新刊紹介:「経済」11月号

「経済」11月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■巻頭言「21世紀の資本論」
(内容要約)
 ピケティ『21世紀の資本論』(邦訳、2014年、みすず書房*1)がベストセラーになってることについて「21世紀のための新しい資本論」が求められているからだとし、不肖『経済』誌もそうした願望に少しでも答えたいという改めての決意表明。


■世界と日本
【韓国・財閥の大学支配(洪相鉉)】
(内容要約)
 斗山(中央大学)、サムスン成均館大学)など財閥経営者が「大学理事長、理事」などとして大学経営に進出していることへの危惧の表明。企業は金儲けが目的である以上こうした「大学経営への進出」それ自体は容認するにしても「大学自治が企業の論理で侵害されてないか」警戒し監視する必要はあるだろう。


【タイの新政権発足(松本眞志)】
(内容要約)
 タイでは、タクシン派政権(元首相タクシンの妹・インラックが首相)を軍がクーデターで打倒して陸軍司令官を暫定首相とする新政権が発足した。
 しかし「タクシン政権も軍クーデターで打倒されたがその後、インラック政権が誕生したこと」から、タクシン派の反撃が予想されている。また度重なるクーデターにより国のイメージは大きく落ち、欧米もタイから距離を置くようになっている。今後のタイ情勢が注目される。


【新欧州委員会発足へ(宮前忠夫*2)】
(内容要約)
・5月の欧州議会選挙を受けて新欧州委員会が6月に発足したことを簡単に説明。まだ新委員会が本格的に動いていないため特に評価はない。


■随想「宮澤・レーン事件」(富森虔児*3
(内容要約)
 軍機保護法による冤罪事件『宮澤・レーン事件』を簡単に紹介した上で、現代版軍機保護法と言える特定秘密保護法の廃止を主張。


特集「地域再生の対抗軸」
■対談「住民自治を生かした地域経済の発展」(岡庭一雄*4、岡田知弘*5
(内容要約)
 岡庭氏(前・長野県阿智村村長)が携わった阿智村の村おこしを題材に「住民自治を生かした地域経済の発展」について議論。


■「人口減少社会に向けた国土計画のあり方」(中山徹*6
(内容要約)
・まず「今後、政府の少子化対策が失敗した場合」はもちろん、成功した場合でも「その効果が出る」までには「人口減少は避けられない」とし、人口減少社会に向けた国土計画が不可避と主張。
・人口減少が地方の過疎化につながらない対策(地域地場産業の育成など)が必要とする。


■「中小企業振興条例と地域経済」
東大阪市の条例制定とものづくり発展めざす課題】(内海公仁)
(内容要約)
・筆者は共産党東大阪市議。東大阪での中小企業振興条例制定までの経緯と制定後の課題が説明されている。


【地域と大学の共同:愛媛県東温市松山市】(和田寿博)
(内容要約)
 筆者は東温市松山市の審議会委員として条例制定に関与した愛媛大教授。条例制定までの経緯と制定後の課題が説明されている。タイトルは「地域と大学の共同」だが現時点では「条例制定において大学教員が協力した」という話しかないようでそこは残念なところではある。



■「農業・自然的資源を生かす小さな経済:新潟・戦略特区、TPPに対抗」(伊藤亮司*7
(内容要約)
 TPPに対抗するためとして県によってぶち上げられた『新潟国家戦略特区・ニューフードバレー構想』(http://www.city.niigata.lg.jp/shisei/seisaku/kokkatokku/tokku-project.html参照)を地域に密着した物とは言えないとして批判した上で地域に密着した注目すべき試みとして「「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度」(https://www.city.sado.niigata.jp/eco/info/rice/index.shtml参照)を紹介している。


■「太陽光発電脱原発・地域自立へ挑戦」(福島農民連・佐々木健洋事務局長)
(内容要約)
 福島農民連が進めている太陽光発電事業の紹介。


■「バイオガスによる地域産業創出の新たな可能性」(大友詔雄*8
(内容要約)
 ドイツの経験を元に「バイオガスによる地域産業創出の新たな可能性」を説明。


■「近づく沖縄県知事選挙と沖縄経済」(来間泰男*9
(内容要約)
 筆者は「沖縄経済における基地のパーセンテージ(軍用地地代や軍雇用者収入)」は減少傾向にあり、そうした意味では「基地がなくなったからといって」沖縄経済が大ダメージと言う事はないだろうとする。もちろん軍用地地主や基地労働者の「収入の問題」はあるし、それには対応が必要なことは言うまでもないが「沖縄経済全体が沈むかのような物言い」は間違いだ、とする。
 ただし「基地を飲ませるために中央政府がぶち込んできた予算」は減る可能性が当然あるし、それについては「それ相応の対抗策(中央補助金なしでの経済振興案)」を打ち出す必要があるだろう(残念ながら本論文においては具体的対抗策までは書かれていない)。
 しかし、あえて言えば「経済に悪影響があったとしても」基地被害は容認できる物ではないのだ」とも言いたい、と筆者は断っている。


■データで見る日本経済14「GDP年率7.1%減」
(内容要約)
 GDP減少を「アベノミクスによる物価上昇」「消費税増税」による内需落ち込みと分析。消費税増税の中止(8%から5%へ戻す)を訴えている。


■「アベノミクスと「都市再生」:異次元緩和は何をもたらすか」(豊福裕二)
(内容要約)
アベノミクスにより都市部の地価が高騰していることを「1980年代の土地バブル」と類似の物ではないかとした上で地価高騰が都市計画の妨げになっていると批判。


■「第一次世界大戦勃発百年を遠望して」(望田幸男*10
(内容要約)
 多様な指摘を筆者はしているが小生的に一番共感したのは「第一次大戦後」の「ドイツ、フランス」と「日本、中国」の違いについての指摘だろう。
 様々な違いがあるため、単純比較はできないが「もはや戦争は起こりえないと言われる独仏関係」と「残念ながらそうではない日中関係」を考えるとため息が出る。


■「「カジノ推進法案」批判:略奪的ギャンブル合法化を許すのか」(鳥畑与一*11
(内容要約)
 いわゆるカジノ推進法案への批判。
 批判の主な内容は以下の通り。
1)いわゆるギャンブル依存症問題
2)既にマカオシンガポールなどアジアにライバルが存在するのに収益を上げられるのかという疑問。

参考
赤旗ギャンブル依存症大国の日本、これでもカジノ解禁か、大門議員 合法化法案を告発』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-29/2014042901_01_1.html

*1:ただし邦訳書のタイトルは『21世紀の資本』。だが「21世紀の資本論」と訳してるケースが多々あるので誤訳とは言えないだろう。

*2:著書『人間らしく働くルール:ヨーロッパの挑戦』(2001年、学習の友社)

*3:著書『「市場」への遅れためざめ:CIS・中東欧経済のカルテ』(1993年、社会思想社現代教養文庫)、 『自己組織化と創発の経済学:「日本的システム」に未来はあるか」(2001年、シュプリンガー・フェアラーク東京)、『生命の経済学:生物学による経済学再構築』(2008年、春風社

*4:前・長野県阿智村村長。著書『協働がひらく村の未来:観光と有機農業の里・阿智』(共著、2007年、自治体研究社)

*5:著書『地域づくりの経済学入門』(2005年、自治体研究社)、『一人ひとりが輝く地域再生』(2009年、新日本出版社)など

*6:著書『地域経済は再生できるか』(1999年、新日本出版社)、『人口減少時代のまちづくり:21世紀=縮小型都市計画のすすめ』(2010年、自治体研究社)など

*7:著書『TPPで暮らしと地域経済はどうなる』(共著、2011年、自治体研究社)

*8:著書『自然エネルギーが生み出す地域の雇用』(編著、2010年、自治体研究社)

*9:著書『沖縄経済の幻想と現実』(1998年、日本経済評論社)、『沖縄の米軍基地と軍用地料』(2012年、榕樹書林がじゅまるブックス) 、『沖縄農業:その研究の軌跡と現状』(2013年、榕樹書林がじゅまるブックス)など

*10:著書『ふたつの近代:ドイツと日本はどう違うか』(1988年、朝日選書)、『ナチス追及:ドイツの戦後』(1990年、講談社現代新書)、『ドイツ・エリート養成の社会史:ギムナジウムアビトゥーアの世界』(1998年、ミネルヴァ西洋史ライブラリー)、『近代日本とドイツ:比較と関係の歴史学』(2007年、ミネルヴァ人文・社会科学叢書)、『二つの戦後・二つの近代:日本とドイツ』(2009年、ミネルヴァ歴史・文化ライブラリー)など

*11:著書『略奪的金融の暴走』(2009年、学習の友社)