黒字」であり、特に何ら予防措置を執らなくても、当面起こりえないとする見方もあるが、筆者はそうした見方には否定的である(否定的に見る理由についても書いてあるがうまく要約できないので紹介しないが)。
 その上で筆者は「3つ子の赤字の予防策」と「不幸にしてそうなった場合の対応策」について早急に論じる必要があるとしている。


■「NHKの危機を戦後史のなかで考える:安倍政権の介入・支配、放送行政の「改革」へ』(松田浩*3
(内容要約)
 籾井会長、長谷川、百田委員など取り巻きを経営陣に送り込みNHK支配を狙う安倍への批判。
 対抗策として短期的には
1)まずは籾井、長谷川、百田らの更迭を目指す、過去にもNHK会長の引責辞任はあった事*4を考えれば困難ではあるが不可能とまでは言えないと思う
2)籾井らによる政府御用報道を許さない監視、批判を行う事
 長期的には
 政府から独立した放送独立委員会による放送行政を目指す事、が必要であろう。

【過去のNHKの不祥事】

小野吉郎(ウィキペ参照)
 1973年、田中角栄*5首相に抜擢され第11代NHK会長に就任。
 会長在任中の1976年8月、田中がロッキード事件で逮捕される。小野は保釈中だった田中を見舞い世論の批判を浴びた。NHKに抗議が殺到し受信料支払い拒否者が急増、日本放送労働組合(日放労)の運動などで小野は9月引責辞任に追い込まれた。

NHKの不祥事(ウィキペ参照)
 1981年(昭和56年)2月4日に放送された、ニュースセンター9時の特集「ロッキード事件5年の真実」で、三木武夫*6元首相の田中角栄批判発言が田中寄りの島桂次報道局長(後に会長)の指示によりカットされたことが後に発覚、国民から批判される。

参考
赤旗
主張『NHK籾井会長、いつまで居座りを続けるのか』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-05/2014030501_05_1.html
『NHK予算案 異例の6党反対、“会長発言に国民の批判”、2万3300件「偏った放送心配」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-28/2014032801_01_1.html


■「法人税減税への安倍内閣の暴走:国民には大増税、大企業には減税」(垣内亮*7
(内容要約)
・安倍政権は法人税減税を「景気対策のため」と強弁している。しかし法人税減税の穴埋めとして実施される消費税増税による内需縮小効果で法人税減税の効果は打ち消されてしまうだろう。
・安倍政権は海外データを元に「法人税を減税しても、法人の収益増でかえって税収が増加する」としている(これを俗に「法人税のパラドクス」という)。しかしこれには
1)経済成長が法人税減税が理由か不明、たとえば1995〜2012年の米国は法人税を下げてはいないが経済は成長している。法人税減税を行なった国(例:英国)が経済成長してもそれが減税効果と言えるかどうか疑問
2)政府は1995〜2012年の期間に法人税を下げた英国では税収が増えたとするが、期間を「2007〜2012年」に設定すれば英国の税収は減っている。政府の期間設定が本当に適切なのかを問う必要がある。なお、英国とほぼ同じ期間(2007〜2012年)に税率を据え置いた米国の税収はほぼ横ばいである。
3)また海外で法人税のパラドクスが仮に認められるとしても日本では全く認められていない
と言う意味で全く賛同できない。
・日本の法人税は世界的に見て高いと財界、政府は言うが疑問である。確かに「税率だけ」を見れば高いのだが「課税ベースの違い」「各種免税、税軽減措置の存在」を考えると単純に税率だけで比較できない。そうした課税ベースの違いなどを考慮した実質税率(算出が難しいが)については「日本と欧米諸国は変わらない」あるいは「むしろ日本の税負担の方が軽い」という批判がある。
・以上より政府のもくろむ消費税増税法人税減税には全く賛成できない。


■「欧米並みの全国一律最賃制の実現を:最賃裁判の到達点」(水谷正人)
(内容要約)
 筆者は神奈川県労連議長。現在神奈川県労連が取り組んでいる最低賃金裁判訴訟を紹介している。
 もちろん筆者も書いているようにこうした訴訟は「もちろん勝利を目指すがある意味勝利は度外視」というところがあるし、仮に裁判に勝利したとしてもそれで運動は終わるわけではないという事を指摘しておく。

参考
神奈川県労連最低賃金裁判ニュース
http://kanarou.blog.fc2.com/
赤旗
最低賃金引き上げを、小池氏「保護水準超えず」、参院厚労委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2014-03-31/2014033104_02_0.html
最低賃金1000円超、労働法制改悪ノー この声届け、全労連・国民春闘共闘委が終日行動』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-23/2014052305_01_1.html


■「「ビッグデータ」問題と個人情報保護」(山城憲一)
(内容要約)
 いわゆるビッグデータの利用は「個人情報保護」の観点で問題があるが現在日本には規制する法律が何もない。早急な立法措置が必要である。

参考
赤旗『電子情報ご注意、何時何分何秒どこに行き、何を買い…丸見え、携帯・ICカード「ビッグデータ」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-29/2013092901_05_1.html

*1:著書『戦後日本重化学工業の構造分析』(2011年、大月書店)

*2:著書『「新自由主義」とは何か』(2006年、新日本出版社)、『変革の時代、その経済的基礎:日本資本主義の現段階をどうみるか』(2010年、光陽出版社)、『「国際競争力」とは何か:賃金・雇用、法人税、TPPを考える』(2011年、かもがわ出版)、『大震災後の日本経済、何をなすべきか』(2011年、学習の友社)、『「アベノミクス」の陥穽』(2013年、かもがわ出版

*3:著書『NHK:問われる公共放送』(2005年、岩波新書

*4:もちろんそのときは野党として社会党が今の民主党とは比較にならない政治力を持っていたという違いがあるが。

*5:岸内閣郵政相、自民党政務調査会長(池田総裁時代)、池田内閣蔵相、自民党幹事長(佐藤総裁時代)、佐藤内閣通産相などを経て首相

*6:鳩山内閣運輸相、自民党幹事長(石橋総裁時代)、岸内閣経済企画庁長官、科学技術庁長官(原子力委員長兼務)、佐藤内閣通産相、外相、田中内閣環境庁長官などを経て首相

*7:著書『消費税が日本をダメにする』(2012年、新日本出版社