今日の中国ニュース(2020年1月4日分)

リベラル21 サハロフ賞受賞、されど受賞者の消息は不明

 市場経済浸透のもとで格差は急速に開いた。すでに2008年新疆全体の年一人当たりGDPは1万9000元(2800ドル)に達したが、農村地域のそれは3800元(560ドル)、なかでもウイグルの多数が住むタリム盆地のオアシスの郷村では1500元(220ドル)前後にすぎなかったのである。いま格差はもっと開いているだろう。
 新疆でもチベットでも内モンゴルでも、漢人はほとんどの行政と経済、知的資源を握っていて、どんな場合でも現地少数民族を飛び越して利益を獲得できる。

 以前、大西広*1が著書『チベット問題とは何か』(2008年、かもがわ出版)で「中国の少数民族問題とは実は格差問題という側面が大きいと思う」「(文化対立という面がないとは言わないが)漢民族が豊かなのに対して少数民族が貧乏なことが対立の大きな要因」と書いていたと記憶していますが、阿部治平*2がほとんど同じ事を書いていることが興味深いですね。


【正論2月号】中国に「身売り」されるジャパンディスプレイ 国家意識欠く官民ファンド 産経新聞特別記者 田村秀男(1/3ページ) - 産経ニュース
 反中国産経らしいですが、
1)経営危機に瀕したジャパンディスプレイの買い手が「中国企業以外になく」
2)自力再建はとても不可能
と言うなら中国企業(記事に寄れば正確には中国企業と台湾企業の合弁会社のようですが)に売るしかないでしょう。
 仮に「国家安保上、中国企業への売却には問題がある」としたら、すべきことは「他に購入者がいない」「自力再建が不可能」である以上、「会社の解散(債務整理をした上で会社を消滅させること)」でしょう。
 ところが「いつものことですが」、田村は「中国に売るな!」と言うだけで「中国以外に売却先がある」とも「自力再建が可能」とも「会社を消滅させるべき」とも言いません。対案も出さずに「中国に売るな!」など単に無責任に過ぎません。

【追記】
 なんだか田村の書きぶりでは「中国企業の購入が決定したかのよう」で、上のように書きましたが、ググったところ、

JDI、「Suwa」から出資なく 一時は合意も :日本経済新聞
 経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は1日、同社への金融支援を目指していた企業連合「Suwaインベストメントホールディングス*3」から2019年12月末までにJDIへの出資がなかったことを明らかにした。Suwaからの払い込みがなかったため、JDIは今後、独立系投資顧問のいちご*4アセットマネジメントと金融支援の最終契約に向けた交渉に入る。
 JDIとSuwaは19年4月に800億円の支援契約を結んだが、Suwaを構成していた台中3社のうち、台湾2社が6月に離脱した。残った中国ファンドを軸に支援枠組みを作り直したが、同ファンドが9月末に離脱を通知したため、事実上の白紙に戻っていた。
 JDIは、Suwaの出資が19年中に完了しない場合の代替案として、いちごアセットと800億~900億円の金融支援で基本契約を結んだ。
 19年中にSuwaからの出資がなかったことを受け、JDIの交渉相手は名実ともにいちごアセットとなる。ただJDIは金融支援で様々な選択肢を残すため、Suwaとの協議は今後も続けるとしている。

ということで中国企業への売却は白紙になったようです。とはいえ現時点では買い手は未定で「居ない可能性すらあります」が。
 なお、田村の正論2月号掲載記事はJDI、「Suwa」から出資なく 一時は合意も :日本経済新聞が判明する前に書かれたので「中国企業への売却が既定事実であるかのように記載されてる」のは仕方ありません。
 しかしJDI、「Suwa」から出資なく 一時は合意も :日本経済新聞が判明し、事情が大きく変わった1/4時点で注釈も付けずに「もはや無価値となった田村論文」を紹介する産経は呆れたバカです。

*1:京都大学名誉教授。慶應義塾大学教授。著書『資本主義以前の「社会主義」と資本主義後の社会主義:工業社会の成立とその終焉』(1992年、大月書店)、『グローバリゼーションから軍事的帝国主義へ:アメリカの衰退と資本主義世界のゆくえ』(2003年、大月書店)、『中国特需:脅威から救世主へと変わる中国』(編著、2004年、京都総合研究所)、『中国はいま何を考えているか』(2005年、大月書店)、『チベット問題とは何か』(2008年、かもがわ出版)、『現場からの中国論』(2009年、大月書店)、『中国に主張すべきは何か』(2012年、かもがわ出版)、『中国の少数民族問題と経済格差』(編著、2012年、京都大学学術出版会)、『マルクス経済学(第2版)』(2015年、慶應義塾大学出版会)、『中成長を模索する中国:「新常態」への政治と経済の揺らぎ』(編著、2016年、慶應義塾大学出版会)、『長期法則とマルクス主義』(2018年、花伝社)など。

*2:著書『もうひとつのチベット現代史:プンツォク=ワンギェルの夢と革命の生涯』(2006年、明石書店)、『チベット高原の片隅で』(2012年、連合出版

*3:田村の言う中国企業のこと

*4:いちごとは「果物のイチゴではなく」、「一期一会」の「一期」だそうです。