高世仁に突っ込む(2020年9/14日分)

大坂なおみのメッセージをどう受け取るか - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 大坂のメッセージについてどう受け取ったかについて簡単に書いておくことにします。
 また、高世の記事についてもコメントしておきます。
【1】

大坂なおみのメッセージをどう受け取るか - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 勇気をもって主張しても少数なら「出る杭は打たれる」で叩かれ、「寄らば大樹」とばかり大勢になびく今の日本の風潮が、今回の自民党総裁選や急激な自民党支持率の回復にもみられるように思う。

 そういうことなんですかね?。日本人であることに改めて恥ずかしさを感じます。
 ただし米国においては、むしろ大坂のような「民族融和の呼びかけ」は「トランプがその真逆であること」「トランプによる嫌がらせが危惧されること」から当然「賞賛に値する勇気ある行動」ですが、一方で米国民主党は大坂のような行動に好意的であることに注意しておくべきでしょう。
 また、大坂が「テニスプロ」という点も重要でしょう。彼女が「全豪オープン」で優勝したように、彼女の活躍場所は米国に限られません。
 かつ彼女は個人プレーなので「チームメートに迷惑をかけたらまずい」という恐怖感もない。
 その意味では「米国プロ野球」「米国プロバスケNBA)」などの選手に比べ大坂は「抗議表明しやすい立場にある」とはいえるかと思います。
 また、

大坂なおみのメッセージをどう受け取るか - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 かつてアスリートが、人種問題が絡んだ政治的発言をすることは大きなリスクがあった。1960年代、ムハマド・アリは徴兵を拒否し収監された。68年メキシコ五輪の表彰台で黒い手袋をして拳を突き上げたトミー・スミスとジョン・カーロスは、五輪から追放された。

という指摘も重要でしょう。「ムハマド・アリ」「トミー・スミスとジョン・カーロス」ら先駆者の存在によって大坂ら「後輩スポーツ選手」は政治的言動がしやすくなったわけです。
 もちろん彼女の行為が勇気ある行動だと認めた上での話ですが。

【2】
 次に新刊紹介:「前衛」10月号 - bogus-simotukareのブログに書いたことを改めて再掲しておきます。

新刊紹介:「前衛」10月号 - bogus-simotukareのブログ
◆「黒人が殺される国」アメリカの深層(矢部武*1
(内容紹介)
・前衛に寄れば

2020年06月: Daily JCJ
◆黒人が殺される国アメリカの深層
   7月4日(土)午後2時から4時
   講師:ジャーナリスト・矢部武さん
  参加費:500円
 5月に米国で起きた警察官による黒人暴行死事件。警官は手をポケットに入れたまま、黒人男性の首を膝で圧迫した。黒人男性は「息ができない」と訴えつづけたが、9分近く首を圧迫されたまま絶命した。
 全米で抗議デモが起きた。「黒人の命は大事だ」と訴える。警備に当たった警察官の中にはデモに共感し、膝を屈して黒人差別に反対する人も現れた。
 この事件の背後にある米国の病理とは。そして日本に存在する民族差別との共通点とは。
【ビデオ会議システムZoomを使っての講演会です。参加ご希望の方は下記をパソコンで入力し、参加費支払いのお手続きしてください】

というJCJ日本ジャーナリスト会議)主催の矢部氏講演会をもとに矢部氏が論文化した物だそうです。
 【オンライン講演】 黒人暴行死で矢部氏が講演 少数派になる白人に不安 米の暗部 KKK時代から=須貝道雄: Daily JCJJCJによる矢部講演会の報告が掲載されています。
・Q&A方式(架空問答)で内容紹介を書いてみます。架空問答なので必ずしもAは本当の矢部氏の発言では無いことをお断りしておきます。
 「矢部氏の論文の趣旨」をオレ流に料理しているところが多々あります(イージーライダー、キクとイサム、人間の証明などは矢部論文に出てくる話では無いです)。当然、【オンライン講演】 黒人暴行死で矢部氏が講演 少数派になる白人に不安 米の暗部 KKK時代から=須貝道雄: Daily JCJと以下の架空問答は内容が「大筋では合致していても」細部までは一致していません。
(中略)
Q(ボーガス)
「なお、『米国におけるBLM運動をどう評価するか』という話から脱線しますが、我々日本人は、BLM運動から何を受け取るべきでしょうか?。お考えをお聞かせ下さい。」
A(矢部)
「『米国の出来事(警官による黒人差別への抗議運動)』を『他人事』のように見なす日本人には私は疑問を感じます。在特会のような極右排外主義運動がある日本にも米国黒人差別のような外国人差別はある。フジテレビ『ワイドナショー』での『スリーパーセル』云々も悪質な在日差別発言ですし、小池都知事の「関東大震災での朝鮮人虐殺」に対する態度も許しがたい代物です。
 そもそも「在日朝鮮・韓国人差別問題を無視」したとしても、日本社会には『米国のような黒人差別はない』などとはとても言えないでしょう。「日本での黒人差別の存在」は映画『キクとイサム』(1959年)、『人間の証明』(1977年)でも明白でしょう(『キクとイサム』『人間の証明』については、新刊紹介:「歴史評論」3月号(その2:今井正『キクとイサム』、森村誠一『人間の証明』について、ほか:ネタバレあり) - bogus-simotukareのブログ参照)。あるいはアフリカ系日本人のプロスポーツ選手の先駆け(の1人)だった - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)も指摘していますが、プロ野球選手の衣笠祥雄について『彼の父親が黒人であること』について余り言及されないこと(もちろん言及する必要は必ずしも無いですが)も「日本での黒人差別」の一例では無いのか。そして我々はそうした黒人差別を今どれほど払拭してきたのか?
 今回問題になった『警官の殺人』ほど酷いケースは無いにせよ、日本の警察がまともとは言いがたいことは、『安倍首相に野次を飛ばした人物が警察に身柄拘束されたこと』や『安倍友とされる山口某氏のレイプもみ消し疑惑(たとえば高校生、大学生、警察庁に入庁したばかりの中村格が現在の自分を見たら、ああいうクズにだけはなりたくないと思ったろう - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照)』『過去に北海道警が暴露した警察裏金疑惑』などでも明白でしょう。『米国の問題』について『日本はどうなのか?。米国のような問題は無いのか?』と振り返る謙虚な態度を心がけたいものです。
 特に安倍政権の『入管法改定(外国人労働力導入が目的)』や『外国人観光客誘致策』によって日本社会は今後、いっそう、外国人が社会に増えていくことが予想されますから、『米国の黒人差別は日本とは関係ない』なんてとても言えなくなってくるでしょう。安倍政権のそうした施策の是非はともかく、『安倍政権のそうした施策によって否応なく日本社会に外国人が増えるであろう事』について日本社会でまともな議論がされているように見えないのは残念です」」

新刊紹介:「前衛」10月号 - bogus-simotukareのブログ
◆スポーツ最前線『人種差別を許さないスポーツ界の大きな変化』(和泉民郎)
(内容紹介)
 タイトルだけで予想がつくでしょうが「大坂なおみなどスポーツ選手のBLM運動への連帯表明」がとりあげられています。そういえば大阪は今年の全米オープン女子シングルスで優勝しましたね。なお、大阪は全米オープン女子シングルスでも「BLM運動への連帯を示す意味合い」で「黒人の名前がかかれたマスク」を毎回着用していたようです。

【参考:大坂なおみ

澤藤統一郎の憲法日記 » 大坂なおみが示した「日本人離れ」の、さわやかな個性
 この人の意見や発言が、また「日本人離れ」して、すこぶる明快なのだ。

https://twitter.com/naomiosaka/status/1298785716487548928
 こんにちは。多くの皆さんもご存じのように、私は明日(8月27日)の準決勝に出場する予定でした。しかし、私はアスリートである前に、一人の黒人女性です。黒人女性として、私のテニスを見てもらうよりも、今は注目しなければいけない大切な問題があると感じています。
 私がプレーしないことで劇的に何かが起きるとは考えていませんが、白人が多い競技で議論を始めることができれば、正しい道へのステップになると思います。相次いで起きている警官による黒人の虐殺を見ていて、正直、腹の底から怒りが湧いています。数日おきに(被害を受けた人の名前の)新しいハッシュタグをつけ(SNSに投稿し)続ける状況に苦しみ、疲れています。
 そして、同じ会話を何度も何度も繰り返すことにとても疲れてもいます。いったい、いつになったら終わるのでしょうか?

 この人は、自分を「アスリートである前に一人の黒人女性(a black woman)である」と躊躇なく言い切っている。
 私は、テニスという競技にはほとんど何の興味も知識もなく、「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」の準決勝棄権というものの重みを実感できない。が、プロの選手が国際試合をボイコットしようというのだ。ウィスコンシン州で起きた黒人銃撃問題に抗議の意を示し問題提起のためとする、彼女の準決勝棄権の決意のほどは伝わってくる。立派なものだ。
 その後、大会主催者は大坂の問題提起を受けとめた。8月27日に予定されていた全試合を28日に順延すると発表した。また、全米テニス協会も日程の順延について「テニスは、アメリカで再び起きた人種差別と社会の不公平に対し、結束して反対する」という声明を出したという。これも立派なものだ。おそらくは、大坂の問題提起を受けとめねばならないという空気が全米に満ちているのだろう。
 さらには、Twitterでは「#大坂なおみさんを支持します」というハッシュタグが作られ日本のトレンドに入ったという。紹介されているものでは、「アスリートの鏡だと思う」「自身の影響力を社会のために使っている素晴らしい例」など大坂選手への応援の言葉が大半を占めたという。もちろん、右翼諸君の批判や疑問も多数にのぼるものだったともいう。
 この大坂なおみ、『スポーツと政治を混同してはいけない』『アスリートの政治的発言はいかがなものか』という定番の批判にたじろぐところがない。今年(2020年)6月5日には、「スポーツと政治を混同させるな」の声に反論して、次のように発信している。

「アスリートは政治的に関わるな、ただ楽しませればよいという意見が大嫌い。第一にこれは人間の権利に関わる問題だから。そしてなぜあなたの意見の方が私より良いの? もしIKEAで働いていたら、IKEAのソファーの話しかしちゃいけないの?」

 そのとおりだ。誰もがいかなる政治的テーマにも関わってよい。アスリートはその技倆で観衆を楽しませていればよく、その分を越えるべきではないというのは、アスリート蔑視であり不当な差別である。ましてや、重大な人権問題については、すべての人が関心をもち、発言しなければならない。それは、民主主義社会に生きるすべての人々の責務と言ってよい。
 「政治に関わるな」「政治的発言は控えろ」「分を弁えておとなしくしておけ」という、社会の圧力に唯々諾々としたがっていたのでは、いつまでも社会から不合理がなくならない。民主主義とは、すべての人の発言を保障する社会のありかたである。

大坂なおみ、BLMのTシャツで準決勝のコートに登場 - 産経ニュース
 米ウィスコンシン州での警官による黒人男性銃撃事件など一連の人種差別に抗議するため、テニスのウエスタン・アンド・サザン・オープンの女子シングルスで4強入り後に棄権を表明し、その後に撤回した大坂なおみ日清食品)が28日、エリーズ・メルテンス(ベルギー)との準決勝に臨んだ。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」と人種差別に対する抗議運動のスローガンが記され、握った拳が描かれたTシャツを着てコートに登場した。
「より抗議運動への注目を集めることができる」とプレーすることを決めて臨んだ準決勝。試合前の練習ではサーブを打つ姿に硬さは感じられなかった。

(中略)

意志貫く大坂選手、同世代が称賛 マスクで抗議「きっかけくれた」:東京新聞 TOKYO Web
 テニスの大坂なおみ選手は人種差別撤廃を訴え、黒人被害者の名前入りのマスクを着けて全米オープンに臨んだ。大坂選手と同じ世代からは祝福とともに抗議の意志を貫いた姿勢に称賛の声が上がった。
 「確固たる信念を行動に移した姿に感動した」と話すのは日本で人種差別への抗議デモを主催した市民団体「BLACK LIVES MATTER TOKYO」の須永茉奈美さん(28)。
 「『人種や考え方が違っても同じ人間だから差別は駄目』というメッセージが若い世代に浸透する良いきっかけを作ってくれた。政治的なことに声を上げてもいいという文化がスポーツ界にも生まれてほしい」と期待した。

大坂選手全米優勝 根室も喜び |NHK 北海道のニュース
大坂なおみ選手の祖父で、根室市の大坂鉄夫さん(75)は根室市内の自宅前で報道陣の取材に応じました。
大坂なおみ選手が着けていた人種差別に抗議するためのマスクについては、「彼女は彼女なりに、差別のことを考えてのことだと思うので、勇気があるなと誇らしく思います」と話していました。

大坂なおみの人種差別抗議に国内外で温度差 スポンサーの微妙な事情 - 毎日新聞
 テニスの全米オープン女子シングルスで、人種差別への抗議を続ける大坂なおみ(22)=日清食品=の行動が、大きな反響を呼んでいる。1回戦から黒人差別による被害者の名前が書かれた黒いマスクをつけてコートに入場し、差別撤廃へのメッセージを発信しているが、大坂を支援する国内外のスポンサー企業では受け止め方に温度差がある。その事情とは?【浅妻博之】
 「上まで勝ち上がっている時にやらなくてもね。できればテニスのプレーでもっと目立ってほしいんですけど……」。
 そう話すのは大坂を支援する日本企業の関係者だ。「黒人代表としてリーダーシップをとって、人間的にも素晴らしい行為だとは思うが、それで企業のブランド価値が上がるかといえば別問題。特に影響があるわけではないが、手放しでは喜べない」と複雑な心境を打ち明けた。また別のスポンサー企業関係者からは「人種差別の問題と本業のテニスを一緒にするのは違うのでは」との声も聞こえてきた。
 一方でスポンサーの一つである米国系企業の反応は違う。
(この記事は有料記事です。)

大坂なおみ「あなたがどう受け止めたかに興味ある」7つのマスク問われ。全米オープン2度目のVインタビュー | ハフポスト
大坂なおみは、2020年全米オープンテニスの女子シングルスに優勝し、(ボーガス注:2018年全米オープン女子シングルス優勝、2019年全豪オープン女子シングルス優勝に続く)自身3回目のグランドスラムを制覇した。
・ブラック・ライブズ・マター運動をめぐり、決勝まで用意していた7通りのマスクについて聞かれると、大坂は「あなたが受け取ったメッセージは何でしたか?。メッセージをあなた方がどのように受け取ったかに興味があります。話し合いが起きれば良いと。USオープン会場の外で起きていることについては詳しくないですが、より多くの人がこのことを語る(きっかけになる)といいと思います」と語った。

*1:著書『ひとりで死んでも孤独じゃない:「自立死」先進国アメリカ』(2012年、新潮新書)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(2016年、朝日新書)、『大統領を裁く国アメリカ:トランプと米国民主主義の闘い』(2018年、集英社新書)、『アメリカ白人が少数派になる日』(2020年、かもがわ出版