高世仁に突っ込む(2020年6/5日分)

天安門事件31周年を獄中で迎えるジャーナリスト - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 天安門事件のあった6/4に、米国では「白人警官の黒人不法殺害疑惑」から全米にデモが広がり、大統領は「暴徒は軍を投入してでも押さえ込む」という「だけ」。これでは「デモ隊を挑発して、事態をさらに悪化させている」と言われても文句は言えないでしょう。
 中国側から「そんな民衆抗議を無視する態度の首脳(トランプ)が香港デモだの天安門事件だので我が国を非難するのは何かの冗談ですか?」という趣旨の皮肉が飛び出す「笑えない事態」です。
 しかし高世も「現在進行形の米国のデモ」について、どうせなら『なお、天安門事件のようなことは中国だけで起こってるわけではない。たとえば米国の現状もそうだ。私は暴力は支持しないがデモ隊の政府批判は支持する。トランプ大統領はデモ隊の政府批判にきちんと向き合うべきだ』くらいのことをこの記事で書いてもいいでしょうにねえ。
 まあ、高世のツイートでは

https://twitter.com/TomoMachi/status/1268328382539812865
高世仁リツイート
町山智浩*1
 警官に絞め殺された黒人を追悼してホワイトハウス前で地面に伏せ「息ができない」と言うプロテスターたち。暴動でも暴徒でもテロでもない。軍隊で制圧する必要もない。

という米国デモがらみのリツイートがありますが。

(陳さんについては、2月16日のTBS[サンデーモーニング」でも紹介された。
https://note.com/tbsnews_sunday/n/n54f6829e1ed8

 でサンデーモーニングにコメントしておきます。

2020年2月16日「風をよむ~感染症から見えた中国~」|「サンデーモーニング」スタッフノート|note
 増え続ける患者への対応のため、当局は武漢市内に2つの病院を建設。1つ目の病院は着工からわずか1週間、2つ目もおよそ2週間という突貫工事で診察を行っています。
 他にも体育館などを活用し、人民解放軍の「野戦病院」方式の診療も続けています。
 中国事情に詳しい興梠教授は…
興梠(こうろぎ)一郎*2神田外語大学教授
「政治的な力を見せつけるというか、これだけの施設を一挙に作れるんだと。SARSの時も北京郊外の小湯山という所にバーンと作った。国民に対して安心させるというのもあると思うし、世界的にちゃんと中国がやっているんだというのを見せたいと。実際にそれが効果があるのかどうかっていうのは、別の問題」

 おいおいですね。「他の件(例:香港デモ、チベットウイグルといった少数民族問題)はともかく」中国のこうした早急なコロナ対応は「評価すべきこと」ではアレ批判することではないでしょうに。
 興梠氏についても彼は中国政治研究者ではあっても、新型コロナの専門家ではないので「中国のコロナ対応をどう思うか」と聞かれても「感染を早急に押さえ込むとともに、こうした対策を広くアピールすることで中国国民や外国の不安を鎮めようとしている」程度の「俺ですら思いつくことぐらいしか言えない」わけで質問する意味があるのか。
 ましてやコロナ専門家でもないのに「実際にそれが効果があるのかどうかっていうのは、別の問題」などとネグるとはふざけています(まあ、それでもサンデーモーニングなので産経文化人などに比べればまだマシですが)。
 「実際に効果があるかどうか分からない」なんてことをTBSは「どんな場合にも言ってるのか」といったらそうではないでしょう。このサンデーモーニング記事(そして興梠発言)は「TBSや興梠氏の中国への偏見」を露呈していると思います。
 まあ、俺もコロナ専門家ではないので断言はしませんが「中国政府発表を信じる限り」、コロナは押さえ込まれたようなので「実際に効果もあった」と見ていいのではないか。

 習近平指導部は、中国社会に広がる不安の沈静化に躍起となって取り組んでいます。
 中央政府は13日、批判を浴びた武漢*3トップの馬国強書記、さらに湖北省トップ(ボーガス注:の蒋超良書記)を相次いで更迭したのです。

 そりゃ武漢市、湖北省の対応に問題があったという批判が出れば引責で更迭するのは当たり前でしょう。
【参考】

中国、湖北省・武漢市のトップ更迭…習氏「合格の答案出さなければならない」 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン
 中国の習近平*4(シー・ジンピン)政権は13日、湖北省の蒋超良*5(ジアン・チャオリャン)共産党委員会書記(62)と湖北省武漢市の馬国強(マー・グオチャン)党委書記(56)を解任する人事を公表した。湖北省新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、地元政府のトップ2人を一気に更迭し、国民の不満解消を図る狙いとみられる。
 国営新華社通信によると、蒋氏の後任には、習国家主席浙江省勤務時代の部下である応勇(インヨン)上海市長(62)が就く。
(中略)
 (ボーガス注:馬氏の)後任には山東省済南市の王忠林*6(ワン・ジョンリン)党委書記(57)が就く。別の都市での市長時代、住民の不満が出やすい大規模な立ち退きを混乱なく終えた手腕を持つと中国紙・南方都市報(電子版)は伝えている。

【参考終わり】

興梠一郎・神田外語大学教授
「経済がものすごいダメージを受けますんで、とにかく生産活動は開始するという方針は打ち出している。経済の回復が先にあって、感染症の問題が二の次になってくる。そうすると経済活動と連なる形でウイルスを拡散してしまう。北京と上海で大規模感染が起きるとほんとに大変なことになる。経済とウイルスの封じ込め、これを同時にやらなきゃいけない」

 「何だかなあ」ですね。
 「コロナ感染抑制のためには、経済を犠牲にしてでも感染抑制に努める必要があるが、とはいえ経済を全く無視するわけにはいかない難しさがある」なんてのは中国に限った話ではない。「感染者数が未だに緊急事態宣言発令当時と同程度の数をカウントする日があるなど高止まりし」、コロナ感染が増加してる疑いがあるが、現時点では「経済面も考慮」して「緊急事態宣言発令時の措置には戻さない」としている東京都はわかりやすい例です。
 そして俺もコロナ専門家ではないので断言はしませんが「中国政府発表を信じる限り」、今のところ、その点では中国政府は「かなり成功している」と見ていいのではないか。

*1:個人サイト映画評論家町山智浩アメリカ日記。著書『キャプテン・アメリカはなぜ死んだか』(2011年、文春文庫)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』 (2012年、文春文庫)、『アメリカは今日もステロイドを打つ:USAスポーツ狂騒曲』(2012年、集英社文庫)、『底抜け合衆国:アメリカが最もバカだった4年間』(2012年、ちくま文庫)、『トラウマ映画館』(2013年、集英社文庫)、『99%対1%:アメリカ格差ウォーズ』(2014年、講談社文庫)、『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(2014年、マガジンハウス)、『最も危険なアメリカ映画:『國民の創世』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』(2016年、集英社インターナショナル)、『トラウマ恋愛映画入門』(2016年、集英社文庫)、『アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き』(2016年、文春文庫)、『〈映画の見方〉がわかる本:ブレードランナーの未来世紀』(2017年、新潮文庫)、『マリファナも銃もバカもOKの国』(2017年、文春文庫)、『今のアメリカがわかる映画100本』(2017年、サイゾー)、『映画と本の意外な関係!』(2017年、集英社インターナショナル新書)、『「最前線の映画」を読む』(2018年、集英社インターナショナル新書)、『激震! セクハラ帝国アメリカ』(2018年、文藝春秋)、『町山智浩の「アメリカ流れ者」』(2018年、スモール出版)、『映画には「動機」がある:「最前線の映画」を読む Vol.2』(2020年、集英社インターナショナル新書)、『町山智浩のシネマトーク 怖い映画』(2020年、スモール出版)など

*2:著書『現代中国:グローバル化のなかで』(2002年、岩波新書)、『中国激流:13億のゆくえ』(2005年、岩波新書)、『中国 目覚めた民衆:習近平体制と日中関係のゆくえ』(2013年、NHK出版新書)など

*3:湖北省省都

*4:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

*5:吉林省長、湖北省党委員会書記など歴任

*6:山東省生まれ。山東滕州市党委員会書記、山東聊城市長、山東済南市長、済南市党委員会書記などを経て武漢市長