今日の産経ニュース(7/8分)(追記・修正あり)

■【昭和天皇の87年】遂にロシア軍司令官が降服 世界が称賛した乃木希典*1の武士道精神
https://www.sankei.com/premium/news/180708/prm1807080006-n1.html

 機密日露戦史は、陸軍中将の谷寿夫*2(ひさお)が陸軍大学の教官時代、兵学講義の教科書として著作したテキスト。
(中略)
 なお、谷は(中略)昭和10年に第6師団長となり、南京攻略戦などに参戦した。しかし戦後は「南京事件」の責任者の一人としてGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に逮捕され、中国の南京軍事法廷に移送。その後の戦犯裁判で谷は、「第6師団は軍機(ボーガス注:産経の原文のまま)*3厳正であり、事件の証拠はすべて偽造である」などと主張したものの死刑判決が下され、22年4月26日、銃殺刑に処された。“勝者の裁き”による不当判決だが、谷は少しも取り乱さず、従容たる最期だったという。

 産経らしい文ですが機密日露戦史について触れるにおいて谷が戦犯裁判で死刑になったことに触れる必要はどこにもありません。
 なお、南京事件はもちろん、存在しました。谷の第6師団は南京事件に関係なかったのかと言えばそんなことはありません。軍紀粛清で非行行為などなかったというのも嘘ですし、そもそも南京事件では捕虜虐殺や「いわゆる便衣兵狩り」といった軍命令による行為が問題視されていますので「軍紀粛清」という言い訳は成り立ちません。もちろん証拠がすべて偽造なんてこともあり得ない。
 なお、この当時は「蒋介石政権」ですので産経は蒋介石をデマ屋呼ばわりしています。
 「蒋介石秘録を連載していた1970年代」においては蒋介石日記を紹介し、「被害者数はともかく」南京事件の存在自体は認めた産経が「国民党が中国共産党と友好関係に切り替わるや」、今や南京事件完全否定論の上、蒋介石をデマ屋呼ばわりとは、全くでたらめにもほどがあります。
 なお、蒋介石秘録については
■誰かの妄想・はてなブログ版『「蒋介石秘録」に見る南京大虐殺
http://scopedog.hatenablog.com/entry/20120226/1330258512
を紹介しておきます。産経は「1970年代の蒋介石秘録で、産経も南京事件の実在自体は認めていたじゃないか!。今は完全否定論のようだが、いつ1970年代の蒋介石秘録での南京事件関係報道を正式に撤回したのか!」つう批判に一度としてまともに回答したことはありません。
 それはともかく、谷が「命惜しさのためそう言ったのか」、軍関係者から「南京事件の存在は徹頭徹尾否定しろ」といわれたのかはともかく、谷の主張は全くの嘘です。
 少なくとも「谷が南京事件に責任がないかと言ったら責任はある」わけで、そういう意味では不当判決ではありません。
 「師団長の中で谷だけ処罰されるのは不当ではないか(後で簡単に説明します)」とか「捕虜虐殺の様な違法命令でも上司の命令なら部下の谷は従わざるを得ない」とか「死刑は重すぎる」とかいうならともかく。
 なお、南京事件では「熊本第6師団長」谷以外では「中支那方面軍司令官」松井石根*4東京裁判で死刑になりました。
 ウィキペ「谷寿夫」や笠原十九司*5の著書『「百人斬り競争」と南京事件』(2008年、大月書店)などが指摘していますが松井と谷の起訴には大きな謎があります。
 それは南京事件当時の軍幹部のウチなぜ彼ら二人だけが起訴されたのかということです。
 南京事件当時の主な現地軍幹部はウィキペ「谷寿夫」によれば以下の通りです(役職は事件当時)。

・中支那方面軍参謀長・塚田攻*6少将(裁判時点で死去)
・中支那方面軍参謀副長・武藤章*7大佐(南京事件とは別件(フィリピンでの捕虜虐待など)で起訴→死刑判決)
上海派遣軍司令官・朝香宮鳩彦王*8中将
上海派遣軍参謀長・飯沼守*9少将
上海派遣軍参謀副長・上村利道*10大佐
・金沢第9師団長・吉住良輔*11中将
・金沢第9師団参謀長・中川広*12大佐
・京都第16師団長・中島今朝吾*13中将(裁判時点で死去)
・京都第16師団参謀長・中沢三夫*14大佐
・第10軍司令官 柳川平助*15中将(裁判時点で死去)
・第10軍参謀長・田辺盛武*16少将(第25軍司令官当時の容疑で1946年逮捕。1948年にオランダの戦犯裁判で死刑)
・熊本第6師団参謀長・下野一霍砲兵大佐
・宇都宮第114師団長・末松茂治*17中将
・宇都宮第114師団参謀長・磯田三郎*18砲兵大佐
・久留米第18師団長・牛島貞雄*19中将

 このうち、裁判時点で死んだ人間は裁けないのは当然です。
 上海派遣軍司令官・朝香宮本人や「朝香宮がトップを務める上海派遣軍幹部」の不起訴は「昭和天皇の戦争責任問題に波及しかねないから」、中支那方面軍参謀副長・武藤や第10軍参謀長・田辺の不起訴は「別件で起訴してたから」、第6師団参謀長・下野の不起訴は「上司の谷(第6師団長)を起訴すれば十分と考えたから」で一応説明はつくでしょう。
 しかしそれでも谷と似た地位にいた裁判当時に存命の人間である

・金沢第9師団長・吉住良輔中将
・宇都宮第114師団長・末松茂治中将
・久留米第18師団長・牛島貞雄中将

の不起訴は説明がうまくつきません。笠原氏も「現時点の研究ではなにゆえ谷だけが起訴されたのか、起訴理由がよくわからない」としています。 


■【主張】女児殺害に無期 裁判員守秘義務緩和を
https://www.sankei.com/column/news/180708/clm1807080001-n1.html
 裁判員から得た情報をもとに今回の無期判決に悪口し、死刑を扇動したい、しかし守秘義務があるからそれができない、と無茶苦茶言い出す産経です。
 「そういう外部の騒音によって判決が影響されることを防ぐための守秘義務です」「議論をしたいのなら判決文の論理に突っ込めばそれで十分でしょう。守秘義務緩和など何一つ必要ない」と言い返されるのが落ちでしょうね。


■【オウム死刑執行】麻原元死刑囚神格化、遺骨奪い合い警戒 ヨガ、占い、SNS…勧誘入口 正体隠し、若者狙う
https://www.sankei.com/affairs/news/180708/afr1807080002-n1.html
 積極的にオウム犯罪について勧誘において語れとまでは酷なことは俺は言いませんが、「宗教団体としての勧誘」であることは最低限示すべきでしょうね。

 平成12年からオウム真理教や後継団体の地域進出への反対運動を続けてきた「烏山地域オウム真理教対策住民協議会」(東京都世田谷区)の古馬(ふるま)一行会長(66)はこう語った。
「後継組織の危険性が国民に伝わっているのか。オウムの犯罪を忘れず、教訓を未来に伝える大切さを感じる」

 感覚が完全にずれていますね。オウム事件からもう何年もたっていますがオウム後継組織はテロなどは起こしていない。彼らにそんなことをする動機も能力もないでしょう。
 もはや彼らに問題があるとしたらそれは「統一教会幸福の科学などの詐欺的宗教と同じ道を歩んでいないか」という話でしかない。まあ、麻原時代から詐欺的宗教だったわけですが。
 統一教会幸福の科学について「サギ宗教ではあるにしてもテロの危険はおそらくない」のと同様、オウム後継集団にはそんな危険はありません。

「あれ、オウム真理教をおとしめるための陰謀らしいよ」。
 信頼する講師にそう言われ、「そうなんだ」と自然と納得した。

 ちょっとにわかには信じがたいですねえ。
 これが「確かにそういう事実は過去のオウムにはありました。しかし今の我々はそうしたものを反省しているのです。麻原という男は道を誤ったが彼の初心はまともだったと信じています」などならともかく。
 ちなみにふと思ったんですがここでの「我々は何も悪いことはしていない。我々は陰謀にはめられたんだ」てのは、もろに「あの戦争」についての神社本庁の主張ですよねえ(米国やソ連陰謀論)。
 こういうことをいうと神社関係者は怒るのでしょうが、「太平洋戦争や日中戦争での神社の果たした役割(この戦争は正義の戦争だ)」て「オウムのポア理論(この殺人は正義の行為だ)」と大して変わらないでしょうよ。
 そして「太平洋戦争はアジアの植民地解放の聖戦だ」「南京事件慰安婦は捏造だ」つう神社本庁の主張は「オウムははめられた」と大して変わらないでしょう。
 むしろそういう意味では俺は神社本庁の方がオウムよりよほど恐ろしいですけどね。「日本最大のカルト宗教=神社本庁」といっていいんじゃないか。
 明治以前は確かに「神社は伝統宗教」だったのですが明治以降「国家神道(国家の支配の道具)」としてゆがめられました。戦前の日本の神社は国家の支配の道具という意味では「旧ソ連、東欧でのマルクス哲学」のようなもんでしょう。
 もちろん「そうした旧ソ連、東欧などの事態はマルクスには直接の責任はないし、それだけでマルクスを否定すべきではない」ですが、そうした「国家哲学としてのマルクス哲学」の問題を無視してマルクスのことを「偉大な思想家だ」と語っても意味がない。ましてやそうした事態を美化するなんて論外です。神社をめぐる構図もこうしたマルクスを巡る構図と同じかと思います。
 平田篤胤などはともかく、明治以降の国家神道について、江戸時代以前の神道家には直接の責任はない。しかしそうした国家神道の問題を無視して「奈良、平安や江戸時代から続く伝統宗教神道です」といってもまるで意味がない。それは結果としては国家神道の弊害の隠蔽でしかないでしょう。
 そうした国家神道のゆがみが戦後も残ったまま、そのゆがみをまともに反省しないまま、「神社は伝統宗教です」といいながら伝統と関係ない「明治以降の国家主義思想を普及しようとする」危ない右翼カルト団体が神社本庁でしょう。
 ちなみに話が脱線しますが「ダライ・ラマオウム真理教から多額の金をもらったこと」「転生霊童が非科学的で子どもの人権侵害であること」などの問題を無視してダライやチベット仏教を美化することは「旧ソ連の問題を無視したマルクス美化(俺の知る限りそういう人はさすがにいませんが)」「国家神道の問題を無視した神道美化(神社本庁がやってることです)」なみに俺は実に愚劣だと思っています(まあ転生霊童はさすがにダライも廃止の方向に動いていますが)。
 話を元に戻します。
 その意味では「キリスト教団体の皮を被った統一教会などのカルト」「イスラム教団体の皮を被ったイスラム国などのカルト」「仏教団体の皮を被ったオウムなどのカルト」などと神社本庁は全く変わらないと俺は思っています。
 問題は「統一教会やオウム」の場合、「日本キリスト教団」「浄土真宗」など別にまともな伝統的宗教団体(仏教やキリスト教)が日本にあるのに、神社の場合「神社本庁」という右翼カルト団体が「伝統的宗教団体」でもあるという恐怖でしょう。神社の世界は結局、江戸時代以前はともかく、「明治以降、皆で間違った右翼的方向に行き未だに修正できない」わけです。
 まあ、神社本庁の名誉(?)のために断っておけば「カトリックにおける性的児童虐待」などあるので伝統的宗教団体のゆがみは神社本庁だけのもんではない。
 ただそれにしてもカトリックなどはそうしたゆがみを平然と居直ったりしないでしょう。「あの戦争は正しかった」「首相が靖国賛否して何が悪い」などと平然と居直るのが神社本庁だから話になりません。多くの宗教団体、社会団体があの戦争をそれなりに反省したにもかかわらず、神社本庁は反省しませんでした。
 それでも神社の日本での位置が「たとえば日本でのヒンズー教イスラム教並みに小さければ」問題もなかったのですが「日本を代表する伝統宗教であった」がゆえに神社本庁のゆがみは日本に悪影響を与え続けていきました。「神社本庁だけのせいではありませんが」たとえばそれが安倍政権です。
 まあ神社が、キリスト教イスラム教などと違って世界宗教になれなかったし、今後もなれないだろう理由はそうしたゆがみのせいです。神社なんてはっきりいってインドとその周辺国(バングラデシュパキスタンなど)にしか信者がいないヒンズー教みたいなもんに過ぎないでしょう。ヒンズー教だって「カースト制度」なんてゆがみがある以上、インドの外、たとえば欧米や日本に持って行って受け入れられる様なものじゃない。

 公安調査庁の調査官は「死刑執行で今後、どのような反応が教団内に起きるか想像もつかない。観察がなくなれば、信徒内に“危険な芽”が生じても把握できなくなる」と強調した

 公安調査庁にとって今や飯の種はオウムだけです。冷戦崩壊もあって当初の対象であった左派団体の監視は組織の維持理由にはしがたくなっていますからねえ。とはいえ日本において「イスラムテロの脅威」とは言いづらい。
 率直にいって「公安検察と公安警察だけで足りるでしょ?。公安調査庁なんて廃止すべきじゃないの?」つう主張に反撃するために無理矢理オウムの脅威をでっち上げていると言っていいでしょう。
 正直、民主党事業仕分けの時にでも廃止していただければよかったんですけどね。

*1:第2師団長、台湾総督、第11師団長、第3軍司令官、学習院長など歴任

*2:第3師団参謀長、第6師団長、第59軍司令官兼中国軍管区司令官など歴任

*3:「軍機」では「軍事機密」になってしまうが、この場合、前後の文脈から見て「軍紀(軍の紀律)」のことでしょうから明らかに産経の誤記です。

*4:参謀本部第2部長、第11師団長、台湾軍司令官、上海派遣軍司令官、中支那方面軍司令官など歴任

*5:著書『南京事件』(1997年、岩波新書)、『南京難民区の百日:虐殺を見た外国人』(2005年、岩波現代文庫)、『南京事件論争史』(2007年、平凡社新書)、『日本軍の治安戦』(2010年、岩波書店)、『海軍の日中戦争』(2015年、平凡社)、『日中戦争全史(上)(下)』(2017年、高文研)など

*6:支那方面軍参謀長、陸軍大学校長、第8師団長、参謀次長、南方軍総参謀長、第11軍司令官など歴任

*7:支那方面軍参謀副長、北支那方面軍参謀副長、陸軍省軍務局長、第14方面軍(フィリピン)参謀長など歴任

*8:近衛師団長、上海派遣軍司令官など歴任

*9:上海派遣軍参謀長、陸軍省人事局長、第110師団長、第96師団(済州島)長など歴任

*10:上海派遣軍参謀副長、第3軍参謀長、第29師団長、第5軍(満州)司令官、第36軍司令官など歴任

*11:第1師団参謀長、第9師団長など歴任

*12:第9師団参謀長、第48師団長など歴任

*13:第16師団長、第4軍司令官など歴任

*14:第16師団参謀長、予科士官学校長、第40軍司令官など歴任

*15:陸軍次官、第1師団長、台湾軍司令官、第10軍司令官、近衛内閣司法相など歴任

*16:第10軍参謀長、第41師団長、北支那方面軍参謀長、参謀次長、第25軍(スマトラ島)司令官など歴任

*17:第14師団長、第114師団長、小倉市長など歴任

*18:第114師団参謀長、第22師団長など歴任

*19:第19師団長、第18師団長など歴任