新刊紹介:「歴史評論」10月号

特集『歴史教育の担い手をどう育てるか』
 詳しくは歴史科学協議会のホームページ(http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/)をご覧ください。興味のあるモノ、「俺なりに内容をそれなりに理解し、要約できたモノ」のみ紹介する。

■「教員養成における専門教育の課題」(佐久間亜紀*1
(内容要約)
・筆者は「教員養成の理念系」を
1)副専攻設置型(米国大学型)
2)職業教育付け足し型(日本の私立大学型)
3)一般教育重視型(上原専禄*2構想*3
4)職業教育並列型(国立学芸大学型)
5)職業教育特化型(1991年に多くの大学で一般教養科目が廃止されるまでの、国立大学教員養成系大学)
6)専門学教育排除型(1991年に多くの大学で一般教養科目が廃止されて以降の、国立大学教員養成系大学)
の6分類に分けて議論を展開している。議論の詳細については無能のためうまく要約できず紹介は省略する。
 本論文をどう評価するかについては
A)「教員養成の理念系」について筆者の6分類が妥当なのか
B)仮に妥当だとしても個々の分類についての筆者の評価が妥当なのか、が当然問題になるだろう(これについても、無能のため評価は到底出来ず特にコメントしない)。
・なお、4)職業教育並列型(国立学芸大学型)について簡単に触れておく。
日本には1967年まで「国立の学芸大学」が7つ存在した。ウィキペ「学芸大学」を引用しておく。

ウィキペ「学芸大学」
 1960年代後半まで日本に存在した、教員養成系の学部で構成される大学の種別。「国立学校設置法の一部を改正する法律」(昭和41年法律第48号)により、全国に存在した「学芸大学」と名のつく国立大学は東京学芸大学を除き全て改称した(東京学芸大学が「東京教育大学」に改称しなかったのは、既に東京教育大学*4(1973年廃止、筑波大学に改組)が存在したため)。
・北海道学芸大学→北海道教育大学(1966年改称)
・愛知学芸大学→愛知教育大学(1966年改称)
・京都学芸大学→京都教育大学(1966年改称)
大阪学芸大学→大阪教育大学(1967年改称)
・奈良学芸大学→奈良教育大学(1966年改称)
・福岡学芸大学→福岡教育大学(1966年改称)

筆者は「学芸大学の教育大化」により「4)職業教育並列型(国立学芸大学型)」は制度としては消滅した(「4型は5)職業教育特化型を経て、6)専門学教育排除型に移行した)と理解している。もちろん筆者の立場では「4型、5型が歴史的に果たした意義」「4型→5型→6型という変容は何を目的とし何故生じたのか、その変容は何をもたらしたのか」といった議論が必要になることは当然である。


■「誰が歴史教育を「暗記」にするのか」(山田智)
(内容要約)
 このタイトルでは「歴史教育の暗記学問化」を批判し、その脱却について論じているように思いそうだが実はそうではない。
 むしろ「歴史学において暗記が必要なのはある意味当然ではないか」「プロ研究者による一定の蓄積がある研究成果と、エセ歴史学は等価値には扱えない(例:邪馬台国論争においては畿内説、九州説はまともな説として扱えるがそれ以外は等価値には扱えない)、こうした暗記批判はエセ歴史学助長の一原因ではないか」「算数や理科など他の科目にも公式の暗記などがあるではないか、そうしたものはあまり批判されていないように思うが*5」とし「暗記批判は一面的ではないか」としている。
 問題は暗記(記憶)それ自体ではなく「なぜその事項を暗記しなくてはいけないのか」と言う問題意識や「A、B、Cと言う事項を単純に暗記するのではなそれらをどう関連づけするか」といったことではないかとする。


■「改憲的政治下の教育と歴史教育者」(子安潤*6
(内容要約)
・安倍政権において「地方教育行政法改正(教委に対する首長権限の強化)」「学校教育法及び国立大学設置法改正(教授会の権限縮小と学長及び理事会*7の権限強化)」
といった教育への「上からの統制・改革」が強まっている状況*8に対抗し、どう歴史学歴史教育を考え運動していくか*9と言った論考である(無能のためうまく要約できず内容紹介は省略する)。
・なお安倍政権においては「上からの統制・改革それ自体」ももちろん問題であるが、安倍政権の教育への見解が「河野談話否定論、南京事件否定論江戸しぐさなどに見られるように歪んだナショナリスム&エセ科学歴史修正主義)」である点*10も警戒すべき点である。


■「歴史教育と専門的学知」(中尾浩康)
(内容要約)
 中高一貫校に勤務する社会科教師である筆者の授業実践の報告とそれを元にした意見の表明。無能のためうまく要約できず内容紹介は省略する。


■「現行教員免許制度下における教員養成のあり方をめぐって」(小嶋茂稔*11
(内容要約)
・大学の歴史学教員は「大学における歴史教育」はともかく、「小中高校の歴史教育」については十分な問題意識がないのではないか、
「教員養成課程での歴史学教育」においても「専門研究者養成の歴史学教育」「一般教養としての歴史学教育」との間にどのような差異があるのか(あるいはないのか)十分な問題意識がないのではないのか
と言う認識から「歴史学者は教育学者や現場の教員との共同作業の元にそうした問題の解決を目指すべきではないのか」としている。
 ただし「筆者自身にはそうした実績がなく、また管見の限りそうした実績についてもつかむことができなかった、ご教示いただければ幸いである。」「そのため抽象的議論しか行う事が出来ず申し訳ない」としているところは残念な所ではある。


■歴史のひろば「家永三郎*12生誕100年と教科書訴訟の歴史的意義」(大串潤児)
(内容要約)
 2013年8月31日に行われたシンポジウム『生誕100年家永三郎さんの学問・思想と行動の今日的意義:歴史認識と教育を考える』についての大串氏による報告。内容紹介については無能のため省略する。
 なお、このシンポジウムの報告としては『家永三郎生誕100年:憲法歴史学・教科書裁判』(2014年、日本評論社)がある。

参考
■大串ブログ『家永三郎生誕100年 シンポジウム』
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/arts/prof/okushi_1/2013/09/54953.html
 大串氏によるネット上での簡単なシンポジウムについての感想。歴史評論の大串論文と当然ながら内容はかなりかぶる(ただしネット上のものは歴史評論掲載論文と比べて分量は少ないので「歴史評論で触れていても、ネットでは触れてない(あるいは触れているが詳細に論じてない)」部分がある点に注意)。


■歴史の眼「文化財保全活動4年目の新展開:長野県北部地震の現場から」(白水智*13
(内容要約)
 長野県北部地震を機に展開されている文化財保全活動の報告。内容紹介については無能のため省略する。

参考
■地域史料保全有志の会のブログ
http://ameblo.jp/shiryouhozen/
■栄村文化財レスキュー連絡掲示
http://8200.teacup.com/sakaemura/bbs
 掲示板はパスワード設定されているが今月号掲載の白水論文によれば「さかえ(小文字の英文字で)」と入力すれば読むことや投稿が可能とのこと。


■文化の窓「各地の資料ネットから5:ふくしま史料ネットの経緯と現状」(本間宏)
 東日本大震災を機に活動を開始したふくしま史料ネット(ふくしま歴史資料保存ネットワーク)の活動紹介。

参考
■ふくしま歴史資料保存ネットワーク
http://www.geocities.jp/f_shiryounet/


■科学運動通信「YOSHIMI裁判いっしょにアクション発足集会参加記」(千地健太)
 2014年1月11日に開催されたYOSHIMI裁判いっしょにアクション発足集会の参加記録。内容紹介については無能のため省略する。
 まあ、一点だけ触れておけば被告・桜内側(維新のチンピラ国会議員)が完全に逃げ腰なので「裁判の勝訴はほぼ確実と見ていい」のではないだろうか。問題は勝訴云々よりも「この勝訴判決を今後にどう生かしていくか」という方向に移りつつあるように思う。

参考
■YOSHIMI裁判いっしょにアクション公式サイト
http://www.yoisshon.net/

*1:個人サイト(http://homepage3.nifty.com/sakumalabo/

*2:一橋大学教授(中世ヨーロッパ史

*3:筆者は上原構想として『学問研究と教員養成』、『一つの大学教育論』(いずれも初出は、『国民教育研究所論稿』7号(1964年))をあげているが、できれば上原著作集も出典としてあげてほしかったところ。それとも著作集に収録されてないのだろうか?。

*4:その名称から教員養成を目的にした大学と誤解されやすいが、文学部・理学部・教育学部・体育学部・農学部からなる総合大学であった(ウィキペ「東京教育大学」参照)。

*5:ただし、そうした理数系の暗記についても「筆者の想定」とは異なり「公式をただ暗記させるのではなくその論理を理解させるべきだ」とする一定の批判はあるかと思う。

*6:著書『「学び」の学校:自由と公共性を保障する学校・授業づくり』(1999年、ミネルヴァ書房)、『リスク社会の授業づくり』(2013年、白澤社)など

*7:理事は学長によって選任される

*8:筆者は「改憲的政治下」と呼んでいる

*9:もちろんそれが全てではないが今月号で紹介されている「YOSHIMI裁判」もそうした運動の一つであるだろう。

*10:本論文は歴史論文であるため触れていないが「親学、EM菌」など歴史学以外の分野(理系分野など)においてもそうした問題点は安倍政権に存在する。

*11:著書『漢代国家統治の構造と展開:後漢国家論研究序説』(2009年、汲古叢書)

*12:著書『戦争責任』(2002年、岩波現代文庫)、『太平洋戦争』(2002年、岩波現代文庫)、『一歴史学者の歩み』(2003年、岩波現代文庫)など

*13:著書『知られざる日本:山村の語る歴史世界』(2005年、NHKブックス