今日の産経ニュース(11/7分)

■【櫻井よしこ*1 美しき勁き国へ】言語道断ではないか? 三菱マテリアル和解の裏に日中関係の悪化を恐れた外務省の「助言」があった!
http://www.sankei.com/premium/news/161106/prm1611060029-n1.html
 この件についてはウィキペ「三菱マテリアル」の記述をまず紹介しておきます。

三菱マテリアル(ウィキペ参照)
 旧三菱鉱業時代(日中戦争時)に中国人を強制連行し過酷な労働を強いたとして、元華人労務者やその家族に対して痛切なる反省の意を表するとする謝罪文を発表し、損害賠償(1人あたり10万元)を行い、記念碑の建立に協力すると発表した。

 それにしてもタイトルだけで絶句ですね。よしこと産経の方が「言語道断」でしょう。
 先ず第一に三菱マテリアルは民間企業です。国立でないから、当然、外務省から助言されても従う義務はない。
 まあ外務省から「我々の助言に従わないと後どうなるか分かってるんだろうな」という「日本政府による嫌がらせ」を匂わせた恫喝でもあれば話は別ですがさすがにそんなことないでしょう。
 三菱から外務省に助言を求めたか、事態を危惧した外務省から三菱に助言したかはともかく「外務省が普通に助言して」普通に三菱が従っただけでしょう。三菱は助言を拒否する自由はあった。
 だったら、よしこが非難すべきは「助言した外務省」より「従った三菱」でしょう。つうか外務省が助言しなくても三菱は「和解方向*2」に動いたでしょうね。
 よしこが三菱より外務省に因縁つけるのは、「外務省なら安倍を通してストレートに圧力が入る」が大企業三菱ではそうもいかないからでしょう。三菱に安倍が圧力かけたって「和解するな」なんてここまで酷い話では従うわけもない。
 今さら三菱が「和解しません」なんていうわけもない。
 それはともかく、訴訟がずっと続いて三菱の中国での企業イメージが落ちたり、中国で不買運動がされたり、あるいは不買運動まで行かなくても「あまりかわらない値段、性能だったら三菱ではなく他の企業(日本企業含む)にしよう」なんて動きが出たら商売に差し障りがある。どんなによしこらが中国を敵視しようが、三菱他、日本企業にとって中国市場は「魅力的市場」です。和解できるなら和解するにこしたことはない。
 第二に「和解するな」というよしこはたぶん「和解内容」というより「三菱が一定の非を認め和解したこと自体」が気に入らないんでしょう。たぶん「裁判で勝てる。勝てなくても最高裁まで争うのがベスト」とでも思ってるんでしょうが、では和解しない事による不利益をどう考えてるのか。
 「外務省が危惧する日中関係の悪化の恐れ」、「三菱が危惧する中国ビジネスでの障害」をどう考えてるのか。「知るか、そんなもん。日本に戦争犯罪国の汚名を着せないことの方が大事だ。三菱は金儲けのことばかり考えるな。裁判で多分勝てるし仮に負けても最高裁まで徹底的に争え」とでもよしこらは言い出すんでしょうから、話になりません。そもそも「日本は戦争犯罪国じゃない、戦時中の炭鉱での強制労働を理由に三菱マテリアル(戦時中は三菱鉱業)を訴えた原告は言いがかりだ」というよしこらの主張はデマですが、それをひとまずおいても*3、「日中友好関係や三菱の中国ビジネスなんか知るか」なんてよしこや産経のような無茶苦茶ができるわけないでしょう。三菱からすれば『言葉を選ばず言えば』、「産経よ、よしこよ、お前ら、この裁判の当事者じゃないだろうが。余計な口出すな。大体、和解しないで俺達が経営上ダメージ受けても、何かしてくれるわけでもないだろうが。ふざけんな」「手前らのくだらない愛国心のためにウチの中国ビジネスを犠牲にしろってのか。何様だ、手前」でしょう。

 日本が和解を受け入れれば中国政府はこれ以上の訴訟を起こさせないように対処してくれるという、根拠のない期待など、外交官は抱いてはならない。

 そんなことは外務省はかけらも考えてないでしょう。裁判で勝てるか、とか仮に勝てたとしてもそれが日本や三菱の利益か(日本や三菱に対する原告や中国国民の敵意が燃え上がり日中関係や三菱の中国ビジネスに悪影響がでるのでは勝っても意味がないでしょう)、とか言ったことを考えて和解を三菱に勧めただけでしょう。そして何度も書きますがこの助言に三菱は従う義務は何処にもないわけです。
 そもそもよしこのいう

中国政府はこれ以上の訴訟を起こさせないように対処してくれる

とはどういう意味なのか。
1)原告に裁判をけしかけてるのは中国
2)裁判は原告の自由意思だが、とにかく中国は原告を脅したり、なだめたりして裁判を起こさせるな
のどっちかでしょうか。
 しかし1)は何の根拠もありません。「けしかけてるのが中国」というならよしこは根拠を出すべきでしょう。つうか仮にけしかけたとしても「三菱に恨みが何もなければ」訴訟は起こさないと思いますが。
 2)は論外です。明らかに「裁判をおこす権利に対する政府の不当介入」じゃないですか。まともな民主国家でこんな事やったら一大スキャンダルです。よしこは「中国は民主的じゃない、人権擁護の面で問題がある」と非難しながらその中国に対し、「日本の為に非民主的で反人権的な行為をやれ」というのか。無茶苦茶にも程があるでしょう。

 中国の圧力に日本が屈服するのは、日本は常に謝罪し賠償に応じるべきだとの思考に外務省が染まっているからではないか。外交専門誌「外交フォーラム」1992年2月号に元駐韓大使で事務次官の須之部量三氏*4が書いている。
 戦後処理は、「条約的、法的にはたしかに済んだけれども何か釈然としない」
 同じく事務次官で駐米大使を務めた栗山尚一氏*5も同誌2006年1月号に書いた。
 「条約その他の文書は、戦争や植民地支配といった不正常な状態に終止符を打ち、正常な国家関係を確立するため欠かせない過程だが、それだけでは和解は達成されない」
 2007年5月17日には、元オランダ大使の東郷和彦*6朝日新聞に書いた。
 「各企業は、(中略)もう一回、韓国、中国の人たちが陥った過酷な状況に思いをいたし、責任感と大度量をもってできるだけの救済をしていただけたらと思う」
 外務省OBでマテリアルの社外取締役を務める岡本行夫氏も、1972年の(ボーガス注:日中)共同声明は悲惨な事態を認識しないで結んだとして、企業の謝罪と見舞金支払いを推奨する。
 ベテラン外交官が、問題解決は条約や国際法では不十分で、新たな和解の枠組みが必要だと異口同音に語る。異常ではないか。一連の条約作成に関わったのは彼らであろうに。奇妙なことに、彼らの主張はマテリアルを訴えた弁護士らの主張とほぼ一致する。

 何が異常だか、奇妙だかさっぱりわかりません。現に条約で和解できてない以上、「他の枠組み」が必要なのは当然でしょう。

 和解でマテリアル側には、訴訟リスクを回避したいという企業防衛の計算もあっただろう。そうした事情を考慮しても、和解の負の影響を同社は深刻に受けとめるべきだ。

 「三菱が中国ビジネスを重視して和解に動いた気持ちは分かるよ」と言いながら「でも(日本国の名誉のために?)和解するな。三菱の中国ビジネスの問題について私、桜井には和解以外の具体的対案は何もないけど」つうんじゃよしこの「気持ちは分かる」はくだらないお為ごかしでしかありません。

 1974年の三菱重工爆破事件の犯人の弁護士を務めた内田氏*7

 内田氏はこの三菱マテリアル裁判で原告中国人の弁護を務めた弁護士の一人ですが、ここで「三菱重工爆破」云々と書く必要は何処にもありません。
 「内田は三菱重工爆破の弁護を務めるような極左だ」とよしこがネガキャンしてるのは明白です。ゲスいとしかいいようがない。大体、「内田氏がどういう経緯で弁護人になり、どんな弁護をしたか知りませんが」、ああいう死刑相当事件では私選でアレ国選でアレ、誰か弁護士はつくわけです。弁護士無しで裁判はできないのであって内田氏が弁護しなくても誰かが弁護したわけです。


■【衆院選シミュレーション】自民党執行部は、おごれる弱小若手議員を容赦なく切り捨てよ!
http://www.sankei.com/premium/news/161107/prm1611070009-n1.html
 タイトルだけで絶句ですね。若手議員からすれば「俺が次の選挙で落選するかも知れないのは俺のせいというより党執行部のせいじゃないのか」「全部俺のせいかよ」「おごれる、て誰がおごってるんだよ。若手議員が全部悪いみたいな事言う、手前の方がよほどおごってるだろ」「大体『切り捨てろ』てその後、誰がでるんだよ。俺が選挙弱いつうけど、そう言う俺しか擁立できないほど自民の支持層がこの選挙区でないつう事だろうに。ぶっちゃけ選挙強いつうのは自民王国だの二世議員だので当人の力じゃねえだろ」と産経の無茶苦茶な物言いに呆れかつ怒ってるでしょう。


■自民、過半数を維持 投票率は26・94% 政活費不正の富山市議補選
http://www.sankei.com/politics/news/161107/plt1611070010-n1.html
 タイトルだけで絶句ですね。いくら「投票率が低くなりやすい補選」で「自民党王国・富山」とは言え、自民党市議の不祥事(政務活動費不正使用)が発覚して自民党市議が辞職した後での選挙結果がこれなのか。政治的無関心が酷いと言うべきでしょうか。それとも最大野党・民心党でも同様の不祥事が発覚したことが響いたのか(とはいえ共産、社民などでは不祥事はないですし、市民運動で新人擁立の動きなどがあってもいいのですが)。
これでは
1)不正がばれたって何の問題もない(ただしなるべく、ばれないよう気をつけよう)、とばかりに自民党が不正を今後も続け
2)不正を追及した現地メディアに対し、自民党が無法な報復をし、不正がさらに酷くなる
と言う笑えない事態すら危惧されるでしょう。

【追記】
赤旗富山市議補選 共産2氏当選、議席倍増で議案提案権、不正解明 市民の期待集める』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-11-08/2016110801_01_1.html

 政務活動費の不正取得で12人の議員が辞職したことにともなう富山市議補選(定数13)が6日投開票され、日本共産党の小西なおき(71)、吉田おさむ(66)の両氏がともに初当選を果たしました。共産党議員団は現有2人から議席を倍増させ、議案提案権を持つ4人の正式会派となりました。4議席を獲得したのは1979年以来37年ぶりです。

 議席が増えたことは素直に喜びますがやはり「喜びも今ひとつ」ですね。

*1:国家基本問題研究所理事長。『GHQ作成の情報操作書「真相箱」の呪縛を解く:戦後日本人の歴史観はこうして歪められた』(2002年、小学館文庫)、『気高く、強く、美しくあれ:日本の復活は憲法改正からはじまる』(2006年、小学館)、『異形の大国・中国:彼らに心を許してはならない』(2010年、新潮文庫)、『日本とインド・いま結ばれる民主主義国家:中国「封じ込め」は可能か』(共著、2014年、文春文庫)などウヨ著書多数

*2:ただし「1人当たり賠償金が安い」など、和解内容に不服を表明し争ってる方は少数のようですがまだいます、完全和解したわけではありません

*3:もちろんひとまずおける話じゃないですが。

*4:駐米公使、外務省アジア局長、駐オランダ大使、駐インドネシア大使、駐韓国大使などを経て事務次官

*5:外務省条約局長、北米局長、駐マレーシア大使、外務審議官、外務事務次官、駐米大使を歴任。父親は外務省条約局長、駐スウェーデン大使、駐ベルギー大使、最高裁判事などを務めた栗山茂。著書『日米同盟:漂流からの脱却』(1997年、日本経済新聞社)、『戦後日本外交:軌跡と課題』(2016年、岩波現代全書)

*6:個人サイト(http://kazuhiko-togo.com/)。外務省条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使など歴任。鈴木宗男事件を機に鈴木との関係を問題視され、外務省を退官し、現在は京都産業大学教授。祖父は東条、鈴木内閣で外相を務めた東郷茂徳。父は外務事務次官、駐米大使を務めた東郷文彦。著書『歴史と外交:靖国・アジア・東京裁判』(2008年、講談社現代新書)、『北方領土交渉秘録』(2011年、新潮文庫)、『歴史認識を問い直す:靖国慰安婦、領土問題』(2013年、角川oneテーマ21)、『危機の外交:首相談話、歴史認識、領土問題』(2015年、角川新書)など。

*7:著書『弁護士:“法の現場”の仕事人たち』(1989年、講談社現代新書)、『「戦後補償」を考える』(1994年、講談社現代新書)、『「戦後」の思考:人権・憲法・戦後補償』(1994年、れんが書房新社)、『憲法第九条の復権:沖縄・アジアの視点から考える』(1998年、樹花舎)、『乗っ取り弁護士』(2005年、ちくま文庫)、『これが犯罪?、「ビラ配りで逮捕」を考える』(2005年、岩波ブックレット)、『靖国問題Q&A:「特攻記念館」で涙を流すだけでよいのでしょうか』(2007年、スペース伽耶)、『ここがロードス島だ、ここで跳べ:憲法・人権・靖国歴史認識』(2011年、梨の木舎)、『想像力と複眼的思考:沖縄・戦後補償・植民地未清算・靖國』(2014年、スペース伽耶)、『靖国参拝の何が問題か』(2014年、平凡社新書)、『和解は可能か:日本政府の歴史認識を問う』(2015年、岩波ブックレット)など