新刊紹介:「経済」10月号

「経済」10月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■世界と日本
【中国の戸籍制度改革(平井潤一)】 
(内容要約)
 「農村から都市への人口流入(つまり農村の過疎化)を規制するため」実施されていたが、その結果「都市と農村の格差を生んでいた」という「都市戸籍農村戸籍の区別」をなくし、戸籍を一本化するという話(過疎化防止は別途、方策を実施するのだろう)。この話自体は以前から「やるべき」とされていたのが手つかずだったのだがついに実行されることにより農村、都市格差の一定の是正が期待される。

参考
産経新聞『都市と農村を統一へ、戸籍制度を改革 中国 格差是正や消費拡大狙う』
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140801/chn14080121020009-n1.htm
WSJ日本版『中国の戸籍制度改革がようやく具体化―大都市への移住には厳しい要件』
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303513604580072780217823068
■人民日報
『戸籍制度改革 居住証で都市流入労働者子女が移転先で受験可能に』
http://j.people.com.cn/n/2014/0730/c94475-8762957.html
李克強*1総理「出稼ぎ農民の市民化を推進」』
http://j.people.com.cn/n/2014/0731/c94474-8763375.html
『都市・農村の統一戸籍制度導入へ 二元的管理に終止符』
http://j.people.com.cn/n/2014/0731/c94475-8763511.html


インドネシア新大統領(和田幸子)】
(内容要約)
インドネシア大統領選挙ではジャカルタ特別州知事ジョコ・ウィドド氏が当選した。
・ジョコ氏の当選理由としては以下のことが揚げられる。
1)ジョコ氏本人への人気
 貧しい大工の家出身という「インドネシア版・田中角栄*2」であり、ジャカルタ特別州知事時代にも一定の業績を上げている
2)対立候補・プラボウォへの恐怖
 プラボウォはスハルト独裁政権下の軍幹部(元陸軍戦略予備軍司令官)で「独裁時代の反体制活動家の暗殺」に関与したという黒い疑惑があり、一時ヨルダンに亡命していた人物である。にもかかわらず「スハルト打倒後の政治」が今ひとつな為「スハルト独裁時代をよく知らない若者」中心に「プラボウォ人気が高まる」という笑えない事態が発生してしまった。「プラボウォ自身が独裁の実行者」「プラボウォの取り巻きも似たり寄ったりだ」「スハルト暗黒政治を復活させてはいけない」という「ストップ独裁」の思いがジョコ氏当選を産んだと言える。なおこういうネタを「自称アジアの民主主義推進団体」、本当はただのアンチ中国右翼団体、例の「アジア自由民主連帯協議会」はもちろん全く取り上げないわけです。
 ただし当然ながら「当選で全てが終わった」わけではなく、業績を上げられなかったら「過去の政権同様」の失望を受けることになるだろう。ジョコ氏の今後が期待される。

参考
シノドス『2014年インドネシア政変:ヘビメタ大統領・ジョコウィの誕生と「新しい風」(本名純*3/インドネシア政治研究)』
http://synodos.jp/international/10143
 「プラボウォ当選による反民主化の恐怖」とそれに対するジョコ陣営の選挙戦についての記事。
産経新聞『プラボウォ陣営に亀裂、ジョコ陣営へ鞍替え加速 インドネシア大統領選』
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140723/asi14072322340005-n1.htm
 プラボウォは「選挙不正」を叫んでるが選挙結果が覆る可能性に乏しい事から「ハッタ副大統領候補(前経済調整担当相)はそれに距離を置き」、また「ジョコ支持からプラボウォ支持に乗り換え失敗したゴルカル党のバクリ党首に対し引責辞任論が出ている」ことを紹介。巨大勢力にふくれあがったプラボウォ陣営も敗戦ショックで「中核のプラボウォグループ」を残して、雲散霧消するだろうと予測。

【2014年9/26追記】

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140926/asi14092621440006-n1.htm
産経新聞『首長選の直接投票廃止へ…インドネシア国会 新政権発足前に揺さぶりか』
 インドネシア国会は26日未明、州知事や市長ら首長の直接選挙を廃止し、地方議会が選ぶ間接選挙とする改正法案を賛成多数で可決した。改正法案は7月の大統領選で落選したプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官が推し進めていた。10月から新たな顔ぶれとなる国会や地方自治体で野党連合の影響力を高め、新政権を揺さぶる狙いとみられる。
 インドネシアでは1998年のスハルト独裁政権崩壊後、民主化地方分権が進み、2005年から首長は直接投票で選ばれるようになった。だが、巨額の選挙費などを理由に改正が検討されてきた経緯がある。
 10月20日に大統領に就任するジョコ・ウィドド*4ジャカルタ特別州知事は自らも首長選挙で頭角を現してきただけに、「民主化の後退」だと懸念を表明。世論調査でも8割が改正に反対していた。
 改正法案には、プラボウォ氏と協力関係を維持し、10月からの国会で最大野党となるゴルカル党のバクリ党首らも賛同。ただ、改選前に第一党(148議席)だった民主党が世論を受けて反対姿勢を示し、否決されると予想されていた。
 しかし、25日の審議は紛糾して10時間に及び、民主党は採決を棄権。その結果、法案は賛成226、反対135で可決された。ジャカルタ・グローブ紙(電子版)は「民主党と(党首の)ユドヨノは恥を知れ」と題する社説を掲げた。
 ユドヨノ*5大統領は、プラボウォ陣営とジョコ次期政権に対して「中立」姿勢を維持する一方、ジョコ氏を擁立した闘争民主党党首のメガワティ*6前大統領とは、過去の大統領選の確執で「犬猿の仲」とされ、今回の法改正にも両党首の対立が影響したとみられる。新たな国会で単独過半数に達せず、他党との協力が不可欠な次期大統領の与党に難題が立ちはだかった格好だ。

しばらくはインドネシア政治も前途多難なようです。


中南米・ 6億人の市場と資源開拓:安倍首相の中南米訪問(田中靖宏)】
(内容要約)
安倍が中南米訪問で成果をアピールしたことに触れた上で
1)南米にアメリカから一定の距離を置き(対米自立外交、全方位外交)、新自由主義から社民主義への転換を目指す「中道左派政権」が誕生している事、それらの政権は安倍路線とはかなりの差があること
2)安倍と同時期に中国の習主席が南米訪問をしていること、ブラジルとともに「BRICS*7銀行設立」などに動いていること
を指摘、「日本との経済文化交流ならともかく、安倍流の中国封じ込めにつきあう気は中南米にはないだろう」とし安倍の「中南米も巻き込んだ中国封じ込め*8」は挫折を余儀なくされるだろうとしている。
 まあ、要するに前から何度も書いてますが「安倍の反中国外交は異常」てことですね。そして「アンチ中国」Mukkeさんやペマ・ギャルボなんかは認めたくないでしょうがこうした「中国の国際社会での存在感」は当分変わらないわけです。だから「中国にへいこらしろ」て話じゃないですがいたずらに中国へ敵対しても何がどうなるもんでもないこともまた確かでしょう。

【参考:南米での中国外交】
■人民日報
習近平*9主席の中南米4カ国*10歴訪』
http://j.people.com.cn/94474/310044/index.html
『習主席がブラジルに到着 BRICS首脳会議に出席』
http://j.people.com.cn/n/2014/0715/c94474-8755768.html
習近平主席、ブラジル国会で重要演説』
http://j.people.com.cn/n/2014/0718/c94474-8757796.html
『習主席、中国と中南米諸国の首脳会議で演説、平等互恵、協力・ウィンウィン、共同発展」をテーマに』
http://j.people.com.cn/n/2014/0720/c94474-8758113.html
『習主席、アルゼンチン大統領と会談 全面的戦略パートナーシップを構築』
http://j.people.com.cn/n/2014/0720/c94474-8758116.html
『習主席、中南米・カリブ諸国共同体4カ国の首脳*11と会談』
http://j.people.com.cn/n/2014/0720/c94474-8758121.html
『習主席、アルゼンチンのブドゥ副大統領らと会見』
http://j.people.com.cn/n/2014/0720/c94474-8758122.html
『中国・ベネズエラ関係、包括的・戦略的パートナーシップに格上げ』
http://j.people.com.cn/n/2014/0722/c94474-8758974.html
習近平主席がカストロ*12議長と会談』
http://j.people.com.cn/n/2014/0724/c94474-8760245.html


特集「安倍『成長戦略』批判:守ろう、くらしの『岩盤』」
■「グローバル競争主義に走る安倍成長戦略:その国民的帰結とは」(二宮厚美*13
(内容要約)
いわゆる「アベノミクス第三の矢(成長戦略)」を内容的には小泉構造改革と同工異曲の新自由主義政策とみなし、小泉構造改革が「格差問題」といった弊害を生み出したのと同様の弊害を生み出すであろうと批判。成長戦略の実行阻止を呼びかけている。


■「財界のための「成長戦略」と消費税増税」(佐々木憲昭
(内容要約)
・成長戦略についても触れられているが、内容のメインは「消費税増税及びそれとセットの法人税減税」であるし、小生も力不足のため、その部分についてのみQ&A方式で触れる。
Q1「消費税増税8%の影響は」
A1「安倍政権は影響がない、あるいは影響は僅少であるかのように強弁しているが明らかに景気に大きなダメージを与えている。10%への消費税再増税など論外である。また8%にあげた消費税も即刻5%に戻すべきである」
Q2「安倍政権は増税分は社会保障に使うとしているが」
A2「消費増税での増収見通しを政府は5兆円としています。一方、今年の社会保障予算は1.4兆円しか増えていません。これで消費税増税社会保障に使ったというのは詭弁でしょう」
Q3「政府は増税緩和措置として1万円支給するとしていますが」
A3「みずほ総研の試算によると年収200万円の世帯で2万7千円、300万円の世帯で7万5千円の負担増になります。1万円では到底負担増をカバーできません」
A4「消費税増税と同時に行われる法人税減税について日本では法人税が高いからと言う主張がありますが」
A4「日本の法人税が高いという主張には根拠はありません。国際比較でも決して高くはないのです。なお法人税負担について考える場合は『税率』だけでは負担は分かりません。税率が高くても課税ベースが狭ければ負担は小さくなるからです」
Q5「法人税減税について空洞化防止という説がありますが」
A5「法人税減税が空洞化防止に役立っているというデータはありませんし、おそらくそのようなことはないでしょう。内閣府のアンケート調査では企業が海外に拠点を置く理由としているのは労働者の賃金が低いなど、法人税とは全く関係ない理由だからです」
Q6「法人税減税すれば賃金が上がるという説がありますが」
A6「過去において法人税減税してもそれは賃金上昇には結びついていません。法人税減税すれば当然に賃金が増加するという事実はどこにもありません。」

参考
赤旗
主張『法人税減税の強行、消費税増税と矛盾感じないか』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-26/2014062601_05_1.html
主張『7月の経済指標、消費税増税などとんでもない』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-08-31/2014083102_01_1.html


■「グローバル経済と雇用劣化:経済「好循環」政策と「働き方」改革」(佐藤修
(内容要約)
ホワイトカラーエグザンプション導入など、安倍内閣がもくろむ「働き方改革(雇用制度改革)」について「不安定な低賃金労働」「長時間労働」を増やすとして強く批判。

参考
赤旗
主張『雇用対策の充実、正社員が当たり前の社会こそ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-12/2014071201_05_1.html
『解雇しやすく低賃金、「多様な正社員」拡大へ、厚労省 有識者懇が報告書案』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-14/2014071404_01_1.html


■「健康産業創出と医療の市場化・営利化」(横山寿一*14
(内容要約)
 安倍政権が成立させた健康医療戦略推進法が取り上げられている。法が目指すものを「医療の市場化・産業化」とした上で、それによって「儲からない部分が切り捨てられないか」危惧を表明し、今後の監視を主張している。


■「安倍政権の女性活用論の狙い」(大西玲子)
(内容要約)
 わざわざアメブロhttp://ameblo.jp/kagayaku-josei-blog/)まで作って「女性活用」をアピールする安倍政権。しかし安倍政権は女性の就労を阻む要因である「長時間労働」を是正するどころか助長するホワイトカラーエグザンプションの導入をもくろんでいる。ここからは安倍政権の言う「女性の活用」とは「長時間労働に耐えて働く男性並みに働けるエリート女性は重用するつもりだ」という「エリート女性活用論」でしかないことがわかる。
 それは「女性の就労を促進するため、家事労働産業(つまり家政婦)を支援する」と言う方針でも明確だろう。「家政婦を雇える経済力の女性」とはエリート女性のことに他ならないからである。
 「ノンエリート女性」の存在を無視している点で到底安倍「女性活用論」は手放しで支持できるものではない。


■「国立大学の国家統制の強化をめざす「ガバナンス改革」」(光本滋*15
■「日本の学術研究と私立大学:財界のイノベーション戦略は何をもたらしているのか」(田中正和)
■「学校教育法・国立大学法人法「改正」問題と若手研究者の取り組み」(大河内泰樹)
(内容要約)
 安倍政権が行った学校教育法、国立大学法人法(学長権限の強化と教授会権限の縮小)への批判。
 大河内論文は■『大学自治壊す学校教育法改悪案、若手研究者の将来奪う、廃案へ関係者らがアピール』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-31/2014053114_01_1.html
といった若手研究者の取り組みについて紹介している。

参考
赤旗
『大学自治壊す学校教育法改悪案、若手研究者の将来奪う、廃案へ関係者らがアピール』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-31/2014053114_01_1.html
『「学長独断」の施行通知案了承、全大学で規則見直し求める』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-08-14/2014081402_02_1.html


■「企業の3月期決算の特徴 増収増益・人件費の削減」(谷江武士*16
(内容要約)
 企業が増収増益を遂げてもそれが「賃金の増加」に結びつかず、むしろ人件費が削減されていることが批判的に紹介されている。


■「「農地中間管理機構」と家族経営・地域農業再生の道」(河相一成*17
 2013年に成立した農地中間管理事業推進法が「農業の大規模化、企業化」を目指すものとして紹介される。
 その上で「農業の大規模化、企業化」を一面的な政策と批判し、むしろ「地域に根ざした家族経営農業」の価値を認めそうした農家を応援する政策を推進すべきとする。

参考
赤旗
『農地中間管理事業法案への紙議員の反対討論、参院農水委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-11/2013121104_02_0.html


■対談「日本と中国・東北アジア:経済史・地域研究の視点から」(久保亨*18、松野周治*19
(内容要約)
いろいろなご指摘がされているが、「中国、韓国と敵対関係をできるような関係ではもはやない」「関係構築においては歴史認識問題はいい加減には扱えない」ということが話の大前提になっている。

*1:共産主義青年団中央書記処第一書記、河南省長・党委員会書記、遼寧省党委員会書記、第一副首相などを経て首相

*2:注:金に汚いという意味ではない

*3:著書『民主化パラドックスインドネシアにみるアジア政治の深層』(2013年、岩波書店

*4:スラカルタ市長を経て現在、ジャカルタ特別州知事

*5:軍人出身。ワヒド政権鉱業エネルギー相、メガワティ政権政治・治安担当調整相を経て大統領

*6:建国の父、初代大統領スカルノの長女。ワヒド政権副大統領を経て大統領

*7:ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国。

*8:つうか安倍流の反中国につきあう国がどれほどあるかはなはだ疑問ですが。

*9:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て国家主席、党総書記、国家中央軍事委員会主席、党中央軍事委員会主席

*10:ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラキューバ

*11:コスタリカのルイス・ソリス大統領、キューバラウル・カストロ国家評議会議長エクアドルのコレア大統領、アンティグア・バーブーダのブラウン首相

*12:長年、キューバの最高指導者だったフィデル・カストロではなく弟のラウル・カストロのこと。長年「事実上のナンバー2(国家評議会第一副議長、閣僚評議会第一副議長、キューバ共産党第二書記)」であったが、フィデルの政界引退によりナンバー1(国家評議会議長国家元首)、閣僚評議会議長(首相)、キューバ共産党第一書記)に昇格

*13:著書『安倍政権の末路:アベノミクス批判』(2013年、旬報社)など

*14:著書『社会保障の再構築』(2009年、新日本出版社)など

*15:著書『新自由主義大学改革:国際機関と各国の動向』(共著、2014年、東信堂

*16:著書『事例でわかるグループ企業の経営分析』(2014年、中央経済社)など

*17:著書『現代日本の食糧経済』(2008年、新日本出版社)など

*18:著書『戦間期中国の綿業と企業経営』(2005年、汲古書院)、『社会主義への挑戦:1945-1971』(シリーズ中国近現代史4、2011年、岩波新書)など

*19:著書『中ロ経済論:国境地域から見る北東アジアの新展開』(共著、2010年、ミネルヴァ書房)など