黒井文太郎に突っ込む(2019年6月15日分)(追記あり)

黒井文太郎
 (ボーガス注:シリアへの?)米軍増派を受けて、革命防衛隊司令官がハメネイ*1に「悪魔米国の思い通りにさせないため、タンカーやります。我々の正体は隠します」と言って、「よかろう、全て任せる」とざっくりとした了承を得てた、なんていう可能性も考えられます。推測ですが

 黒井らしい馬鹿さで吹き出しました。「ろくな根拠のない推測、憶測」でいいなら「イランに濡れ衣を着せて軍事攻撃するためのイスラエルやCIAなど反イラン勢力の謀略」の可能性もあるわけです。
 つうか「イラン革命防衛隊の末端が暴走した*2」のならともかく、安倍の訪問を受け入れて最高指導者ハメネイとの会談までしてやったのに「ばれたら大問題になる」日本タンカー攻撃にハメネイ自ら了承を与えるなどおよそあり得ないでしょう。いかに「安倍の行為が所詮、トランプのメッセンジャーボーイに過ぎず、イランにとって評価に値する物ではない」にしても。黒井はハメネイサイコパスだとでも思ってるのか。
 もし仮に「日本タンカーと知ってやった」のなら安倍にケンカ売ってる以外の何物でもない。
 また、「日本タンカーと知らない場合」でも安倍だって「日本タンカーじゃなきゃ攻撃していいですよ」とは思わないでしょう。
 「俺のイラン訪問時になぜそんなことをする!」と憤慨し、イランへの反感を強めるに決まってるわけで、「安倍イラン訪問中、あるいはその前後」でこんなことをやることは考えがたい話です。そんなことをして安倍のメンツを「ハメネイレベルのイラン上層部」が潰すことに何の意味があるのか(ただし末端の暴走なら可能性は一応あるでしょう)。
 いずれにせよ現時点ではハメネイなど上層部の了承どころか、イラン関係者の犯行かどうかさえ不明です。現段階では「安倍政権の日本」を含めて、ほとんどの国は「イラン攻撃説を主張する米国の主張は真偽不明」という態度ですし(まあ安倍的には動かぬ証拠がなければ「自分の訪問が無意味だった」と評価されることになりかねないイラン攻撃説はできる限り支持したくないでしょうが)。
 「自称・軍事評論家」黒井は根拠レスで「イランのネガキャン」にいそしんでるゲスでしかありません。黒井は「親米、親トランプ、親イスラエル」「反イラン」なんでしょうか。まあ、まともな人間ならこのツイートだけでも黒井を相手にしなくなりますね。
 まずすべきことはこんな無根拠な憶測を語ることではなく「国際社会による客観的調査」を求めることでしょう。
 現状ではイランやアメリカと言った当事者が何を言おうと「イランはタンカー攻撃したのにとぼけてる(米国)」「イランに米国が濡れ衣を着せようとしている(イラン)」という水掛け論にしかならないからです。もちろんそうした「国際社会による客観的調査」は結果的には出来ないかもしれませんが、だからといって黒井のようにあやふやな理由でイランに悪口していいわけもないでしょう。
 いずれにせよ今回の安倍イラン訪問が失敗に終わったことは間違いないでしょう(「安倍の無能さ」を考えれば、失敗自体は訪問前から予想の範囲内ですが)。
 何せトランプ政権は「根拠があるのかないのか」はともかく「タンカー攻撃はイランの犯行説」を声高に唱えイラン批判をしています。
 安倍イラン訪問に何らかの意義があると米国が思うなら、イランが犯行を否定しているこの時点で安倍の面目を丸潰しにするイラン非難をしたりはしないでしょう。

黒井文太郎
 タンカー攻撃事件、自分含めて皆様ほぼ同じ情報を得ているので、純粋に情報分析力の競争みたいになっているのが刺激的。

 情報分析とやらで黒井がやってることはイラン犯行説の垂れ流しですが、まあ、ばかばかしいですね。現時点で「まともな分析力のある人間がやるであろう事」は「意見保留」でしょうにねえ。
 現時点は「米国がイラン犯行説を主張」「イランが否定」で、「何が正しいか決定的根拠がない」つう状況でしょうに。
 この状況では「黒井のイラン犯行説」にせよ「イラン犯行否定説」にせよ、まともな根拠がないのだから主張する意味はないでしょう。繰り返しますがやるべき事は「国際社会による客観的調査」でしょうね。

【追記】
 安倍のイラン訪問を批判する浅井基文氏の記事を紹介しておきます。

ハメネイ師と安倍首相の会談-「トランプの5つの要求」-
 6月14日付のイラン通信社Fars(FNA)は、イランの最高指導者ハメネイ師と安倍首相の会談において、安倍首相が「トランプの5つの要求」を伝え、その一つ一つについてハメネイ師が表明した見解を紹介しました。実はFNAは同じような内容を前日にも報道したのですが、トランプが5つの要求を安倍首相に託し、それをハメネイ師が全面的に拒否したという整理の仕方で改めて報道したことは、FNAが半官の通信社とされていることを前提とすると、かなり重みが違ってくると思います。ハメネイ師の対米不信は徹底していることを理解しているので、その発言内容も私にとって何ら意外ではありません。6月8日のコラムでも指摘したとおり、安倍首相の「御用聞き」さながらのイラン訪問は滑稽以外の何ものでもありません。それでもイラン側が安倍首相に対して礼儀を尽くし、赤っ恥をかかせないように配慮したのはイランの日本重視(安倍重視ではない!)によるものであったことは明らかであり、安倍首相はそのことに感謝するべきです。
 私の安倍首相のイラン訪問に関する評価は、友人から送られてきた中東ジャーナリスト・川上泰徳氏*3の「安倍首相のイラン訪問 緊張緩和の仲介とは程遠い中身と日本側の甘い評価」と題するブログに示されている判断と基本的に変わりませんので、末尾で紹介させていただくことで省略することとし、ここでは、FNAの紹介した安倍首相とハメネイ師との「トランプの5つの要求」に関するやりとりを紹介します(内容的には、FNAに基づいて川上氏が紹介していることとほぼ重複します)。

 ハメネイ師は安倍首相が伝達したトランプの5つの要求を、米大統領は不正直で嘘つきであることが証明済みなので拒否した。安倍晋三は木曜日の朝ハメネイ師と会ってトランプの5つの要求を伝達したが、ハメネイ師は、トランプにはいかなるメッセージを伝えるのも値しないといって、米大統領との間ではいかなる形の対話にもかかわることを拒否した。
 (第一に)トランプは安倍に対して、彼の政権はイランの政権交代を追求していないと述べた。指導者は次のように答えた。「我々のアメリカとの間の問題は政権交代に関することではない。なぜならば、仮に彼らがそのことを追求しようとしても、そのことを達成することはできないからだ。過去40年間、歴代大統領はイランを破壊しようとして失敗した。トランプが政権交代を求めていないというのはウソだ。というのは、できるのであればそうするだろうから。しかし、彼はそうすることができないのだ。」
 次に日本の首相はトランプの第2の要求としてワシントンはイランと核問題を議論したいのだと述べたが、ハメネイ師は次のように述べて退けた。「イランはアメリカ及び欧州-いわゆるP5+1-と5,6年交渉して協定に達した。しかしアメリカは協定を無視し、破った。合意されたすべてのことを放り投げる国家ともう一度交渉することを許すような常識があるだろうか。
 安倍が伝えたトランプの第3の要求は、アメリカはイランが核兵器を獲得することをストップさせる決意だということだった。それに対してハメネイ師は彼が不正規な兵器(unconventional weapons)を禁止するファトワをすでに出していることに注意を喚起した上で次のように述べた。「我々は核兵器に反対であり、私のファトワ核兵器の製造を禁止している。しかし、仮に我々が核兵器を製造しようとする場合、アメリカは何もできず、アメリカが許さないということは障害にならないということを知るべきだ。」
 安倍が伝えたトランプの第4の要求は、アメリカはイランとの正直かつ誠実な話し合いを求めているということだった。ハメネイ師は安倍に対し、「我々はそんなことをまったく信じない。なぜならば、真正な話し合いということはトランプのような輩からは来ないからだ」と述べた上で、「正直及び真心はアメリカの当局者にあっては極めてまれなものだ」と続けた。
 安倍が引用したトランプの最後の要求は、ワシントンとの交渉はイランにとってためになるだろうことを米大統領が約束するということであり、「アメリカとの交渉はイランの発展に資するだろう」ということだった。ハメネイ師は、「神のご加護のもと、アメリカと交渉せず、制裁があるにもかかわらず、我々は発展するだろう」と応じた。

安倍首相のイラン訪問 緊張緩和の仲介とは程遠い中身と日本側の甘い評価(川上泰徳) - 個人 - Yahoo!ニュース
 米国とイランの緊張緩和のための仲介を目指して行われた安倍晋三首相の2日間のイラン訪問は12日、ロハニ大統領と、13日、最高指導者ハメネイ師との会談を行ったが、13日にホルムズ海峡であった日本のタンカーなど2隻への砲弾攻撃によって、国際ニュースから吹っ飛んでしまった。イランでの報道をみると、米イランの仲介という点では、安倍首相の訪問は完全に失敗だった。それにと止まらず、状況は対話とは逆方向に進んでいることを印象づける結果となった。
 安倍首相とハメネイ師の会談について、首相官邸サイトでは次のように書いている。

 イランの最高指導者である、ハメネイ師と直接お目にかかり、平和への信念を伺うことができました。これは、この地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進であると評価しています。またハメネイ師からは、核兵器を製造も、保有も、使用もしない、その意図はない、するべきではないとの発言がありました。

 一方、ハメネイ師の公式ウエッブサイトから発信された情報では首相官邸の談話にはないメッセージがある。イラン各紙が伝えているハメネイ師と安倍首相との会談の様子は次の通りだ。首相官邸の簡単な談話に比べると、安倍首相との会談をほぼ網羅していると思われるので、長くなるがイランの主要メディアのファルス通信から引用しよう。

 会談の中で安倍首相はハメネイ師に「私はあなたに米国大統領のメッセージを渡します」というと、同師は「私は日本が誠実で善意に基づいていることに疑いはありません。しかしながら、あなたが米国大統領について言ったことについては、私はトランプを私がメッセージを交換するに値する人間と考えていませんし、私からはいかなる返事もありませんし、将来においても彼に返答するつもりはありません」と答えた。
 安倍首相が米国はイランが核兵器を製造することを阻止するつもりであると語ったことに対して、ハメネイ師は「私たちは核兵器に反対しています。私のファトワ(宗教見解)は、核兵器の製造を禁じています。しかし、私たちが核兵器を製造しようと考えれば、米国は何もできませんし、米国が認めなくてもそれが(製造することの)障害にあることがないことは、あなたも知るべきです」と語った。
 さらに安倍首相が「トランプ大統領はイランの体制転覆を考えているわけではありません」と語ったのに対して、ハメネイ師は「我々と米国との問題は米国がイランの体制転覆を意図しているかどうかではありません。なぜなら、もし、米国がそれ(イランの体制転覆)をしようとしても、彼らには達成することはできないからです。米国の歴代の大統領たちは40年間にわたってイスラム共和国を破壊しようとしてきましたが、失敗しました。トランプがイランの体制転覆を目指していないと言っているのは、嘘です。もし、彼がそうできるなら、するでしょう。しかし、彼にはそれができないのです」と述べた。
 また安倍首相が米国は核問題でイランと協議することを求めている、と語ったのに対して、ハメネイ師は「イランは米国や欧州諸国との六か国協議を5年から6年行って、合意に達しました。しかし、米国は合意を無視し、破棄しました。どのような常識感覚があれば、米国が合意したことを投げ捨てておきながら、再度、交渉をするというのでしょうか? 私たちの問題は、米国と交渉することでは決して解決しません。どんな国も圧力の下での交渉は受け入れらないでしょう」と反論した。
 安倍首相がトランプ大統領の言葉として「米国との交渉はイランの発展につながる」と語ったのに対して、ハメネイ師は「米国と交渉しなくても、制裁を受けていても、私たちは発展してきます」と答えた。

 ハメネイ師から公式に発表された安倍首相の内容を見る限り、安倍首相が提示したトランプ大統領のメッセージは、ことごとく拒否されている。米国との仲介者を演じる安倍首相にとっては取りつく島もなく、イラン訪問は完全に失敗したと評価するしかないだろう。

*1:革命防衛隊司令官、大統領などを経て最高指導者

*2:これだって可能性は低いんじゃないかと思いますが。

*3:著書『イラク零年:朝日新聞特派員の報告』(2005年、朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命:中東民主化のゆくえ』(2011年、岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと:伝統と「革命」のあいだで』(2012年、岩波書店)、『中東の現場を歩く:激動20年の取材のディテール』(2015年、合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない:グローバル・ジハードという幻想』(2016年、集英社新書)、『シャティーラの記憶:パレスチナ難民キャンプの70年』(2019年、岩波書店