新刊紹介:「経済」8月号

「経済」8月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■世界と日本
【中国の家族追跡調査】(平井潤一)
(内容要約)
 中国が平成27年5月に発表した『中国家庭発展報告』の紹介です。
 これについてはまずググって見つけた以下の記事を参考に紹介しておきます。

人民日報
■『中国、独身男性は農村に、独身女性は都市部に集中』
http://j.people.com.cn/n/2015/0514/c94475-8892401.html
■『中国の60歳以上高齢者2.12億人』
http://j.people.com.cn/n/2015/0615/c94475-8906820.html
■リベラル21『中国の家庭事情:「独身男性は農村に、独身女性は都市部に集中」』(阿部治平)
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-3218.html

 先ず第一に「少子高齢化」が深刻だと言う事です。「介護問題」「年金問題」など「少子高齢化で発生するであろう諸問題」に対してどう対応していくか、中国政府の力量が問われます。なお「少子化」の一因である「一人っ子政策」については近年、「緩和の方向性」に進んでいるようです。
 第二に

http://j.people.com.cn/n/2015/0514/c94475-8892401.html
■人民日報『農村部の子供の3割「親は出稼ぎでおらず」』
 中国では、都市化が進められる過程で、農村の労働者が都市部に移っており、その家族が農村に残されるという現象が起きるため(中略)データによると、農村の子供のうち、親が出稼ぎに出、農村に残されている子供が35.1%を占めている。さらに、そのうちの約半数は、両親共に出稼ぎに出ている。そのような子供は、家庭で両親の愛を十分に受けることができないため、健全な成長という面で、悪影響を受ける。
 地域別に見ると、「親が出稼ぎに出、農村に残されている子供」の割合が高いのは、中国の中部や西部。

 つまりは貧困地域の労働者は職がないため「出稼ぎに行かざるを得ない」「その結果子どもの成長に悪影響が出る恐れがある(情緒不安定や非行など)」ということです。
 最悪の場合
産経新聞『児童4人が自殺、父は出稼ぎ、母は家出…繰り返される「留守児童」めぐる悲劇』
http://www.sankei.com/world/news/150703/wor1507030001-n1.html
なんてことになるわけです。
 結局解決策としては「貧困地域の経済底上げ」が必要と言う事になるのでしょう。そうすれば出稼ぎの必要もないわけです。


【「企業統治指針」の適用】(大島和夫*1
(内容要約)
 5月に金融庁東京証券取引所によって制定され、6月から適用が始まった「企業統治指針」についての簡単な説明。「企業統治指針」については「ガバナンス向上に役立つことが期待される」とする一方で「指針が実際にどう運用されどう影響を与えるか」今後の監視が必要としている。


【銀行の3月期決算の特徴】(桜田氾)
(内容要約)
 銀行3月期決算を分析。銀行の収益が貸し出しではなく、金融商品中心であることを指摘。
1)銀行業界に「金融業の責任」として貸し出しに力を入れること
2)貸し出しが低いことを「景気が好転していないことの象徴」として政府による貸し出し増加政策の実施(政府自らによる貸し出しや、銀行業に対する貸し出し支援策)
を求めている。


特集「戦後70年「植民地支配と侵略」の実相」
■「「植民地支配と侵略」と計画性と国家の責任」(山田朗*2
(内容要約)
 今回の特集は「狭い意味では経済の範囲内に入らない」でしょうが広い意味では「入ります」よね。
 「アジア諸国中韓や東南アジア)との友好」なくして「日本経済の健全な成長」はありえないでしょう。
 で、山田論文は今回の特集の総論的内容です。さて山田氏は「日本の侵略、植民地支配の正当化論」として3つのものを提出し、それについて氏なりの批判を加えていますので俺なりに紹介、説明してみましょう。
1)「侵略、植民地支配は日本だけではなく欧米もやっている(アメリカのフィリピン支配、英国のインド支配、フランスのベトナム支配、オランダのインドネシア支配など)。何故日本共産党や中国、韓国政府などは批判するのか」
 これについての批判は容易でしょう。
 先ず第一に「日本の植民地支配」を「日本共産党など日本人(侵略の加害者側*3)」や「中国、韓国政府(侵略の被害者)」などが批判するのは当事者だからです。一方、当事者でないもの(欧米の植民地支配)については日本、中国、韓国には批判する動機もあまりないでしょう。別に日本、中国、韓国がしなくてもインドとか当事者がやるでしょうし。
 第二に「あいつもやってる」などというのは「植民地支配や侵略」に限らず、正当化の理屈としてはレベルが低すぎます。
 第三に欧米においても「植民地支配や侵略」に対する批判は存在します。そして「仮に反省が不十分だとしても」さすがに欧米各国政府も「旧植民地諸国」に対して「植民地支配して何が悪い、俺のおかげで近代化したんだろうが」などと居直るほど野蛮で低劣ではありません。
2)「植民地支配のおかげで台湾、朝鮮は近代化できた」
 この理屈だとたとえば「中国のチベット解放のおかげでチベットは近代化できた、青海チベット鉄道ができた、識字率も上がった、平均寿命も延びた、GNPも増えた。ダライ一味(チベット亡命政府)らの批判は言いがかりだ」と言えてしまいます。チベットが中国によって近代化されたことは事実ですから(まあ、チベット清朝中華民国時代から中国の領土なので、日本の朝鮮支配などと違って植民地じゃないですけどね)。
 なお、ここでチベット持ち出したのには「ウヨに対する反論として有効(どういう意味か、後で説明しますが、説明しなくても皆さんも分かるのではないか)」と言う意味以上に、他意はありません。まあ、俺に「自力で近代化ができなかったダライ一味への嫌み」という他意があろうとなかろうとこれからの話の内容には関係ないですけど。
 じゃあ、「日本の植民地支配を近代化で正当化する」日本ウヨ連中は「中国のおかげでチベットは近代化できた」、そう言って「中国のチベット統治を支持」するのか。ダライにノーベル平和賞を与えた連中を「中国のチベット近代化を否定する愚か者」として批判するのか。ダライ一味に対して「自力で近代化もできなかった無能が近代化してくださった中国様へ非難とはダライ一味は何様だ。むしろ鉄道を造ってくださってありがとうと感謝したらどうなのか。」と非難するのか。
 今さら言わなくてもおわかりでしょうがウヨ連中は掌返しで「鉄道などの近代化が全てじゃない、現地住民やダライラマチベット亡命政府の意思も大事だ」「近代化は中国のためであってチベットの為じゃない」などと言い出すわけです。あげくダライ一味と野合する。
 つまりは、日本ウヨに何の一貫性もないわけです。本来、「近代化万歳、近代化が全てに優先する」なら「ダライの反対だの、チベット人焼身自殺だの人権侵害だのに関係なく、チベット統治も正当化しないといけない*4」し、「近代化が全てじゃない」のなら「日本の朝鮮統治も批判すべき」です。
 まあ、そもそも「欧米の植民地では近代化がなされなかった」かのようなウヨの物言いがデマですが。そもそも植民地統治とは「飴と鞭」で成り立つものであって「鞭オンリー」で成り立つもんじゃありません。
3)「大東亜戦争はアジア解放の正義の戦争だ、アジア諸国を日本の領土とするための戦争ではない」
 まず第一に、ウヨは一方で「ハルノートではめられて戦争になった」「ゾルゲらソ連スパイの陰謀で戦争になった」と言います。つまり「日本は戦争をしたくないのに引き込まれた」として「アジア解放戦争論」と矛盾したことを言い出して恥じません。
 当然ながら「アジア解放戦争論」と「ルーズベルトスターリン陰謀論」は両立しません。
 無理に両立させたら「ルーズベルトスターリンが日本を罠にはめたおかげでアジアは独立できた。アジアの独立はルーズベルトスターリンのおかげだ。アジア人はルーズベルトスターリンに感謝しよう」というトンデモない話になってしまいます(まあ、ベトナムホーチミンなど共産系独立活動家をスターリンが支援していたことは事実ですがそれはまた別の話です)。結局日本ウヨにとっては「日本は悪くない」と言えればいいわけでその結果「日本の起こした戦争はアジアを解放した正義の戦争だ、非難されるいわれはない」という主張と「ルーズベルトスターリンが悪い、彼らにはめられた日本は被害者だ。責めるなら日本でなく彼らを責めろ」という主張が同時に「同一の個人、団体(日本ウヨ)」からされるというとんでもない話になるわけです。
 第二に「アジア諸国を独立させることが目的で、領土化が目的じゃない」なんてのはもちろん明らかなデタラメの訳です。単に「そう言う建前」だったわけで本音は違うわけです。
 「建前イコール本音」なら「麻薬追放国土浄化同盟に組長・田岡一雄が参加した山口組は麻薬、覚醒剤の売買には従事してない、一部組員の麻薬、覚醒剤売買は田岡ら幹部を無視した暴走」ということになってしまいますがまあ、普通に考えてそんな事はない。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-07/2014110704_01_0.html
(3)太平洋戦争(41年12月)
 この戦争の領土拡大の目的は、開戦前年の40年9月に締結された日独伊三国軍事同盟に明記されていました。この条約がまずうたったのは、日本はドイツ・イタリアの「欧州新秩序」建設(ヨーロッパの征服)に協力し、ドイツ・イタリアは日本の「大東亜新秩序」建設(大東亜の征服)に協力するということです。つまり、3国による世界再分割条約で、日本の政府と軍部は、その年の9月の政府・大本営連絡会議で、日本の勢力範囲とする「生存圏」の範囲を決定しました。それを実行に移したのが太平洋戦争だったのです。
 不破さんは「このように、政府・軍部の決定した公文書そのものが侵略戦争の実態をあからさまに示しています。弁明の余地はありません。それをごまかしてきたのが歴代の自民党の政府でした」と強調しました。

と言う話です。


■「日本の朝鮮に対する植民地支配の実態」(糟谷憲一*5
(内容要約)
1)日本の韓国併合が「ナチドイツのオーストリア併合」「ソ連バルト三国併合」のような武力をバックにした恫喝によるものであること
2)日本は朝鮮人を「同じ日本国民」としながらも国政参政権を認めず差別待遇だったこと
3)朝鮮の近代化が植民地統治時代に行われたことは事実だが、それはあくまでも「日本の国益のため」であるし、また「戦後韓国の近代化」が「日本の植民地統治」と直結しているわけでもないこと
が指摘されます。

参考
赤旗
■『韓国併合100年、歴史認識共有なぜ必要か、崩れた「合法的植民地」論』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-07-28/2010072804_02_0.html
■『「韓国併合」100年、日本は植民地支配で何をやったか』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-08-30/2010083004_01_1.html
■『「韓国併合」と植民地支配 (上):独立奪った日本軍の大弾圧』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-23/2014092303_01_0.html
■『「韓国併合」と植民地支配 (下):湧き起こった「独立万歳」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-01/2014100103_01_0.html


■「日本と「満州」:「東北アジア経済圏」をめぐって」(松野周治*6
(内容要約)
 戦前日本は「満蒙は日本の生命線」と称して日中戦争を拡大していったわけです。しかし満州利権とはそれほどのものであったのか。勿論「利権として美味しければ戦争に突入していい」というものではありませんが、「戦争による出費」を考えれば「戦争してまで固執する程の利権と言えるか疑問であること」「そこまでしてもペイすると言えるかは疑問であること」が筆者によって指摘されます。
 さて「話は変わりますが」戦前「日本が利権としていた満州中国東北部*7)」は今現在はいわゆる「東北アジア経済圏構想」「豆満江開発計画」の舞台となっているわけです。
 小生としては「困難ではあるものの」、南北朝鮮、ロシア、中国、日本共同による「東北アジア経済圏構想」「豆満江開発計画」の推進こそが
1)東北アジアの緊張緩和(南北朝鮮友好、日中、日韓、日朝、日露友好など)とそれによる諸問題の解決(北方領土問題、拉致問題など)に役立ち
2)北朝鮮の経済底上げと、南北朝鮮の将来の統一に役立ち
3)日本にとっても経済的に美味しい
まさに「一粒で二度美味しい妙案」だろうと思っています。


■「インドネシアで日本軍が行ったこと」(倉沢愛子*8
(内容要約)
 赤旗の記事紹介で代替。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-08-12/2005081201_03_1.html
 「アジアを解放した」と宣伝する人たちは、よくインドネシアを例にします。日本占領前にすでに独立が決まっていたフィリピンについては「解放した」と言わないのとは対照的です。
 日本占領下のインドネシアを長年研究してきた慶応義塾大学の倉沢愛子教授*9は、一部の個人の行為や占領支配の一側面だけを取り上げ日本の戦争がアジアを「解放」したとする歴史観に警鐘を鳴らしてきました。倉沢教授は、「個人が善意でやったことはいっぱいあるでしょう。しかしそれと国家の意思はぜんぜん違います。そこを区別しなくてはなりません」と指摘します。
 敗戦後、現地に元日本兵士が残ったことは事実でした。B・C級戦犯として追及されることを恐れた人、現地に家族をつくり日本に帰れなかった人がその大部分。敗戦後の一部の人たちの行為をもって、あたかも日本が「解放」したとするのは無理があります。
 インドネシアの人は「解放」史観をどう見ているのか。倉沢教授に聞いてみました。「さすがにあきれています。それをいわれては困る、と。インドネシアの教科書はそのような見方をはっきりと否定しています」
(中略)
 現在のインドネシアの歴史教科書では、オランダの圧政が日本に代わられたことを「トラの口からのがれ、ワニの口に入る」とのことわざを使って教えられています。
 戦況の悪化と経済的困窮が深刻になり、人々の心はますます離れていくなか、協力をつなぎとめようと日本が独立要求を無視できなくなったのも事実でした。そこで用意したのが、「独立準備調査会」(四五年三月)、さらに「独立準備委員会」(同年八月)を発足させました。もはやだれの目にも日本の敗戦が明確になってからのことです。「解放」史観の人たちは、ここを都合よく宣伝しますが、八月十五日の日本の敗戦、すなわちポツダム宣言の受諾で、インドネシアは連合国のもとに引き渡されることになり、日本がおぜん立てした「独立」は結局、実現しなかったのでした。
 しかも、インドネシアにはオランダ統治時代からの独立に向けての民族運動がありました。インドネシアの人たちは、日本の敗戦から二日後に自力で独立を宣言。その後、戻ってきたオランダとの独立戦争をたたかい、完全な独立を勝ち取ったのでした。


■「日本軍占領下マレーシア・シンガポールでの戦跡」(森井淳吉*10
(内容要約)
 1968年、1989年、2001年に筆者が行った「マレーシア・シンガポール(1968年、2001年)、タイ・ビルマ(1989年、いわゆる泰緬鉄道建設現場)での戦跡巡り」の簡単な説明。


■「台湾にみる日本の植民地支配」(小林拓也)
(内容要約)
 産経などウヨは「台湾は親日だ」「台湾は日本統治時代を感謝している」と言いたがりますが
赤旗『台湾先住民が抗議、先祖を靖国にまつるな、植民地時代に徴兵』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-06-15/15_01_2.html
■産経『【慰安婦問題】「10月に記念館開館」台湾・馬総統』
http://www.sankei.com/world/news/150604/wor1506040006-n1.html
といった記事、あるいは「戦前台湾最大の抗日事件・霧社事件の存在」などでわかるように話はそんなに単純ではないわけです。
 まあ、そんな事は産経も内心ではよーく分かってるでしょう。故意にデマ垂れ流してるわけです。
 で「弱ったことに」そうした日本ウヨのデマに荷担し「戦前日本の台湾統治には皆感謝してる」などとデマる台湾人や「元台湾人」がいることが話をややこしくしています。
 元総統の「台湾人」李登輝*11とか「日本に帰化した元台湾人」金美齢*12とかっていう「棺桶に片足突っ込んでる老害、老醜の馬鹿野郎」ですが。金なんて民間人(?)はマジどうでもいいですけど、李登輝は「元国家元首」ですからね。李の醜態は見てていたたまれなくなります。
 「中国との政治的闘争に勝利するためには日本ウヨに媚びる」つうことで醜態さらしてるわけです。
 いやもしかしたらそれは単に口からデマカセに過ぎず単に日本ウヨにちやほやされて講演料とかでウハウハ生活できれば御の字ってもっとゲスい話かも知れませんけど。
 まあ、他にも「イリハム・マハムティ(前日本ウイグル会議代表)」「ペマギャルポ(元チベット人)」「楊海英(内モンゴル出身)」とか似たり寄ったりの「反中国を理由に日本ウヨに媚びるゲスども」がいて本当に「あの種のゲスは死ねばいいのに」とうんざりさせてくれます(毒)。ちなみにこういう事を俺が以前書いたら「ボーガスはチベットウイグルに失礼だ」とか言いだしたのがMukkeという人です。


■「日本における戦時財政の確立と破綻」(藤田安一)
(内容要約)
・筆者は日本の戦時財政はいわゆる「馬場財政」「結城財政」「近衛内閣での臨時軍事費特別会計設置」で確立したと指摘します(まあ通説的見解を素人にもわかりやすく説明したと言う感じの内容ですが)。
・まず馬場財政。馬場とは広田*13内閣の蔵相です。前任の蔵相・高橋是清*14(岡田*15内閣)は「国家財政立て直しのための軍事費カット」を主張したことが軍の恨みを買い、226事件で暗殺されます。
 とにかく高橋は「国家財政立て直し」のため「軍事費カット」と「公債発行の漸減(一方、軍は公債発行を強く求めていた)」を打ち出していました。
 一方、高橋の後任、馬場はそうした方針を廃棄し「軍事費は軍部の要求を基本的に容認」「公債発行も基本的に制限しない」という高橋とは180度違う路線に変えてしまいます。
 なお、話がずれますが、広田内閣はこのほかにも「軍部大臣現役武官制度の復活」、「日独防共協定締結」、「『国体の本義』発行」などの右翼的政策を実行します。広田はこうした「首相時代の右翼的政策」「近衛内閣外相として『国民政府を対手とせず』という近衛声明発表に関与」といったことがたたって戦後A級戦犯として裁かれる羽目になります。
・次に結城財政。結城とは、馬場の後任蔵相(林*16内閣蔵相)です。結城で注目すべき点は、先ず第一に彼が「安田財閥の元幹部(安田保善社専務理事、安田銀行副頭取、安田学園理事長を歴任)」「日本興業銀行総裁、商工組合中央金庫理事長、日本商工会議所会頭を務めた大物財界人」だということです。当時の日銀総裁池田成彬*17三井財閥の元幹部(三井銀行筆頭常務、三井合名会社筆頭理事など歴任)であることとあわせると、財界の意向が結城財政に大いに働いたと見るべきでしょう。
 この点が「結城程の大物財界人ではなかった前任者・馬場との大きな違い」と言えるでしょう。
 第二に馬場が「蔵相のみ」だったのに対し結城は「拓務大臣、企画庁総裁を兼務」しています。その分、結城の方が権力が大きいわけです。
・最後に「臨時軍事費特別会計」。特別会計てのは塩川*18財務相小泉内閣)が「母屋(一般会計)でおかゆをすすっているときに、離れ(特別会計)ですき焼きを食べている」と揶揄したように一般的に言ってコントロールが難しい。野放図になる危険性が高いわけです。実際、「臨時軍事費特別会計」はどんどん野放図にふくれあがっていき、それを埋めるために大量の国債が発行されます。
 で、その国債発行の処理に戦後困った政府が実行したのが今月号の林直道論文が取り上げる預金封鎖です。


特集「試練にたつEU」1
■「揺らぐ欧州政治:EUの将来を左右する問題に直面」(浅田信幸)
(内容要約)
 欧州の重要問題として「ギリシャ危機」「保守党勝利によるEU離脱の是非を問う国民投票の現実化(英国)」「ロシア・ウクライナ紛争」が取り上げられています。

参考
ギリシャ危機】
赤旗
■『ギリシャ問題どうみる、緊縮政策で不況悪化、EUの理念 根底から問われる』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-06-30/2015063007_01_1.html?_tptb=089
■『国民に緊縮策 大銀行は救済、ギリシャ危機対応、EU・IMFに批判』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-07-02/2015070203_01_1.html
■『ギリシャ危機 海外資金が債務拡大、背景に欧州内の格差』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-07-03/2015070308_01_1.html

【ロシア・ウクライナ紛争】
赤旗
■『重火器撤去の強化合意、ウクライナ東部 4カ国外相が会談』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-04-15/2015041507_01_1.html
■『EUと旧ソ連諸国が首脳会議、安保協力など協議、対ロ関係の悪化避ける配慮も』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-23/2015052307_01_1.html


■「ユーロ不安の基本的性格ととユーロの決済システム」(奥田宏司*19
(内容要約)
 ギリシャ危機の発生によるユーロ不安について説明がされていますが無能の故にうまく要約できず「詳細は省略します」。


■「「預金封鎖」とは何だったか:敗戦の経済的負担を国民に転嫁」(林直道*20
(内容要約)
 ネット上の記事の紹介で代替します。

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/161063
日刊ゲンダイギリシャ対岸の火事じゃない、市場が囁く日本の“預金封鎖”』
 デフォルト危機にあるギリシャで、高級自動車がバカ売れしている。
預金封鎖に備えて富裕層がこぞって購入しているといいます。万が一、現金を引き出せなくなり、預金が凍結されても、自動車なら売却し現金化することも可能です。資産防衛のため高級車を買っているのでしょう」(市場関係者)
(中略)
 13年に金融危機が表面化したキプロスでは、実際に預金引き出しが制限され、国民はパニックに陥った。
「日本も戦後間もない1946年に預金封鎖があった。時代が違うとはいえ、日本の現状を考えると絶対にないとは言い切れません。国の借金はGDP比で200%を超え、先進国で最悪です。ギリシャ預金封鎖懸念は決して対岸の火事ではないのです」(株式評論家の倉多慎之助氏)
 実はここ数カ月、マーケットで日本の預金封鎖に関する噂が飛び交っている。
「2月16日にNHKのニュース番組で預金封鎖が特集されました。69年前のこの日に、預金封鎖が決まったという内容でしたが、なぜ69年前という中途半端なタイミングで放映したのか。突飛な印象が強いだけに、市場は(注:政府は預金封鎖をやる気なのか?と)真の狙いを勘繰っています」(金融関係者)
(中略)
 もうひとつ、有力な説がある。
「NHKの籾井会長は安倍首相の“お友達”です。官邸の意向をくんだ放送だったとすれば、17年4月の消費税10%への引き上げが絡んでいる。日本の財政はギリシャと同じく破綻する危険性がある。これを回避するには増税しかない。消費税10%を実現できないと、預金封鎖もホントにあり得るという安倍政権の恫喝です」(市場関係者)
 ギリシャの窮状を利用した悪質なプロパガンダだとしたら、国民をナメている。

http://www9.nhk.or.jp/nw9/marugoto/2015/02/0216.html
NHK『“預金封鎖”もうひとつのねらい』
 インフレ対策として断行された預金封鎖
 しかし、当時非公開とされた閣僚や官僚の証言記録を検証すると、預金封鎖には、インフレ対策とは別にもう1つの狙いがあったことが明らかになってきました。
(中略)
 時の大蔵大臣・渋沢敬三*21は、大蔵官僚だった福田赳夫*22の問いに対し、預金封鎖に込めたもう1つの狙いを吐露していました。
・大蔵官僚(当時)福田赳夫氏の証言
「通貨の封鎖は、大臣のお考えでは、インフレーションが急激に進みつつあるということで、ずっと早くから考えていられたのでございますか?」
蔵相(当時)渋沢敬三氏の証言
「いや、そうではない。財産税の必要から来たんだ。まったく財産税を課税する必要からだった。」
 渋沢大臣が語った「財産税」。
 それは、戦争で重ねた借金の返済を国民に負わせる極めて異例の措置でした。
(中略)
 当時、国の債務残高は(注:日中戦争、太平洋戦争での軍費調達のため)国民総生産の2倍を超える規模にまで膨らみ、財政は危機的状況に瀕していました。
 政府は、借金返済の原資を確保しようと、国民が持つ預金や不動産など10万円を超える資産に最高90%の財産税を課税することを決定。
 預金封鎖には、財産税をかけるため国民の資産を把握する、そうした狙いもあったのです。
 大蔵官僚の証言記録からは、財政再建のためには国民負担もやむを得ないという当時の空気が伺えます。
(中略)
 預金封鎖と財産税を決めた渋沢氏は、後にNHKの番組で次のように振り返っています。
元蔵相 渋沢敬三
「申し訳ないと思う。 国民に対してこんな申し訳ないことはない。私は焼き打ちを受けると思った。それくらい覚悟した。」
(中略)
大越キャスター
「『預金封鎖』そして『財産税』と、今ではちょっと考えにくい、ある意味手荒な措置ですけれども、今の日本と当時とを安易に重ね合わせるわけにはいかないけれども、ただ、日本の財政は今、先進国で最悪の水準まで悪化していますので、終戦直後に起きた“歴史上の出来事”と片付けてはならない問題だとも言えます。」


■「急がれる情報通信分野の消費者保護ルールの強化」(山城憲一)
(内容要約)
赤旗の記事紹介で代替。

赤旗
■『ネット勧誘で深刻相談、吉良氏 電話説明容認ただす』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-09/2014040904_03_1.html
■『吉良議員 利用者保護を迫る、電気通信事業法改定案』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052104_03_1.html


■「「異次元金融緩和」と円安・株高:アベノミクスは景気回復をもたらしたのか」(松本朗*23
(内容要約)
 もちろん「アベノミクス批判の立場の雑誌」ですから「もたらしていない」と言うのが結論です。
 景気回復が「雇用者の収入増や消費者の消費増」を意味するのであれば統計データ上、そういう事態は存在しない。
 「円安や株価高」は「大企業収益の増加」にはつながっているかもしれないが、「雇用者の収入増や消費者の消費増」や「中小企業(特に地方の中小企業)も含む企業全般の収益増加」にはつながっていないわけです。
 そのことを安倍政権もある程度自覚するからこそ打ち出されたのが「地方創生」ですが今のところこれはかけ声倒れに終わってると見るべきでしょう。
 

■「財界の新たな労働者支配戦略:政労使による「生産性向上」論の危険」(藤田宏)
(内容要約)
 問題は財界の言う「生産性向上のための賃金制度、労働制度」とは何かと言うことです。それは結局の所、「限定正社員」「ホワイトカラーエグザンプション」に象徴される「低賃金長時間労働を労働者に強要する路線ではないのか」と言う話です。

参考
赤旗
■「日本の労働生産性は低い?」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-10-17/ftp20071017faq12_01_0.html
■主張『限定正社員、「多様な正社員」の落とし穴』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-02/2013040201_05_1.html
■『「残業代ゼロ」制度、ホワイトカラー・エグゼンプションそのもの、労基法改悪案提出狙う』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-02-16/2015021602_02_1.html


■「火山観測体制の圧倒的な不足」(田村智子)
(内容要約)
 赤旗の記事紹介で代替。

赤旗
■主張『御嶽山の噴火被害、火山国に見合った対策強化を』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-29/2014092902_01_1.html
■『現場近くで火山観測を、高橋氏、測候所の無人化批判、衆院災特委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-11/2014101102_01_1.html
■『火山監視の強化必要、仁比氏「国民の命守れない」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-04-02/2015040204_03_1.html
■『火山観測・研究強化を、田村参院議員 「国立の機関必要」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-12/2015051202_03_1.html

*1:著書『世界金融危機と現代法:現代資本市場法制の制度設計』(2009年、法律文化社)、『企業の社会的責任』(2010年、学習の友社)など

*2:著書『軍備拡張の近代史:日本軍の膨張と崩壊』(1997年、吉川弘文館)、『歴史修正主義の克服』(2001年、高文研)、『昭和天皇の軍事思想と戦略』(2002年、校倉書房)、『護憲派のための軍事入門』(2005年、花伝社)、『世界史の中の日露戦争』(2009年、吉川弘文館)、『これだけは知っておきたい日露戦争の真実:日本陸海軍の〈成功〉と〈失敗〉』(2010年、高文研)、『日本は過去とどう向き合ってきたか』(2013年、高文研)、『近代日本軍事力の研究』(2015年、校倉書房)など

*3:もちろん「侵略の実行者」では必ずしもないですが。

*4:もちろん「近代化万歳論」ならチベット独立論など論外です。

*5:著書『朝鮮の近代』(1996年、山川出版社世界史リブレット)

*6:著書『東北アジア共同体への道:現状と課題』(2006年、共著、文真堂)など

*7:遼寧省吉林省黒竜江省のいわゆる東北三省のこと

*8:『日本占領下のジャワ農村の変容』(1992年、草思社)、『ジャカルタ路地裏フィールドノート』(2001年、中央公論新社)、『「大東亜」戦争を知っていますか』(2002年、講談社現代新書)、『インドネシアイスラームの覚醒』(2006年、洋泉社)、『戦後日本=インドネシア関係史』(2011年、草思社)、『資源の戦争:「大東亜共栄圏」の人流・物流』(2012年、岩波書店)、『9・30、世界を震撼させた日:インドネシア政変の真相と波紋』(2014年、岩波現代全書)などインドネシア近現代史についての著書多数。

*9:肩書きは当時。現在は名誉教授。

*10:著書『発展途上国の農業問題:現代の東南アジアと日本』(1993年、ミネルヴァ書房

*11:1923年生まれ。台北市長、副総統を経て総統。

*12:1934年生まれ。著書『日本ほど格差のない国はありません!』(2006年、ワック)、『日本は世界で一番夢も希望もある国です!』 (2007年、PHP研究所)など駄本多数。

*13:斎藤、岡田内閣外相を経て首相。また首相退任後近衛内閣で外相を務めた。戦後A級戦犯として死刑判決。

*14:日銀総裁を経て、山本、原、若槻、犬養、斎藤、岡田内閣で蔵相。

*15:田中、斉藤内閣海軍大臣を経て首相

*16:斎藤、岡田内閣陸軍大臣を経て首相。

*17:後に近衛内閣で蔵相(商工相兼務)

*18:鈴木内閣運輸相、中曽根内閣文相、宇野内閣官房長官、宮沢内閣自治相・国家公安委員長を歴任

*19:著書『多国籍銀行とユーロ・カレンシー市場:ドル体制の形成と展開』(1988年、同文舘出版)、『途上国債務危機とIMF世界銀行:80年代のブレトンウッズ機関とドル体制』(1989年、同文舘出版)、『日本の国際金融とドル・円:本邦外国為替銀行の役割』(1992年、青木書店)、『ドル体制と国際通貨:ドルの後退とマルク、円』(1996年、ミネルヴァ書房)、『両大戦間期のポンドとドル:「通貨戦争」と「相互依存」の世界』(1997年、法律文化社)、『ドル体制とユーロ、円』(2002年、日本経済評論社)、『円とドルの国際金融:ドル体制下の日本を中心に』(2007年、ミネルヴァ書房)、『現代国際通貨体制』(2012年、日本経済評論社)など

*20:著書『史的唯物論と経済学』(1971年、大月書店)、『国際通貨危機世界恐慌』(1972年、大月書店)、『史的唯物論と所有理論』(1974年、大月書店)、『フランス語版資本論の研究』(1975年、大月書店)、『恐慌の基礎理論』(1976年、大月書店)、『日本経済をどう見るか』(1998年、青木書店)、『恐慌・不況の経済学』(2000年、新日本出版社)、『強奪の資本主義:戦後日本資本主義の軌跡』(2007年、新日本出版社)など

*21:渋沢栄一の孫。日銀総裁、幣原内閣蔵相、KDD社長、文化放送社長など歴任。また民俗学者としても知られる。

*22:元大蔵省主計局長。昭和電工疑獄で起訴されたことを契機に退官し政界入り。岸内閣農林相、自民党政務調査会長(池田総裁時代)、佐藤内閣外相、自民党幹事長(佐藤総裁時代)、田中内閣蔵相、三木内閣副総理・経済企画庁長官などを経て首相

*23:立命館大学教授。著書『円高・円安とバブル経済の研究』(2003年、駿河台出版社