新刊紹介:「経済」10月号

「経済」10月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
世界と日本
核兵器禁止条約と原水禁大会(梶原渉*1
(内容紹介)
 赤旗記事紹介で代替。

赤旗
被爆体験伝承へ 日・英・米・仏・韓の青年が交流、広がれ平和の“輪”、リング・リンク・ゼロ
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-06/2018080604_03_1.html
被爆の実相学びあう、世界大会分科会 青年のひろば
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-06/2018080604_02_1.html
■禁止条約発効へ共同さらに、原水爆禁止世界大会 ヒロシマデー集会6000人
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-07/2018080701_01_1.html
原水爆禁止世界大会ヒロシマデー集会、小池書記局長のあいさつ
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-07/2018080702_01_1.html
原水爆禁止世界大会・長崎始まる、国際交流フォーラム 「政府とNGOの対話」、たたかえば変わる
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-09/2018080905_01_1.html
■“核なき世界”こそ本流に、原水爆禁止世界大会 ナガサキデー集会で次々
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-10/2018081001_02_1.html
原水爆禁止2018年世界大会・長崎決議「長崎からの手紙」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-10/2018081005_01_1.html
■主張『18年世界大会閉幕:広がる共同 新たなステージへ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-10/2018081001_05_1.html


■メキシコの「構造問題」:麻薬戦争と離農・廃業問題(所康弘*2
(内容紹介)
 メキシコの深刻な麻薬問題が取り上げられている。


特集『国民のための社会政策論』
■医療・介護保障の抑制・後退政策と対抗軸(井口克郎)
(内容紹介)
 赤旗記事紹介で代替。

赤旗
介護保険料 国の責任で抜本改善を、制度の矛盾鮮明
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-03-25/2018032501_03_1.html
■主張『「受診手遅れ死」:命奪う深刻な事態を断ち切れ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-05-14/2018051401_05_1.html
■医療・介護、今月から負担増、利用抑制、状態悪化招く恐れ
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-02/2018080201_04_1.html
■主張『利用者負担増:介護も医療も崩す政治やめよ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-03/2018080301_05_1.html
■介護サービス 9.6万人減、実態調査 要支援者の保険外しで
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-09-05/2018090502_01_1.html


■高齢者の実態からみえてくる政策課題(河合克義*3
(内容紹介)
 日本において高齢者の社会福祉社会保障がもっぱら「高齢化による介護(介護保険)」や「年金支給」に偏っており「高齢者の貧困問題」が軽視されていることが批判されている。

参考
赤旗
生活保護世帯 最多更新、高齢者の困窮化浮き彫りに
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-04-04/2018040402_02_1.html


■「昭和」期の治安政策と社会政策(上)(相沢与一*4
(内容紹介)
 「1938年の国民健康保険法」「1941年の労働者年金保険法」について触れられている。もちろんこうした制度を過大評価することはできないが、一方で「戦争へ国民を動員するためには一定のあめ玉を与える必要がある」と当時の政府が認識していたことは重要である。


欧州の激流
■中東欧から見たEUハンガリーの旋回はどこに行くのか?(田中宏*5
(内容紹介)
 ハンガリーにおいて反移民の右翼政権が誕生したことが取り上げられている。こうした反移民の動きは「ハンガリーだけではなく」、米国(トランプ大統領の反移民政策)、フランス(ルペンの大統領選決選投票進出)、ドイツ(極右政党「ドイツのための選択肢」躍進)、イタリア(右派政党「同盟」の躍進と政権参加)など欧州各国に共通している。今後のハンガリーの動向は欧米各国に影響を与えると共に、一方で「欧米各国の右派政党」の動向がハンガリーにも影響を与えると考えられる。

参考

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35506160Z10C18A9000000/
■日経『ハンガリー、ロシアとエネルギー協力強化 EU制裁けん制』
 ハンガリーのオルバン首相は18日、モスクワでロシアのプーチン*6大統領と会談した。原子力発電所の建設を巡る協力を確認し、2020年までのロシアからの天然ガス輸入で合意した。欧州議会は強権を振るうオルバン政権に対して制裁を科すよう欧州理事会に求める決議を採択しており、ロシアへの接近姿勢を見せることで欧州連合(EU)をけん制した。

 こうしたハンガリーの態度を「移民政策でEU主要国に批判されたことへの反発や牽制」とみるべきか、それともそれにとどまらないのか気になるところです。

http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-4511.html
■ちきゅう座『ハンガリーへの7条制裁を求める報告が可決』盛田常夫、から一部引用
 9月12日の欧州議会は、オランダの緑の党に属するオランダのサンジェルティーニ議員が提案したハンガリーへの制裁提案を可決した。欧州議会が加盟国の制裁提案を可決したのは初めてで、昨年12月に欧州委員会ポーランドにたいする制裁手続きを開始したのに続き、加盟国への制裁を議題に載せることになった。
 来年に議会選挙を控える欧州議会は、それぞれの議員や政治会派が様々な思惑で、自らの政治行動をアピールする場になっている。ハンガリー・オルバン政権樹立からここまで、ハンガリー政府の国内施策が、EUの理念や法に反する疑いがあると、EU委員会から繰り返し改善勧告を受けてきた。しかし、問答無用の非協力的な態度をとるポーランド政府とは異なり、ハンガリーはそのたびに、是正勧告に従う姿勢を明らかにしてきた。したがって、今回の制裁提案は唐突さを否めないが、依然として懸案事項が存在することも事実である。
■CEU廃校工作
 ソロスが資金を出して設立されたCEUにたいして、ハンガリー政府は高等教育法を改正して、潰しにかかったのは事実である。オルバン首相は政権批判に敏感で、政敵を潰すことに全力を注ぐ。とくに、2015年の難民・移民の大量流入の際に、ソロスが激しくハンガリー政府を批判した経緯があり、ソロスの息がかかっている組織を抑圧することによってソロスへの意趣返しを意図したと考えられる。
 しかし、いかにソロスが出資したとはいえ、実際の大学教育がソロスのイデオロギーにもとづいて行われているわけではない。しかも、CEUの教育は国際的に高く評価されており、欧州の大学ランキングも高い。政治家オルバンはイデオロギーで組織や個人を単純に評価する傾向があり、学問や研究の自由より、自らが掲げるイデオロギーを優先する。「ソロスが設立した大学では難民・移民を歓迎する教育が行われており、ハンガリー国益にとって有害だ」という単純な思い込みがCEU廃校工作となった。あまりにナイーヴだが、首相の意向を実現すべく、側近がCEUを潰す方策を考えた。
 CEUはアメリカにキャンパスをもたず、ニューヨーク州の教育ライセンスにもとづいてハンガリーに設立された大学院大学である。ハンガリーの当局者は、ここにCEU設立の弱点があると高等教育法を改正した。その要点は、「ハンガリーで認可される外国の大学は、本国にキャンパスを保有していること」を条件にすることで、この条件を満たさないCEUを廃校に追い込もうとしたのである。
 これにたいして、CEUはニューヨーク州にキャンパスを開き、高等教育機関の条件を充足することで廃校を避けた。ニューヨーク州もまたハンガリー政府との協定締結に動き、ニューヨーク州ハンガリー政府との間で協定案が作成された。しかし、簡単に首を縦に振らないオルバン首相の意向を受けて、担当大臣が協定書に署名しないまま時間が過ぎている。いろいろな理由を付けて協定署名を遅らせている。
 また、CEUのHPを見ると、「登録された難民への教育プログラム」が8月28日付けで停止されたことがアナウンスされている。8月24日付けの法改正によって、この教育プログラムにたいして25%の課税の可能性があり、事態が明確になるまで、この教育プログラムは停止されるというものである。これはハンガリー政府が決定した「移民特別税」にかかわるものであり、非常に多くの問題を孕んでいる法律である。
■移民支援組織への課税:「移民特別税」
 2017年6月27日から施行された「国外の支援を受けた団体の透明性に関する法律」で、ハンガリー政府は外国から支援を受けているヴォランティア団体の締め付けに動き出した。この法律が適用される団体は、年間720万Ft(およそ300万円)以上の援助を国外から受けている団体・組織で、これらの組織・団体は管轄庁に登録され、年間50万Ft(およそ20万円)の寄付をする団体・個人について、名称(氏名)・所在地等を報告しなければならない。これを怠った者は罰則を受ける。
 こうした法律はEU内でハンガリーが初めて採択したものであり、ソロスに繋がる財団や組織の締め付けを狙ったものである。
 ハンガリー政府は、これに続いて、「Stop Soros」と称する法律の制定を狙い、その一環として、「移民特別税」(2018年8月25日施行)を制定し、難民・移民に手を差し伸べるヴォランティア団体に特別課税する法律を制定した。
 かくように、現在のハンガリー政府は政府に批判的な組織や団体を締め付ける方向に動いていることは事実である。したがって、この面でEUの基本的価値を損なっていると批判されても仕方がない。CEUが法的に登録された難民の教育プログラムの中止を決めたのは、特別課税の対象となる恐れがあるからである。
■岐路に立つハンガリー科学アカデミー
 学問・研究の自由にかんして言えば、現在、ハンガリー科学アカデミーとハンガリー政府との間で、アカデミー所属の研究機関の統廃合が大きな問題となっている。「初めに統廃合ありき」では交渉出来ないというのが、アカデミー総裁の立場である。また、廃止が検討されている研究所の一つが、「科学アカデミー付属経済研究所」だと言われている。政府側の交渉担当者はパルコヴィッチ技術革新省大臣だが、教育政務次官時代に打ち出した教育改革を厳しく批判した経済研究所への意趣返しだとも言われている。
 もっとも、旧社会主義国家に存在した「科学アカデミー」制度が時代遅れの存在になっており、その再編成は不可欠である。しかし、何ごとにもFIDESZ政権は上意下達で事態を処理しており、関係者とのコミュニケーションがない。こういうこともあって、FIDESZ政権にたいする知識人の反発は日増しに高まっており、これまで政権を支持してきた知識人も、FIDESZ政権に批判的になっている。他方、現在の政権の基盤は知的水準が高い都市の住民ではなく、地方の一般庶民である。大多数を占める素朴な庶民に感性的に訴えて支持を得ているFIDESZ政権は、知識人層の離反を覚悟で、政策展開を進めているように見える。知識人の社会層は薄いからたいした政治力を持たない。多数を占める地方の住民の支持を固めれば、政権は安泰である。これこそ、ポピュリズムの神髄である。
ハンガリー政府の対応
 欧州議会の議決を受けて、ハンガリー政府は議決無効を訴える戦術を展開している。欧州議会の制裁決議には投票数の三分の二の賛成票が必要だが、今回の議決にあたって、保留を投票数から除外する手続きが行われた(投票数693、賛成448、反対197、保留48)。投票総数から保留票48票を除き、それを母数にした賛成票448票はほぼ7割の賛成率になるが、保留票を母数に入れると、三分の二にわずかばかり届かない。ハンガリー政府は、「保留票を除外することは基本条約の投票規定に反し、今回の議決は無効である」と主張している。ハンガリー政府は欧州司法裁判所へ提訴する構えを見せており、制裁への手続きは未だはるか先である。
 12日の投票に先立って、オルバン首相は欧州議会で演説し、「制裁はハンガリー国民への侮辱であり、移民推進派の陰謀である」と述べ、ハンガリーが移民国家にならないという決意を繰り返し表明した。このハンガリー語の演説は、国内向けだったように思う。
 ハンガリーの野党出身の欧州議会議員は、Jobbikが保留、LMPが欠席の他、すべての野党議員は賛成票を投じた。国内で劣勢にある野党は国際的な場で、他国の議員の力を借りて自国政府を批判するのが日常化している。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-9942.php
ニューズウィーク日本版『ハンガリーで民主主義の解体が始まる:オルバン首相圧勝で』
 (ボーガス注:首相)オルバン率いる右派政党フィデス・ハンガリー市民連盟が予想以上の圧勝を収めたことがわかった。
 欧州安全保障協力機構(OSCE)は、フィデスは国内における真の政治的競争を抑圧したと主張し、ハンガリーの今回の選挙を批判した。
 過去8年間、オルバンはハンガリーのメディアを支配し、批判的なジャーナリストを脅し、憲法裁判所の権限を制限し、チェック・アンド・バランス(抑制均衡)を損なったと非難されてきた。
 再選をめざす選挙戦の間、オルバンは、反移民と反ユダヤの極右的表現を駆使し、ハンガリーを、イスラム教徒と外国資本の侵略に脅かされるキリスト教国家として描き出した。
 オルバンの選挙活動の大半は、ハンガリー生まれのユダヤ人億万長者で米慈善家のジョージ・ソロスに対する攻撃に向けられた。
 オルバンは絶え間なくソロスを攻撃し、難民に国境を開くことによってキリスト教国としてのハンガリーが破壊されると警告するポスターを国中に張り出した。
 オルバンの勝利は、現在の恐るべき政治情勢の象徴であり、第2次大戦以来、ヨーロッパの指導者がユダヤ人を国家の敵として非難することで選挙に勝った初めてのケースだ。
 ハンガリーの司法機関や独立した非政府組織への弾圧を懸念する声も多い。
 フィデスの議員らは4月9日、政府が国家安全保障上の脅威とみなす組織を閉鎖し、移民支援活動のために外国から資金を受け取っている団体に25%という法外な税金を課すことを認める「ストップ・ソロス」法案を速やかに通過させると誓った。
 「フィデスが3期目に議会の過半数を制したことは、重要な司法機関を含め現存するハンガリーの独立機関を意のままに解体できるようになったことを意味する」と、フリーダムハウスの中欧専門家ジェリケ・チャキーは本誌に語る。
 「この先4年間の大きな懸念は、フィデスの次の攻撃対象になるのは誰か、ということだ。あらゆる兆候からして、オルバンが反NGO運動に力を入れるのは間違いない」と、チャキーは続けた。
 オルバンの反ソロス運動のもう一つの攻撃目標は、ハンガリーの首都ブダペストにキャンパスを構える中央ヨーロッパ大学だ。
 ハンガリー議会は2017年4月、ソロスが資金を提供するこの国内最高ランクの大学が、ハンガリーアメリカの学位を同時に授与することを禁止する法案を可決した。この法律はEU上層部から非難されており、大学も抵抗を続けている。
 EUは、加盟国の資格停止を定めた第7条を使うべきだという声もある。
 そうなれば、EU全体の議題に対するハンガリーの議決権は停止され、ハンガリーに対するEUからの資金援助が断たれる可能性もある。
EU加盟国は、ハンガリーに対して第7条の手続を開始することができる。遅くても、やらないよりはましだ。次の資金援助についての議論もすでに始まっているので、ハンガリー基本的人権上の資格を満たしているかどうか、率直な議論を行う機会は十分にある」と、チャキーは言う。

https://www.asahi.com/articles/ASL6N5DB8L6NUHBI01V.html
朝日新聞ハンガリー、不法移民への支援を禁止 人権活動にも罰則』
 ハンガリー国会は20日、不法移民への支援を禁止し、違反した個人や団体に刑事罰を科すようにする法案を可決した。難民申請の法的支援などの人権保護活動もできなくなるため、人権団体は強く反発している。移民を敵視する同国内の空気を反映した動きといえ、波紋を呼びそうだ。
 ハンガリー通信によると、国会(一院制、定数199)は賛成160、反対18の大差で法案を可決した。不法移民を金銭的に支援するなどした場合、1年以下の禁錮刑となるほか、外国人が密入国を支援した場合は追放処分とする。
 新法は通称「ストップ・ソロス法」と呼ばれる。オルバン首相率いる与党の中道右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」は、ハンガリーの民主派を支援し、難民申請の援助も手がけてきた同国出身の米投資家ジョージ・ソロス氏を敵視。4月の総選挙では「国を壊し、多くの移民を入れようとしている」とのソロス氏批判を繰り広げて圧勝し、5月に法案を提出した。
 ソロス氏が出資する人権団体「オープン・ソサエティー財団」は総選挙後、圧力を受けたとしてハンガリーの事務所を閉鎖。新法はソロス氏とつながりのあるNGO「ハンガリーヘルシンキ委員会」や、アムネスティ・インターナショナルなどの人権保護団体も対象になるとされる。
 ヘルシンキ委員会は、法案について「人権を守ろうとする者に対する武器として罰則を使うことを提案している」と批判。「共産主義の独裁以来の恐怖を与えている」とする声明を発表していた。
 政府はすでに、ソロス氏とつながりのある団体が移民流入を推進しているとして、特別に課税する法案も国会に提出している。

http://chikyuza.net/archives/70527
■ちきゅう座『2024年五輪開催都市立候補を取り下げたハンガリー』盛田常夫*7
 日本と同様に、ハンガリーの現政権は三分の二の議席に迫る絶対過半数を有する長期安定政権である。民族主義的政策とオルバン首相の独裁的な指導力で、EU内でも異質な存在になっている。このような政権が誕生した背景には、体制転換後も強い政治勢力を維持してきた社会党社会主義労働者党=旧共産党を受け継ぐ)の長年にわたる腐敗がある。相次ぐ公金横領報道に、社会党支持者が愛想を尽かし、最高時には200万人を超えた支持者がその3割程度の支持者数にまで落ち込み、その反動で強い民族的主張を掲げるオルバン首相率いるFIDESZが絶対多数を得る一強多弱状態が生まれたからである。
 弱小化した社会党の勢力はさらに分裂し、現政権は「国内に敵なし」である。現政権は有権者(絶対数)の35%を抑えているから、多弱の野党はどう足掻いても相手にならない。すべての野党が統一候補を出せない限り、政権交代など夢の夢である。その意味で、日本と似通っている。

http://chikyuza.net/archives/73158
■ちきゅう座『ハンガリーの政治状況(中)』盛田常夫
 右左に関係なく、「長期化する独裁権力は必ず腐敗する」。現ハンガリーの政府を構成する政党FIDESZは、体制展開以後、長期に続いた社会党政権の腐敗に乗じて政権を奪取した。とくに首都ブダペスト社会党の腐敗はひどく、2014年の総選挙では拠点であった首都圏の議席をほとんど失うほどに凋落してしまった。
 社会党の腐敗批判に乗じて権力を得た現政権だが、2期続いているFIDESZ政権の幹部にかかわる腐敗の情報が頻繁に暴露されるようになった。ハンガリーでは、内閣府や省庁のトップがある程度裁量を利かせることができる予算やEU補助金がかなりある。それが政権政党の政治家やその周辺の事業者の私服を肥やしている。自由にできる巨額の資金に手を付けない政治家はいない。何のことはない、社会党時代と大差ない。だから、政治的無関心層が有権者の4割を超える。右であろうが左であろうが、政治家の腐敗に差異などないからである。
 ハンガリー首相オルバンはアルチュートドボズという小さな村に育ち、隣村のフェルチュートで小学校時代を過ごした。そのフェルチュートの現在の町長メーサーロシュ・リューリンツは、2016年現在で1000億Ft(およそ400億円)の資産を保有する長者になった。もちろん、メーサーロシュ町長とオルバン首相は切っても切れない仲にある。事業を営んでいるとはいえ、田舎町の町長がこれほどの巨額の資産を真っ当な事業で稼げるはずがない。巨額の補助金事業を受注した結果である。
 他方、オルバン首相だが、彼の父が高速道路の砂利運搬事業や、建築廃材の埋め立て事業で巨額の富を獲得した。
 こういう事情から、ブダペスト市内にはオルバン首相とメーサーロシュ町長の顔写真が、大きなポスターで掲示されている。このポスターは極右翼政党とみなされているヨッビック(JOBBIK)が政治キャンペーンとして全国に設置しているもので、「彼らが(公金を)盗んでいる」、「われわれはそれを取り返そう、そして賃金引上げに使おう」と書かれている。
 このJOBBIKのキャンペーンポスターにはいろいろなヴァージョンがあり、同じく巨額の補助金取得の疑いがかけられている内閣府長官ローガンと、やはり同じ嫌疑をかけられているオルバン首相の個人的顧問ハボーニィがセットになっているポスターがある。

http://chikyuza.net/archives/85876
■ちきゅう座『転機を迎えたEUの難民・移民政策』盛田常夫
・2015年9月、ハンガリーセルビア国境を封鎖し、鉄条網で国境線を囲んだ。これにたいして、セルビアクロアチアオーストリアなどの近隣諸国は、ハンガリーの国境遮断を暴挙として非難し、難民収容所などの設置を暗黒時代への逆行だとハンガリー政府を批判した。それからほぼ3年を経過して、EU諸国の姿勢は大きく変化した。多くの国で難民・移民に寛容な政権が倒れ、厳しい姿勢をとる政府が次々に樹立されてきた。
 2018年6月28-29日に開催されたEUサミットのメインテーマの一つが、難民・移民問題であった。この会議の中で、従来の難民・移民政策の転換が図られた。EU委員会や欧州議会におけるこれまで大勢の主張は、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギーや北欧諸国に代表される難民・移民への寛容政策であり、「難民割当て」に抵抗する中・東欧の旧社会主義国への非難と制裁要求であった。
 ところが、フランスやイタリア、オーストリアスロヴェニアにおける政権交代によって、難民・移民への寛容政策が転換されたのに伴い、EUは従来の政策の見直しを迫られた。しかも、もっとも寛容な政策で難民・移民を受け入れてきたドイツの(ボーガス注:メルケル)政権内部から難民・移民政策の見直しへの強い要求があり、従来の「寛容政策」を継続すれば、(ボーガス注:メルケル)政権そのものが崩壊する危機に見舞われた。これらの動きが従来のEUの政策の転換を迫った。
■難民・移民の不寛容政策は右派ポピュリズム
 2015年秋、EU内では、ハンガリーのようにセルビア国境を閉鎖し、無条件で難民・移民を認めないのは、民族主義に基づく内向きのポピュリズムだという批判が蔓延した。当時はセルビアも、クロアチアも、オーストリアもすべてハンガリーを批判し、日本のメディアもハンガリーを偏狭な民族主義ポピュリズムと批判した。とくに、ドイツやオーストリアにおいては、難民収容所の設置は第二次大戦時におけるナチスドイツの強制収容所であるという批判が強く、難民・移民は、一定の審査の後は、自由にEUを往来できる権利を有した。
 ところが、大量の難民・移民の移動に見舞われた地域社会は、社会生活が大きな変化を被ることになった。少数の移民であれば問題が小さかっただろうが、大量の移民が流入した地域社会は社会生活が一変してしまった。難民とも移民ともつかない人々が、昼間から路上にたむろし、地域社会の雰囲気が変わってしまった。難民・移民を受け入れていない地域の人々は気楽だが、共生を余儀なくされた地域の人々にとって、生活習慣、宗教、文化が異なる人々との付き合いは難しい。そもそもイスラム系の人々で最初からヨーロッパ社会に同化する覚悟で来ている人は非常にわずかである。そういう異文化の人々との共生を強制された地域社会の人々の気持ちや懸念を誰が代弁できるのだろうか。
 ここに難民・移民の寛容政策に批判的な政党が躍進する素地がある。政府が地域社会の人々の気持ちを汲んでくれないなら、政府の政策に反対する政党を支持するしか方法がない。これをポピュリズムとして一刀両断のごとく切り捨てては、地域社会は生きる手立てがない。
 たとえば、一人の難民学生を家族のように迎え、大学を卒業させて、当該社会で働けるようにすることは難しくない。ところが、ある日突然に、難民認定された家族が隣人となり、さらに親戚一同を呼び寄せる段になれば、日常生活は一変し、地域社会の雰囲気も変わっていく。隣家がモスクになり、多数の難民・移民が定期的に集まることにもなる。こうなると、地域社会の人々は、「庇を貸して母屋を取られる」思いだろう。
 すでに旧宗主国で、イスラム系住民を多数抱えているオランダやベルギーならいざ知らず、それまでイスラム社会と関係がまったくない地域社会が、突然、イスラムの色に染まっていくのを座視するしかないのだろうか。ドイツ連邦政府法務大臣*8のゼーホーファハーはバイエルン州首相でもあり、難民・移民のドイツへの流入の窓口の州として、地域社会からの強い突き上げにあっている。地域社会が抱える現実問題は、観念的な人道主義や理想主義で解決できない、そこに生きる人々の社会生活の問題なのである。
■観念的人道主義は左派ポピュリズム
 EUを支えているのは欧州統合の理想主義であり、欧州左派は基本的に自由主義と連帯を重んじる。ところが、欧州左派の理想主義は、現実問題への観念論的な対応に終始することがある。難民・移民問題がその典型例である。
 難民とも移民ともつかない人々の自由流入と自由移動を認めるのは、理想主義というより、無政府主義に近い。もともと、欧州左派には無政府主義的な傾向があり、それが顕著に現れたのが難民・移民の大量流入への対処である。理想的な人道主義を掲げるだけでは現実問題に対処できず、ほとんど無条件に不法流入者を受け入れるのは問題解決にならない。
 欧州左派に限らず、理想主義者は建前を重んじて、現実を直視しない傾向がある。現実に難民・移民の大量流入者を抱えた地域社会は、従来の社会の規範が崩れ、社会生活が一変する。そこに居住する人々の気持ちを無視して、理想主義だけを掲げれば、支持を失うのは当然である。
 理想主義は人々の感情を無視して、理性だけに頼っている。もちろん、理性にもとづく判断は重要だが、社会に生きる人々の感情・感性を無視したのでは、支持が得られない。社会生活においては、理性より感性の方が、はるかに強い力をもつ。欧州左派が理性だけにもとづいて、人々の感性を無視すれば、観念論に陥ってしまう。欧州をイスラム教とキリスト教の共生社会へと転換するという明瞭な社会意思があれば別だが、ほとんどの人々は欧州が雑居文化世界に変わることを望んでいないだろう。
 にもかかわらず、難民・移民に不寛容な政策をポピュリズムと断罪し、自らの理想主義を正当化するのは、逆に空想的な左派ポピュリズムと批判されても仕方がない。
 いずれにせよ、EUの難民・移民政策がようやく現実的な問題解決に向かって動き出した。


ガラパゴス化する日本のエネルギー・温暖化政策(明日香寿川*9
(内容紹介)
 Q&A方式で書いてみる。

「日本の温暖化対策についてどう思いますか」 

「日本は温暖化対策として原発推進を掲げていますが非常に問題だと思います。統計データ上、原発推進国が脱原発国に比べ、温暖化ガス(CO2など)排出量が減ってるという事実はありません。むしろ温暖化ガス排出量が増えている原発推進国もあります。またパリ協定締結時に温暖化対策として原発推進を主張した国は日本以外では中国、インド、トルコ、ベラルーシUAEの5カ国のみです。」
「なお、原発について言えば事故の危険性を考えればたとえ温暖化防止に効果があり、かつ安価な電源だとしても私は原発推進には反対です。しかも既に指摘したように温暖化防止に効果があるかは疑わしい。また『安価な電源』というのも大島堅一『原発のコスト』(2011年、岩波新書)、『原発はやっぱり割に合わない』(2012年、東洋経済新報社)、金子勝原発は火力より高い』(2013年、岩波ブックレット)などが批判するように『事故コスト』を無視した架空の低コストであり、福島事故後は到底通用しないと思います。」
「また、日本が脱温暖化を口実に原発推進を主張しながら、一方で、CO2を排出する石炭火力を推進する方向であることは不可解です。」

参考
赤旗
■主張『石炭火力容認方針:原発も温暖化も国民は望まぬ』
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-02-13/2016021301_05_1.html
■主張『石炭火力発電所:建設ラッシュの容認をやめよ』
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-05-16/2017051601_05_1.html
■主張『「石炭火力」の推進:脱炭素化の流れに逆行するな』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-01-29/2018012901_05_1.html
■主張『石炭火力依存:世界の流れに逆行したままか』
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-07-30/2018073002_01_1.html


■日本のODA:これまでとこれから(服部伸吾)
(内容紹介)
 安倍政権によるODAの変質「軍への支援容認路線」が批判されている(それは裏返せば安倍政権以前のODAが一定程度評価されていると言うことでもある)。
 あくまでも日本のODAは平和主義の観点から、「これまで(安倍政権以前)」通り「非軍事分野の支援」に限るべきであり「軍支援は非軍事分野に限定する」としても「その区分は決して容易ではなく軍事分野への支援になりかねないこと」から「軍への支援はすべきでない」としている。
 なお、現状の日本のODAにもいろいろ問題はありますが、服部論文のメインテーマは「安倍によるODA軍事化の危険(日本の伝統的ODAが非軍事を重要要素としていたことの否定)」であり

「フィリピン・マルコス独裁など途上国独裁政権を支えてきた」
ハコモノ建設、インフラ建設が多い(その反面、それ以外の支援が少ない)」
「現地に環境破壊をもたらした疑いがある(たとえば、後で紹介する鷲見一夫氏が環境破壊ではないかと批判するインドネシア・コタパンジャンダムや中国・三峡ダムへの日本ODA)」
「日本企業と現地政治家による汚職を助長した」

などの「安倍政権以前からの問題点」はあまりテーマとしてとりあげられていません。ただし、「そうした安倍政権以前からの問題」についてもいくらか後で簡単に触れたいと思います。
 なお、そうした「日本ODAの現状批判」としては

■鷲見一夫
ODA援助の現実』(1989年、岩波新書)
『ノー・モアODAばらまき援助』(1992年、JICC出版局
三峡ダムと日本』(1997年、築地書館
三峡ダムと住民移転問題』(2003年、明窓出版)
『住民泣かせの「援助」:コトパンジャン・ダムによる人権侵害と環境破壊』(2004年、明窓出版)
村井吉敬*10
『徹底検証ニッポンのODA』(編著、2006年、コモンズ)

を紹介しておきます。

参考
【安倍によるODA軍事化の危険性】

https://thepage.jp/detail/20150214-00000003-wordleaf?page=2
ODA大綱改め「開発協力大綱」 他国軍支援の解禁に2つの問題点(美根慶樹*11・平和外交研究所)
 政府は2月10日、ODA大綱に代えて新たに「開発協力大綱」を閣議決定しました。従来は他国の軍へはいっさい援助を供与しなかったのですが、新しい方針では災害救助などの非軍事目的の場合には認める道を開きました。
 新方針は、例えば、A国の軍隊の行動が非軍事目的であるか否かについて、「その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」としています。慎重に判断するという趣旨なのでしょう。しかし、軍隊にはいっさい援助しないという旧大綱の方針と、それを可能にした新方針との間には大きな違いがあります。
■間接的に戦争に援助の可能性も
 政府が非軍事目的であることを確保するのだから大丈夫だ、と考えるのはあまりにも表面的です。たとえば、A国の軍隊が、一方では戦争をしながら、他方で災害救助に従事している場合に、災害救助だけに限定して援助するというのは形式的にはあり得るとしても、実質的には保証になりません。A国の軍隊の財布は一つであり、災害救助に援助することは間接的に戦争にも援助することになるからです。もう少し正確に言えば、災害救助の関係で援助してもらった分だけ戦争に資金を回せるのです。
 もし、「災害救助」に貢献したいならば他に方法があります。たとえば、避難民の支援であれば、国連の難民高等弁務官(UNHCR)に拠出すればよいのです。実際、これまでそうしてきています。あるいは、A国の軍隊でなく「政府」に対し災害救助のために援助すればよいのです。これも実際してきています。つまり、災害救助に協力するのはよいのですが、軍隊に援助する必要はないのです。
ODAとして認められない?
 また、国際的には、日本が行なった援助がODAとして認められるかという問題があります。この審査はDAC(開発援助委員会)という国際機関があらかじめ定められた基準にしたがって公平に行います。ODAとして認められるには、当然ですが、開発目的でなければならず、軍事目的であればODAとして認められません。もちろん、審査の対象となっている国の政府が「軍事目的」ですと自ら告白することはまずないので、DACでは各国政府の説明にとらわれず、客観的に開発目的であるか審査します。
 新大綱は「開発協力の実施に当たっては,軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と断っていますが、これは日本政府の方針に過ぎず、DACは異なった結論を出す可能性があります。
 もし認められないと日本としてのODAはそれだけ少なくなります。ODAが多いか少ないかは、国によって経済力が違うので、ODAのGDI(国民総所得)に対する比率によって表示されます。これは各国の開発協力に対する熱意と努力の度合いを示す指標であり、重要です。日本を含め大多数の国はこの比率を高めるのに懸命に努めてきました。この比率が下がることは日本の外交上、大きな問題となります。
 米国の比率は世界第1の経済大国としては低いですが、対外政策の遂行上、巨額の軍事援助を供与しているからです。このような例は、冷戦時代のソ連などにもあったようですが、これらの国の対外援助は開発目的だけでは論じられません。
■なぜ他国軍隊への支援打ち出す?
 日本の新方針は軍事援助をするということではないので、米国とは異なっているように見えます。しかし、他国の軍隊に援助する理由も必要性もなく、また、DACでの審査の問題もあり、さらには外交上の問題があるのになぜそれに踏み切るのでしょうか。それは、軍隊にはいっさい援助しないというこれまでの方針に穴をあけることに眼目があるのではないでしょうか。もしそうだとすれば、形式的には非軍事目的とはいえ、実質的には日本が米国型の軍事援助国に近づく一歩を踏み出していると考えざるをえません。
 新大綱は、「中東については、日本のみならず国際社会全体にとって、平和と安定及びエネルギーの安定供給の観点から重要な地域であり、平和構築、格差是正、人材育成等の課題に対する協力を行い、同地域の平和と安定化に積極的に貢献し、我が国と中東地域諸国の共生・共栄に向け支援を行っていく」と注意深く述べていますが、例えば、過激派組織の「イスラム国」に対する攻撃を強めているヨルダンの軍隊に対して援助を供与することなども可能になります。
 政府はこれまで原則禁止であった日本からの武器輸出を緩和することを決定済みです。今般決定された新大綱はわが国の経済協力の性格を大きく変える危険性を秘めており、重大な問題です。国民はさらに第2歩、第3歩が踏み出されないよう注視する必要があるでしょう。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-02-11/2015021101_02_1.html
赤旗『ODAで他国軍支援、政府、新大綱を閣議決定
 政府は10日の閣議で、政府開発援助(ODA)大綱に代わる新たな「開発協力大綱」を決定しました。新大綱は、外国軍や軍関係者が関与する活動への支援について、「相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」として、初めて容認しました。
 憲法の平和理念に基づき、他国への軍事援助をいましめてきた政府のODAが大きく変質する恐れがあります。
 大綱は1992年に策定され、見直しは2003年以来。従来の大綱は「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」として軍への援助を排除してきました。新大綱もこの文言自体は引き継ぎ、民生目的や災害救助など「非軍事目的の開発協力」に限るとしていますが、軍事転用されない保証は全くありません。「実質的意義」という文言もあいまいで、恣意(しい)的な解釈が可能です。
 安倍政権は昨年3月、「60年を迎えたODAを進化させる」(岸田文雄*12外相)として大綱の見直しに着手。当初から他国軍支援を検討しており、昨年6月に公表された有識者委員会の報告書も他国軍支援を明記しました。新大綱はこの内容を踏襲しています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-02-11/2015021101_05_1.html
赤旗・主張『ODA大綱改定:「非軍事」原則の骨抜き許すな』
 安倍晋三内閣は10日の閣議で、途上国などに資金や技術の提供を行う政府開発援助(ODA)の長期戦略を定めた「ODA大綱」を12年ぶりに改定した「開発協力大綱」(名称も変更)を決定しました。安倍首相が唱える「積極的平和主義」の下、他国軍に対する支援の一部解禁を初めて明記し、開始から60年を超えた日本のODAのあり方を大きく転換しようとする重大な内容になっています。
■軍事転用防ぐ保証なし
 1992年に初めて策定され、2003年に一度改定された「ODA大綱」は、「援助実施の原則」として「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」ことを掲げてきました。今回改定された新「大綱」も、「開発協力の軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避するとの原則を遵守」するとしました。
 一方で、これまでの「大綱」にはなかった「民生目的、災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」との文言を新たに追加しました。他国軍への支援であっても、「民生目的」「非軍事目的」であれば容認することを明記したものです。
 軍への支援である限り、「民生目的」で提供した物資や技術は、軍事転用される危険があります。新「大綱」が「重点課題」に挙げた「海上保安能力を含む法執行機関の能力強化」や「治安維持能力強化」のための軍への支援は、軍事能力の強化に直結するものです。
 外務省が昨年11月に開催した公聴会でも、軍事転用をいかに防ぐのかという疑問が相次ぎました。同省は「二重三重の縛りをかけて慎重に検討する」「支援後もモニタリング(監視)していく」と答えましたが、新「大綱」はそのための具体的な基準や制度的仕組みに全く触れていません。他国軍の運用を追跡調査するのも困難です。
 新「大綱」は、安倍内閣が13年末に閣議決定した「国家安全保障戦略」で「ODAの積極的・戦略的活用」を打ち出したのを受け決定されたものです。同時に、「国家安保戦略」は、武器輸出を禁止した「武器輸出三原則」に代わる新原則の策定も盛り込み、14年春に武器輸出は原則解禁されました。
 この点にかかわって見過ごせないのは、防衛省が武器輸出促進のため、日本の軍需企業から武器を購入する途上国などに武器購入資金を低利で融資したり、政府自らが武器を買い取り贈与したりする援助制度を検討していると報じられていることです。「軍事用途版ODA」(「東京」1月1日付)と指摘されており、「軍事的用途の回避」というODAの原則は完全に空洞化することになります。
■国際的な信頼掘り崩す
 03年の「ODA大綱」改定の際の閣議決定は「日本国憲法の精神にのっとり、国力にふさわしい責任を果たし、国際社会の信頼を得る」と強調していました。日本のODAが「非軍事」を原則にしてきたのは日本国憲法があるためです。安倍内閣憲法を踏みにじり同原則に風穴を開けようとしている背景には、「積極的平和主義」の名で進める「海外で戦争する国」づくりがあります。日本が築いてきた「国際社会の信頼」を、「国益」の名で台無しにしかねない新「大綱」は許されません。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-05-25/2016052505_02_1.html
赤旗『支援物資 軍事転用も、辰巳氏 「ODA大綱は危険」』
 日本共産党の辰巳孝太郎議員は20日の参院ODA(政府開発援助)特別委員会で、昨年の改定で他国軍への支援を一部解禁した「開発協力大綱」の問題を取り上げ、支援物資が軍事転用される危険性を追及しました。
 辰巳氏は、ODAは非軍事に限定されているのに、「民生目的」などであれば他国軍への支援を容認した現大綱を批判。過去に供与した巡視船などが軍事利用されない担保があるのかただしました。
 岸田文雄外相が、在外公館を通じたモニタリング(監視)などの取り組みしか示せなかったのに対し、辰巳氏は、昨年ベトナム海上警察や漁業監視部隊に供与された中古漁船の事例を指摘。供与以前に、監視部隊は銃や爆弾の装備が認められており、「軍用武装が可能な機関に船舶を供与したということだ。軍事活動との境界線は非常にあいまいで、ODAの運用上、問題だ」と批判しました。
 岸田外相は「しっかりモニタリングする」などと弁明するだけで、辰巳氏は「こうした供与はやめるべきだ」と強調。武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」の撤廃や集団的自衛権の行使容認とともに、「『積極的平和主義』の名のもとに、ODAの精神も平和憲法もないがしろにするものだ」と主張しました。

【日本のODAの問題点(汚職や環境破壊など)】

https://www.jcp.or.jp/faq_box/2002/02-0302faq.html
赤旗『日本のODAの問題点は?』
〈問い〉
 日本のODAは相手国にはあまり役に立っていないなどの批判をよく聞くのですが、どんな問題があるのでしょうか。(東京・一読者)
〈答え〉
 日本のODA(政府開発援助)は、▽アメリカが戦略上重視する地域に重点配分▽大企業の海外進出促進の手段として利用▽徹底した秘密主義―という特徴があり、大変ゆがんだものになっています。
 このゆがみを援助の内訳からみると、食料支援など人道援助の比重や医療・教育施設など社会インフラの比重が低い一方で、空港・港湾・ダムなど経済インフラ整備の比重が高いことがあげられます。OECD経済協力開発機構)の途上国援助策を調整しているDAC(開発援助委員会)加盟国の比較でも、一九九九年の食糧援助など緊急援助はDAC平均が11・1%なのに対し日本は2・9%と極めて低く、逆に経済インフラではDAC平均17・2%に対し31・5%と突出しています。
 また開発資金を貸し付ける円借款が多いのが日本の特徴で、ここでも日本の大企業の発注比率が高いことや、鈴木宗男*13疑惑にみられるような利権政治家の暗躍が指摘されています。
 援助対象国では、アメリカが軍事戦略重点国とみなすインドネシアやタイなど十数カ国に、日本は長年、傾斜配分を続け、八〇年代には韓国の全斗煥政権やフィリピンのマルコス政権のような軍事独裁政権にも多額のODAを支出しました。一方、援助を切実に必要としているLLDC(後発開発途上国)には極めて少なくなっています。
 手続きでは決定過程が極めて不透明です。たとえば円借款プロジェクトでは、借入国政府の申請→関係省庁が協議し内容を決定→借入国政府と交渉→交換公文署名→海外経済協力基金が借入国と借款契約を結び貸付業務…と進みますが、交換公文締結の事実が公表されるほかは、借入国の主権や企業秘密を理由に非公表が原則です。
 人道援助増額や、ODA案件を公表し国会審議対象とするなど改革が必要です。

http://j.people.com.cn/2008/08/05/jp20080805_92240.html
■PCI前社長ら4人を逮捕 ベトナム高官に贈賄容疑
 海外での建設コンサルタント大手「パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)」が政府の途上国援助(ODA)事業を受注した見返りに、ベトナムホーチミン市高官に同市内でわいろ計82万ドル(約9千万円)を渡したとして、東京地検特捜部は4日、外国公務員への贈賄を禁止した不正競争防止法違反の疑いで、前社長の多賀正義容疑者(62)=詐欺罪で起訴=を再逮捕し、元常務の高須邦雄容疑者(65)ら3人を逮捕した。元常務は容疑を認めているという。
 不正競争防止法は、贈賄側についてのみ罰則が定められており、収賄側は処罰されない。日本企業による外国公務員への贈賄罪での摘発は、自社製品を売り込むためにフィリピン政府高官を日本で接待した際にゴルフクラブを渡したとして、「九電工」(福岡市)の社員が略式起訴されたケースしかなく、海外でのわいろの授受が立件されるのは初めて。ODA事業をめぐる贈賄容疑での立件も初めて。
 ほかに逮捕されたのは元取締役の坂下治男容疑者(62)と、当時のハノイ事務所長の坂野恒夫容疑者(58)。
 東京地検の調べなどでは、PCIは01、03年度にホーチミン市が日本のODA事業として発注した高速道路建設工事のコンサルタント業務を計約31億円で受注。高須元常務らはその見返りに、同市政府で道路建設などを担当する業務管理局の事務所内で同局高官に対し、03年12月に現金60万ドル(6600万円)を、06年3月に22万ドル(2400万円)をそれぞれ直接手渡した疑いが持たれている。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-08-07/2008080701_02_0.html
赤旗『ODA事業わいろ横行、現金は小分け 家や車も、元ゼネコン幹部が証言』
 「わいろや接待は日常茶飯事」「金は巧妙に渡す」。
 政府開発援助(ODA)をめぐり、外国政府高官への贈賄が摘発されましたが、わいろ攻勢の実態をODA事業に長年かかわってきた元ゼネコン幹部が本紙に証言しました。
【以下、証言】
 前社長らが不正競争防止法違反で逮捕された大手建設コンサルタントのPCI(パシフィックコンサルタンツインターナショナル)とは、アフリカで一緒に仕事をしました。PCIの、リベートや接待は露骨で業界でも目立っていました。しかし、ゼネコンも決してクリーンではない。少額のわいろ攻勢は頻繁にやられていました。PCIと共同して高官に工作をするときもあったし、単独のときもありました。
 わいろの金額は、国によっても違うが、一般的に事業規模が大きいほど高額になる。現金でなく家や車をプレゼントするときもあります。
 現金を渡すときは、十万、二十万円と何回にも分けて少しずつ出します。その方が裏金を用意しやすく、ばれる危険が少ないからです。巧妙にやる場合は、高官の関係者などを実態がないのに雇用した形をとって給与で支払う。同様に架空の業務委託契約を結ぶ方法もあります。
 ODAは、援助を受ける国からの要請で実施されることになっています。だが実際には、日本のゼネコンや商社が、道路や橋りょう、港湾などを建設する事業計画を作成して、水面下で援助を受ける国に働きかけて要請させる場合が多いのです。入札では計画をすすめた企業が落札するのが慣習になっています。現地の高官を取り込めるかどうかは、事業受注に決定的なのです。
【証言終わり】
 今回摘発されたのは、外国公務員への贈賄ですが、日本の政治家や官僚への働きかけも水面下で行われています。
 ODAは、日本国内の公共事業に比べて利益率が高い。設計の段階で数字を操作して積算単価を上げることが容易だからです。ゼネコンやコンサルタントは、このおいしい仕事を獲得するために手段を選ばず、国内外で裏金をばらまいているのです。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-08-16/2008081602_01_0.html
赤旗・主張『ODA事業贈賄:腐敗構造を徹底的に洗い出せ』
 ベトナムでの政府開発援助(ODA)事業受注をめぐり、大手建設コンサルタント「パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル」(PCI)の前社長らが不正競争防止法違反(外国高官への贈賄)容疑で逮捕されました。
 日本企業が贈賄攻勢でODA事業を受注していることは、いまや業界の常識です。腐敗の横行を放置してきた日本政府の責任は重大です。事件は氷山の一角です。同罪での立件は二例目ですが、これを機会に、ODA事業全体にまん延している腐敗構造を徹底的に洗い出すことが不可欠です。
 PCIは、ベトナムホーチミン市が日本のODA事業(円借款)として発注する高速道路建設コンサルタント業務を二〇〇一年に競争入札で受注し、〇三年に随意契約で監理業務を受注しました。その見返りにPCIがベトナム高官に合計約九千万円を手渡したというのが今回の贈賄事件です。
 ODA事業は貧困・飢餓をなくすために国民の血税を使って行われるものです。それを日本企業が食い物にするなど許されていいはずがありません。世界の困っている人々のためでなく、日本企業の利益のためのODAではないのかといった批判を増幅し、国際社会からの不信を広げるだけです。
 ODA事業を受注するために、ODAを受ける発展途上国の役人に賄賂を贈るのは国際条約でも禁止されています。外国公務員贈賄防止条約(一九七七年)は、不当な利益を得るために「外国公務員に対して金銭等」を供与することを禁止しています。日本は九八年に批准し、不正競争防止法も改正しました。しかし具体的な対策をとらず腐敗を放置してきました。国際的な取り決めよりも日本企業の利益を優先させたといわれても仕方がありません。
 OECD経済協力開発機構)が昨年十月にだした報告書で、日本は、法律を制定したのはいいが「それを執行するための措置をほとんど講じていない」と批判したのは当然です。PCI役員の逮捕でお茶をにごし、内外の批判をかわすことを外務省がもくろんでいるとしたら、国民と世界の人々を裏切ることになります。
 見過ごせないのは、外務省には贈賄行為を全面禁止する意思も姿勢もみえないことです。ODAの運用は、有償資金協力(円借款など)を担当する国際協力銀行JBIC)や無償資金協力を担当する国際協力機構(JICA)が扱うことになっていると説明するだけです。これでは贈賄行使の禁止などできるはずはありません。外務省の姿勢が問われています。
 ODA事業に関与している日本企業側からは、贈賄事件についての反省の声が聞こえてきません。日本経団連にいたっては、贈賄問題にふたをしたまま、「ODAと民間活動との連携」や「民間主導プロジェクトに対する円借款等による補完」などといい、ODAをいっそう企業の食い物にしようとさえしています。大企業いいなりではODA政策のゆがみはひどくなるばかりです。
 政府は大企業の利益を優先させて贈賄行為に目をつぶるのではなく、再発を防止し、ODA事業から腐敗を一掃するため具体的に行動を始めることが求められます。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-03-22/2017032206_01_1.html
赤旗『ODAで市民社会を分断、井上議員 モザンビーク事業中止迫る』
 日本共産党井上哲士議員は21日の参院政府開発援助(ODA)特別委員会で、アフリカ・モザンビークでODAが現地市民社会を分断するために使われている問題を取り上げ、事業の中止を迫りました。
 日本が同国で進めるODA事業「プロサバンナ」を、現地の農民組織などは新たな土地収奪につながると批判しています。
 さらに昨年、反対組織の影響力を弱めるための手引「プロサバンナ・コミュニケーション戦略書」がODA予算でつくられていたことが発覚。井上氏の質問に国際協力機構(JICA)の加藤宏理事は、「戦略書」策定について現地コンサルタントと約285万円で契約したと認める一方、「JICAの見解を示すものではない」と釈明しました。
 井上氏は、日本大使館主催の旅行に基づいて書かれたとされる記事が現地メディアに載り、反対派を名指しで批判していることを示し「『戦略書』に基づく市民分断だ」と強調。外務省の山田滝雄国際協力局長は、昨年12月に大使館主催でプレスツアーを行ったと認めました。
 井上氏は、JICAがさらに、反対派攻撃の中心人物が最高責任者を務める現地NGOとプロサバンナ推進のための事業(「コミュニティー・コンサルテーション」)のコンサルタント契約を結んだことを批判。加藤氏は契約額が23万ドル(約2600万円)に上ることを明らかにしました。一方、反対派市民の存在を理由に、モザンビーク政府に推進事業の延期を申し入れたと述べました。

https://websekai.iwanami.co.jp/posts/862
■月刊世界(岩波書店):連載・モザンビークで起きていること『第1回:JICA事業への現地農民の抵抗』(舩田クラーセンさやか*14
 「私たちは秘密を知ってしまった」
 昨年4月、アフリカ・モザンビーク北部の11名の住民(主に農民)が、JICA(独立行政法人 国際協力機構)に異議申し立てを行なった。
 JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関で、その活動は税金で支えられている。本来、善意によるはずの援助で、いったい何があったのだろうか?
 実は、その5カ月前の2016年11月、日本を訪れていたモザンビーク農民のリーダーは、参議院議員会館で開催された集会で、次のようなメッセージをJICAと日本社会に投げかけていた。
「JICAによる介入により、肉と骨にまで刻み込まれるような傷を毎日感じています」
「JICAに伝えます。私たちは、もう(JICAの事業の)秘密を知ってしまいました」
 JICAの行なっている「国際協力」の現場で一体何が起きているのだろう? 農民のいう「傷」、「秘密」とは?
 本連載では、JICAと日本政府が進める農業開発援助「プロサバンナ事業」に対する農民の異議と抵抗の背景を明らかにするとともに、農民が知ったという「秘密」に迫る。
■安倍首相とニュシ*15大統領の「ナカラ回廊開発」合意
 昨年3月、都内の目抜き通りにある珍しい旗が掲げられた。アフリカらしい赤・緑・黄・黒を基調としたデザイン。モザンビーク共和国の旗であり、同国のフィリペ・ニュシ大統領の来日に際して掲げられたものであった。官邸で大統領を迎えた安倍晋三首相は、同国北部で日本の政府と企業が共同で行う「ナカラ回廊開発」をさらに推し進めていくことを約束した。これを受けて大統領が重要性を強調した事業にプロサバンナ事業があった。
 プロサバンナ事業とは、2009年からJICAがモザンビークのナカラ回廊地域で進める大規模な農業開発事業である。日本政府やJICAはその意義を強調するが、事業対象地の小農(小規模農民)を中心に、もう五年以上も反対運動が続けられている。
 同国では農家の99.3%を小規模農家(耕作面積10ヘクタール以下)が占め、中規模(50ヘクタール未満)は0.7%、大規模は0.1%以下にすぎない。2010年時点の統計によると、小農が全耕地面積の96.4%を耕していたが、近年、外国投資によって小農の土地やコミュニティの森が奪われる事態が相次ぎ、2017年11月現在、世界第6位の土地取引対象国となっている。取引面積は、実に250万ヘクタールにも及ぶ。
 なかでも、モザンビーク北部に投資が集中している。ポルトガルの植民地時代に整備されたナカラ回廊(鉄道・道路・港湾設備)の改修と活用に日本とブラジルの官民が乗り出したことを受けて、沿線の土地は外資の格好のターゲットとなっているのだ。
■ブラジル・セラードからモザンビーク北部へ
 プロサバンナ事業の正式名称は、舌を噛みそうに長い事業名「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ/モザンビーク熱帯サバンナ農業開発」である。2009年9月に、JICA大島賢三副理事長(当時)、ブラジル国際協力庁(ABC)長官、モザンビーク農業大臣の三者によって合意・署名された。この直前には、ブラジル、モザンビークの合意を取りつけるべく、JICAが先頭に立って奮闘したことが数々の外務公電により明らかになっている。
 プロサバンナ事業は、モザンビーク北部3州、その面積10万7002平方キロメートル(日本の全耕地面積の2倍以上)を対象とする巨大事業である。この事業の狙いについて、JICAは次のように説明する。
「(合意事業の)基本的枠組みは、ブラジルのセラード地帯で日本とブラジルが行った熱帯サバンナ農業開発協力の知見を、モザンビーク、ひいては将来的にアフリカの熱帯サバンナ地域の農業開発に生かしていこうというもの」
 この事業の立案に深く関わった本郷豊・JICA中南米部嘱託職員(後にアフリカ部客員専門員、現在退職)も次のように説明する。
「(ブラジル)セラード地帯とアフリカの熱帯サバンナ地帯では、農学的に多くの共通点が認められています。ブラジルには30年にわたるセラード農業開発によって、アフリカ熱帯農業に応用できる多くの知見が蓄積されています。……セラード農業開発は、無人不毛地帯を技術力と資金力で耕地化できるか否かが主要課題でした」
■「広大な未利用農耕適地」の開発=「日本人の食生活」?
 この時期の資料には、セラードとモザンビーク北部の緯度が同じであることを示す地図、そして両者の景観の類似性を強調する写真が掲載されている。広がる草原の向こうにやせ細った木々が見える写真で、一般的なアフリカのイメージ(草原サバンナ)を想起させる。
 合意文では、「モザンビークの国土の約七割が熱帯サバンナ地域に分類され、広大な未利用農耕適地」があると強調されているばかりではない。セラードでの農業開発事業の「成功」を踏まえ、日伯が「競争的角度から市場型農業開発」を進めることで、モザンビークの貧困削減と世界の食料安全保障の問題を同時に解決するといったことが謳われている。この翌年のJICAの機関誌には、「途上国の農業開発なしに維持できない日本人の食生活」との見出しが掲げられ、プロサバンナ事業への期待が語られた。
 私たちの食生活を維持するため。
 その大義のもとに行なわれているアフリカの開発「援助」。次回以降、その実態を報告していく(続く)。

 まあこういう事態を無視してよくもまあ産経など反中国ウヨ連中も「日本のアフリカ援助は中国とは違って現地民に喜ばれてる」「日本の援助は現地の要望に従っており、日本の押しつけでも日本の私利私欲でもない」とか抜かせるもんです。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-03-27/2018032704_04_1.html
赤旗『石炭火発の見直しを、インドネシア援助 井上議員質問、参院ODA特別委』
 井上哲士議員は22日の参院ODA特別委員会で、地元住民が反対運動を起こしているインドネシア西ジャワ州の石炭火力発電所計画が日本政府のODA(政府開発援助)で進められている問題で、援助の見直しを求めました。
 外務省とJICA(国際協力機構)は同計画の基本設計などに約5億円を貸し付け。インドネシア電力公社の要請があれば本体工事の援助も検討します。地元住民は「環境が汚染される」「農地収用や漁場制限で生計が失われる」として建設に反対しています。
 井上氏は、同事業は社会的合意の確保や関係者の参加を定めたJICAの「環境社会配慮ガイドライン」に適合しないと指摘。「反対派住民が不当逮捕されるなどの人権侵害も起きている」と、JICAの認識をただしました。
 JICAの江島真也理事は「警察の関与は承知している。インドネシア側に懸念は伝えている」としながら、「ガイドラインに従っているかは、本体工事の援助を行う時に検討する」と答えました。
 井上氏は、地元裁判所が昨年12月に「環境アセスメントが不十分だった」との住民側の訴えを認めて環境許認可を取り消した後も、日本政府が貸し付けを実行していることを批判。「状況は契約時点と大きく変わっている」とし、貸し付け中止を要求しました。


■トランプ政権と軍産複合体(上)(山脇友宏)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-08-21/2018082102_01_1.html
赤旗『軍事費膨張 目立つ米国製武器購入、借金5兆円超、将来にツケ』
 5兆3000億円超。安倍政権が狙っている来年度軍事費が成立すれば、5年連続で過去最大を更新する異常事態となります。
 なぜ、軍事費の膨張が止まらないのか。目立つのは「対米関係」の予算です。第2次安倍政権後、米国の武器輸出制度である「対外有償軍事援助」(FMS)に基づく米国製武器の購入が急増。発足当時の2013年度の589億円から、18年度には4102億円と約7倍に拡大しました。(過去最大は16年度の4858億円)
 トランプ政権は米軍需産業に利益をもたらすため、日本への武器輸出を強硬に推し進め、安倍政権もこれに唯々諾々と応じています。この間、FMSに基づいて購入している米国製武器の主要製造元を見ると、世界最大の軍需産業ロッキード・マーティン*16など、主要企業が並びます。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入が強行されれば、単価では過去最高額になる可能性があります。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10017.php
ニューズウィーク日本版『トランプ、武器輸出増狙いセールス活動 「バイ・アメリカン」の内幕』
 最も恩恵を受ける企業には、ボーイングのほか、防衛機器大手ロッキード・マーチンレイセオンジェネラル・ダイナミクスノースロップ・グラマン*17が含まれる。これらすべての企業株価は、昨年1月のトランプ政権誕生以来、上昇率が2桁に上っており、ボーイングの株価は2倍に膨らんでいる。
 ホワイトハウスの声明によると、トランプ大統領は定期的に各国首脳と会談や電話によって特定の武器売却について協議しているという。昨年11月の日本訪問では、米国製兵器をもっと購入するよう公式の場で安倍晋三首相に直接要請した。
 より最近では、先月大統領執務室で行われたサウジアラビアムハンマド皇太子*18との会談で、トランプ大統領は、サウジアラビアに売却された米国製ジェット機や艦船、ヘリコプターなど兵器の写真パネルを掲げ、「われわれは世界最高の軍用品を製造している」と記者団に自慢して見せた。その傍らでムハンマド皇太子は笑みを浮かべて座っていた。
 ニクソン*19クリントン*20ジョージ・W・ブッシュ*21ら歴代大統領も自国防衛産業の基盤を強化する必要性を強調していたが、もっと遠回しなやり方だったと、超党派シンクタンク、国際政策センターで軍備・安全保障プロジェクトのディレクターを務めるウィリアム・ハータング氏は指摘する。
「トランプ氏ほどあからさまな大統領はいない。彼ほど声高に訴えた大統領はいなかった」
 オバマ政権は2014年、米武器メーカーがかつてないほど海外で売却することを可能とする規制緩和を実施したが、トランプ政権の通常兵器移転政策(CAT)を全面的に見直すという計画は、オバマ政権の規制緩和をはるかに超えている。オバマ氏は一部の武器売却において批判を受けたことはあるものの、規制には明確な一線を設け、人権に関する厳格な基準を満たすことを義務付けていた。
 トランプ大統領はすでに、オバマ氏が阻止したいくつかの契約にゴーサインを出している。その中には、70億ドル規模のサウジアラビアへの精密兵器売却が含まれている。これら武器売却を巡っては、イエメン内戦において、サウジが主導する軍事作戦により市民の犠牲者が出た一因であるとして人権団体が懸念を示している。

https://webronza.asahi.com/business/articles/2018041300001.html
■ウェブ論座『勢いづく米兵器メーカー、株価高騰』
 米国の軍需産業の株価が、トランプ大統領就任直後から高水準を維持している。トランプ政権は国務省をバッシングする一方、強硬派の人物を相次いで重要ポストに起用。14日にはシリア攻撃に踏み切るなど、外交政策は軍主導色を強めている。その裏では、日本から米兵器メーカーに流れる防衛費が急増。東アジアの緊張が高まるほど米国が潤う構図が生まれている。
 米国の2019会計年度(18年10月〜19年9月)の国防予算は7160億ドルで、2年連続2ケタの伸びとなった。国防費の増加は軍需産業の業績を改善させ、新兵器の研究開発を促す。万一、戦争が起きれば兵器・弾薬などの備蓄が大量消費され、膨大な買い替え需要が発生する。
 「偉大な米国の復活」を掲げ、軍事対立や経済戦争をいとわないトランプ大統領。その際立つ姿勢は、軍需産業への投資にまたとないチャンスをもたらした。
 上の表(ボーガス注:表の引用は省略)は、NYダウと主要兵器メーカーの株価について、トランプ大統領当選直前の16年10月と今年4月を比較した上昇率を示している。ボーイングが157%と群を抜き、ロッキード・マーチンやゼネラル・ダイナミクスなど大手メーカーは40〜60%と、いずれもNYダウの34%を大きく上回っている。
 ボーイングは世界最大の航空機メーカーだが、売上高の40%が軍需部門で、戦闘攻撃機、大型輸送ヘリ、オスプレイなどを生産する。ロッキード・マーチンはステルス戦闘機、無人機など。レイセオンはミサイル、電子戦システムなど。ゼネラル・ダイナミクス原子力潜水艦、戦車、機関砲など。ノースロップ・グラマンはステルス戦略爆撃機、早期警戒機、航空母艦などを生産する。
 各メーカーは国防総省の差配の下にそれぞれが得意分野を持っている。その密接な関係は議会も巻き込んで「軍産複合体」と呼ばれ、第二次大戦直後から米国の政治経済・安全保障政策の決定に重要な影響を与えている。
 また国防総省傘下の国防高等研究計画局(DARPA)は、32億ドルの年間予算を使ってITやロボットを研究する大学や企業などに豊富な資金を提供し、ネットワークを作り上げている。
 北朝鮮や中東の危機は、軍需産業にとって好機到来だ。例えば日本は緊張が高まるほど防衛力強化に走り、高額の米国製兵器を購入するお得意さんになる。19年度以降に2基導入する地上配備型の迎撃ミサイル「イージス・アショア」(ロッキード・マーチン製)は1基1000億円する。
 日本はこれらの装備品をFMS(対外有償軍事援助)と呼ばれる取引契約によって、米政府を窓口にして購入する。価格は交渉ではなく米政府が一方的に決め、日本政府は代金を前払いする。軍事機密の流出防止のための措置とはいえ、米国が全ての主導権を握り、日本側には不利な取引契約である。

*1:著書『18歳からわかる 平和と安全保障のえらび方』(編著、2016年、大月書店)

*2:著書『チャベス革命入門』(共著、2006年、澤田出版)、『北米地域統合と途上国経済:NAFTA多国籍企業・地域経済』(2009年、明治大学軍縮平和研究所)、『米州の貿易・開発と地域統合新自由主義とポスト新自由主義を巡る相克』(2017年、法律文化社

*3:著書『大都市のひとり暮らし高齢者と社会的孤立』(2009年、法律文化社)、『老人に冷たい国・日本:「貧困と社会的孤立」の現実』(2015年、光文社新書)など

*4:著書『日本社会保険の成立』(2003年、山川出版社日本史リブレット)、『日本社会政策学の形成と展開』(2016年、新日本出版社)など

*5:著書『EU加盟と移行の経済学』(2005年、ミネルヴァ書房)、『ハンガリー経済図説』(2014年、東洋書店ユーラシアブックレット)、『ハンガリーを知るための60章(第2版)』(共著、2018年、明石書店)など

*6:エリツィン政権大統領府第一副長官、連邦保安庁長官、第一副首相、首相を経て大統領

*7:著書『ポスト社会主義の政治経済学:体制転換20年のハンガリー・旧体制の変化と継続』(2010年、日本評論社)など

*8:原文のまま。ただしウィキペディア「ゼーホーファー」によれば「内務大臣」

*9:著書『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(2009年、岩波ブックレット)、『クライメート・ジャスティス:温暖化対策と国際交渉の政治・経済・哲学』(2015年、日本評論社)など

*10:著書『エビと日本人』(1988年、岩波新書)、『エビと日本人Ⅱ』(2007年、岩波新書)、『インドネシア・スンダ世界に暮らす』(2014年、岩波現代文庫)など

*11:駐ユーゴ大使、軍縮大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表など歴任。著書『スイス 歴史が生んだ異色の憲法』(2003年、ミネルヴァ書房)、『国連と軍縮』(2010年、国際書院)など

*12:第一次安倍、福田内閣沖縄・北方等担当相、第二次、第三次安倍内閣外相を経て自民党政調会長

*13:橋本内閣北海道・沖縄開発庁長官、小渕内閣官房副長官など歴任

*14:明治学院大学国際平和研究所研究員。著書『モザンビーク解放闘争史』(2007年、御茶の水書房

*15:防衛相を経て大統領

*16:1995年にロッキード社とマーティン・マリエッタ社が合併して誕生。

*17:1994年にノースロップグラマンを買収して誕生

*18:第一副首相兼国防相兼経済開発評議会議長でもある。

*19:アイゼンハワー政権副大統領を経て大統領

*20:アーカンソー州知事を経て大統領

*21:テキサス州知事を経て大統領