広末涼子が出演した松本清張原作のテレビドラマ『地方紙を買う女』は、だいぶ原作とテイストが違うようだ、ほか(注:ネタばらしがあります)

 倍賞千恵子が主演した松本清張原作のテレビドラマ『顔』は、だいぶ原作とテイストが違った(ボーガス注:松本清張『顔』のネタばらしがあります)(追記あり) - bogus-simotukareのブログ関連記事であるとともに万引きとかの依存はここまでひどい - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)の関連記事でもあります。
 万引きとかの依存はここまでひどい - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)を読んで俺が思い出したのは松本清張の短編小説地方紙を買う女 - Wikipedia(1957年発表)ですね。
 速攻でネタバレしますが「地方紙を買う女=犯人」の犯行動機が「万引き依存症の女(別に貧乏なわけではない)が犯行現場をデパートの警備員に見つけられるが、警備員は悪党で、犯行を黙認する代わりに金と肉体関係を要求。渋々応じたものの次第に精神的に耐えられなくなり」云々つう物だったかと思います(今、手元に本がないのでうろ覚え)。小生は最初読んだときは万引依存症という設定に「どうも説得力を感じなかった(自分はそんな依存症では勿論ないので)」のですが万引きとかの依存はここまでひどい - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)を考えるに「昔からそういう女性も中にはいる」のでしょう。

<「地方紙を買う女」 その6 映画化> : のすたる爺の書斎から
 「地方紙を買う女」は、昭和34年12月に、『危険な女』という題で、日活で映画化された。監督は若杉光夫、芳子は渡辺美佐子、夫が下元勉、殺される男が大滝修治*1、真相を追求する作家杉本が芦田伸介と、劇団「民芸」のメンバーが並ぶ。
 「地方紙を買う女」は、(ボーガス注:テレビドラマとしては)昭和32年のNHK版から平成19年までに8本作られ、出演者は、藤野節子*2池内淳子*3、筑紫あけみ*4岡田茉莉子*5、夏圭子*6安奈淳*7小柳ルミ子*8内田有紀*9と多彩である。(ボーガス注:その後、2016年(平成28年)に今回ネタにする広末涼子版が作られています)

ということで何度かドラマ化されており小生は

地方紙を買う女 - Wikipedia「松本清張の地方紙を買う女・昇仙峡囮心中」 (1981年) - Samurai Spirit ※画像転載禁止 -参照
◆1981年版
 1981年11月14日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」(21:02-22:51)で放映。サブタイトル「昇仙峡囮心中」。
◆キャスト
 潮田芳子(犯人):安奈淳
 杉本隆治(探偵役の小説家。山梨県の地方紙『甲信新聞』に時代小説『野盗伝奇*10』を連載):田村高廣
 庄田咲次(被害者):室田日出男

を土曜アンコール劇場で見たことがあります。
 さて、今回はググって見つけた

地方紙を買う女 - Wikipedia参照
◆2016年版
 『松本清張ドラマスペシャル・地方紙を買う女〜作家・杉本隆治の推理』という題名で、2016年3月12日(21:00-23:06)、テレビ朝日にて、松本清張二夜連続ドラマスペシャルの第一夜として放送された。原作やテレ朝1981年版が山梨県昇仙峡を犯行場所としているのに対し石川県関野鼻を犯行場所としており、輪島市琴ヶ浜海岸などで撮影された。
◆キャスト
 杉本隆治:田村正和(探偵役。小説家。石川県の地方紙『金沢日々新聞』で推理小説「遠い記憶」を連載)
 潮田芳子:広末涼子*11(犯人。代議士秘書・潮田早雄の妻)
 田坂ふじ子:水川あさみ(杉本のアシスタント)
 潮田早雄:北村有起哉(代議士秘書、芳子の夫)
 庄田咲次:駿河太郎(被害者。東京のデパート警備員。芳子を恐喝していた)
 福田梅子:須藤理彩(被害者。庄田の愛人で恐喝の共犯者。東京のデパート店員)

という2016年版についての感想ブログにコメントしてみたいと思います。
 さて、

山梨県の地方紙『甲信新聞』に時代小説『野盗伝奇』(原作やテレ朝1981年版)→石川県の地方紙『金沢日々新聞』で推理小説「遠い記憶」を連載(2016年版)
◆犯行場所は山梨県昇仙峡(原作やテレ朝1981年版)→石川県関野鼻(2016年)

と改変されてるのは早速「何だかな」感がありますね。石川を舞台にした清張小説なら例えばヤセの断崖 - Wikipediaを舞台としたゼロの焦点 - Wikipedia(1959年)がありますからね。

地方紙を買う女 ~作家・杉本隆治の推理 - 悪意ある善人による回顧録

◆概要
 小説家の杉本(田村正和)は、地方紙・金沢日日新聞の連載が決まり、東京から金沢へ移住。自らの作家生命を賭け、連載小説「遠い記憶」の執筆に専念している。
 そんな折り、東京に住む芳子(広末涼子)という女性から「『遠い記憶』を読みたいので購読したい」という手紙が新聞社に舞い込んだことを聞かされる。
 数日後、芳子から「遠い記憶」がつまらなくなったから、と購読を断る手紙が送られてきた。小説は最近になって面白くなってきたはず。杉本は芳子の一連の行動に一つの決断を下した。
「この読者は、私の小説が読みたくて、新聞を購読したのではない」と。
 ならば、なにが目的で金沢日日新聞を購読したのか。杉本とふじこは、芳子が購読を希望した日付の新聞から詳細に読み返し、東京と北陸を結ぶある心中事件の記事を見つける。それは東京のデパート警備員・庄田(駿河太郎)と愛人でデパート店員の梅子(須藤理彩)の遺体が関野鼻で発見された、というものだった。
 芳子が読みたかった記事は、この心中事件に違いない。

 本作の感想に移ろう。
 主人公・杉本隆治は、作家人生を賭けて金沢に居を移して地方紙に小説を連載している人物である。彼自身は勝利に縁のない作家だと自虐していたが、転居先の家の豪華さや助手を雇っている現状から見て、金には困っていないように見える。それなりに成功した作家だといえる。
 そんな彼の連載小説が気に入ったから、新聞の定期購読がしたいという手紙が新聞社に送られてくる。金沢でしか普及していない地方紙を、東京に住む婦人がである。この不自然さから、杉本は女性が自分の小説が目当てではないとすぐに見破る。
 疑惑の女性・潮田芳子からの定期購読依頼があってからしばらくして、関野鼻という断崖絶壁の社屋で男女が心中遺体が発見される。この遺体発見の記事が出されると、芳子はすぐさま新聞社に手紙を送る。曰く、小説がつまらなくなったから新聞の定期購読をやめたい、という。
 彼女の発言に作家としてのプライドがいささか傷ついたのか、それとも推理作家としての好奇心がまさったのか、杉本は助手の田坂とともに心中事件について調べ始める。

 宮部みゆき責任編集『松本清張傑作短篇コレクション』(2004年、文春文庫)、宮部みゆきオリジナルセレクション『松本清張傑作選・戦い続けた男の素顔』(2013年、新潮文庫) の編者である宮部みゆきは確かエッセイで「普通に考えれば杉本の行為はおかしいが、小説家として私はその気持ち(自作小説に対するある種の自負、プライド)が分からないでもないし、杉本の行動は清張さんが日頃思ってることの表明だろう」「もちろん杉本の行動のおかしさがこの小説の面白さのメインなのだが(まともな根拠で捜査が始まるのではこの小説の面白さも減少する)」と言う趣旨のことを書いていたと記憶していますが、まあ、そうでしょうねえ。
 ファンの感想が作者の自分と違うからと言って「おかしい」「嘘をついてるんじゃないか」とか普通思わないんじゃないか。ましてや「何で嘘をついてるのか知りたい」とか思わないんじゃないか。「知ってどうするんだ」と言う話です。
 しかも小説においてもドラマにおいても「心中事件を偽装ではなく芳子の殺人」と杉本が疑う根拠は
1)芳子が読みたいといった時期が被害者の推定死亡時期
2)芳子が読むのを辞めたいといった頃に、地方紙に被害者の遺体発見と『心中の見込み、事件性なし』という警察の判断が報じられた
ということだけです。犯行動機は、杉本に追い詰められて*12自殺する芳子の遺書で初めて分かるのであって、それまでは芳子と被害者の関係性は全く分かりません。
 犯行時刻に犯行現場近くで彼女が目撃されたわけでもなければ、犯行現場に彼女の遺留品があったわけでも無ければ、犯行に用いた毒物の入手先がわかったわけでもない。
 およそ殺人扱いできる決定的根拠は何もない。
 しかし清張的には「杉本は自分の分身」であり杉本的な気持ちが非常に強い人間なんでしょうねえ。

 いろいろすっ飛ばして事件の真相を述べてしまうと、男女の心中事件は杉本の見立てどおり、芳子による殺人事件なのであった。
 この死んだ男女は愛人関係にあったらしいのだが、特に男の方が稀に見るクズ野郎なのであった。妻子がいる身でありながら、一緒に殺された女以外にも多くの浮気相手がいたらしい。デパートの警備員というとそこまで裕福な身分ではないと思われるのに、女をとっかえひっかえできるとは、その性欲の強さに恐れ入る。
 芳子はこの男女によって万引き犯の汚名を着せられ、弱みを握られてしまう。政治家秘書の妻であった芳子は男女の理不尽な要求を断ることができず、芳子はついに男に身体を許してしまう。
 とはいうものの、そこに至る前に芳子の幸せは既に失われていたのだから、泣きっ面に蜂状態だったとも言える。というのも、芳子は政治家秘書の夫である実母の介護をするために、夫と15年間も離れて暮らしていたという。それもう夫婦としては破綻しているのではないかと視聴者としては思われるのだが、それでも芳子は夫を愛していたらしい。しかし芳子は、義母の介護をするために子どもを堕胎するように夫に頼まれてしまい、しかも堕胎手術が失敗したことによって二度と妊娠できない身体になってしまったというのだ。
 正直、不幸が重なりすぎていつ自殺してもおかしくないほどの状況だったと思うのだが、それでも芳子は耐えていた。身寄りのなかった芳子は、いつか夫と二人で暮らせる日を夢見ていたのである。
 しかし、芳子にたかるクズ男とその愛人の要求は度を越していき、ついには一生付き纏ってやるとまで言い放った。そこでついに、芳子の堪忍袋の緒が切れたのである。

 「大幅に原作改変してるなあ」感がありますね。 倍賞千恵子が主演した松本清張原作のテレビドラマ『顔』は、だいぶ原作とテイストが違った(ボーガス注:松本清張『顔』のネタばらしがあります)(追記あり) - bogus-simotukareのブログでの倍賞千恵子と同じパターンでしょうが、「万引き依存症」て
1)万引き依存症ではなく、デパートの警備員と店員がグルになっての万引きでっち上げ
2)義母の介護や堕胎手術の失敗で、それ以前から精神ズタボロ→その結果、不当な要求に応じてしまった(これはこのドラマのオリジナル設定で原作にはない)
なんて設定に改変しないと「視聴者に同情してもらえない(そして広末のイメージに傷が付く?)」ほどの「悪行」なんでしょうか。
 そしてデビュー当時の広末ならともかくこの頃(2016年)の広末ですら未だに「清純派扱い(万引き依存症設定などもってのほか)」なんでしょうか。
 いや視聴者はともかく制作サイドはそういう認識なのでしょうが、「いや万引き依存症より、『どんな事情があるにせよ』殺人の方が罪として重いやろ」「広末ってもう清純派と違うやろ」感があります。
 そして、このドラマにおいては「殺人犯ではあるが恐喝被害者」広末よりもむしろ「被害者ではあるが恐喝犯」須藤の方が「同情の余地のない悪人」として描かれるわけです。
 まあ、須藤もブレイクしたのはNHK連続テレビ小説天うらら』(1998年)で清純派扱いだったのが、やはり年をとれば「芸の幅を広げよう」と悪役もやるわけです。広末や倍賞千恵子みたいに全然、悪人役をしない人も一方ではいますが。

 自分が脅迫している女が企画した温泉旅行*13にほいほいついて行って、出された食事に何の疑いもなく手を伸ばすなんて、毒を盛られているとは一片も考えなかったのだろうか。まあ、それほど相手を下に見れる人間でなければ他人を脅迫なんてできるはずもないのだが。

 まあ、これは2016年版だけでなく、原作や1981年版でも思うことですね。

 このクズ野郎が心中したと報じられたことによって、男の子供たちは絶望しているという。お父さんは自分たちのことなど考えないで、他所の女の人と死んでしまったのだ、という具合に。しかし父親が自殺ではなく他殺だったのなら、子どもたちにとっての救いになるとは妻の発言である。
 これは、正直どうなのだろう。確かに心中というと外聞が悪いけれど、他殺も犯行動機如何では相当に外聞が悪いと思われるのだが。何せ殺された理由が、「(ボーガス注:デパート警備員の権限を悪用して、万引きをでっち上げて)何の罪もない婦人を(ボーガス注:罠にはめたあげく、肉体関係や金銭提供を強要し)骨の髄まで脅迫しつづけたから」である。自分の父親がそのような極悪人だったと知った子供たちは、心中したと聞かされた以上の絶望を覚えるのではないか。

 実は原作や1981年版には「被害者男性の家族」は出てこないのでこれは2016年版オリジナルです。しかしこのブログ主が言うように「恐喝相手から殺された」なんてむしろ「自殺の方がまし」の気がしますよねえ。
 しかも原作は「万引き依存症」*14であり犯人女性にも一定の非があるのに対し、(広末の清純派イメージに忖度して原作を改変したのか)2016年版は「警備員による捏造、でっちあげ」ですから。

 話が脱線してしまった。まとめに入りたいと思う。
 今回、(中略)芳子を広末涼子氏が演じていた。
 芳子役の妖艶な演技が非常に怖かった。なんというか、目が普通じゃないというか、油断したら取り殺されそうな迫力があった。なんにせよ、名演だったことに疑いはない。
 およそ2時間ほど、楽しませてもらった。

 機会があったら見たいとは思います。

*1:テレ朝『特捜最前線』(1977~1987年)の人情刑事役でブレイクするまでは大滝氏はこのように悪人役も多いです。ただしテレ朝『特捜最前線』の人情刑事役で善人イメージが強まってからは彼は悪人役を全くやらなくなりますが

*2:1957年(昭和32年)のNHK

*3:1960年(昭和35年)のKRテレビ(今のTBSテレビ)版

*4:1962年(昭和37年)のNHK

*5:1966年(昭和41年)のフジテレビ版

*6:1973年(昭和48年)のフジテレビ版

*7:1981年(昭和56年)のテレビ朝日

*8:1987年(昭和62年)のフジテレビ版

*9:2007年(平成19年)の日本テレビ

*10:清張は『地方紙を買う女』(1957年)発表の1年前(1956年)に地方紙に『野盗伝奇』(現在は中公文庫で入手可能)という小説を連載しており、明らかに杉本は清張の分身として描かれている。

*11:田村と広末はこのドラマ以前にもTBSオヤジぃ。 - Wikipedia(2000年、親子役)、TBSおとうさん (テレビドラマ) - Wikipedia(2002年、親子役)で共演している(田村正和 - Wikipedia参照)。

*12:とはいえ杉本の推理には「決定的な根拠は何もない」ので正直、自殺する必要性に乏しい気もしますが。

*13:原作や1981年版では石川県への温泉旅行ではなく山梨県昇仙峡へのハイキングですが

*14:追記:1981年版を見たのにも関わらず「動機設定をすっかり忘れていましたが」1981年版は「松本清張の地方紙を買う女・昇仙峡囮心中」 (1981年) - Samurai Spirit ※画像転載禁止 -によれば、「被害者の男=ヤクザのヒモ」という設定なので、2016年版同様、「原作(万引き依存症)よりも芳子の落ち度は少ない」。しかも2016年版が「でっちあげ」と改変してるとは言え、「万引き」という原作設定に忠実なのに対して、「万引き」が出てこない1981年版の方がもっと大幅に改変しているわけです。