今日の産経ニュースほか(2019年6月1日分)

皇室の〝三重権威〟問題 - 酒井信彦の日本ナショナリズム

 昭和天皇は政権の意向によって、開戦と終戦詔勅*1を出されたのである。

 という「昭和天皇ロボット説」は戦犯追及を逃れるため、昭和天皇とその側近が捏造し、「天皇政治利用をもくろむ」米国も容認した説に過ぎず事実ではありません。
 そもそも昭和天皇がロボットであるならば「田中義一*2の首相辞任」「226事件」の説明がつかなくなります。
 張作霖暗殺について当初「陸軍を処分する」と報告した田中は「陸軍の反発を抑えきれず」その報告を結局撤回。激怒した昭和天皇に「デタラメな報告を私にしたのか」「そんなことで首相が務まるのか」とまで非難され、首相を辞任します(なお、昭和天皇は以前から田中の政治手法に不満を覚えていました)。
 一方226事件では真崎甚三郎*3荒木貞夫*4皇道派青年将校を利用し復権を目指しますが、「青年将校の厳罰を主張する」昭和天皇によって阻止されます。
 これは天皇が権力を持っていたことを明らかに示しています。
 こうした「天皇の権力」は明治時代も変わりません。たとえば征韓論論争に決着をつけたのは結局明治天皇の判断でした。もちろん、「太政大臣三条実美」「右大臣・岩倉具視」「内務卿兼参議・大久保利通*5」といった征韓論反対派が明治天皇を自分側に説得したのは事実ですが「天皇の権威・権力」がなければ大久保らは「陸軍大将兼参議・西郷隆盛*6」「外務卿兼参議・副島種臣*7」「司法卿兼参議・江藤新平*8」といった征韓論派には勝利できませんでした。
 なお、昭和天皇が戦後も権力者気取りだったことは「沖縄メッセージ」や「増原防衛庁長官内奏問題」などで明白です。

 ところで今回の退位問題は、この国家体制を覆す画期的な事件であった。天皇は政権の意思に反した行動をとられた。そこで天皇本人が利用されたのが、メディア権力である。

 むしろ沖縄メッセージ問題などで分かるように政治的振る舞いが酷かったのは現上皇より昭和天皇の方です。米長の例の件でわかるように現上皇は「退位のような自分の立場に関係すること」以外では政治的発言は回避しています。一方、昭和天皇は沖縄問題のような「天皇の地位に関係ないこと」でも平気で主権者気取りの発言をしていました。
 酒井が本気でこんなこと言ってるのなら無知だし、故意に嘘をついてるなら卑劣です。

 3月7日の朝日新聞朝刊のオピニオン欄の「耕論」で、渡辺治*9は慰霊行為を「憲法からの逸脱」と言っているくらいだから、退位宣言は完全に「憲法違反」だろう。

 全然違いますね。渡辺氏が「慰霊は違憲云々」といってる理由は政教分離原則問題*10だからです。退位宣言とは性格が大分違う。つうか「天皇靖国参拝(慰霊の一種であり、かつ明らかな政教分離原則違反)」を求めてる人間・酒井が良くもこんなことが言えたもんです。


元農水次官、自宅で長男刺す 東京・練馬、容疑で逮捕 搬送先で死亡 - 産経ニュース
 父親が農水次官をやる人間ならおそらく「バカではない」でしょうし、父親がコネを使えば「労働意欲さえあれば」何らかの職に就けたんじゃないかと思うのですがねえ。「何でこうなったのか(残念)」つう感があります。


【昭和天皇の87年】監禁された蒋介石 黒幕として動いたのはスターリンだった - 産経ニュース

 確実に言えることは、事件後に国民党が共産党への軍事行動を事実上放棄し、壊滅寸前*11だった共産党が息を吹き返したことだ。

 とはいえそうなったのは日本が「蒋介石政権打倒による中国全土完全植民地化」をめざし、蒋介石を攻撃し続けたからですが。
 蒋は当初「安内攘外」を掲げ、日本との戦いより中国共産党との戦いに力を入れますが、その結果「共産党と戦っている蒋介石」をこれ幸いと日本が攻撃したことで「こんなことをしていたら中国共産党に勝つ前に日本に打倒されてしまう」と不満を感じた張学良らが西安事件を起こすわけです。
 日本が蒋介石政権打倒などに固執しなければ、西安事件はなく、国共合作もありませんでした。
 しかも当時の日本は西安事件を「中国共産党蒋介石を殺せば、好都合」と「国共合作など全く予想せずに」、当初歓迎すらしていたのだから完全に政治感覚がずれています。

 このとき、背後で中国を動かしていた黒幕がいる。
 スターリンである。
 蒋介石が張学良に監禁された際、中国共産党では蒋の暗殺を検討*12したが、スターリンが止めたとされる。

 「はあ?」ですね。
 この産経指摘が事実としても、スターリンとしては
1)蒋介石の能力を高く評価しており、彼の力なしでは日本打倒も出来ないと考えていた(蒋暗殺は日本の中国侵略を支援するだけの愚行と評価)。
 また日本軍の中国撤退後の「中国政府の中心人物」も彼が務めてほしいと思っていた。だから暗殺など論外だった
2)かつ中国共産党蒋介石暗殺などすれば、国民党が総力を挙げて中国共産党打倒に動き、中国共産党にとってかえって逆効果。ソ連共産党の中国での評価も「中国共産党と同じ共産党」として悪化しかねない
と評価して「暗殺阻止」に動いただけでしょう(「国共合作成立後」はそれを支持したとは言え、当初、スターリン国共合作まで展望していたかは疑問です)。「張学良の西安事件を事前に支援したのがスターリン」というならまだしも、その程度のことの何が黒幕なのか。
 金大中事件光州事件で米国が「絶対に金大中を暗殺するな」「絶対に金大中を死刑にするな」と朴チョンヒに圧力かけたのと大して変わりません。
 なお通説では張学良らは事前に中国共産党と共謀していたわけではなく、中国共産党にとっても「張らの西安事件」は「寝耳に水の大事件」でした。

 スターリンは、国民党軍と日本軍を戦わせ、共倒れさせようとしたのだ。

 「共倒れ」なんてことは考えてないでしょうね。1945年以降の国共内戦において、当初はスターリンが「蒋介石の内戦勝利」を予想して毛沢東らに冷淡で、そのことが中ソ対立の遠因になったことは有名な話です。

 西安事件(ボーガス注:とそれによる国共合作)により、のちの日中戦争は不可避になったといえるだろう。

 「おいおい」ですね。「中国侵略など現実的でない」と日本側が認識し中国から撤退すれば「日中戦争」などありませんでした。国共合作など全く関係ない。
 つうかむしろ「国共合作しない方が日中戦争は助長された」でしょうね(実際には国共合作したわけですが)。
 なぜなら国共合作しないことで「蒋介石共産党打倒作戦に兵力をさいているから、日本軍による蒋介石打倒は簡単だ」と日本が認識する可能性が高まるからです。
 むしろ「国共合作した時点」で「蒋介石政権打倒は難しくなった」と評価すべきでしょうに、日本は結局そうは評価しませんでした。
 汪兆銘擁立工作がわかりやすいですが、日本は蒋介石の能力を大して評価してなかったわけです。だから「汪兆銘擁立工作で蒋介石に大打撃を与えられる(実際には大した影響なし)」なんて考えていたわけです。


維新、フリーアナ長谷川氏の公認取り消しへ 差別助長発言で - 産経ニュース
 関西で部落差別発言なんか放言すればこうなるのは当然です。むしろ正式な取り消しが遅すぎたくらいです。
 まあ、そもそもこの男は今回の部落差別発言以前から「透析患者への暴言」とか、酷かったですからね。
 それにしても「助長」て。産経は「差別発言ではない(ただし差別を助長した)」とでもいう気でしょうか。正気じゃないですね。「助長いらねえだろ、バカ」ですね。

*1:つうかこの酒井節も珍説ですね。「いわゆる終戦の聖断」を酒井は主張しないようです。開戦決定はともかく、終戦決定は、鈴木首相が「陸軍の主戦論」を自分の力で押さえ込めないが故に、昭和天皇が「天皇の力」で押さえ込んだのは明白なのですが。それを「終戦の聖断」と呼んで例外扱いするか、「昭和天皇がいつもやっていた行為」と見なすかどうかはともかく(前者の例外扱いが昭和天皇の戦争責任を免罪するためのデマで、後者が歴史的事実です)。

*2:第二次山本、原内閣陸軍大臣を経て首相

*3:台湾軍司令官、参謀次長、陸軍教育総監を歴任

*4:犬養内閣陸軍大臣、第一次近衛、平沼内閣文相など歴任。戦後終身刑判決を受けるが後に仮釈放。

*5:後に紀尾井坂の変で暗殺される。

*6:後に西南戦争を起こし戦死

*7:外務卿兼参議、枢密院副議長、第1次松方内閣内務相など歴任

*8:後に佐賀の乱を起こし死刑。

*9:著書『現代日本の支配構造分析』(1988年、花伝社)、『憲法はどう生きてきたか』(1989年、岩波ブックレット)、『戦後政治史の中の天皇制』(1990年、青木書店)、『「豊かな社会」日本の構造』(1990年、労働旬報社)、『企業支配と国家』(1991年、青木書店)、『政治改革と憲法改正中曽根康弘から小沢一郎へ』(1994年、青木書店)、『現代日本の政治を読む』(1995年、かもがわブックレット)、『日本の大国化は何をめざすか』(1997年、岩波ブックレット)、『日本とはどういう国か どこへ向かって行くのか』(1998年、教育史料出版会)、『企業社会・日本はどこへ行くのか』(1999年、教育史料出版会)、『憲法「改正」は何をめざすか』(2001年、岩波ブックレット)、『日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成:天皇ナショナリズムの模索と隘路』(2001年、桜井書店)、『構造改革政治の時代:小泉政権論』(2005年、花伝社)、『憲法9条と25条・その力と可能性』(2009年、かもがわ出版)、『渡辺治政治学入門』(2012年、新日本出版社)『安倍政権と日本政治の新段階:新自由主義・軍事大国化・改憲にどう対抗するか』、『安倍政権の改憲構造改革新戦略:2013参院選と国民的共同の課題』(以上、2013年、旬報社)、『現代史の中の安倍政権』(2016年、かもがわ出版)、『戦後史のなかの安倍改憲』(2018年、新日本出版社)など

*10:靖国参拝はともかくサイパンパラオの慰霊については政教分離原則違反とは見なさない人間も少なくありませんが。

*11:壊滅寸前かどうかはともかく、西安事件による国共合作共産党にメリットだったことは確かに事実です。ただし、その後も1941年に「皖南事変(かんなんじへん)」という「中国共産党と国民党の武力衝突事件」が発生しており、国共合作は順風満帆だったわけではありません。

*12:一方で『最初からそんな暗殺は考えてなかった」とする説もありますが。