新刊紹介:「前衛」1月号

 「前衛」1月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。「興味のある内容」のうち「俺なりになんとか紹介できそうな内容」だけ簡単に触れます。「赤旗記事の紹介」でお茶を濁してる部分が多いです。
http://www.jcp.or.jp/web_book/cat458/cat/
■消費税減税・廃止の新たなたたかいを:緊急に5%まで戻し、日本経済の長期低迷打開へ(笠井亮*1
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。消費税10%増税当日の10月1日に発表された消費税減税・廃止を求める、新たなたたかいをよびかけます/2019年10月1日 日本共産党の紹介と、その後の運動の紹介です。
消費税廃止をめざし緊急に5%に減税を/日本共産党、「よびかけ」発表/志位委員長が会見
消費税減税・廃止を求める、新たなたたかいをよびかけます/2019年10月1日 日本共産党
消費税5%への減税で「足並みそろうよう努力」/志位委員長が会見
消費税減税・廃止へ 疑問に答えます(1)どうしていま消費税減税なの?
主張/消費税増税1カ月/5%に戻す減税は極めて切実
消費税減税・廃止へ 疑問に答えます(3)なぜ8%でなく5%か?
消費税減税・廃止へ 疑問に答えます(4)5%減税で、社会保障財源が心配だけど?→大企業優遇税制見直しで確保
消費税減税・廃止へ 疑問に答えます(5)5%への減税だけで景気はよくなるの?→「三つのプラン((1)8時間働けばふつうに暮らせる社会(2)くらしを応援する社会保障(3)お金の心配なく学び、子育てができる社会)」と一体で
消費税減税・廃止へ 疑問に答えます(6)本当に5%への引き下げができるの?→共闘の力で道を開く
消費税 力あわせ5%への減税を/共産党が各界懇談会/志位委員長が報告


■座談会『甚大な台風・豪雨被害 求められる公的支援の抜本的な拡充』(武田良介*2塩川鉄也*3/岩渕友*4/椎葉寿幸*5
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
主張/台風19号の猛威/甚大な被害 総力挙げ救援を
被害に即した支援法こそ/高橋氏「国交相は改正の先頭に」/衆院国交委
台風・豪雨災害に関する申し入れ 日本共産党国会議員団│災害│日本共産党の政策│日本共産党中央委員会
台風19号 河川決壊「従来の対策検証」/国交相が武田氏に答弁/参院国交委
農業復旧 補助率引き上げへ/田村氏に農水相が答弁/衆院農水委
主張/被災者への支援/深刻な実態に見合っているか
被災業者支援拡充を/笠井氏 「経済負担強いるのか」
「生活と生業にこれからが大事な時期」/台風・豪雨災害で申し入れ 志位委員長、武田防災相に/防災相、被災者の立場で弾力的に対応約束
台風19号 軽トラも補助対象/武田氏に政府答弁/参院災害特委
台風被災 雇用の実態は/倉林氏 調査し就労支援求める/参院厚労委
仮設・修理併給認めよ/田村貴昭氏 運用改善求める
台風19号 決壊 大半が対象外/緊急対策 高橋議員に国交省示す
生活・生業再建まで/岩渕氏 大震災復興支援強化を
被災実態 即す支援に/高橋氏が拡充求める


■頻発する異常気象と地球温暖化(江守正多*6
(内容紹介)
 Q&A形式で書いてみます。

台風19号など最近の異常気象は温暖化と関係があるのでしょうか?」

「台風などの気象の発生メカニズムは複雑であり、なかなか断定的なことは言えません。ただし、温暖化が進めば海水温は高くなるし、海水温が高くなれば台風が発生しやすくなること、また発生した台風が巨大化しやすくなることは確かです。そう言う意味では『何らかの影響はある』『温暖化が防止できれば異常気象の可能性は低くなる』とはいえるかと思います。」

「温暖化の主たる原因がCO2排出(つまり人為的要因)であることは間違いないのでしょうか?」

「詳しい説明をするとややこしいですし、そうしたことは科学雑誌ではない『前衛』の読者も希望してないと思いますので詳細は省略しますが、温暖化の主たる原因がCO2排出(つまり人為的要因)であることについて学者の間では異論はありません(まともな学者ならば、ですが)。石油業界からの支持などが背景にあるのでしょうが、そうしたことを否定するトランプ大統領の主張は全くの暴論です。
 この点、クライメートゲート云々という話をご存じかもしれませんが、あれは『ホロコースト否定論』などと同じ完全な陰謀論ですね。そもそも、そんな陰謀を、世界中の政府や科学者がグルになってやる動機もないわけですが。クライメートゲートについては私もクライメートゲート事件って結局どうなったのですか?:江守正多さんに聞く、温暖化の今:温暖化FAQ|日刊 温暖化新聞第9回 「クライメートゲート事件」続報・科学にとって「査読」とは何か - 日経エコロミー連載コラム 温暖化科学の虚実 研究の現場から「斬る」! | 地球環境研究センター
第10回 IPCCへのさらなる疑問について・ヒマラヤ氷河問題とクライメートゲート続々報 - 日経エコロミー連載コラム 温暖化科学の虚実 研究の現場から「斬る」! | 地球環境研究センターで『温暖化CO2原因論の根拠にはなり得ない(陰謀など無かった)』と論じたことがありますのでお読み頂ければ幸いです。また環境省のサイトにも環境省_英国イーストアングリア大学により設置された独立レビュー組織による「クライメートゲート事件」レビュー結果の公表について(お知らせ)があるので紹介しておきます。」

「2015年のパリ協定は産業革命前から比べて1.5度未満の気温上昇に抑える必要があるとされていますが?」

「お断りしておきますが1.5度未満とは『緊急性と現実性を加味した数値』であり1.5度未満なら上がっていいと言うことではないと私は理解しています。たとえるなら共産党の『緊急に消費税5%減税を』と同じ話です。共産党も最終目的は消費税廃止でしょうが、現実性と緊急性を加味して5%としているわけです。」

「温暖化防止のためには何が必要なのでしょうか?」

「結局、大気中にCO2を増やさないと言うことにつきます。『CO2を固形化して土に埋める』『海藻にCO2を吸収させる』などの研究もありますが、それらは現時点ではとても救世主とはなり得ません。やはりCO2の排出自体を減らすことが最も現実的で有効でしょう」
「その点では発電方法において水力、太陽光、地熱、潮力、風力など火力以外の発電方法の推進が非常に重要です(勿論発電以外にもCO2の排出はありますが)。原子力について言えばCO2は確かに発生しませんが、被曝という深刻な問題があるので、手放しでは推奨できません。私個人は脱原発の立場ではありませんが。」
「なお、火力発電を他の発電に切り替えていけば、当然ながら今まで火力発電で働いていた人の生活保障をどうするのかという問題があるわけです。そうした人々の同意を得ないで火力の廃止というわけにはいかないでしょう。これは火力発電に限った話ではなく、脱原発であれ、米軍基地撤廃であれ、なんであれ、共通する話ですが、指摘しておきたいと思います。」


■「桜を見る会」疑惑を追う:安倍政権を揺るがす赤旗日曜版スクープ(山本豊彦)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。「お手盛り招待疑惑」「反社会的勢力(ヤクザ、ジャパンライフなど)出席問題」「あまりにも安すぎる前夜祭会費問題(税金で補填または、ホテル側に割引を強要?)」「名簿廃棄問題(証拠隠滅の疑い濃厚)」などとまさに「税金私物化、行政私物化」としか言いようのない暴挙です。
 マスコミ(特にテレビワイドショー)の批判がまだまだぬるいこと、支持率がまだまだ高いことには改めてうんざりします。
参考
桜見る会を安倍後援会行事に/参加範囲は「功労・功績者」のはずが/税金私物化 大量ご招待/田村氏追及に首相答弁不能
 11/8の田村議員質問が疑惑追及のスタートとなるわけです。
「桜を見る会」資料要求当日に名簿廃棄/国会追及逃れか/公文書管理まで私物化
桜を見る会に“昭恵氏枠”/複数の参加者 本紙に証言/「私人」が推薦なぜ
「桜を見る会」 選挙利用か/参院委 田村氏が参加者急増ただす
論戦ハイライト/虚偽答弁・招待者取りまとめ・人選方法…/「桜を見る会」私物化疑惑 首相が説明するしかない/田村議員の質問
「桜を見る会」私物化 首相枠なら即参加OK/田村智子議員がただす/申込書に肩書欄なし…「功績・功労」の確認は不可能
「桜」前夜祭 5000円で赤字なし?/補てんなら公選法違反の「寄付」/自民党関係者・利用者も疑問
「桜を見る会」 首相枠「千人」超か/虚偽答弁疑い、田村議員が指摘/参院行政監視委
マルチ商法大手 「桜」宣伝に利用/田村智子議員「誰がなぜ招待」
桜を見る会/悪徳商法会長出席を追及/山添議員 官房長官回答せず
「“反社勢力”の皆さまの個人情報」/西村副長官のあきれた発言
ジャパンライフ 「桜」招待状で被害拡大/大門氏「首相の責任は重大」
「桜を見る会」 真相究明 待ったなし/「前夜祭」の収支 反社勢力参加…疑惑次々
「桜」疑惑 首相に解明責任/民主主義破壊黙認できぬ/田村議員「当たり前の公正な政治を」/参院本会議 代表質問
ジャパンライフ招待問題で大門氏/消費者庁の処分遅れなぜ/野党合同ヒアリング
削除後8週間復元可能/「桜」名簿データ、政府認める/山添議員が質問
「桜」名簿データ/「復元不可能」本当か/情報セキュリティーコンサルタント 増田和紀氏に聞く
“バックアップデータは行政文書に当たらない”/菅官房長官やっき
「桜を見る会」名簿 与党ごまかし次々発覚/田村議員説明要求の3日後に書き換え/文書管理規則 野党ヒアリング

首相、山口ジャパンライフ元会長と接点か/野党合同ヒアリング
 安倍晋三首相がマルチ商法会社「ジャパンライフ」の山口隆祥元会長と接点があった可能性のあること*7が、6日の野党合同ヒアリングで分かりました。安倍首相の父・晋太郎氏*8は、外相だった1984年9月に米ニューヨークを訪問した際、ジャパンライフ*9の山口氏と会ったと国会で認めています。この訪米に、当時、晋太郎氏の秘書官だった安倍首相も同行していた記録があることを外務省担当者が認めました。

 「安倍の父親だけあって本当にろくなもんじゃねえな」「親子二代でジャパンライフと癒着かよ」ですね。

首相は説明責任果たせ/田村氏、「桜」被害拡大を批判/BS番組
主張/底なし「桜」疑惑/説明拒む首相の資格問われる


■AI問題と「働き方改革」を考える(昆弘見*10
(内容紹介)
 AIによってテレワーク(在宅勤務)など新たな働き方が広まりつつある中、そうした新しい変化に着目しながら「過労死防止」などの働き方改革に取り組んでいく必要があるという話です。


■新漁業法の施行と地域家族漁業:強まる海の企業支配(二平章)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。2018年12月に成立した新漁業法を改悪と批判する一方で、施行が即時施行ではなく2020年であることからそれまでに対抗する戦い(詳細は今後、政令、省令などで定まるのでそれに対する批判など)を強めていく必要があるとしている。

漁業法改悪 “生活できない”/千葉の漁村で党後援会が対話/共産党への期待 次々
3年後に改悪漁業法施行/沿岸漁師の声反映大事/北海道 紙・畠山両氏 漁連と懇談


■日韓請求権協定で「解決ずみ」なのか(太田修*11
(内容紹介)
 内容的には新刊紹介:「前衛」12月号 - bogus-simotukareのブログで紹介した徴用工問題をめぐる問題点の整理と解決の展望について(川上詩朗*12)と大筋では同じです。
 川上氏同様に、徴用工問題についてはむしろ韓国側の主張にこそ道理があり、それを否定する安倍政権や日本マスコミこそが間違ってるとする太田氏です。
 これについては興味深い本が出版された(買うことに決めた) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)が紹介されている川上氏の著書『徴用工裁判と日韓請求権協定:韓国大法院判決を読み解く』(共著、2019年、現代人文社)が詳しいかと思います。
 また「日本側の批判を仮に正当な物だとしても*13『ホワイト国除外』なんて無法は認められない。目的は手段を正当化しない。相手がヤクザだからと言って警官が問答無用で射殺できないのと同じことだ」「徴用工判決への報復ではない、輸出管理問題だと強弁している安倍政権も自分たちの行為が無法だと事実上認めている。だから輸出管理問題だと嘘をつくのだ」「輸出管理問題だと言いながらどうすれば韓国輸出管理が改善されたことになるのかまともに語れず、それどころか徴用工のことばかり語る安倍首相は語るに落ちている」「そんな無法が世論調査に寄れば国民に支持され、共産以外の野党からも目立った批判がないことが嘆かわしい。朝日新聞などいわゆるリベラル派の新聞すらまともに安倍政権批判しない。日本はもう少しまともな国だと思っていたが、私の誤解だったようだ」と嘆く太田氏には全く同感ですね。

参考

[インタビュー]「日本政府の『韓国最高裁判決批判』は乱暴な対応」 : 社説・コラム : hankyoreh japan
 「韓国最高裁(大法院)の強制動員賠償判決と関連して、日本政府が国際法違反と批判するのは誤りだ。国際法という用語が持つ権威を利用して、最高裁判決の内容を覆い隠そうとする乱暴な対応に過ぎない」
 韓国現代史を専攻した日本の歴史学者、太田修同志社大学教授は10日、ソウルのプレジデントホテルで開かれた「韓日歴史葛藤の深淵で東アジアの平和を構想する」国際シンポジウムに参加して、韓国最高裁の強制動員判決に対する日本の対応を批判した。この日のシンポジウムは、経済・人文社会研究会が主催し、韓国法制研究院、ソウル大学日本研究所が主管した。太田教授は「韓国最高裁の判決は、1965年の韓日請求権協定を否定するものではない」として「請求権協定を認めた後、日本の不法植民地支配下の強制動員被害者の損害賠償問題が請求権協定では解決されていないと判決したもの」と指摘した。

元徴用工問題 本質は人権侵害/日本の弁護士有志が声明
シリーズ 日韓関係を考える/徴用工問題 協議開始を/弁護士 川上詩朗さん
徴用工 大法院判決から1年/安倍政権の異常対応/植民地支配 無反省が障害に
生放送!とことん共産党/「徴用工」問題の核心を考える/小池氏「植民地支配の反省を」 川上氏「人権問題として解決」
日韓法律家「共同宣言」/徴用工 迅速に被害者救済を
政治考/徴用工判決と日韓請求権協定/“国際法の発展からの検討必要”


■日本は何度も謝ったのか:日本軍「慰安婦」問題にみる「過去の克服」の実態(新井田十喜)
(内容紹介)
 美味しんぼ55巻収録『韓国と日本・前編、後編』でも似たような話は出てきます。
 ググっても、『韓国と日本・前編、後編』のいい紹介記事が見つからないんですが。
 まあ、山岡夫妻の住むマンションの大家である人物・尾沢平吉が酷い嫌韓国であり、一方、尾沢の妻から「娘が在日韓国人の恋人との結婚」を考えてるのでなんとか説得してほしいと頼まれた山岡夫妻が尾沢を説得し、その嫌韓国を是正するつう話です(山岡は『そんな親とは縁切りすればいい』と放言し、妻である山岡(旧姓・栗田) ゆう子から『海原雄山と縁切りしたあなたのようなことは誰でも出来ることじゃない』とダメ出しされています)。
 で、そのときに尾沢から出た発言が「日本は何度も謝ってるのに韓国は非難する。だから俺は韓国が嫌いだし、娘が在日韓国人と結婚することなんか認めたくない」つう居直りです。
 これに対して山岡は「日本は政府として公式に謝罪したことなんか一度もありませんよ」つう反論をします。
 で、美味しんぼは基本的に「極亜テレビ・金上社長」など一部例外を除いて登場人物は「根は善人」設定なので「俺は偏見まみれだった」と尾沢が反省して、結婚を認める落ちですね。
 つまり山岡(つまりは原作者の雁屋氏ですが)もこの新井田論文をも指摘していることですが、「政府としての公式見解か、一政治家(あるいは一天皇)の個人的見解に過ぎないか」を曖昧にした上で「不幸な時期があったことを遺憾に思う」など曖昧な表現を多用し「明確な謝罪、反省を意味する言葉でわびたことはない」つうことですね(もちろんこうなるのは自民党に「謝罪を是としない極右政治家」がゴロゴロいるからですが)。
 しかもそうした「謝罪、反省と言えるか曖昧な謝罪」をした後で与党政治家などから
桜田元文科副大臣「慰安婦はビジネスだ」/日韓合意否定の暴言、「旭日旗東京五輪会場に持ちこんで何が悪いのか(菅官房長官)」、「テロリスト(安重根のこと)を義士と呼ぶのは日本に対して無礼(菅官房長官)」だのの居直り発言が出るわけです。
 最近では徴用工判決に逆ギレして「ホワイト国除外」「フッ化水素水の事実上の輸出禁止」などというWTO違反行為の嫌がらせまで始めた。
 それで何が反省で謝罪なのか。
 「サーセン、反省してます」という「イヤイヤ、渋々であることが露骨な謝罪」なんかやらかせば「馬鹿にしてるのか」つう反発が韓国側から出るのは当たり前です。
 ちなみに、初期作品にも『直火の威力』という、周懐徳の妻から「娘がお抱え料理人との結婚」を考えてるが夫は反対してるのでなんとか説得してほしいと頼まれた山岡夫妻が周を説得し、娘の結婚を認めるつう「似たり寄ったりの話」は出てきます。
 まあ、話が脱線しますが、「在日華僑の顔役である私の娘がお抱え料理人ごときと」だの「俺は韓国なんか大嫌いだ、娘が在日韓国人と結婚なんか許さない」だの言う人間はそうそう自らの非を認めないと思いますけどね。まあ、そこはマンガなので深く突っ込んでも仕方ないですが。


■内政危機のなかの日清戦争:〈宗主国意識〉の出発点(原田敬一*14
(内容紹介)
 「日清戦争(1894年)には内政危機を対外戦争で第二次伊藤内閣(1892~1896年)がごまかそうとした、つう側面もあった」という指摘です。もちろん「征韓論」「江華島事件」以降、ずっと朝鮮侵略は日本の国策だったので、「ごまかそうとした」という側面を強調しすぎることは問題ですが。

参考

■第一次松方内閣(1891年(明治24年)5月6日~1892年(明治25年)8月8日、ウィキペディア参照)
 山縣有朋*15(第1次山縣内閣)の後継総理として、1891年5月2日に松方正義*16に組閣の大命が下った。松方は、組閣にあたって前任者たちの全面協力無くしては引き受けられないと述べて全閣僚の留任を唱えて、総理就任の条件とした。そこで前内閣の閣僚が当面留任することになった。このため、民党からは「黒幕内閣」「二流内閣」と揶揄された。だが、5月11日に大津事件(ロシア皇太子暗殺未遂)が発生し、その責任を負って青木周蔵*17外務大臣山田顕義*18司法大臣、西郷従道*19内務大臣が辞意を表明。最終的には成立1ヶ月で樺山資紀*20海軍大臣陸奥宗光*21農商務大臣、後藤象二郎*22逓信大臣の3大臣以外は全て閣僚を差し替える人事が決定された。その結果、元勲級の閣僚が1人もいなくなり、薩長出身者が全閣僚の半数を割るなど、内閣はいつ倒れてもおかしくない状況になった。
 かくして迎えた第2回帝国議会では、民党が山県前内閣が約束した「政費節減」の公約を果たさずに海軍予算の拡張を行おうとする松方内閣を批判した。これに激怒した海軍大臣樺山資紀がいわゆる「蛮勇演説」を行って衆議院は空転、松方は12月25日に初めての衆議院解散を決断した。翌1892年2月15日に第2回衆議院議員総選挙が行われたが、この際、品川弥二郎内務大臣と白根専一*23内務次官が中心となって大規模な選挙干渉を行って、民党関係者を中心に死者25名、負傷者388名を出した。これに陸奥宗光農商務大臣が抗議して辞任。品川内務大臣も引責辞任した。
 選挙後に召集された第3回帝国議会では民党による政府糾弾が行われ、親政府のはずの貴族院でさえも政府の選挙干渉を批判する決議を採択するなど、松方内閣との距離を置き始めた。7月15日に河野敏鎌*24内務大臣によって民党の批判を封じるために、白根の次官更迭が決定されたが、7月27日に処分に消極的であった高島鞆之助*25陸軍大臣樺山資紀海軍大臣が揃って辞表を提出、内閣運営がもはや不可能と判断した松方は自ら天皇に辞表を提出した。

■第二次伊藤内閣(1892年(明治25年)8月8日~1896年(明治29年)9月18日、ウィキペディア参照)
 松方正義が自らの閣僚にも見放されて第1次松方内閣を放り出すという事態は、1892年(明治25年)8月2日に組閣の大命を受けた伊藤博文*26にも今後の政権運営に不安を抱かせた。
 そこで伊藤は主だった元勲の入閣を条件に組閣を行うことを表明。黒田清隆*27(第二次伊藤内閣逓信相)、山縣有朋(第二次伊藤内閣司法相)の両首相経験者や盟友の井上馨*28(第二次伊藤内閣内務相)、陸軍で山縣と並ぶ大物である大山巌*29(第二次伊藤内閣陸軍大臣)の入閣を得て組閣を終えた。このため、「元勲内閣」と称された。
 更に伊藤は民党との提携も不可欠と認識しており、この方針に基づいて陸奥宗光(第二次伊藤内閣外相)、後藤象二郎(第二次伊藤内閣農商務相)、河野敏鎌(第二次伊藤内閣文相)など民党、とりわけ自由党と関係が深い人物も登用した。
 民党との「政費節減」・「海軍予算」を巡る攻防では、1893年2月10日、天皇の「和衷協同」詔勅内廷費300万円と官吏の俸禄1割削減を条件に政府と議会は妥協を成立させ、改めて両者協議の末に歳出8113万円に訂正した予算案を通過させ、28日に閉会、軍艦建造費を確保した政府と発言権を拡大した議会の痛み分けに終わった。
 それでも政権運営は油断出来ない情勢だったが、1894年7月に陸奥外相による条約改正が実現、続く清との日清戦争では挙国一致体制で議会が動き、戦時中は予算や法案は全会一致で通過するようになる。戦争にも勝利したことで政権は安定を見せ始めた。伊藤内閣の長期政権化(約4年)には日清戦争での勝利の影響が大きい。
 だが1895年4月23日の三国干渉による遼東半島返還、10月8日の乙未事変閔妃(明成皇后)暗殺)と1896年2月11日の露館播遷によって新たにロシアが朝鮮に進出、日本の朝鮮半島への影響力はむしろ低下し、戦時中の政府と民党の協調関係は次第に崩れていった*30
 このため、伊藤は超然主義を放棄して自由党総裁板垣退助*31を4月14日に内務大臣として入閣させて、同党の与党化を図る。続いて5月30日に陸奥外相が病気を理由にを辞任、渡辺国武*32蔵相も8月14日に財政問題の行き詰まりから辞表を提出したため、伊藤は松方正義の蔵相任命と進歩党党首・大隈重信*33の外相任命で2大政党との大連立も計画するが、これに「大隈にライバル意識を抱く板垣」と「超然主義を固守する山縣」が反発、松方ら薩摩閥も大隈と結託して伊藤政権打倒を計画、これを見た伊藤はこれ以上の政権維持は困難であるとみて31日に辞職した。9月18日に松方が2度目の首相となり大隈を外相とする第2次松方内閣が成立した。

 明治新政府下においてさえ「政党に一定の政治力があること」「そうした政党にどう対応するか、元勲内部(伊藤博文山県有朋など)での意見対立があり一枚岩でないこと」から内閣が必ずしも長期政権にならないことが短命に終わった第一次松方内閣(約1年)、約4年と長期政権下したが、内閣崩壊を恐れて黒田清隆逓信相)、山縣有朋(司法相)という首相経験者を入閣させた、そして結局、山県、松方ら元勲の倒閣工作で崩壊した第二次伊藤内閣の有様から分かります。なお、伊藤は「政党との協調は不可避」との判断から最終的には立憲政友会総裁になりますが、山県は死ぬまでそうした方向性にはいきません。


■音楽が戦争に動員された歴史から何を学ぶか(戸ノ下達也*34
(内容紹介)
 あいちトリエンナーレへの補助金不支給など、安倍政権が文化への政治介入をする今、「音楽が戦争に動員された日中、太平洋戦争時代」から学ぶことは多いのではないかとしている。


■「学問の自由」を守り、歴史の偽造、国際人権レジームからの逸脱を許さない:「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判」で問いかけていること(岡野八代*35
(内容紹介)
 岡野氏が科研費を受けて行った研究について、杉田水脈が誹謗中傷を行ったことについて名誉毀損で岡野氏が訴訟を起こしたのが「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判」であり、その裁判についてのインタビュー記事です。
 「右翼政治家に捏造呼ばわりされたという私たちのケースに似ている吉見義明氏*36の敗訴を考えれば全く甘くは考えてないが、杉田氏の誹謗を許せない以上提訴せざるを得ない」つう岡野氏の思いには全く同感です。
 なお、岡野氏曰く「弁護士に丸投げで、一度も杉田氏は出廷したことはない」とのことで完全に逃げ腰ですね。「裁判に正々堂々と応じたらどうなのか!。言いたいことがあるなら法廷で陳述したらどうなのか!」つう岡野氏の思いにも全く同感です。

参考

「ねつ造」とつぶやかれた教授ら、杉田水脈議員を提訴:朝日新聞デジタル
 自民党杉田水脈(みお)衆院議員(51)に研究内容を中傷されたとして大学教授ら4人が12日、計1100万円の損害賠償とツイッターへの謝罪文掲載を求めて京都地裁に提訴した。杉田議員から「ねつ造」「活動家支援に科研費(国の科学研究費)流用」などと言われ、社会的評価を低下させたと主張している。
 原告は大阪大の牟田(むた)和恵*37教授、同志社大の岡野八代教授、大阪府立大の伊田久美子教授、大阪市立大の古久保(ふるくぼ)さくら准教授で、ジェンダー論やフェミニズム論の研究者。1人あたり110万~660万円の賠償を求めている。
 4人は2014年から4年間、国から1755万円の助成(科研費)を受け、性の平等に向けた日本の女性運動や従軍慰安婦問題に関して共同研究をした。
 訴状によると、杉田議員は昨年3~7月、ツイッターやインターネットの番組、雑誌で牟田教授や岡野教授の名前を出し、この研究を批判。ツイッターには「国益に反する研究」「反日活動」「ねつ造」と書き込み、科研費が使われたことを問題だと指摘したという。動画番組でも、原告らが開いた研究目的のワークショップを「放送禁止用語を連発」と揶揄(やゆ)したと主張している。
 提訴後、4人は記者会見し、牟田教授は「ネットで誤った情報が拡散されて誹謗(ひぼう)中傷を受けた。影響力が大きい国会議員の発言として言語道断だ」と訴えた。杉田議員の事務所は取材に「訴状を見ておらずコメントできない」と話した。
 杉田議員は2期目。昨年7月、月刊誌「新潮45」(休刊)への寄稿で同性カップルを念頭に「生産性がない」と主張し、批判が集まった。


■「広宣流布」の後退と「政権癒着」の深化:創価学会公明党のいま(柿田睦夫*38
(内容紹介)
 タイトルが内容についてかなり説明していますね。
 つまり「広宣流布」が後退している、つまり信者獲得が壁にぶち当たってる(聖教新聞の打ち上げが頭打ちなど)からこそ、「創価学会の正しさ」を正当化する「学会員へのあめ玉」としての「政権癒着」が更に深化するつう話です。あえて言えば「政権癒着以外に信仰の正しさを証明する物がない」。
 理屈の上では「政治への深入り」が「広宣流布」の後退をもたらしているとも理解できる、というか実際、そうだろう*39と思いますが、まあ「泥沼の日中戦争に突っ込んだ戦前日本」みたいなもんでしょう。
 もはや「自民党を支えて与党の一角となり、利権を獲得して学会員を懐柔する」という方向性で「1998年の小渕政権」から20年もやってきてしまったが故に「今更引き返せない」つうことでしょう。「1945年の敗戦」が来るまで「1931年の満州事変」から15年戦争を続けた戦前日本のように「今の路線が完全に壁にぶち当たるまで」、創価学会公明党は今の路線を続けるのでしょう。そう言う連中に宗教者面してほしくないですけどね。

創価学会ブロック長 デニー支持訴え/“誇れる沖縄に”/仲宗根政良さん
本紙報道「創価学会ブロック長 デニー支持訴え」に反響/“平和の願い忘れない”/静岡・磐田の創価学会婦人部員 平間友子さんから投稿
那覇市長選 城間氏再選へ奮闘/沖縄創価学会壮年部員 宮城一展さん/デニー県政と連携 平和願う
 まあ沖縄だからつう要素はあるんですが、創価学会員の中には「今の方向性はおかしい」つう人間も「沖縄ほどではないにせよ」そこかしこにいることはいるんでしょう。


シリーズ「メディアと民主主義を問う」
■「嫌韓反中本」の氾濫と出版の危機(真鍋かおる)
(内容紹介)
 高文研の編集者として活動し

山田朗*40歴史修正主義の克服』(2001年)
・中塚明*41『日本人の明治観をただす』(2019年)

などの「嫌韓反中本」を批判する著書を世に送り出してきた真鍋氏が今の「嫌韓反中本」の氾濫にもの申す、つう記事です(氏に寄れば安倍政権が誕生した2012年12月以降からそうした「嫌韓反中本」が増加した実感があるとのこと)。
 結局、出版不況の中、「右翼団体日本会議幸福の科学神社本庁など)の組織購入で売れるから」という商売の論理で「嫌韓反中本」がつくられてるのではないか、と見る真鍋氏ですがそれは「長期的には出版社の首を絞めるだろう(なぜならデマ本だから)」と批判的です。
 なお最近の「嫌韓反中本」は

【順番は著者名、発行年の順】
嫌韓反中本】
ケント・ギルバート儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇*42』(2017年、講談社+α新書)。
ケント・ギルバート中華思想を妄信する中国人と韓国人の悲劇』(2018年、講談社+α新書)
宮崎正弘『余命半年の中国・韓国経済』(2019年、ビジネス社)
嫌韓本】
呉善花『韓国を蝕む儒教の怨念 ~反日は永久に終わらない~』(2019年、小学館新書)
古森義久『モンスターと化した韓国の奈落』(2019年、ビジネス社)
・石平『結論! 朝鮮半島に関わってはいけない 東アジアと世界のトラブルメーカー』(2018年、飛鳥新社
高橋洋一*43『韓国、ウソの代償 沈みゆく隣人と日本の選択』(2019年、扶桑社新書)
豊田有恒『韓国は、いつから卑しい国になったのか』(2017年、祥伝社新書)
武藤正敏『韓国人に生まれなくてよかった*44』(2017年、悟空出版)
武藤正敏文在寅という災厄』(2019年、悟空出版)
・室谷克実『呆韓論』(2013年、産経新聞出版
・室谷克実『悪韓論』(2013年、新潮新書)
・室谷克実『崩韓論』(2017年、飛鳥新社
・室谷克実『なぜ日本人は韓国に嫌悪感を覚えるのか』(2018年、飛鳥新社
・室谷克実、渡邉哲也『韓国経済はクラッシュする:文在寅反日あおり運転」の末路』(2019年、悟空出版)
・八幡和郎『ありがとう、「反日国家」韓国』、『捏造だらけの韓国史』(2019年、ワニブックス
山野車輪嫌韓道 さよなら韓国』(2018年、ワニ文庫)
【反中本】
・石平、渡邉哲也習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺す時』(2019年、ビジネス社)
日高義樹アメリカは中国を破産させる』(2019年、悟空出版)
福島香織習近平の敗北:紅い帝国・中国の危機』(2019年、ワニブックス
・眞壁昭夫『ディープインパクト不況:中国バブル崩壊という巨大隕石が世界経済を直撃する』(2019年、講談社+α新書)
福島香織渡邉哲也『中国大自滅 世界から排除される「ウソと略奪」の中華帝国の末路』(2019年、徳間書店
宮崎正弘『米中貿易戦争で始まった中国の破滅』(2018年、徳間書店
宮崎正弘『チャイナチ:崩れゆく独裁国家 中国』(2019年、徳間書店
渡邉哲也『「中国大崩壊」入門』(2019年、徳間書店

などがあります(「嫌韓」「反中」でググってヒットしたものをいくつかあげました)。「扶桑社、徳間書店」「石平、宮崎正弘、室谷克実、武藤正敏」などといったいつもの顔ぶれにはもはや驚きませんが、最大手・講談社までもがこうしたウヨ本に参加してることは心底呆れます。
 そして福島香織の劣化ぶりにも改めて呆れます。

参考

K・ギルバートの中韓ヘイト本に版元の講談社内でも批判の声! 組合報に「まさかこんな差別煽動本が」「目の前が真っ暗になる絶望」|LITERA/リテラ
 先日、本サイトでは、ケント・ギルバート氏のベストセラー『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)の実態が中国人や韓国人への憎悪を煽る悪質なヘイト本であることを指摘し、版元である講談社が老舗の出版業界最大手であるにもかかわらず“ヘイト本ビジネス”に手を染めたことを批判、「もはやこの国の出版文化は末期的と言うしかない」と断じた(ケント・ギルバートの中韓ヘイト本がひどい!「禽獣以下」「病的」など民族差別連発、出版元の講談社の責任は?|LITERA/リテラ参照)。
 ところが、この国籍や民族でひとくくりにして〈「禽獣以下」の社会道徳や公共心しか持たない〉〈彼らは息をするように嘘をつきます〉〈自尊心を保つためには、平気で嘘をつくのが韓国人〉〈その病的なレベルについていえば、韓国人が世界一〉などとひたすら悪罵を連ねるヘイト本は、本サイトの論評後も売れに売れ続け、現在、出版不況の中で50万部に届こうかという大ヒット中。あまつさえ、講談社社内で表彰すら受けたという。「売れたものが正しい」と言わんばかりの講談社の姿勢には、まったく目眩がしてくるではないか。
 しかし、ここにきて、ケント氏のヘイト本をまっとうに批判する声が、出版物を読者に届ける立場の人々からも出始めている。たとえば、大手書店チェーン・ジュンク堂書店の難波店店長である福嶋聡氏は、インターネット言論サイト「WEBRONZA」に、「K・ギルバート氏の本で心地よくなってはならない」と題する論評を寄稿。同書の問題点を鋭く指摘し、大きな話題になった。
 いや、それだけではない。『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』の内容と、その大ヒットを手がけた講談社の姿勢に対し、他ならぬ講談社社内からも強い疑問が呈されたのである。
 講談社労働組合不定期で出している「組合ニュース」と呼ばれる会報があるのだが、その最新号で、複数の社員が『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』をめぐる自社の姿勢を問題視しているのだ。たとえば40代男性社員は〈講談社ケント・ギルバート氏の口を借りてヘイト本を出してしまったことと、批判をものともせずにそれを顕彰していることに恐怖を感じています〉と吐露している。
 さらに、社内でマンガ編集を担当しているとみられる30代女性が「組合ニュース」に寄稿した文章は、まさにこの講談社ヘイト本問題の本質と重大性をつくものだった。
 〈私は、この本の存在を、書店、そしてネット上のレビューで見たときに、本当に目の前が真っ暗になるほどの絶望を感じました。このタイトルをタイピングするだけでも手が震えるほどの嫌悪を感じます。まさか講談社から、このような差別扇動本が堂々と出版されるとは想像もしていませんでした。〉
 女性社員はこう続ける。
〈初版の帯には、「彼らは日本人とは別物です」と書いてありました。講談社には、中国人も韓国人も正社員として在籍していますが、日本人社員とは「別物」なのでしょうか?〉
〈しかし私は、社員であるとともに子どもを社会に送り出す一人の母親としても、晋遊舎青林堂ではなく、「講談社」からこの本が出版され、宣伝されているという事実を重く受け止めています。日本最大規模であり、世界有数の規模であり、海外にもコンテンツを売っている「一流出版社」が、差別本を出すことで社会に与える影響を真剣に考えてください。会社は「抗議が来ないならば差別ではない」とお考えなのでしょうか? 「中国人と韓国人に対しては差別するのがトレンドだから」とお考えでしょうか?〉
〈毎週のように差別デモが行われている今の日本社会で、講談社ルワンダの「千の丘ラジオ」になるようなことは、絶対にやめてください。我々はそのような事態を起こさないために、文化を作っているはずです。私はそう信じていますし、講談社はそうあるべきだと期待しています。〉
 今回紹介したように、書店員や講談社内部からもケント氏のヘイト本に対する強い批判、拒絶感を表す意見がでていることは、少ないながらも“希望”と言えよう。
 しかし、講談社がこうした声を真摯に受け止め、出版文化の担い手としての自覚を持ち、ヘイト本から手を引くかというと、残念ながら、今のままではそうはいかないだろう。
 実は、最近、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』の担当編集者である間渕隆氏が、出版業界紙新文化」のインタビューに答えているのだが、氏に言わせれば「ビジネスとしての出版はオセロみたいなもの」であり、「どんな本を出せば、どれぐらいの石をひっくり返せるかだいぶわかってきた」という。
 また、これまで『住んでみたドイツ8勝2敗で日本の勝ち*45』(著・川口マーン惠美*46)などの「日本スゴイ本」も手がけてきた間渕氏によれば、〈普通の日本人の書き手がどれだけ「日本は外国に比べて優れている」と書いても「弱い」〉が、「欧米人と結婚した日本人であれば『日本はダメ』でも売れる」のだという。同じく、ケント氏のヘイト本が売れた理由についても、サラっとこう言ってのけている。
「ここまで伸びたのは、ケント・ギルバートさんというアメリカ人が『日本人と中国・韓国人は別物ですよ』と言ってくれたからだと思います。欧米人の書いた反中国・反韓国本だからこそ、特定の人たちだけでなく、多くの日本人に受け入れられたんでしょうね」
 ようするに、本作りは徹頭徹尾マーケティングで、ケント氏の本も例外ではなく、“読者ニーズがあり、売れるとわかる”ならば、ヘイト本だろうがなんだろうが大いにアリらしいのだ。こういう編集者がしたり顔で〈ヒット作のノウハウ〉を語り、業界紙がそれを「“時代の空気読む感性”磨き続ける」なるタイトルを添えて嬉々として取り上げる。頭が痛くなってくるが、これが出版界の現状なのだろう。
 出版に関わるすべての人たちに、このままでいいのか問いたい。

 「間淵氏のような編集者」と「彼を重用する講談社」には心底怒りと軽蔑の念を禁じ得ません。金さえ儲かれば何をやってもいいのか。それではヤクザが拳銃や覚醒剤を売るのと本質的には何も変わらないでしょう。なお、「出版に関わるすべての人たちに、このままでいいのか問いたい」とするリテラですが、出版関係者を十把一絡げにするのはいかがな物か。たとえば前衛今月号(1月号)の真鍋氏が勤務する高文研はそういうレイシズムを批判してるわけですから。


■論点:「デジタル化」と多国籍企業課税(合田寛*47
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
IT企業 税逃れ防げ/宮本徹議員 政府に独自策求める/衆院財金委
主張/GAFA/規制と課税の新機軸が必要だ
GAFAへの課税ルール/日本が役割果たせ/大門氏/参院財政金融委
公正なルール実現を/井上氏 デジタル課税で指摘


■暮らしの焦点「なくそう就活セクハラ:深刻な実態、求められる対策」(菊田由佳)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
就活セクハラ深刻/吉良氏 法律での禁止を要求
吉良質問がこじ開けた 就活セクハラ対策の門戸開く - 日本共産党 個人の尊厳とジェンダー平等のための JCP With You
就活セクハラ対策前進/労働局、相談・指導の窓口に/吉良議員の質問が契機
就活生、吉良質問を歓迎/就活セクハラ 対策に扉
就活セクハラなくして/学生ら会見 政府は実効ある対策を
就活セクハラ7割相談せず/参院委で吉良議員 実態把握と対応要求


メディア時評
■テレビ:NHK「常時同時配信」見直しの裏側(沢木啓三)
(内容紹介)
 総務省の要請について指摘内容それ自体には今回はあまり異論はないとしながらも、「総務省の要請ならば唯々諾々と従わざるを得ない」現行システムには「報道の自由」という面で問題がある(つまり今回は指摘内容に異論は無いがいつもそうだとは限らないということ)としている。

参考

NHK、同時配信などネット費用大幅削減へ 総務省要請:朝日新聞デジタル
 NHKが、番組を放送と同時にインターネットに常に流す「常時同時配信」を含むネット業務全体の費用を大幅に削減する方針を固めた。28日に開かれた自民党の「放送法の改正に関する小委員会」(佐藤勉*48委員長)でNHK側が提示した。常時同時配信を巡っては、NHKが認可申請していたネット事業に関する「実施基準案」に対し総務省が費用の削減などを求めており、NHKは要請を受け入れる方向で回答を準備しているとみられる。
 実施基準案では、ネット業務の費用は受信料収入の2・5%以内(現在約175億円)に収めるとしながら、東京五輪パラリンピック関係、国際放送の配信などネット4業務(最大90億円)を別枠にするとしていた。ただ、総務省は、ネット費用の拡大がNHKの業績に響きかねないとし、五輪・パラ以外の例外は認めないと主張していた。


■スポーツ最前線「W杯で見えた高速世界ラグビー」(大野晃*49
(内容紹介)
1)アイルランドスコットランドに勝って全勝で決勝トーナメントにいけて良かった、日本も今までとは違うランクへと進化できた。強化策が一定の成果を上げたと言っていい
2)しかし南アに負けたことをきちんと総括しないともっと上には行けないし
3)今後ラグビーをどう振興していくかを考えないと一過性のブームで終わってしまう、つう話です。まあ厳しい話をすれば野球やサッカーに比べればラグビーは裾野が狭いわけです。ラグビー部がある学校なんか少ないし、ファンだって今回のにわかファンがまだほとんどでしょう。


文化の話題
■美術「インクルーシブな作品鑑賞」(朽木一)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

障がい者や子供、みんなの「感覚特性」をアートに。神奈川の美術館の「インクルーシブ」な展覧会 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
 最近「インクルーシブ(包摂性)」という言葉を随分耳にするようになった。しかし、「インクルーシブ」と一言でいっても、どこから手をつけたらいいのか分からないというのが現状ではないだろうか。
 この課題にアートを通じて取り組んだ美術館がある。神奈川県の茅ヶ崎市美術館だ。インクルーシブデザインを活用したフィールドワークを行い、アートとして表現した展覧会「美術館まで(から)つづく道」を9月1日まで開催している。ここでは、一体どのようなアート作品を「インクルーシブ」なものとして表現しているのか。同美術館で行われた、アーティストと作品制作協力者が一同に会するシンポジウム「フィールドワークからの作品制作」を取材し、作品づくりに関わる人々の話を聞いた。

『インクルーシブアートを学ぶ~「障がい者とアート」~』 | 宮本健太郎のウェブサイト
 「インクルーシブアート」というのは、直訳すると「包括的芸術」、あるいは「包摂的芸術」。障がいのあるなし、年齢や性別や国籍などに関わらず、誰もが参加できる芸術活動のことをいいます。


■演劇「前進座の新たな挑戦:第四世代で『鼠小僧次郎吉』」(鈴木太郎)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

青果版「鼠小僧」〜前進座の「鼠小僧次郎吉」
1)人間の不完全と不具足との間
前進座は、設立当初から真山青果*50とは関わりが深い劇団です。現在の松竹歌舞伎で見る青果ものは、良く云えば芝居がこなれた印象ですが・古典歌舞伎の感触に寄っており、大正モダニズムの香りが飛んでしまって伸びた印象がすることが多い。しかし、前進座の青果ものにはそう云うところはなくて、しゃきっとした歯応えのある芝居が見られます。
真山青果と云うと、何となく(ボーガス注:『元禄忠臣蔵』の)大石内蔵助だの(ボーガス注:『江戸城総攻』の)西郷吉之助、(ボーガス注:『将軍江戸を去る』の)徳川慶喜東郷平八郎*51など歴史上の偉人傑物ばかり描いてきた作家と云うイメージが世間にあると思います。
・青果は、「鼠小僧次郎吉」のような泥棒だけでなく、「荒川の佐吉」のようなやくざなど、社会や世間の枠からはみ出して屈折した感情を抱きながら生きている名もない庶民を主人公とした芝居も、実は数多く描いています。
2)前進座改訂版の問題点
・青果の「鼠小僧次郎吉」は、雑誌「女性」に大正15年(1926)9月号から翌・昭和2年(1927)3月号まで断続的に連載されたもので、同年9月に出版がされました。初演はやや遅れて昭和4年(1929)9月本郷座で次郎吉を六代目(ボーガス注:市川)寿美蔵(後の三代目(ボーガス注:市川)寿海)、音次を三代目市村亀蔵が演じて好評でした。つまり(ボーガス注:市川)左団次劇団の新歌舞伎なのですが、その後の上演機会はそう多くはないようです。前進座では昭和35年(1960)に(ボーガス注:三代目中村)翫右衛門*52の次郎吉で初演して以来、何度か取り上げられています。
鼠小僧次郎吉は裕福な大名や旗本・高利貸しの屋敷ばかりを狙って盗みを働き、奪った金を貧乏人に施した「義賊」として有名で歌舞伎や講釈でもよく取り上げられた人物です。実在の鼠小僧は盗んだ金を酒や博打にすっかり使ってしまったようで、義賊というのは虚像だそうです。
・ここでの鼠小僧は、大胆不敵の大泥棒などではなく、絶えず臆病風に吹かれて悩み苦しんでいる平凡な市井人なのです。
 和泉屋次郎吉は、かつては鼠小僧と呼ばれた泥棒でしたが、三年ほど前に足を洗って堅気となり大坂で修業をして江戸に帰ってきたばかり。しかし、江戸の街は次郎吉がまったく預かり知らぬ鼠小僧の盗みの話題で持ち切りです。どうやらもう一人の鼠小僧がいるらしい。次郎吉が江戸を離れている間に「鼠小僧」の虚名はますます高くなっていました。しかし、本物の鼠小僧は大胆不敵な男ではなく、いつも死の覚悟をしながら盗みに入っていた臆病者でした。今は堅気となった次郎吉ですが、過去の所業が彼を追い詰めて行き、苦しみぬいた次郎吉は再び鼠小僧となって闇夜に姿を現す・・・という筋です。青果の芝居ですから当然のことですが小難しい台詞劇で、盗みの場面や立ち廻りのような見物が喜ぶ派手な場面は一切ありません。何やら思い詰めたひっ迫感がある暗い世話物なのです。そこに本作が書かれた昭和の初めの世相が反映されているのでしょう。
 ところで今回の前進座上演版を舞台を拝見したところでは、補綴者の記載がないので詳しい経緯が分かりませんが、真山青果全集所収の脚本(以下原作と云う)と比べると、細かいところに加筆が見えます。特に大詰にかなり大きな改訂がされています。これの良い悪いを云っても仕方ないことですが、前進座上演版では盗みの場面や立ち廻りシーンがあって、エンタテイメント性が強化されています。まあ観客のことを考えれば、これは分からなくもない。筋の流れもスムーズで、青果の芝居に付きものの理屈っぽさが薄められている点は、或る意味では長所と云って良いのかも知れません。
 ただし大詰の改訂はちょっと議論がある所です。まずひとつめは、かつて次郎吉に恩を受け・次郎吉に江戸を離れて地方で堅気として暮させようと奔走するが、もうひとりの鼠小僧・音次に殺されてしまう船頭菊松の件です。菊松の死は原作では次郎吉がもうひとりの鼠小僧の罪をも背負い込んで捕縛されようと決心する重要なきっかけとなるものです。前進座版では菊松は立ち廻りに関わって怪我するだけで死にません。恐らく本作が辛気臭いところがあるので菊松と音次の妹おとしとの恋愛模様を生かしたかった(前進座の観客にはご婦人が多い)のだろうと察しはしますが、このため次郎吉の苦悩と改心のきっかけが弱くなりました。もうひとつは、過去の鼠小僧の所業に恨みを持って次郎吉を脅す垣内艮山の件です。この件は原作では第2幕に出て来てそれで終わる件ですが、前進座版では大詰めにこれを再び持ち出してきて、艮山と揉み合ううちに次郎吉が致命傷を負うということになっています。次郎吉は捕縛されるのではなく、傷がもとで屋根の上でひとり絶命します。この結末であると歌舞伎の、主人公が過去の因果に巻かれて破滅するいつものパターンに陥ることになり、次郎吉が改心して「鼠小僧」の名前を背負って捕縛されようという決意が見えなくなってしまいました。以上の2点により吉之助は、前進座版の大詰めの改訂には賛成できませんねえ。これでは青果の芝居の肝心のところが壊されてしまうと思います。
3)青果と黙阿弥の系譜
・青果の「鼠小僧次郎吉」は昭和4年(1929)9月本郷座初演の岡鬼太郎の劇評を読むと、
『鼠小僧の心持ちを主に取り扱ったところに作者の新意があるのであろうが、説明の材料が多過ぎて、なお及ばざるが如きじれったさのなきにしもあらず。丁寧に書いているその態度には敬意を表するが、われら俗物は終いにボーっとしてしまう。』(岡鬼太郎:「演芸画報」・昭和4年10月号)
と書いてあって思わず笑ってしまいました。要するに青果に付き物の理屈のツラネがじれったいということでしょうかね。これは確かにそんなところがあります。青果の手に掛かると、鼠小僧もスカッとしたアウトローの義賊と云うわけに行きません。
『勘弁してくれ。ふとしたことから、実は(盗みを再び)やり出したのだ。やれば自然と心が荒んで、一度が二度では止められなくなるものだ。おれァ生命も惜しい。また仕事をしている間も、今度は生命はない。今度は死ぬと、ついそれを思って心が震える、恐ろしい。けれども無事に仕事をやり終せてホッと息を吐く時の方が、盗みしている間の恐ろしさより百層倍増して恐ろしくなるのだ。酒を飲んだり女を買ったり、それに紛れているように思うかも知れないが、その時の俺は、一等こころに苦しんでいるときなんだ。いまだ生命賭けで稼ぎをしている時の方がただ居る時よりどれ位貼り合いとでも云おうか、まァ生き甲斐があるような気がしているんだ、凝っとただその時を待って、腕組みしている時の、心苦しさ、それは誰が知ろう。(中略)今もおれはここで、何を考えていたと思う。ははは、おれはいつもその時の恐ろしさを紛らすために、次の恐ろしさを心に描いて考えているのだ。ちょうど臆病な子供が、化け物草紙を伏せるのが恐ろしくて、その草紙を見つめているようなものだ。』(青果の「鼠小僧次郎吉」)
 この次郎吉の長台詞を読むと、実に理屈っぽくて、観念的でおまけに暗い。そこが青果らしい。これじゃあエンタテイメントにならんなあと思いますし、颯爽とした鼠小僧を期待した初演のお客さんも随分びっくりしたと思います。しかし、青果ならば泥棒を主人公にしてこう書くんだと云うことが分かると実に興味深い。さすが青果らしい切り口であるなあと思うのです。だから先の岡鬼太郎の劇評は分からぬことはないけれども、もうちょっと青果の奥深いところを見て欲しいなあとは思いますねえ。
 黙阿弥の主人公は根っからの悪ではなく、内に抱える思い悩みの量があまりにも多く、あまりにも強過ぎたために、フトしたことをきっかけに身を持ち崩して、悪の道に転落して行きます。全然カッコいいことはないのです。表向きはカッコ付けて強がっていても、内ではクヨクヨ・ウジウジしているのです。それが黙阿弥のアウトローなのです。実は青果の「鼠小僧次郎吉」も、感触は全然異なっていて、すっかり近代劇の体裁に仕立てられていますが、この点では黙阿弥とまったく同じです。この芝居のなかでも、もうひとりの鼠小僧である湊屋音次が「赤ん坊の時から泥棒として生まれた奴はおりませんよ」と云います。音次は苦労して借りた大金を鼠小僧(つまり和泉屋次郎吉)に奪われて、それがきっかけでもうひとりの鼠小僧になったのでした。青果は黙阿弥の世話物の精神的系譜を受け継ぎながら、これを新歌舞伎に仕立てていると、つくづく思うわけです。
5)第四世代の前進座
 前進座は昭和6年(1931)に設立され、昔から真山青果とは関わりが深い劇団です。その前進座も第三世代・第四世代の時代になって来ました。吉之助は、鶴屋南北ものと新歌舞伎に関しては、昔から松竹歌舞伎より前進座の舞台の方を評価して来ました。芝居のコクと云う点ではもちろん松竹歌舞伎は捨てがたいものがありますが、役者の台詞の末尾が伸びたり、台詞を七五に割りたがる傾向があって、全体的に時代の感覚が強く、伸びた感触がする舞台が少なくないのが、ちょっと不満です。この点、前進座の場合は、テンポが小気味良く、サッパリした写実の味わいが好ましい。それに舞台に出る脇の役までしっかり芝居していて誰も気を抜いていないのが嬉しいですねえ。今回(令和元年10月新国立劇場)の「鼠小僧次郎吉」もその点では変わらず、良い出来ですが、今回は前進座も第三世代・第四世代の時代になって微妙に感触が変って来たなあということを感じました。芝居としてはもちろん面白い。しかし、ちょっといわゆる映画やテレビの時代劇の感触に近づいて来たかな、新歌舞伎としてはどうかなと云う感触を持ちました。これは現状の前進座の活動のなかでは歌舞伎を演じる機会が限られるわけですから致し方ないところがありますが、多少でも三代目翫右衛門や五代目国太郎の舞台を知っている世代(残念ながら吉之助は四代目長十郎は生では見ていません)としては、ちょっと寂しいところがあります。しかし、歌舞伎は前進座の出目(アイデンティティ)に関わる大事な要素ですから、そこは大切にしてもらいたいと思います。
 青果劇における「かぶき的心情」とは、「俺の心情の熱さでお前の気持ちを変えずに置くものか」と云うものです。歌舞伎には腹を斬って見せるとか、身替わりを立てるとか、自分の心情を行動で見せるものが多いのはご存じの通りですが、青果劇の主人公の場合は、彼は熱い台詞で相手を説得しようとします。青果劇はとても理屈っぽい。現実にはこんなに長々しく人がしゃべることはないと呆れるほど、青果劇の主人公が自分の思いのたけをベラベラ長ったらしく綴るのはそこです。自分の心情をいくら語っても、まだ語り切れないのです。それに青果劇の主人公は、しばしば大声で泣き叫びます。青果劇はそこが苦手だと云う方は少なくないと思いますが、これはもちろん感情が激してコントロールが付かないから泣いてしまうと云うこともありますけれど、それよりも彼には思いのたけがあまりにも多すぎて、「自分の心情をこれだけ必死で語っているのに、なぜお前は俺を分かってくれないのだ」というもどかしさの方がもっと強いのです。或いは「これほど語っても、まだ自分の言いたいことが尽くせない」という自分に対する口惜しさの方がずっと強いのです。だからそのもどかしさ・口惜しさの為、彼は大声で泣くのです。
 そのような青果劇の心情の熱さが、台詞のなかに様式としてどんな形で現れるでしょうか。それは「自分の思いのすべてを一気に吐き出さずにおくべきか」という気持ちのなかに表れるのです。それはマシンガンのように畳み掛ける一本調子のリズムとして表れます。息を腹に詰めてタタタタタというリズムで言葉を廻すのです。新歌舞伎の台詞を「歌う」と云う方がいらっしゃいますが、正しくは「歌う」のではなく、「張る」のです。台詞を張らないと歌舞伎になって来ません。青果劇など新歌舞伎をやる時にはここが肝要な点で、前進座の第一世代(三代目(ボーガス注:中村)翫右衛門など)、第二世代(四代目(ボーガス注:中村)梅之助など)にはその感覚がしっかりあったのです。今回の、中嶋宏太郎(次郎吉)、早瀬栄之丞(音次)を見ていると、上手いのだけど、台詞に畳み掛けるアジタートなリズム感覚がちょっと乏しいようです。自然な台詞廻しですが、あっさりし過ぎで、映画やテレビの時代劇ならばこれで十分ですが、歌舞伎の様式感覚とはちょっと異なります。その違いが分かって欲しいですねえ。第一世代の古い映像や録音をチェックして、その息の詰め方をよく研究してみると良いと思います。
 もちろん良い点もあります。まずは役者が台詞の末尾を詠嘆調に長く引っ張らないことです。松竹歌舞伎の役者はしばしば末尾を引っ張りたがります(こうすると役者は誰でも主役になったみたいで気持ちがいいんです)が、これだと台詞が終息してしまって、対話が続きません。それに芝居のテンポが小気味良く進むのも良いですねえ。これは大事なことですね。「鼠小僧次郎吉」は青果ものとして珍しい演し物ですが、興味深く見ることが出来ました。

*1:参院議員。日本共産党政策委員長。著書『政治は温暖化に何をすべきか』(2008年、新日本出版社

*2:参院議員

*3:衆院議員

*4:参院議員

*5:党千葉県委員会副委員長

*6:国立環境研究所地球環境研究センター副センター長。著書『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(2008年、化学同人)、『異常気象と人類の選択』(2013年、角川SSC新書

*7:つまり「安倍本人が推薦者」の可能性があるわけです。

*8:三木内閣農林相、福田内閣官房長官自民党政調会長(大平総裁時代)、鈴木内閣通産相、中曽根内閣外相、自民党幹事長(竹下総裁時代)など歴任

*9:つまりこの時代からジャパンライフマルチ商法は批判されていたわけです。

*10:著書『あなたを狙う「残業代ゼロ」制度』(2016年、新日本出版社

*11:同志社大学教授。著書『[新装新版]日韓交渉:請求権問題の研究』(2015年、クレイン)

*12:著書『徴用工裁判と日韓請求権協定:韓国大法院判決を読み解く』(共著、2019年、現代人文社)

*13:太田氏は正当な物だとはもちろん評価しませんが。

*14:佛教大学名誉教授。著書『日清・日露戦争』(2007年、岩波新書)、『日清戦争』(2008年、吉川弘文館)など

*15:陸軍卿、内務卿、第一次伊藤内閣内務相、第二次伊藤内閣司法相、首相、枢密院議長など歴任。元老の一人。

*16:大蔵卿、第1次伊藤、黒田、第1次山県、第2次伊藤、第2次山県内閣蔵相、首相を歴任。元老の一人。

*17:第1次山県、第1次松方、第2次山県内閣外相、駐米大使を歴任

*18:第1次伊藤、黒田、第1次山縣、第1次松方内閣で司法相

*19:文部卿、陸軍卿、農商務卿、第1次伊藤、黒田、第1次山県、第2次伊藤、第2次松方、第3次伊藤、第1次大隈内閣海軍大臣、第1次松方、第2次山県内閣内務相など歴任。元老の一人。西郷隆盛の弟。

*20:第1次山県、第1次松方内閣海軍大臣、海軍軍令部長、台湾総督、第2次松方内閣内務相、第2次山県内閣文相など歴任

*21:第1次山県、第1次松方内閣農商務相、第2次伊藤内閣外相など歴任

*22:黒田、第一次山県、第一次松方内閣逓信相、第二次伊藤内閣農商務相など歴任

*23:第2次伊藤、第2次松方内閣で逓信

*24:第1次松方内閣農商務相、内務相、第2次伊藤内閣文相など歴任

*25:第1次、第2次松方内閣陸軍大臣、第2次伊藤内閣拓殖務大臣などを歴任

*26:首相、貴族院議長、枢密院議長、韓国統監など歴任。元老の一人

*27:第一次伊藤内閣農商務相、第二次伊藤内閣逓信相、首相、枢密院議長など歴任。元老の一人。

*28:外務卿、第一次伊藤内閣外相、黒田内閣農商務相、第二次伊藤内閣内務相、第三次伊藤内閣蔵相など歴任

*29:第一次伊藤、黒田、第一次山県、第一次松方、第二次伊藤、第二次松方内閣陸軍大臣内大臣など歴任。元老の一人。

*30:この文で分かるように政府だけでなく、民党も侵略主義的でした。民主主義と侵略主義の間には何の関係もないこと(民主主義なら当然に平和主義ではないこと)が改めてわかります。

*31:第2次伊藤、第2次松方、第1次大隈内閣で内務相

*32:第2次伊藤内閣蔵相、逓信相、第4次伊藤内閣蔵相など歴任

*33:大蔵卿、第1次伊藤、黒田内閣、第2次松方内閣外相、首相など歴任

*34:著書『音楽を動員せよ:統制と娯楽の十五年戦争』(2008年、青弓社)、『「国民歌」を唱和した時代:昭和の大衆歌謡』(2010年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー)

*35:同志社大学法学部教授(政治学)。著書『法の政治学:法と正義とフェミニズム』(2002年、青土社)、『シティズンシップの政治学(増補版)』(2009年、白澤社)、『フェミニズム政治学』(2012年、みすず書房)、『戦争に抗する:ケアの倫理と平和の構想』(2015年、岩波書店)など

*36:中央大学名誉教授。著書『草の根のファシズム』(1987年、東京大学出版会)、『従軍慰安婦』(1995年、岩波新書)、『毒ガス戦と日本軍』(2004年、岩波書店)、『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(2010年、岩波ブックレット)、『焼跡からのデモクラシー:草の根の占領期体験(上)(下)』(2014年、岩波現代全書)、『買春する帝国:日本軍「慰安婦」問題の基底』(2019年、岩波書店)など

*37:著書『戦略としての家族:近代日本の国民国家形成と女性』(1996年、新曜社)、『実践するフェミニズム』(2001年、岩波書店)、『ジェンダー家族を超えて:近現代の生/性の政治とフェミニズム』(2006年、新曜社)、『部長、その恋愛はセクハラです! 』(2013年、集英社新書

*38:著書『統一協会』(1992年、かもがわブックレット)、『自己啓発セミナー』(1999年、新日本新書)、『悩み解決!これからの「お墓」選び』(2013年、新日本出版社)、『創価学会の“変貌”』(2018年、新日本出版社)など

*39:今の安倍自民を手放しで支持できる人間じゃないととても「安倍自民を支援する公明党」の母体・創価学会に好感は持てないでしょう。一方で「安倍自民を支持するような連中」で「元々の創価学会員以外」にどれほどの人間が新たに創価学会に入りたがるか、つう事です。「結局、党利党略でお前ら創価・公明は自民と付き合ってるんだろ?。お前ら細川、羽田政権の時は非自民のメンバーだったし、都民ファが大勝した都議選では都議会自民見すてて、小池にすり寄ってたやん。ええんよ、お前らがそう言う立場ならそれで。でもそう言う奴らとはこっちもビジネスライクな付き合いするから」としか自民支持者の大半は思ってないでしょう。

*40:明治大学教授。著書『昭和天皇の戦争指導』(1990年、昭和出版)、『大元帥昭和天皇』(1994年、新日本出版社)、『軍備拡張の近代史:日本軍の膨張と崩壊』(1997年、吉川弘文館)、『歴史修正主義の克服』(2001年、高文研)、『護憲派のための軍事入門』(2005年、花伝社)、『世界史の中の日露戦争』(2009年、吉川弘文館)、『これだけは知っておきたい日露戦争の真実:日本陸海軍の〈成功〉と〈失敗〉』(2010年、高文研)、『日本は過去とどう向き合ってきたか』(2013年、高文研)、『近代日本軍事力の研究』(2015年、校倉書房)、『兵士たちの戦場』(2015年、岩波書店)、『昭和天皇の戦争:「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと』(2017年、岩波書店)、『日本の戦争:歴史認識と戦争責任』(2017年、新日本出版社)、『日本の戦争Ⅱ:暴走の本質』(2018年、新日本出版社)、『日本の戦争III:天皇と戦争責任』(2019年、新日本出版社)など

*41:著書『歴史の偽造をただす:戦史から消された日本軍の「朝鮮王宮占領」』(1997年、高文研)、『司馬遼太郎歴史観:その「朝鮮観」と「明治栄光論」を問う』(2000年、高文研)、『これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』(2002年、高文研)、『『蹇蹇録』の世界』(2006年、みすず書房)、『現代日本歴史認識』(2007年、高文研)、『日本の朝鮮侵略史研究の先駆者 歴史家山辺健太郎と現代』(2015年、高文研)、『日本人の明治観をただす』(2019年、高文研)など

*42:儒教なら日本も影響を受けているし、「中韓の日本批判(あるいは中韓の社会的問題)」は儒教とはほとんど関係ないのに良くも馬鹿げたことが言えたもんです。

*43:こんな嫌韓国本の著者・高橋を勉強会の講師に呼んだ上「レイシストと付き合って恥ずかしくないのか」と批判されても「何がレイシストか分からない」と言い出すれいわの山本太郎には「レイシストレイシストとわからない」バカか、嘘つきか知りませんが、心底呆れますし軽蔑します。そもそも「モリカケフェイクニュース」と言って安倍を免罪する高橋をよく講師に呼べるもんです。

*44:題名からして完全にヘイトです。これが元駐韓大使というから呆れます。

*45:2013年、講談社+α新書

*46:著書『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』(2014年、講談社+α新書)、『世界一豊かなスイスとそっくりな国ニッポン』(2016年、講談社+α新書)など

*47:著書『格差社会と大増税』(2011年、学習の友社)、『タックスヘイブンに迫る』(2014年、新日本出版社)、『これでわかるタックスヘイブン』(2016年、合同出版)、『パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン』(2016年、日本機関紙出版センター)など

*48:麻生内閣国家公安委員長総務相

*49:著書『現代スポーツ批判』(1996年、大修館書店)

*50:著書『元禄忠臣蔵(上)(下)』、『随筆滝沢馬琴』(岩波文庫)など

*51:連合艦隊司令長官、海軍軍令部長など歴任

*52:1931年(昭和6年)、四代目河原崎長十郎、五代目河原崎國太郎などとともに前進座を結成。四代目中村梅之助の父。二代目中村梅雀の祖父。