新刊紹介:「経済」12月号

「経済」12月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■巻頭言「妙味も憲法もある道徳を」
(内容要約)
 安倍政権の道徳必修教科論に対し「仮に道徳を必修教科とするとしても」その場合求められる道徳は「憲法の人権保障を前提とした物」でなければならず、安倍政権が目指していると疑われる戦前型の「人権無視」「滅私奉公」「上意下達」道徳は論外であるという指摘。


■随想「DV被害者と向き合う憲法九条」(大久保佐和子)
(内容要約)
 奇妙なタイトルではあるが内容としては「暴力で物事を解決しようとする方向性」では「暴力夫」と「戦争国家」は似ているのではないか*1、「憲法九条の精神」による政治を目指すとは「暴力による問題解決を許さない」と言う意味で九条のような「一見DVとは関係ないように思われる法制度」もつながっているのではないかという話。


■世界と日本
スコットランド住民投票:独立否決の背景と意味】(宮前忠夫)
(内容要約)
 スコットランド住民投票で独立は否定された。
 この背景には「英国側の飴と鞭があった」と言えるだろう。独立を阻止するため英国中央政府
1)独立したらスコットランドとの関係を見直さざるを得ない、英国企業のスコットランド撤退もあり得るとムチを振るう一方で
2)スコットランド側の独立要求に配慮して従来以上に自治権を拡大するとともに、スコットランドへの予算も増やすつもりだとアメをちらつかせた
のである。
 「ムチへの不安とアメへの期待」から独立反対票が僅差で賛成票を上回る結果となり、独立は今回は見合わされた。独立賛成派は「ムチへの不安とアメへの期待」を打ち破ることができなかった。
 ただし問題は解決したわけではない。「与えると約束されたアメ」は現時点では「与えられておらず」、英国内にはアメを与える事への批判も存在する。「アメの問題」がどうなるかによって独立問題は再燃する可能性があり今後も展開は予断を許さない。

参考
赤旗スコットランド独立否決、英緊縮策への不満、大接戦 自治権拡大の成果も』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-20/2014092007_01_1.html


【中国の所得格差是正策】(平井潤一)
(内容要約)
 中国の所得格差は、たとえば、シノドス『中国の所得格差はどうなっているのか?』(梶谷懐*2)(http://synodos.jp/economy/7048)が紹介する「中国国家統計局発表のジニ係数データ」からもわかるように「2008年以降、政府の是正策が一定の効果を上げたか、ジニ係数の若干の縮小が見られるが」大きな流れとしては拡大傾向にある(また縮小後のジニ係数は0.4%台であり、ジニ係数としてはかなり高い部類に入る)。
 なお、国家統計局データについては、調査方法の不備を指摘し「まだ過小評価ではないか」とする説もあるが、仮にその立場に立つにせよ統計局データでも格差拡大*3が認められることは興味深い。中国政府が「格差拡大の事実それ自体を認識しているしそれを隠蔽する気もない」と言うことを意味するからである。中国政府は格差拡大傾向を認めた上でそれに対する是正措置をとっているわけだがそれをどう評価するかは今後の動向を見ないと何とも言えない。


【鉄鋼市場から見たアジア:東アジア「4カ国」が輸出競争を展開】(大場陽次)
(内容要約)
 アジアの鉄鋼市場において主たる生産国は「日本、中国、韓国、台湾」の東アジア「4カ国」*4である。
 「4カ国」は「生産量が国内消費を上回る状況」のため、「輸出競争に力を入れている」が、この激烈な競争の中、「脱落する国が出、それ*5が世界経済に悪影響を及ぼすこと」が危惧される。


■コラム「訪中経済ミッション」
(内容要約)
 9月に行われた経団連の訪中団*6について言及。
1)訪中し「日中関係改善」を希望しながらも「少なくとも表面上は明確な形ではほとんど安倍に対して『靖国参拝は止めるべき』などの、批判や働きかけを行っているとは思えない」経団連の態度を批判するとともに
2)こうした経団連の態度を無視するかのような安倍の反中国的態度を批判、「今のママではいつ首脳会談が行われるか心許ない」「ポスト安倍に期待するしかないかも知れない」としている。
 なお、本コラムは「11/8刊行」という12月号の事情から当然「11/7に発表された安倍の首脳会談予定」を反映していない。


■コラム「TTIP反対統一運動」
(内容要約)
 欧米版TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と呼ばれるTTIP(環大西洋貿易投資連携協定)批判運動の紹介。

参考
赤旗
■『米欧版TPP交渉批判、双方の労組連合が共同宣言』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-16/2014071607_01_1.html
■『欧米版TPP交渉停止求める 22カ国で一斉行動』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-13/2014101301_04_1.html


特集「中小企業の振興なくして発展なし」
■「日本型グローバル化と中小企業問題」(吉田敬一)
(内容要約)
 政府の「グローバル経済対応」がもっぱら大企業中心であることを批判、中小企業に対する適切な支援策を求めている。


■「中小企業政策の展開とアベノミクス」(大林弘道)
(内容要約)
 「外形標準課税拡大論(大企業の税負担が軽くなる反面、中小企業に対する税負担が重くなると危惧されている)」に象徴されるように、安倍政権の経済政策には「大企業への視点」はあっても「中小企業への視点」がないことを批判。

参考
赤旗『消費税10%・外形標準課税拡大、参考人が次々反対表明』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-20/2014062005_02_1.html
 中小企業関係団体(全国商工会連合会*7中小企業家同友会全国協議会全国商工団体連合会)が軒並み外形標準課税に否定的なことが分かる。


赤旗『外形課税拡大を批判/参院委で大門氏 中小企業への負担強化』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-17/2014101708_01_1.html
J-CASTニュース「赤字でも払わなくてはいけない 外形標準課税、中小企業への拡大検討」
http://www.j-cast.com/2014/06/26208436.html?p=all


■「縮小する都市型工業集積と中小企業:東京・大田区調査から」(小林世治)
(内容要約)
 東京大田区は中小企業の集積地として知られるが、最近の統計データに寄れば事業所数や従業員数の減少が見られる(ただし出荷額がわずかながら増えている)。
 こうした事態が何故生じたのか分析した上での適切な対応が求められる。


■「地域経済を担う地場産業の中小企業」(山本篤民)
(内容要約)
 「愛媛県今治市のタオル生産」「岩手県盛岡市の南部鉄器製造」「福島県昭和村のからむし織り」など各地の地場産業での取り組みを紹介。こうした地場産業を支援する政府の取組を求めている。


■「経済センサスに見る中小企業の現状」(高木貞二)
(内容要約)
「経済センサス」とは
1)調査に応じる企業の負担軽減
2)調査内容の重複の解消、などを目的として
従来実施されていた「事業所・企業統計調査」、「サービス業基本調査」などを統合して新しく生まれた経済統計の一種である。
 経済センサスのデータから
A)中小企業の事業所数、従業員数が減少傾向にあること
B)そうした減少傾向は地方で特に深刻なこと
が読み取れる。


■「小規模企業振興基本法について」(薄木正治
(内容要約)
 先の通常国会で可決成立した「小規模企業振興基本法」の解説。基本的には共産党はこの法律を評価している。


■座談会「消費税10%増税、冗談じゃない!」(山根香織*8藤井隆*9大門実紀史*10
(内容要約)
・女性の立場(山根氏)、中小企業の立場(藤井氏)から「消費税増税では生活が苦しくなる(山根氏)」「売り上げが激減するだろう(藤井氏)」と言った批判意見が述べられる。
・大門氏から「既に8%増税で山根氏、藤井氏のいうような事態が起こっている」との指摘がされる。
・「消費税増税財政再建、福祉向上」と言う主張に対しては大門氏から「すでに3%から5%、そして5%から8%への増税がされたがそれは財政再建や福祉向上に役立ったのか」「むしろ過去の消費税増税法人税減税の穴埋めが目的であり、実際、法人税減税の穴埋めにもっぱら使われ財政再建や福祉向上には役立たなかった」との批判がされる。


■対談「戦争する国にしないために」(緒方靖夫*11、熊岡路矢*12
(内容要約)
 いろいろな指摘がされているが「日本において英米と比べてもイラク戦争の検証が弱いこと」「安倍政権の極右性(靖国参拝河野談話否定論など)への批判」は全く同感である。


■データで見る日本経済15「膨張する内部留保、所得格差」
(内容要約)
 統計データから「内部留保、所得格差」が拡大傾向にあることを指摘。内部留保を賃金向上に少しでも当て所得格差を縮小することが求められると批判する。


■「外形標準課税拡大による増減税額の試算」(梅原英治)
(内容要約)
 外形標準課税拡大は不当に大企業の税負担を軽くし、一方、中小企業の負担を重くするとして拡大論を批判。


■「労働者使い捨て、派遣永続化を可能にする派遣法「改正」法案を廃案へ」(中村和雄*13
(内容要約)
 赤旗の批判記事で要約に代替する。

参考
赤旗
■『労働者派遣法改悪案:高橋議員の代表質問(要旨)、衆院本会議』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-29/2014102904_01_0.html
■ 主張『「派遣法」審議入り、雇用破壊の逆流は許されない』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-29/2014102901_05_1.html
■『派遣法改悪案 廃案しかない、「生涯ハケン」「正社員ゼロ」の危険』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-05/2014110502_02_1.html


■「大企業の金利不正操作:「ライボー/タイボー」問題の国際的対応」(丸井龍平)
(内容要約)
まず英国金融大手バークレイズによるライボー(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作、シティグループによるタイボー(東京銀行間取引金利)の不正操作について説明。そうした不正操作の起こらないシステム作りの必要性を主張している。

参考
赤旗
■『大手銀 金利不正操作か、関係者指摘 大門議員「調査・監視を」、参院財政金融委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-16/2014051608_01_1.html
■『大門氏、銀行任せ 批判、各行間金利の指標設定』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-22/2014052208_01_1.html

*1:もちろんイコールではあり得ないが

*2:神戸大学教授。サイト(http://www.econ.kobe-u.ac.jp/~kajitani/)。著書『「壁と卵」の現代中国論』(2011年、人文書院)、『現代中国の財政金融システム』(2011年、名古屋大学出版会)

*3:ただし指摘したように2008年以降、一定の縮小が見られる。

*4:「一つの台湾、一つの中国」支持者と誤解されたくないので「4カ国」にカギ括弧をつけた

*5:最悪の場合、鉄鋼メーカーの倒産と言う事もあり得るため

*6:張富士夫トヨタ自動車名誉会長(日中経済協会会長)や米倉弘昌住友化学会長(日本経団連会長)らが参加。希望していた習近平国家主席李克強首相との会談はかなわなかったが習主席、李首相の信任が厚いと言われる汪洋副首相との会談が実現した。

*7:商工会の全国組織。商工会は、商工会法に根拠のある点で「法的根拠はない」他の二つの組織とは違い公的な性格が強いと言える

*8:主婦連合会会長

*9:全国商工団体連合会副会長、大阪商工団体連合会会長

*10:日本共産党参院議員

*11:日本共産党副委員長、国際局長。神奈川県警による違法盗聴の被害者としても知られる。

*12:著書『カンボジア最前線』(2003年、岩波新書)、『戦争の現場で考えた空爆、占領、難民:カンボジアベトナムからイラクまで』(2014年、彩流社

*13:日弁連労働法制委員会委員