今日のしんぶん赤旗ニュース(2021年1月23日分)

きょうの潮流 2021年1月20日(水)

 中国で細菌戦や人体実験を行った日本陸軍731部隊を率いた軍医の石井四郎。近年、作家の宮本百合子の自伝的長編『道標』に、ドイツ留学中の石井をモデルとした人物が描かれていることがわかりました。作家の岩崎明日香さんの発見です。
▼その登場人物は毒ガスを研究している軍医の津山。津山は主人公の伸子*1に日本はドイツの再軍備に学ぶべきだと力説します。伸子は右翼テロリストと通じるものを感じ、「医学博士という彼の科学の力」で何をするだろうと「気分をわるく」します。
▼1929年のベルリンで百合子は石井に実際に会って、危惧を持ったのでしょう*2。その後の(ボーガス注:731部隊での細菌兵器の人体実験という)石井の戦争犯罪は、彼女の心配をはるかに超えました。

岩崎明日香
1月20日
 今日の「潮流」でご紹介いただいたモデル考については拙稿「宮本百合子『道標』の軍医・津山のモデルと戦争犯罪」(『民主文学』2020年2月号)で書きました。

 そうした対話が本当にあったのか、全くの創作かはともかく、面白い指摘だと思うので紹介しておきます。コメント欄でのご指摘がありますが、こうした記事が書かれると言うことは、仮に「岩崎氏の新発見ではない(過去にも同様の指摘がある)」としても、あまり知られてない事実ではあるのでしょう。
 道標 (小説) - Wikipediaによれば『道標』の連載は月刊誌『展望』1947年10月号から1950年12月号です。一方、731部隊の犯行が暴露された旧ソ連のいわゆる「ハバロフスク裁判」はハバロフスク裁判 - Wikipediaによれば1949年12月なので、「津山の登場する場面」が「ハバロフスク裁判後の連載」ならば「ハバロフスク裁判で知った事実」に基づき、創作がされた可能性があります。
 とはいえ対話が事実か創作かは「百合子や石井のドイツ滞在当時の日記に面会の記録がある」、あるいは逆に「ハバロフスク裁判を元に創作をしたという記述が『道標』執筆当時の百合子の日記にある」など、決定的な根拠が無ければ何とも言えません。なお、石井がドイツ留学していたこと、石井の留学時期に百合子がドイツ訪問していることは事実のようです。
 ちなみに第一次大戦でのドイツが「毒ガス兵器を本格的に使用した初めての国」と言われており、ドイツ人科学者フリッツ・ハーバー - Wikipediaハーバー・ボッシュ法アンモニアの合成法)で1918年のノーベル化学賞を受賞)は「毒ガス兵器の父」とも呼ばれました。そう言う意味で「津山(石井)」が「毒ガス兵器研究」のためにドイツ留学したのは自然な話です。また、731部隊というと「細菌兵器の人体実験」が一番有名ですが、731部隊 - Wikipedia731部隊(3)部隊関係者の論文群731部隊(17) 「きい弾(マスタードガス)」の実験などによれば「毒ガス兵器の人体実験」もやっていたようです。

*1:勿論、宮本百合子がモデル

*2:後述しますがそう言えるかどうかは何とも言えません。「百合子や石井のドイツ滞在当時の日記に面会の記録がある」など、面会の事実を裏付ける客観的な事実がない限り、この部分が「全くの創作の可能性」も否定できないからです。