高世仁に突っ込む(2019年8/18分)

千鳥ヶ淵戦没者墓苑をめぐる - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 今日の産経ニュース(2019年8月16日分) - bogus-simotukareのブログでも書きましたが千鳥ヶ淵靖国には大きな違いがあります。
 それは「千鳥ヶ淵には戦没者しか祀られてないが、靖国戦没者以外が多数祀られてる*1」つうことです。
 有名なA級戦犯からして彼らは戦没者じゃない。たとえば東条英機*2元首相は死刑、小磯国昭*3元首相は「終身刑で服役中、刑務所内で病死」、東郷茂徳元外相(東条、鈴木内閣)は「禁固20年で服役中、刑務所内で病死」、松岡洋右元外相(第二次近衛内閣)は「裁判中病死」です(他にもA級戦犯の合祀例はありますが紹介は省略します。A級戦犯の合祀は「死刑」「服役中、刑務所内で病死」「裁判中病死」の3パターンあります)。
 判決を受ける前に死亡した、つまり建前上は無罪判決の可能性もあった*4松岡まで合祀していることで靖国が「判決の内容を問題にしているのではなく裁判それ自体を不当扱いしていること」は明白です。
 ただし戦犯でも、有期刑を受けて、服役後、生きて出獄した重光葵元外相(東条、小磯内閣)(出所後、鳩山内閣外相)や、終身刑判決でも仮釈放で出所して一般社会で死去した荒木貞夫*5陸軍大臣(犬養内閣)、賀屋興宣元蔵相(第一次近衛、東条内閣)(出所後、自民党政調会長(池田総裁時代)、池田内閣法相を歴任)、木戸幸一*6内大臣嶋田繁太郎*7海軍大臣(東条内閣)などは合祀はされていません(他にも合祀されていないA級戦犯の例はありますが紹介は省略します)。
 他にも「吉田東洋暗殺の罪で土佐藩に処刑された武市半平太」「桜田門外の変で井伊大老を暗殺し、現場で死亡した、あるいは後に死刑となった水戸浪士」などが合祀されている。もちろん一方で「武市に暗殺された吉田東洋」「水戸浪士に暗殺された井伊大老」は合祀されていません。
 これで「戦没者追悼施設だ」「敵も味方もない」と言うのは明らかに無理がある。明らかに靖国は「味方(武市、水戸浪士)と敵(吉田東洋、井伊大老)を分けて扱っています」し「戦没者追悼施設ではない」。
 靖国は「靖国が国の英雄と認めた人間を顕彰するための施設」です。
 そもそも靖国がそういう施設だからこそ「戦後は靖国は使えない(国が公然と日中戦争、太平洋戦争を正義の戦争とは言えないから)」と言う判断の下、千鳥ヶ淵が出来たわけです(勿論政教分離の問題もありますし、千鳥ヶ淵はしたがって非宗教施設ですが)。
 靖国はあえて言えば「錦繍山太陽宮殿(北朝鮮建国の父・金日成の遺体を安置)」「ホー・チ・ミン廟(共産国としてのベトナム建国の父ホー・チ・ミンの遺体を安置)」「ホメイニ廟(イスラム主義国家としてのイラン建国の父ホメイニの遺体を安置)」「毛主席紀念堂(共産国としての中国建国の父・毛沢東の遺体を安置)」「レーニン廟(ソ連建国の父レーニンの遺体を安置、ソ連崩壊後廃止)」に性質の近い施設です。これらのいわゆる「霊廟」も単なる追悼施設ではない。
 たとえば金日成を評価しない人間にとって「金を安置する錦繍山太陽宮殿」を評価できないのと同様、A級戦犯を評価しない人間にとっては「A級戦犯を合祀する靖国」は評価できません。靖国を「追悼施設だ」というのは「レーニン廟はただの追悼施設だ」と言うに等しい詭弁です。
 残念ながら「知らないのか」「知っていても書く気がなぜかないのか」、こうした指摘は高世記事にはありませんが。

 米国大使はじめ各国要人が献花に訪れ、皇室もここに参拝する。靖国神社には皇室は行かない。靖国神社は危機感を持っているようで、「靖国神社が昨秋、当時の天皇陛下に2019年の神社創立150年に合わせた参拝を求める極めて異例の「行幸請願」を宮内庁に行い、断られていた」というニュースが流れた。(13日、共同)

 そりゃA級戦犯を美化するような施設には普通行かないでしょう(俺の認識では皇室が行かなくなったのは戦犯合祀以降で、それ以前は行っていました)。国内外から非難を受けるだけだからです。なお、「参拝」というのは宗教用語であり、一方「千鳥ヶ淵無宗教」なので「訪問」とでも表現すべきでしょうね。

*1:これを知らない人も多いようですが、これを知らないと靖国問題のまともな議論なんか出来ません。

*2:関東憲兵隊司令官、関東軍参謀長、陸軍次官、第二次、第三次近衛内閣陸軍大臣、首相を歴任

*3:陸軍次官、関東軍参謀長、朝鮮軍司令官、平沼、米内内閣拓務大臣、朝鮮総督、首相を歴任

*4:実際には生きていれば何らかの罰を受けたでしょうが

*5:犬養内閣陸軍大臣、第一次近衛、平沼内閣文部大臣など歴任

*6:第一次近衛内閣文相、厚生相、平沼内閣内務相、内大臣など歴任

*7:東条内閣海軍大臣軍令部総長など歴任