新刊紹介:「前衛」6月号(その2):映画「ペンタゴンペーパーズ」「ザ・シークレットマン」

■文化の話題
【映画:権力に屈しないメディアを支えた女性の決断:映画『ペンタゴン・ペーパーズ:最高機密文書』】(伴毅)
(内容)
 映画「ペンタゴン・ペーパーズ」の紹介。ちなみにこれスピルバーグ作品なんですね。関連作品として「ザ・シークレットマン」についても触れておきます。

参考
ペンタゴン・ペーパーズ】

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-03-31/2018033101_06_0.html
赤旗『きょうの潮流』
 観客席で(ボーガス注:感動の)涙をぬぐう姿も。スピルバーグ監督の最新作映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」。報道の使命とは何か。実在の人物たちのドラマを軸に力強いメッセージを放ちます。
▼舞台は1971年のアメリカ。ベトナム戦争が泥沼化する中、(ボーガス注:トルーマン*1アイゼンハワー*2ケネディ、ジョンソンの)4代にわたる歴代政権のウソを暴く報道機関と権力とのたたかいを描きます。スクープのもとになったのが、邦題にある機密文書。ベトナム戦争について、「勝てない」と知りながら若者を戦場に送り続けた事実が7000ページにわたって記されていました。
▼最初に報じたのはニューヨーク・タイムズニクソン政権によって同紙が記事差し止め命令を受けたことで、今度はワシントン・ポストが公表に踏み切ります。巨大な代償を払うことを覚悟の上の決断。メリル・ストリープ演じる女性社主の葛藤が見どころです。
▼「報道の自由を守るのは報道」「報道機関は国民に仕えるものであり、統治者に仕えるものではない」。
 珠玉のせりふが現代の日本を突き刺します。
森友学園をめぐる公文書改ざん事件をスクープしたのは3月2日付「朝日」。8日付「毎日」が後に続きましたが、共産党小池晃*3参院議員が国会で取り上げた当初は、「朝日」に立証責任を求める(ボーガス注:政府寄りの)コメンテーターすらいました。(ボーガス注:安倍政権よりとみられている)NHK・「読売」・「日経」が“改ざん”に表現を改めたのは27日。「改ざん指摘やむをえない」との安倍晋三首相の答弁後です。
▼権力の監視にはメディアの連帯が必須。本作をぜひご覧いただきたい。

http://www.jcp.or.jp/akahata/web_daily/html/2012-media-panf-shii.html#a03
赤旗『日本の巨大メディアを考える』*4日本共産党委員長 志位和夫
 2012年2月21日におこなわれた第11回「綱領教室」での志位和夫委員長の講義から、日本の巨大メディアの問題点についてのべた部分を紹介します。
ニューヨーク・タイムズ紙―「輪転機を十四階にあげても戦い抜く」
 私は、ここで日本の巨大メディアを、欧米のメディアと比較してみたいと思います。もちろん、欧米諸国のメディアも時の支配勢力の影響や制約を受けています。そこにはいろいろな問題点があります。ただ、そういう影響や制約を受けつつも、「権力のチェック役」としての役割をさまざまな形で果たしてきていることも事実です。
 たとえばアメリカのメディアはどうでしょう。もちろん、アメリカのメディアにもいろいろな問題点があります。しかし、時の政府の不正に正面から立ち向かい、ジャーナリズムの歴史に残る「二つの頂点」といわれる記録を残しています。
 その一つは、1971年にニューヨーク・タイムズ紙が、ベトナムの「トンキン湾事件」(1964年)は、アメリカ軍部のねつ造だったことを示すアメリカ国防総省の秘密報告書―「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露したことです。「トンキン湾事件」というのは、「北ベトナムトンキン湾で、米駆逐艦北ベトナム魚雷艇から攻撃を受けた」というねつ造を当時のジョンソン政権がでっちあげ、それを口実に、北ベトナム攻撃(北爆)を開始し、ベトナム侵略戦争の全面化につながった謀略でした。これがねつ造だったことを、ニューヨーク・タイムズ紙が暴露していくのです。ニューヨーク・タイムズ紙は、この報道によって、ジャーナリズムの最高の名誉とされるピュリッツアー賞を受賞しました。
 この時のニューヨーク・タイムズの「覚悟」を示す資料として、私が印象深く読んだのは、『メディアの興亡』(杉山隆男*5著、1986年、文藝春秋*6)です。「ペンタゴン・ペーパーズ」は、米国防総省元職員のエルズバーグ氏が持ち出し、ニューヨーク・タイムズ紙のニール・シーハン記者に渡しました。このシーハン記者に、小谷正一氏*7毎日新聞退職後、電通顧問などをつとめる)が質問しているやりとりの場面があるのです。その部分を引用させていただきます。

 小谷はゆっくりと言葉をついだ。
 『シーハンさん、あなたが書いた記事は一つの政府を倒すぐらいの力を持っている。いわば権力と対決する記事だ。いくら世界に冠たるニューヨーク・タイムズといえども、そうした重大な、ことによったら会社を危機に引きずりこむかもしれない記事をのせようという時は、やはり会議にかけるんでしょうね』
 『いや、会議なんて、そんな大げさなものはありません』
 シーハンは笑って答えた。
 『あの時は、ぼくが副社長のジェームズ・レストンに呼ばれて、ザルズバーガー社長もいるところで例の秘密文書について話を聞かれただけです』
 『レストンはどう言ったのですか』
 『ひと言、これは本物か。ぼくが、本物です、と言ったら、レストンは、わかった、と言ってGOサインを出しました。そのあとでレストンは部長会を開いて一席ぶちました。これからタイムズは政府と戦う。かなりの圧力が予想される。財政的にもピンチになるかもしれない。しかし、そうなったら輪転機を二階にあげて社屋の一階を売りに出す。それでも金が足りなければ今度は輪転機を三階にあげて二階を売る。まだ金が必要というなら社屋の各階を売りに出していく。そして最後、最上階の十四階にまで輪転機をあげるような事態になっても、それでもタイムズは戦う……』
 小谷はシーハンの話を聞きながら、日本の新聞社とアメリカの新聞社はこうも違うものなのかと愕然とした。タイムズは社屋の一階一階を売りに出し、それこそ身を削りながらもなお言論の自由を守り抜くために政府と戦うという。ところが日本はどうだ。社屋を売って政府と戦うどころか、社屋をたてるために政府から土地を分けてもらっている。読売は大蔵省が持っていた土地に新社屋をたてたばかりだし、毎日の敷地のうち竹橋寄りの部分は皇宮警察の寮、つまりは国有地だったところだ。日経もサンケイも社屋がたっているところは、もとはと言えば大蔵省の土地である。そして朝日だって築地の海上保安庁の跡地に社屋をつくろうとしている。日本の大新聞という大新聞がすべて政府から土地の払い下げを受けて『言論の砦』をたてているのだ。これで政府相手にケンカをやろうというのが、どだい無理な話なのである。

 最上階の十四階まで輪転機をあげる事態になっても、戦い抜く。それこそ社運をかけて権力に立ち向かうわけです。ジャーナリズムの気骨を感じますね。それに比べて、日本の大新聞は情けないと、愕然とした思いで聞いた。たいへんに生々しいやりとりです。

ウォーターゲート事件―大統領を辞任に追い込む徹底した追及
 いま一つは、1972年におきたウォーターゲート事件の報道です。ワシントンのウォーターゲート・ビルの民主党本部を、ニクソン(当時のアメリカ大統領)陣営が盗聴をしていたという事件です。
 これを暴露・追及していったのは、ワシントン・ポスト紙でした。「ポスト」は、政権からの強い反発や圧力を浴びながら孤軍奮闘し、徹底した調査報道で事件を追及していきます。事件が大がかりな選挙妨害事件の一部であり、資金はニクソン再選委員会から出て大統領補佐官と前司法長官が管理していたことなど、事件と再選委員会の関係、そしてニクソン大統領とその側近の策謀であることを明らかにしていきます。
 ニューヨーク・タイムズ紙やロサンゼルス・タイムズ紙も報道に参加し、連邦議会が調査をはじめ、下院の司法委員会が史上初の大統領弾劾決議を採択し、ニクソン大統領を辞任に追い込んでいきました。時の大統領を辞任に追い込むまで徹底した追及をやりぬいた。ワシントン・ポスト紙は、社運をかけて戦い抜いたわけです。
 すでにのべたように、アメリカのメディアにはいろいろな問題点があります。イラク戦争開戦時には、主要メディアがこぞって戦争を支持し、全体としては戦争をあおる役割を果たしました。
 ただ、イラク戦争をめぐっても、その後の報道においては、独自の調査も駆使して、イラクアブグレイブ刑務所に収容されているイラク人に対して米兵が虐待をおこなっている写真を放映したり、米国人傭兵を殺害して歓喜する群衆を報じるなど、政府や軍を揺るがし、「正義の戦争」と信じる米国民に衝撃を与え、その後の撤退を求める世論の拡大に大きな影響を与えました。さらに、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙などの主要メディアは、イラク開戦にかかわるみずからの報道を検証する記事を掲載し、誤りを認めました。誤りに対しても、なかなか潔いところがあるのです。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-17/2013121702_02_1.html
赤旗『秘密が招いた戦争の惨禍、歴史を偽る石破発言、真実覆い隠した「大本営発表」』
 「秘密を報じれば国家の危機を招き、大勢の国民が死ぬ。」
 秘密保護法に関わって自民党石破茂*8幹事長がこんな理屈で、「秘密」報道の抑制を説いています。“報道よりも国民の命が優先だ”といいたいのでしょうが、歴史に学ばない逆さまの議論です。(竹原東吾)
 日本はかつて、政府の「秘密」が報じられないもとで、中国への侵略戦争アメリカやイギリスをはじめ世界を相手にしたアジア・太平洋戦争を行い、日本で310万人以上、アジアで2000万人以上もの犠牲者を出しました。
 この侵略戦争を指導した「大本営」の発表は、日本軍が大敗北しても勝利したかのようなウソを垂れ流し、退却も「転進」と言いかえるなど国民から真実を覆い隠しました。その発表は太平洋戦争の45カ月間で846回に及びます。真実は「秘密」にされ、厳しい報道管制のもとでおびただしい数の犠牲者を出したのです。
 真実が秘匿された結果、泥沼の戦争に陥って大勢が死んだのは日本だけではありません。アメリカのベトナム戦争イラク戦争がそうです。
 ベトナム戦争の全面化につながった1964年の「トンキン湾事件」が米軍部のねつ造だったことは、ニューヨーク・タイムズ紙が暴露した米国防総省の機密報告文書―「ペンタゴン・ペーパーズ」で明らかになっています。
 文書を提供したダニエル・エルズバーグ氏(米国防省元職員)は「赤旗」の取材に「マクナマラ(元米国防長官)だったら、なんら法を犯す危険もなくペンタゴン・ペーパーズを発表できたし、戦争を終結できたはずです」(1995年5月2日付)と述べています。ベトナム戦争の犠牲者はベトナム人約300万人、米軍6万人近くに上ります。もしペンタゴン・ペーパーズの内容がもっと早く報じられていれば、どれだけ大勢の命が助かったか。
 イラク戦争もそうです。フセイン政権の大量破壊兵器の開発・保有疑惑を理由に国連安保理の承認なしに開戦しましたが、米国政府調査団の正式報告(2004年10月)によって、そうした事実はなかったことが明らかになっています。死者は民間人12万人以上といわれます。
(中略)
 「大勢の人が死ぬ」戦争は、真実を覆い隠すことから始まります。石破氏の発言は、歴史をわきまえず、秘密を盾にした報道統制にまっしぐらに突き進む道です。
ペンタゴン・ペーパーズ
 北ベトナムトンキン湾で米駆逐艦北ベトナム魚雷艇から攻撃を受けたとされた事件(トンキン湾事件、1964年)が、当時のジョンソン政権によるねつ造だったことを示す秘密報告書。1971年にニューヨーク・タイムズ紙が米政府の強圧をはねのけて暴露しました。

ペンタゴン・ペーパーズ(ウィキペ参照)
ニューヨーク・タイムズのスクープ
 1971年、ペンタゴン・ペーパーズ執筆者の1人であるダニエル・エルズバーグ(当時シンクタンクランド研究所に勤務していた)がニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者などに全文のコピーを手渡した。
 ニューヨーク・タイムズではシーハン記者を中心に特別チームを作り、1971年6月13日から連載記事として報道された。これを受けてワシントン・ポストなども文書を入手し、「ペンタゴン・ペーパーズ」の報道を始めた。
■訴訟
 ニューヨーク・タイムズが記事を掲載すると、当時のニクソン大統領は「国家機密文書の情報漏洩である」として、司法省に命じて、記事の差し止め命令を求める訴訟を連邦地方裁判所に起こした。
 しかし一審では訴えが却下され、控訴審のワシントン連邦高等裁判所で訴えは認められたが、連邦最高裁判所での上告審では「政府は証明責任を果たしていない」という理由で却下された。この裁判は憲法修正第1条(言論の自由)を巡る問題に関する以後の判例と政府活動に大きな影響を与えた。
■機密解除
 ニューヨーク・タイムズのスクープからちょうど40年後の2011年6月13日、「ペンタゴン・ペーパーズ」の機密指定が解除され、国立公文書記録管理局などが全文を公式ウェブサイトで公開し、全7,000ページのうち、これまで明らかになっていなかった2,384ページも閲覧できるようになった。

トンキン湾事件(ウィキペ参照)
 1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾北ベトナム軍の哨戒艇アメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件である。これをきっかけに、アメリカ合衆国連邦政府は本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。アメリカ合衆国議会は、上院で88対2、下院で416対0で大統領支持を決議をした。しかし、1971年6月『ニューヨーク・タイムズ』が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手、事件の一部はアメリカ政府が捏造した物だったことを暴露した。

■『ペンタゴン・ペーパーズ:最高機密文書』(ウィキペ参照)
■あらすじ
 ケネディ、ジョンソン*9の両大統領によってベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国民の間に戦争に対する疑問や反戦の気運が高まっていたニクソン*10大統領政権下の1971年、ニューヨーク・タイムズ紙がベトナム戦争を分析及び報告した国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をスクープする。
 ワシントン・ポスト紙発行人のキャサリン・グラハムと部下で編集主幹のベン・ブラッドリーは、ニューヨーク・タイムズと時に争いながらも連携し、「戦争中における政府の機密漏洩」という事態そのものを問題視し、記事を差し止めようとする政府と裁判を通じて戦う。
■キャスト
・キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ*11):ワシントン・ポスト社主・発行人。
 ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件報道は、ワシントン・ポストの評価を高めると共に、報道に踏み切った英断を行った発行人として彼女の名を一躍有名にし、アメリカで最も影響力のある女性の1人として広く語られることとなった。1998年には、自伝『キャサリン・グラハム わが人生』(邦訳:TBSブリタニカ)でピューリッツァー賞(伝記部門)を受賞した。
・ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス*12):ワシントン・ポスト編集主幹。
・トニー・ブラッドリー(サラ・ポールソン):ベン・ブラッドリーの妻。
・ベン・バグディキアン(ボブ・オデンカーク):ワシントン・ポスト編集局次長。
・フリッツ・ビーブ (トレイシー・レッツ):ワシントン・ポスト取締役会長。
・アーサー・パーソンズブラッドリー・ウィットフォード*13):ワシントン・ポスト取締役。
ロバート・マクナマラブルース・グリーンウッド):ケネディ、ジョンソン政権国防長官。後に世界銀行総裁。著書『マクナマラ回顧録ベトナムの悲劇と教訓』(1997年、共同通信社)など。
・ダニエル・エルズバーグ (マシュー・リス):ペンタゴン・ペーパーズの情報提供者。元国防総省職員。

http://globe.asahi.com/news/2018030900001.html?page=1
内部告発者自身が語るジャーナリズムの危機〜『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』藤えりか*14
「メディアにとっても、またフェミニズムにとっても意義ある映画だ」。
 30日公開の米映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(原題: The Post)(2017年)が描く「ペンタゴン・ペーパーズ」を内部告発したまさにその人、ダニエル・エルズバーグ(86)に約7年ぶりに会いに行き、そう言われた。自ら危険を冒し、ベトナム戦争をめぐる米政府のウソを世に知らしめた20世紀を代表する内部告発者にインタビュー、今作の問題提起について考えた。
 ペンタゴンとは米国防総省のこと。米バージニア州アーリントンにある同省の建物が五角形であることからそう呼ばれる。エルズバーグは同省系のランド研究所軍事アナリストをしていたが、1971年3月、約7000ページもの機密文書をひそかに持ち出した。これが世に言う「ペンタゴン・ペーパーズ」。ベトナム戦争での米国の軍事行動について膨大な事実がつづられ、トルーマンアイゼンハワーケネディ、ジョンソンまで4人の大統領のもと、政府がウソの説明を何度もしていたことをもつまびらかにするものだった。
 エルズバーグは当初、当時の国家安全保障問題担当の大統領補佐官キッシンジャー*15や、上院外交委員長フルブライト議員らを動かそうとしたが叶わず、当時34歳のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)記者ニール・シーハンに持ち込む。NYTは法律顧問の反対を押し切り、約3カ月の精査を経て第一報を報じた。当時のニクソン政権は激怒、「国家の安全保障を脅かす」との理由で公表中止を求め、連邦裁は掲載中止の仮処分命令を出す。だが続いてワシントン・ポスト紙も文書を入手し報道。他の地方紙も続々と報じるようになり、最高裁は掲載中止の命令を無効とした。すでにベトナム戦争での死傷者数がどんどん増えていたさなか。報道を受け、ベトナム反戦運動は盛り上がった。
 映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、原題のThe Postが示す通り、NYTの特ダネを続報で追ったワシントン・ポスト紙に焦点を当てる。NYTに比べ、「ワシントンの地方紙」といった雰囲気もまだ色濃かった当時の同紙では社主家のキャサリン・グラハムが、自殺した夫の跡を継ぐ形で主婦から突如として同紙発行人となり、「経験のない女性経営者」として周囲から軽んじられつつも奮闘していた。編集局は編集主幹ベン・ブラッドリーのもと、記者らが文書入手に奔走するが、報じればNYT同様に掲載中止の命令が出される恐れから、株式公開を控えて法律顧問らは猛反対。グラハムは決断を迫られる。
 グラハム役はメリル・ストリープ(68)、ブラッドリー編集主幹を演じたのはトム・ハンクス(61)。監督は言わずと知れたスティーブン・スピルバーグ(71)だ。
 新聞記者のはしくれとしては、「特ダネを抜かれた側・追う側」の視点をスクリーンで見るにつけ、あるいは政権からの掲載中止要請でしばし孤立した形のNYTの苦闘を想像するにつけ、ヒリヒリとした思いになる。特ダネは、当事者が容易に認めない内容だったり、関係組織の権力が強大であったりするほど、追いつくのは難儀だ。一方、他社を寄せつけないほどの特ダネで先行したメディアは一見、「勝者独走」状態に映るかもしれないが、当事者が一貫して否定して他社がどこも追随しないと、権力から叩かれる一方で、孤立しかねない。
(中略)
 エルズバーグはその後、スパイ防止法違反などで逮捕・起訴されたものの、政権側による違法な盗聴などが明らかになり、公訴棄却。以来、反戦反核運動に身を投じ、何十回と逮捕されても活動を続けているが、かつては「正義の戦争」を信じるタカ派だった。ベトナム文民として赴いて惨状を目の当たりにし、また帰国後に米国のベトナム介入の歴史を研究するにつれ、「戦争は最初から理にかなったものではなかった。不当な殺人だ」と気づいた。
(中略)
 エルズバーグは今作についてこう語った。
「今この映画から汲み取れるもの、あるいは主な効果は、フェミニズムだろう。女性が立ち上がり、自分自身の力を得ていくところにある」
 女性は家にいるのがまだ当然視されていた時代、グラハムは予期せぬ形で経営者となり、自信のない雰囲気を徐々に捨て、女性を軽んじる発言の数々にも負けず、決断力あるリーダーへと変貌していった。
(中略)
 ワシントン・ポストはその後の1973年、ニクソン大統領辞任に至ったウォーターゲート事件をすっぱ抜いてピュリツァー賞を受賞した。詳しくはアカデミー賞4冠の『大統領の陰謀』(1976年)に描かれているが、この作品ではセリフの中でしか登場しないグラハムは、ブラッドリー編集主幹の下で進められた調査報道を引き続き支えたとされる。グラハムももはや「自信なさげな女性経営者」ではなくなっていたことだろう。ウォーターゲート事件の報道はある意味、ペンタゴン・ペーパーズ報道の続編でもあるのだ。
 エルズバーグは、講演後の立ち話で「トランプが露骨にメディアに戦争をしかけている今、非常に大事な映画だ」と危機感をあらわに。当時のニクソン大統領と今のトランプ大統領の違いを挙げ、こう言った。
ニクソンもメディアを敵呼ばわりし、『彼らは敵だ、信じるな!』と言ったが、公の場ではなくあくまで内輪の席だった。トランプはメディアを公の場で問題にしている。報道陣の信頼性を貶めるなんて、過去のどの大統領もしたことがない。トランプ支持者も、まるでほとんど催眠術にかけられたかのように、『俺の言うことやツイートだけを見ろ! メディアは信じるな!』というトランプの言葉にだけ耳を傾けている」
 エルズバーグは立ち話でさらに語った。
「今日の司会者とも話したのだが、たとえトランプがすごくひどいことをしている動画が流れても、支持者は『あれは加工動画だ、事実じゃない』と言うだろう、そうしてトランプは難を逃れるだろうね、と。つまり、彼を告発するような書類が何か出てきたところで、それがどんなに事実であってもトランプへの支持は揺るぎないのではないかという問題が非常にある。支持者は、メディアは貪欲に取材するわけではなく事実なんて伝えない、と信じようという構えでいる。とても危険な状況だ」

スティーヴン・スピルバーグ(1946年〜:ウィキペ参照)
■1970年代
 1972年に、テレビ映画として撮った『激突!』が評判を呼び、海外では劇場公開され、スピルバーグの名前が世界に知られるようになる。1974年に『続・激突! カージャック(邦題)』*16で、劇場用映画監督に進出。
 1975年に公開された『ジョーズ』はそれまでの『ゴッドファーザー*17』(1972年公開、フランシス・フォード・コッポラ*18監督)の記録を破り1977年に『スター・ウォーズ*19』(ジョージ・ルーカス監督)に抜かれるまで世界歴代興行収入1位を記録する大ヒットとなり一流監督の仲間入りを果たす。1977年に公開された、人類と宇宙人のコンタクトを描いた『未知との遭遇』も話題となった。
■1980年代
 一作目が1981年、二作目が1984年、三作目が1989年に公開された、考古学教授でありトレジャーハンターの大冒険を描いた『インディ・ジョーンズ』シリーズが大ヒットとなった。1982年に公開された、不恰好だが愛くるしい宇宙人と子供たちとの交流を描いたファンタジー作品『E.T.』では、2度目の世界歴代興行収入1位を記録。
■1990年代
 1993年には『ジュラシック・パーク*20』を大ヒットさせ、1997年に『タイタニック*21』(ジェームズ・キャメロン監督)に破られるまで、世界歴代興行収入1位(3度目)を記録。同年のアカデミー賞では『シンドラーのリスト*22』で作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞美術賞、作曲賞の7部門を受賞。
 1998年に『プライベート・ライアン*23』で、監督賞、編集賞、撮影賞、音響賞、音響編集賞の5部門を受賞。


ザ・シークレットマン
■公式サイト
http://secretman-movie.com/

ザ・シークレットマン(ウィキペ参照)
・2017年制作のアメリカ合衆国の映画。ウォーターゲート事件の情報提供者「ディープ・スロート」こと、当時の連邦捜査局(FBI)副長官マーク・フェルト(演:リーアム・ニーソン)を描いた作品。

https://miyearnzzlabo.com/archives/47250
町山智浩*24ペンタゴン・ペーパーズ』『ザ・シークレットマン』を語る
 町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』と『ザ・シークレットマン』を紹介していました。
町山智浩
 今回、2本紹介するんですが。この2本、続けて両方見ないとわからない映画なんですね。1本はアカデミー賞の現在、作品賞候補になっている、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』です。
 この『ペンタゴン・ペーパーズ』というのは、1971年に流出したアメリカ政府の機密文書です。これはランド研究所というシンクタンクアメリカの国防総省……だからペンタゴンがあるところですね。が、依頼をして研究をさせた研究結果の報告書なんですけども。どういう内容か? といいますと、ベトナム戦争前に行われたシミュレーションなんですが。「もしアメリカがベトナムに攻め込んだら、この戦争に勝てるか?」というシミュレーションなんですよ。
 で、ランド研究所は徹底的に調査・分析をした結果、「これは勝てねえよ」っていう結果を出したんですね。
 それなのに、1964年に民主党のジョンソン大統領はベトナムに攻め込んじゃったんですよ。勝てないとわかっているのにですよ。どうやっても勝てないと。で、それはその時の国防長官のマクナマラが「ベトナムから攻撃された」というでっち上げまでして攻め込んでいるんですよ。で、その結果、どうなったかといいますと、泥沼にハマりまして。アメリカ側は58万人死亡。ベトナム側はもう100万人以上死ぬという大惨事になりました。で、このランド研究所の研究をしていた本人が、「俺は研究していて『勝てない』って言ったのに、なんで戦争してんだ?」っていうことで頭に来て、研究所からそのペンタゴン・ペーパーズを盗み出しました。
 ダニエル・エルズバーグという人が。で、それを新聞社に送りつけました。一部ですけども。それが、ニューヨーク・タイムズに1971年。ベトナム戦争の真っ最中に記事が出ました。これは大変なことですよね。勝てないとわかっていたのにいま、戦争をしているんだと。ところが、その時に大統領はニクソン大統領だったんですけども。1968年に大統領になる時、「ベトナム戦争を徹底的に継続して勝つ!」っていう風に言っていたんですよ。だから、このペンタゴン・ペーパーズを記事に書いたニューヨーク・タイムズを機密漏洩罪で訴えるんですよ。
 だから、要するにこのペンタゴン・ペーパーズに触れたやつはみんなスパイとして刑務所にブチ込むぞっていうことですね。この法律は日本で言う特定機密保護法みたいなものなんですよ。軍の秘密を新聞とかに載せたり漏らしちゃいけないということですけども。ところが、この『ペンタゴン・ペーパーズ』っていう映画はそう聞くとニューヨーク・タイムズの映画かと思うじゃないですか。
山里亮太*25
 はい。
町山智浩
 ところがこれは原題は『The Post』って言いまして。ニューヨーク・タイムズのライバル紙であるワシントン・ポストっていう新聞がタイトルになっているんですよ。
海保知里*26
 ええっ?
町山智浩
 そう。だからね、「あれっ?」って思うんですよ。映画を見ると。で、いまワシントン・ポストっていうのはニューヨーク・タイムズと並ぶ全国紙なんですね。アメリカっていうのは基本的にはローカル新聞しかなくて。ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストウォール・ストリート・ジャーナルとUSAトゥデイだけが全国紙なんですよ。ところが、この頃のワシントン・ポストっていうのはまだ首都ワシントンのローカル紙にすぎないぐらいなんですね。レベルとして。
山里亮太
 うんうん。
町山智浩
 しかもね、社長さんがちょっと精神がおかしくなって自殺しちゃって。その未亡人が会社の経営を引き継いだんですね。その未亡人の名前はキャサリン・グラハムさんっていう人で、それを演じるのがメリル・ストリープさんです。
海保知里
 おおっ、大御所。
町山智浩
 アカデミー主演女優賞にこれでノミネートされています。ところがこのキャサリンさんは全く子供の頃から新聞社のお嬢さんとして育っていて、全く仕事もしたことがない(ボーガス注:安倍昭恵のような)人なんですよ。なんの経験もない人なのに、いきなりアメリカの主要新聞の史上初の女性発行人になっちゃったんです。で、ところがそこにペンタゴン・ペーパーズがニューヨーク・タイムズに出たということで、腕利きの編集長がいまして。ワシントン・ポストにね。これがトム・ハンクス演じるベン・ブラッドリー編集長なんですね。
 で、頭に来ちゃうわけですよ。ニューヨーク・タイムズをライバルと思っていたから。「俺たちもペンタゴン・ペーパーズを探すぞ!」って探して、手に入れるんですよ。ところが、それをもしワシントン・ポストに載せたら、自分たちも機密漏洩罪で刑務所にブチ込まれる。だけじゃなくて、会社の経営も危なくなるかもしれない。要するに、反体制側の新聞なんだということで、政府の圧力をかけられるからいろんなところの広告が出なくなったり、その後に政府の取材ができなくなったり。いろんなことが起こるだろう。だからこのキャサリンさんはすごく悩むわけですね。どうしたらいいか? お嬢さんで何も知らない人だったんですよ。
 しかもワシントンで子供の頃から育っているから、周りは全部政治家ばっかりなんですよ。で、このベトナム戦争自体を引き起こしたマクナマラ国防長官は家にしょっちゅう来る人だったんです。
 完全に癒着しているんですよ。ねえ。総理大臣とかとご飯を食べているような人ですよ。実際に食べているシーンも出てくるんですけども。ところが、トム・ハンクスは「こんなの冗談じゃねえよ。この記事を新聞に載せなかったらどうなるんだ? ベトナム戦争が負けるとわかっているのに。それこそ100万人以上死んでいるんだぞ! これを載せるのは新聞の義務だろう!」ってキャサリンさんを突き上げるわけですね。
山里亮太
 だから、原題が『The Post』なんだ。
町山智浩
 そうなんですよ。ちなみに大統領とか総理大臣がこういうことに関して圧力をかけてはいけないんですよね。実際は。ところがこの映画の中ではニクソンの実際の電話の録音の音声が使われています。ニクソン大統領が圧力をかけようとしているという証拠が残っているんですよ。
山里亮太
 へー!
町山智浩
 で、この映画がいちばん驚くのは、スティーブン・スピルバーグ監督はこの映画を作ろうと決めてから、11月末ぐらいに完成するんですけど、それまでにたった9ヶ月なんですよ。
海保知里
 早い!
町山智浩
 作ろうと決めてから完成するまで、たった9ヶ月ですよ。で、これができるのは、まずスピルバーグは異常な早撮りの人なんですよ。
海保知里
 そうなんだ。そういうイメージ、なかったですけど。
町山智浩
 スピルバーグクリント・イーストウッド*27はとにかくワンテイクっていって、1回でOKの人なんですよ。全て、ほとんど。で、しかもこのトム・ハンクスメリル・ストリープには演技指導はしていないと言っています。名優だから放っておけばいいんですよ。だから、そういう天才たち、職人たちだから可能になった9ヶ月で映画1本を作るというやつなんですけども。なぜ、そんなに急いで作らなきゃならなくなったのか?
 スピルバーグがこの映画を作ろうと決めたのは、ドナルド・トランプが大統領になって。いわゆるフェイクニュースといわれるものをバラ撒きながら、自分のことを攻撃する新聞やCNNなどのテレビを逆に「フェイクだ!」と呼んで。メディアに対する信頼を失わせていくという事態があったので。スピルバーグははっきり言っているんですが、「この『ペンタゴン・ペーパーズ』という映画はフェイクニュースに対する解毒剤である」と。
山里亮太
 へー!
町山智浩
「この映画を作ったのは、いまマスコミやマスメディア、新聞社、テレビがやらなければならないことを思い出させるためだ」という風にはっきりと言っていますね。
山里亮太
 はー、なるほど!
町山智浩
 やっぱりスピルバーグはすごいんですよ。この人は。もうハッパをかけるために作っているんですよ。「お前ら、見ろ! 昔の新聞社っていうのはやっていただろ?」みたいな。「記事とか書かねえでビビッていたりするんじゃねえぞ!」みたいなことなんですよね。で、このキャサリンさんはすごく名言を残していて。「大事なニュースというのは、それを圧力で潰そうとするものがいるニュースです」って言っているんです。それこそがいちばん大事なニュースだと言っているんですね。
 で、憲法の修正第一条で認められている、アメリカにおいていちばん大事な憲法の条項というのは「言論・出版・報道の自由」なんですよ。それをもって戦うという話が『ペンタゴン・ペーパーズ』なんですが……。
 実はもう1本の映画、これはこの映画とつながっていて。ワシントン・ポストの話なんですよ。もう1個の映画は『ザ・シークレットマン』というタイトルの映画なんですが、ペンタゴン・ペーパーズの事件の翌年の話なんですね。1972年。で、その時は大統領選で、ニクソン大統領が再選。二期目の選挙だったんですけども、ウォーターゲート事件というのが起こります。ワシントンにあったウォーターゲートビルにあったニクソンのライバル、民主党選挙対策本部をニクソンが盗聴しようとして、スキャンダルになりました。
 で、結果的にはニクソンはこれで大統領を辞めることになるんですけども。それをすっぱ抜いたのが、ワシントン・ポストなんですよ。で、その時の編集長がさっき言ったベン・ブラッドリーさんです。
山里亮太
 ほう!
町山智浩
 で、このウォーターゲート事件ワシントン・ポスト側の話っていうのがすでに映画になっています。これは1976年に『大統領の陰謀』という映画になっています。これはものすごくヒットをしたので有名なんですけども。ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンが若い新聞記者2人組で。まあ、このウォーターゲート事件が何だったのか? を暴いていくっていう話なんですね。
 でも、彼らが決定的にそのウォーターゲート事件を掴んだのは、あるリークがあったからなんですよ。何者かがワシントン・ポストにリークをしまして。ただそれは、この間まで誰が情報を漏らしたのか、わからなかったんですよ。2005年にはじめてわかったんですけども、これはFBIの副長官のマーク・フェルトっていう人だったんですよ。
 つまり、政府側の内部の人。しかも、ウォーターゲート事件はFBIも実際は噛んでいるんですよ。完全にやった側の人、副長官のマーク・フェルトがリークをしていたんですね。で、マーク・フェルトさんは亡くなったんですけど、今回日本で公開される『ザ・シークレットマン』という映画はそのマーク・フェルトがなぜ、リークをしたのか?っていう映画なんですよ。
山里亮太
 あ、へー! なるほど。
町山智浩
 だから『大統領の陰謀』とそっくりのショットが出てくるんですけど。『大統領の陰謀』だと記者側からカメラで撮影しているのを、この『ザ・シークレットマン』だとマーク・フェルト側から撮影していたりするんですよ。全く同じで。
山里亮太
 へー!
町山智浩
 『大統領の陰謀』の裏側なんですよ。で、もともとFBIっていうのはアメリカの中でも非常に特殊な組織で、大統領が全く手を出すことができない組織だったんですね。FBIっていうと、みんな警察だと思っている人が多いんですけど。まあ、現在は警察なんですがその当時、1972年にフーバー長官が亡くなるまではほとんど政治家のスキャンダルを盗聴しては、政治家を脅迫するだけの組織だったんです。
山里亮太
 ああ、そうだったんですか。
町山智浩
 で、ケネディ大統領も脅迫されていましたし、マーティン・ルーサー・キング*28牧師は奥さん以外の人とエッチをしているのをテープに録られて、それを奥さんに送りつけるとか、そういうことをFBIにやられているんですね。で、そういうシモ関係を盗聴することによって、週刊文春方式で権力を握っていたのがエドガー・フーバーなんですよ。FBIって偉大なものでもなんでもなくて、週刊文春の大きなものだったんですよ。
海保知里
 そういうことなんですね(笑)。
町山智浩
 だから大統領も手が出せなかったんですよ。ところが、72年にそのフーバー長官が死んじゃうんですね。それでニクソンが動き出すんですよ。FBIを完全にコントロールするために、死んだところの長官に自分の手の者を入れちゃうんですね。要するに、自分の部下を入れてしまうんですよ。ところが、マーク・フェルトはそれまでずっとフーバーの下で副長官をやっていたんで、自分が長官になると思い込んでいたわけですよ。
山里亮太
 うん。
町山智浩
 そしたら、上にニクソンが入れた人が乗っかって、身動きが取れなくなるんですね。で、その直後にまた今度、ウォーターゲート事件があって。ウォーターゲート事件は盗聴器を仕掛けようとした人たちが警察に捕まっちゃうんですね。強盗だと思われて。で、調べてみたら……そこでFBIのマーク・フェルトたちが捜査に入るんですよ。で、わかったのは「この盗聴器を仕掛けているやつらはみんな、元FBIと元CIAのスパイたちだよ」と。つまり、彼らは盗聴のプロだと。でもFBIとCIAって普通、合同で行動をしないんですね。絶対に。それができるのは、大統領しかいないんですよ。彼らを動かせるのは。
海保知里
 はー!
町山智浩
 だからこれが「大統領が選挙妨害をするために盗聴をした」ということが、マーク・フェルトにはその場でわかっちゃうんですね。で、どうしよう?って思ったら、そのニクソンの手がかかった長官が、「捜査中止!」って言うんですよ。
山里亮太
 おおっ!
町山智浩
 だけじゃなくて、その捜査でいろいろとわかった資料を全部隠滅します。つまり、ニクソンが盗聴していたことだから、ニクソンの手の者であるFBI長官がFBI内部の資料を隠滅しました。もみ消しをやったんです。だから、マーク・フェルトワシントン・ポストに行ったんですね。
山里亮太
 なるほど!
町山智浩
 っていう、すごいことがあって。このマーク・フェルトを演じるのがリーアム・ニーソンっていう俳優さんなんですが。この人は『シンドラーのリスト』のシンドラーを演じた人ですね。まあ、説明しますと第二次大戦中にナチ党員であるドイツ人のシンドラーがナチをだまくらかしながら、ユダヤ人をホロコースト(虐殺)から救っていたんですね。実話ですよ。で、彼は熱心なナチ党員だと思われていて、ナチの中にいたんですよ。ところが実際はナチに逆らってユダヤ人を助けていたんですよ。今回と同じですよ。FBIの中にいて、FBIの情報を流していたわけですから。
海保知里
 ええ、ええ。
町山智浩
 しかも、記事が出た後にFBIの長官は「これはFBIの内部から情報が漏れているから、誰が裏切ったか探せ!」ってマーク・フェルトに命じるんですよ。
山里亮太
 ほう!(笑)。
町山智浩
 シンドラー状態になるんですよ。で、それを2005年までずっと黙っていたわけですけども。この1972年からね。で、なぜ彼がFBIの内部情報を流していたか?っていう、非常に個人的な理由があるんですよ。
山里亮太
 ふんふん。
町山智浩
 彼がずーっとフーバーの片棒を担いで、悪い盗聴行為に加担していたわけですけど、それを反省して長官になったらいい組織にしようと思っていたんですね。で、なぜそれを思っていたのか?っていうのは、この映画ではじめて明らかになります。彼がなぜ、いままでやってきたことを反省して、国のため、国民のために情報を漏らそうとしたのか? はこの映画のいちばん最後でわかるんですよ。
 それは、「ああ、そうか!」っていう感じなんですよ。で、いままでアメリカ人もなぜ彼が情報を漏らしたのか、ほとんど知らなかった。彼のその愛国心がどこから出たのかがはじめてわかるのがこの映画なんですけども。で、監督はね、ピーター・ランデズマンという人で、この人はこの前に撮った映画はアメリカン・フットボールNFLで次々と脳震盪で半身不随になる人が増えているというタブーを暴いた映画を撮った人です。『コンカッション』っていうんですけども。で、大問題になりましたけど、そういう監督なんで、僕はこの間会って話したんですけど。
 で、なぜいま、この映画を……1972年のFBI対大統領の話を作ったか?って言ったら、もうそれは「これは現在の話だから」って言っていました。いまのトランプ大統領がやっていること。つまりロシアとのつながりの疑惑でFBIから調査されている最中に、FBI長官をクビにしたわけですね。トランプ大統領は。これは完全に司法妨害ですね。もし、そうなら。で、現在捜査を受けているわけですけども。ニクソン大統領はこのFBIに対するウォーターゲート事件もみ消しで司法妨害に問われて、結局弾劾されそうになって辞任しているんですよ。
 これ、現在の状況なんですよ。で、とにかく三権分立においては大統領とか総理大臣は司法である警察やFBIや検察や裁判官に対して命令をしたり、圧力をかけては絶対にいけないんですよ。それは、完全に三権分立違反なんですよ。だから絶対にやっちゃいけないことなんですよ。総理大臣や大統領が警察に対して何かを指示してはいけないんですよ。……日本でも、(ボーガス注:加計森友で)やってますね。だからこれはアメリカのことだけではないんですよ。
山里亮太
 なるほど! 世界中で起きていること。
海保知里
 そうですね。
町山智浩
 世界中で行われていることで。だから彼らがこの映画を作らなきゃならなかったし。いま、見なきゃいけないんだと思います。
海保知里
 はー! 見たい! 2つ続けて。
町山智浩
 はい。2つ続けるとね、映画がちゃんとつながっている感じになるんですけど。先に起こった方が『ペンタゴン・ペーパーズ』で、その後に起こるのが『ザ・シークレットマン』なんですけど。その間のつなぎで『大統領の陰謀』。76年の映画ですけど、それも見ておくとすごく全部が、3つが3Dのようにつながってきますので。そういう風に楽しんでいただけたらと思います。ということで、『ザ・シークレットマン』はもうすぐ、2月24日に日本公開。『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は3月30日に日本公開です! 
海保知里
 ということで、『ザ・シークレットマン』と『ペンタゴン・ペーパーズ』を紹介していただきました。そして忘れちゃいけないのが76年の『大統領の陰謀』です。町山さん、ありがとうございました。

ジョン・エドガー・フーヴァー(1895〜1972年:ウィキペ参照)
 アメリカ連邦捜査局(FBI)の初代長官。クーリッジ*29、フーバー*30ルーズベルト*31トルーマンアイゼンハワーケネディ、ジョンソン、ニクソン政権で約48年(1924〜1972年)にわたりFBI長官を務めた。フーバーがこれほど長期間、長官を務めたことは弊害を生んだとされ、彼の死後、FBI長官の任期は、10年に制限されている。
・1961年に大統領に就任したジョン・F・ケネディはフーヴァーを解任しようとした。フーヴァーはすぐにケネディのもとに行き、もし解任したら自分が持っている情報(ケネディの女性問題やマフィアとの関係)を公開すると言い放ったという。

*1:ルーズベルト政権副大統領を経て大統領

*2:米国陸軍参謀総長NATO軍最高司令官などを経て大統領

*3:政策委員長、副委員長などを経て党書記局長

*4:後に志位『日本の巨大メディアを考える』(2012年、日本共産党中央委員会出版局)として書籍化。また志位『綱領教室〈第3巻〉』(2013年、新日本出版社)にも収録された。

*5:『メディアの興亡』(1986年、文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞(1986年)。

*6:後に1998年、文春文庫。

*7:1912〜1992年。1935年に早稲田大学卒業。その後1年ほど松竹大船撮影所付属の脚本研究所に入るが、結局松竹を退社して毎日新聞社に入社する。ただ毎日新聞では事業部に配属されたため、第二次世界大戦末期の一時期を除いて新聞記者として働いた時期はほとんどない。1946年に毎日新聞が『新大阪』を発行する新大阪新聞社を設立すると、毎日新聞から同社に派遣される形で同社編集局長に就任。 『新大阪』時代は新聞拡販の目的で数多くのイベントを仕掛け、西宮球場での闘牛大会(後に井上靖が『闘牛』として小説化し芥川賞を受賞する)、 甲子園球場での将棋の大公開対局(松田辰雄八段対大山康晴八段。スポンサーは山之内製薬)などのイベントを成功させイベントプロデューサーとして注目を浴びる。その後毎日新聞新大阪新聞社の関係が希薄になると毎日新聞に戻り、新日本放送(現在の毎日放送)や毎日オリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)の創設に関わる。1958年には吉田秀雄・電通社長に請われる形で電通に移籍、ラジオ・テレビ局長を務める。 電通では他にも東京オリンピックの広報プロデューサーなどを担当したが、1963年に吉田が亡くなったことなどから、1966年に電通を退社し自らの個人事務所「デスクK」を設立し独立した。独立後は日本万国博覧会大阪万博)で住友童話館のプロデュース、国際科学技術博覧会(筑波万博)で広報委員長を担当するなど、以後も長らくイベントプロデューサーとして活躍した(ウィキペ『小谷正一』参照)

*8:小泉内閣防衛庁長官福田内閣防衛相、麻生内閣農水相自民党政調会長(谷垣総裁時代)、幹事長(第二次安倍総裁時代)、第三次安倍内閣地方創生担当相など歴任

*9:ケネディ政権副大統領。ケネディ暗殺により大統領に昇格。

*10:アイゼンハワー政権副大統領を経て大統領

*11:1979年公開の『クレイマー、クレイマー』でアカデミー助演女優賞を、1982年公開の『ソフィーの選択』、2011年公開の『マーガレット・サッチャー』で、アカデミー主演女優賞を受賞した。現在、『ペンタゴン・ペーパーズ』でアカデミー主演女優賞にノミネートされている。

*12:1993年に『フィラデルフィア』、1994年に『フォレスト・ガンプ/一期一会』で2年連続、アカデミー主演男優賞を受賞

*13:日本では海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』のジョシュ・ライマン大統領次席補佐官役で知られる。

*14:著書『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか:ハリウッドからアメリカが見える』(2017年、幻冬舎新書

*15:ニクソン、フォード政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官国務長官

*16:日本では、あたかも1971年に制作された『激突!』の続編を思わせる『続・激突! カージャック』というタイトルで公開されたが、実は本作と『激突!』には何の関連もなく、英語の原題も『The Sugarland Express」であり『激突!』の英語原題『Duel』と全く関係がない。大林宣彦も著書『大林宣彦の映画談議大全』(2008年、角川グループパブリッシング)で「日本語タイトルが酷い」と述べている(ウィキペ『続・激突!/カージャック』参照)。

*17:1973年のアカデミー作品賞、脚色賞、主演男優賞(ヴィトー・コルレオーネを演じたマーロン・ブランド)を受賞。

*18:ゴッドファーザー』(1972年公開)でアカデミー作品賞、脚色賞を、『ゴッドファーザー PARTII』(1974年公開)でアカデミー作品賞、監督賞、脚色賞を受賞。

*19:1977年のアカデミー美術賞、衣装デザイン賞、編集賞、作曲賞、録音賞、視覚効果賞を受賞。

*20:バイオテクノロジーを駆使して蘇らせた恐竜たちによる惨劇を描くパニック・サスペンス(ウィキペ『ジュラシック・パーク』参照)。

*21:1912年に実際に起きた英国客船タイタニック号沈没事故を基に、貧しい青年と上流階級の娘の悲恋を描いた。1998年のアカデミー賞において、作品賞、監督賞、撮影賞、主題歌賞、音楽賞、衣裳デザイン賞、視覚効果賞、音響効果賞、音響賞、編集賞美術賞の11部門で受賞(ウィキペ『タイタニック』参照)。

*22:第二次世界大戦時にドイツによるユダヤ人の組織的大量虐殺(ホロコースト)が東欧のドイツ占領地で進む中、ドイツ人実業家オスカー・シンドラーが1100人以上ものポーランドユダヤ人を自身が経営する軍需工場に必要な生産力だという名目で絶滅収容所送りを阻止し、その命を救った実話を描いた(ウィキペ『シンドラーのリスト』参照)。

*23:第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台に、1人の兵士の救出に向かう兵隊たちのストーリー(ウィキペ『プライベート・ライアン』参照)。

*24:個人サイト(http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/)。著書『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』(2011年、文春文庫)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』 (2012年、文春文庫)、『アメリカは今日もステロイドを打つ:USAスポーツ狂騒曲』(2012年、集英社文庫)、『底抜け合衆国:アメリカが最もバカだった4年間』(2012年、ちくま文庫)、『トラウマ映画館』(2013年、集英社文庫)、『99%対1%:アメリカ格差ウォーズ』(2014年、講談社文庫)、『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(2014年、マガジンハウス)、『最も危険なアメリカ映画:『國民の創世』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』(2016年、集英社インターナショナル)、『トラウマ恋愛映画入門』(2016年、集英社文庫)、『アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き』(2016年、文春文庫)、『〈映画の見方〉がわかる本:ブレードランナーの未来世紀』(2017年、新潮文庫)、『マリファナも銃もバカもOKの国』(2017年、文春文庫)、『今のアメリカがわかる映画100本』(2017年、サイゾー)、『映画と本の意外な関係!』(2017年、集英社インターナショナル新書)、『「最前線の映画」を読む』(2018年、集英社インターナショナル新書)、『激震! セクハラ帝国アメリカ』(2018年、文藝春秋)、『町山智浩の「アメリカ流れ者」』(2018年、スモール出版)など

*25:お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のツッコミ担当

*26:TBSアナウンサーを経てフリーアナウンサー

*27:俳優として『荒野の用心棒』(1964年)、『夕陽のガンマン』(1965年)など数多くの西部劇やアクション映画に出演。自身最大の当たり役であるハリー・キャラハン役を演じた『ダーティハリー』シリーズ(1〜5まで:1971年、1973年、1976年、1983年、1988年)でスーパースターの地位を不動のものとした。監督としても『許されざる者』(1992年)、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)でアカデミー作品賞、監督賞を2度受賞。また、カリフォルニア州カーメル市市長を1期(2年間)務めた。

*28:公民権運動活動家。1964年のノーベル平和賞受賞者。

*29:ハーディング政権副大統領を経て大統領

*30:ハーディング、クーリッジ政権商務長官を経て大統領

*31:ニューヨーク州知事を経て大統領