今日の産経ニュース(5/17分)その1

■【正論】一方的資料で緊急事態条項に反対したTBS報道特集 「燃料不足と震災関連死は無関係」に異議 日本大学教授 百地章
http://www.sankei.com/column/news/160517/clm1605170009-n1.html

 4月30日放送のTBS報道特集憲法公布70年『緊急事態条項』は必要か」がネットで話題になっている。
 番組によれば「岩手・宮城・福島の被災3県にある全36の消防本部に取材したところ、燃料不足によって救急搬送できなかったという回答は1件もなかった」という。そしてそれを根拠に、緊急車両がガソリン不足*1で出動できず、被災者の命を救うことができなかった、などといった事実は存在しないとし、ガソリン不足による震災関連死を指摘した『まんが女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(筆者監修)の記述についても疑問を呈した。
 それを受けて、TBSラジオでは荻上チキ氏*2が「震災関連死とガソリン不足は無関係」であり、そのような主張は「デマ」であると喧伝(けんでん)している。

 緊急事態条項に反対したと言うより「百地の主張は嘘八百だ」という指摘に過ぎません。
 ここでの問題は「東日本大震災においてガソリン不足による震災関連死を主張する百地の根拠は何か」という話です。

復興庁の「東日本大震災における震災関連死に関する報告」(平成24年8月)を見ると、震災関連死は1632人、その中には原因の一つとして「救急車を呼んだが、ガソリンがなく自力で運ぶよう要請があった*3」(24頁(ページ))ことがはっきりと明記されている。

 そもそも百地が根拠を著書に提示してればTBS側も「その点について指摘した(百地の書きぶりではTBS番組では指摘はなかったようです)」でしょうから提示してなかったのでしょう。
 もちろんこの復興庁報告(なお、報告作成時は安倍内閣)と、TBSの報道は矛盾します。ここから出てくる結論はせいぜい「政府報告もTBS報道も現時点では真偽不明」でしょう。
 いや政府報告が「ガソリン不足云々」とする記述について明確な根拠を提示してないなら「消防本部に取材した」というTBSの方が現時点では「より信憑性がある」という可能性すらあるでしょう。

当時の新聞を見ると、「緊急車両もガソリン不足」(読売3月16日)「ガソリン枯渇深刻」(河北新報3月16日)「緊急車両は優先的に給油できたものの、台数が多くて供給が追いつかない」(河北新報社東日本大震災全記録』209頁)などといった記事が各所にみられる。

 問題は「緊急車両がガソリン不足」ではなく「それが震災関連死を産んだと言えるのか」ですからこれはTBSへの反論にはなりません。
 それにしても先日「中国の進出で北海道が危ない」なんて与太記事を「一方的資料(いや資料と言うより妄想か?)で書いた産経」が「TBSの報道は一方的だ」というのだから呆れます。

*1:そもそも「ガソリン不足」が事実としても緊急事態条項を発動すればガソリン不足が解消するだの、ガソリン不足解消はそれ以外手がないだの言うのが事実に反すると思いますが。

*2:TBSラジオ荻上チキ・Session-22』パーソナリティー、評論家。著書『セックスメディア30年史』(2011年、ちくま新書)、『検証・東日本大震災の流言・デマ』(2011年、光文社新書)、『災害支援手帖』(2016年、木楽舎)など

*3:またこういっては何ですが「死者数の問題」もあるでしょう。ガソリン不足で死者が出れば当然に「緊急事態条項発動」ではない。「発動によるデメリットとメリット」を考慮し発動しても「死者数に大きな違いがあるか疑問」なら発動することは否定されます。