新刊紹介:「経済」2021年8月号

「経済」8月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
◆随想『健康で文化的な生活とは何か』(浜岡政好*1
(内容紹介)
 中村美帆*2『文化的に生きる権利:文化政策研究からみた憲法第二十五条の可能性』(2021年、春風社)を題材に浜岡氏の考えが述べられていますが、俺の無能さから詳細な紹介は省略します。
「健康で文化的な(最低限度の)生活=憲法25条」ですね。以下、浜岡氏の「論文紹介」というよりは俺の愚論を書いていきますが「健康な生活」は比較的「容易」に定義できるかもしれない。厄介なのは「文化的な生活」ですね。
 例えば今や「高校卒業」は「一般化しています」が、昔はそうではなかったわけです。「現在における文化的生活」と「昔の文化的な生活」はイコールではあり得ない。


世界と日本
◆2年ぶりのG7サミット(金子豊弘)
(内容紹介)
 G7サミットにおいてバイデン政権が「中国への対決姿勢」を示したことについて、「バイデン政権による九条改憲圧力」が強まるのではないかと警戒の念を示している。


国際石油資本エクソン(山脇友宏)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

“今の気候変動対策が不十分” アメリカ巨大石油企業が敗北 | NHK
 スーパーメジャーと呼ばれるアメリカの巨大石油企業「エクソンモービル」が、ごくわずかの株式しか持たない新興の投資会社に“歴史的な敗北”を喫しました。投資会社が行った株主提案が、会社側の反対にもかかわらず多くの株主の賛同を集め、取締役を送り込むことに成功したのです。カギになったのは、世界的に機運が高まる気候変動対策でした。
◆生徒
 気候変動対策に対する株主の意識の高まりを感じますね。
◆先生
 エクソン株主総会と同じ26日には、スーパーメジャーに気候変動対策の強化を促すもう1つの動きもありました。
◆生徒
 どういったことでしょうか?
◆先生
 オランダの裁判所が、ヨーロッパの石油大手「ロイヤル・ダッチ・シェル」に対し、2030年までに二酸化炭素の排出量を2019年と比べて45%削減するよう命じる判決を言い渡したんです。裁判は、会社の気候変動対策が不十分だとして、2年前に環境団体や市民が起こしていました。

石油の巨人に「脱炭素」の外圧 エクソンに物言う役員: 日本経済新聞
 石油の巨人が脱炭素の圧力に揺れている。米エクソンモービルの26日の株主総会で、物言う株主が推薦した取締役候補2人が選任された。オランダの裁判所は同日、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに温暖化ガスの大幅削減を求める異例の判決を下した。環境対策で後れを取る石油メジャーの経営に「No」を突きつけた形だ。

石油メジャーも直撃する脱炭素の波 投資家が迫る変化:朝日新聞デジタル
 国際的な大手石油会社に「脱炭素」の波が押し寄せている。米エクソンモービル株主総会で環境派とされる3人が取締役に選ばれた。欧州のロイヤル・ダッチ・シェルはCO2(二酸化炭素)の排出量を2030年までに19年比で45%減らすよう司法に命じられた。石油メジャーとして力を誇った欧米各社は、事業の見直しを迫られている。
 (ボーガス注:米エクソンモービルの)5月下旬の株主総会では環境対策の強化を求める投資ファンド「エンジン・ナンバーワン」が、独自に取締役候補4人を提案した。


◆建設アスベスト最高裁判決(井上聡
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
建設石綿 国・企業に責任/4訴訟 最高裁、初の判断/「一人親方」救済も決着2021.5.18
主張/建設石綿の被害/一人も取り残さぬ救済制度を2021.5.24
メーカー含む基金要求/建設石綿被害 山添氏「国が力尽くせ」/参院決算委2021.5.26
メーカー参加求めよ/宮本氏 建設石綿被害の基金2021.5.27
企業も補償基金 拠出を/建設石綿訴訟 全面解決求め集会2021.6.17


特集「バイデン政権とアメリカ資本主義」
◆座談会『動き出すアメリカとバイデン政権』(中本悟*3、佐藤千登勢*4、宮崎礼二*5、本田浩邦*6
(内容紹介)
 以下のような指摘がされている。
1)経済政策としては「中間層の復興」「製造業の復興」をバイデン政権が掲げている点、「中間層の復興」においてトランプ新自由主義とは逆に「法人税引き上げ」「貧困者への現金給付」など社民的政策が打ち出されている点が注目される(「中間層の復興」「製造業の復興」については今月号の井上論文『製造業は復活するか:多国籍企業の動態とアメリカ経済』、田村論文『「中間層」の再興ははかれるか:現代アメリカの経済格差』でも触れられている)。
2)外交施策では「中国との対決姿勢」がバイデン政権においても維持されている点が注目される。この点をどのように理解し評価するかは現時点では難しいが、バイデン政権について適切な理解をするにおいては重要な点である。「中国との対決姿勢」については今月号の布施論文『米中覇権争いと日米同盟:「抑止力」強化と台湾有事論』でも触れられている。
3)共和党において「反トランプ派のチェイニー下院院内総務*7(チェイニー元副大統領の娘)」がトランプ派によって執行部から追放*8されるなど、共和党がトランプ落選後も「トランプ私党」として「白人至上主義政党」「トランプの『バイデン不正選挙論』というデマを容認する陰謀論政党」と化している点をどう評価するかが今後の米国政治評価において重要。
 このまま共和党が「トランプ私党」「白人至上主義政党」の道を歩み続けるのか。それとも「選挙での共和党敗北」を契機とした「反トランプ派」の反撃があるのか。「共和党が白人至上主義政党化」しても「バイデン政権への失望」から、「4年後の大統領選で民主党が敗北し、共和党が政権を奪還してしまう」という「悪夢」が起こりうるのか(勿論起こってほしくないが)といった点をどう評価するか。
 

◆製造業は復活するか:多国籍企業の動態とアメリカ経済(井上博*9
(内容紹介)
 産業空洞化を克服し「米国国内での製造業の回復」を目指すとするバイデン政権について、「そうした政策はまだ具体化されておらず」判断は困難とした上で、「(米国に限らず)どこの国においても空洞化克服が困難であること」「米国企業が既に海外に生産拠点を築き上げていること」などを指摘し、「米国国内での製造業の回復」実現が「厳しい道になるであろう事」を指摘している。


◆「中間層」の再興ははかれるか:現代アメリカの経済格差(田村太一*10
(内容紹介)
 「中間層」再興の手段としてバイデン政権が社民主義的施策を打ち出していることを指摘。しかしこれらについては「共和党や大企業の反発」が予想され、険しい道になるだろうとしている。


◆巨大デジタル資本の支配と規制(水野里香*11
(内容紹介)
 バイデン政権が「巨大デジタル資本(いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など)」への法的規制を強める方針を示していることを指摘。しかしこれらについては「共和党や大企業(GAFAに限らない)の反発」が予想され、険しい道になるだろうとしている。

参考

米独禁当局トップにIT規制派 GAFA監視強化―バイデン政権:時事ドットコム2021年06月16日
 バイデン米大統領は15日、米独占禁止当局である連邦取引委員会(FTC)の委員長に米コロンビア大学准教授のリナ・カーン氏(32)を指名した。カーン氏は反トラスト法(独禁法)の強化を唱える女性学者で、米グーグルなど「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業に対する監視が強まりそうだ。


◆経済のデジタル化と国際租税協調(篠田剛*12
(内容紹介)

主張/国際課税の協議/抜け穴ふさぐ公正なルールを2021.3.7
 国境を越えて活動する大企業が巨額の利益をあげながら課税を逃れている問題で、国際課税の新しいルールをつくる交渉に進展の見通しが出てきました。米国のトランプ前政権の妨害が障害となって協議が難航していましたが、バイデン新政権が方針転換を打ち出したためです。

ということで「米国第一主義」を打ち出したトランプが「米国企業の利益に反する国際租税改革(つまり米国企業が増税になる改革)には応じない」という態度だったのに対し「国際協調」を重視するバイデン政権が方針変更し、「何らかの妥結がされる見通し」であることが触れられています。なお、これを単純に「米国企業の利益をあえて犠牲にするバイデン」と評価することは適切ではありません。
 バイデン政権としては
1)米国企業の利益は大事だが、EU諸国と対立して「米国は自分勝手だ」と非難されて米国の評判を落とすことは国益に反する
2)妥結できず、何のルールもできないことこそが一番国益に反する
という評価から妥結に動いたわけです。


◆米国気候政治の新展開:トランプからバイデンへ(伊与田昌慶*13
(内容紹介)
 トランプ落選によって、米国が「温暖化協定に復帰したこと」がまずは好意的に評価されています。


◆農村部から見るアメリカ:バイデンは米国社会の歪みを正せるか(薄井寛*14
(内容紹介)
 農村部では未だにトランプ支持が強く、バイデンが勝利した大統領選でも、農村部ではトランプが多数の票を獲得したことを指摘。農村部での「堅いトランプ支持」をどう崩していくかが、今後のバイデンの課題としている。要するに「衰退する農村経済の立て直し」という話ですが。


◆米中覇権争いと日米同盟:「抑止力」強化と台湾有事論(布施祐仁*15
(内容紹介)
 米中対立による「台湾有事」などの不測の事態が起こることについて危惧を表明。日本がEUASEAN、韓国など関係各国と連携し「米中対立の危険性を助教する方向」で動くことを主張している。


◆安倍・菅政権に振り回された日本銀行:「リフレ派」が破壊した金融政策(佐々木憲昭*16
(内容紹介)
 いわゆる「リフレ派の金融政策(いわゆる異次元の金融緩和)」について「景気を良くした」とはとても言えず、日銀の独立性を損なうなどの弊害しかなかったと批判している。
参考
主張/異次元緩和の継続/ゆがんだ金融政策は転換せよ


◆日本農業の歴史的危機と新自由主義を考える(柳重雄*17
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で大体。
主張/日本農政の転換/持続可能な農業こそ未来開く2021.1.15
農政 家族農業主役に/農民連新役員と志位委員長が懇談2021.3.25
家族農業守る農政に/全国食健連が農水省要請2021.5.21

*1:佛教大学名誉教授

*2:静岡文化芸術大学准教授

*3:立命館大学特任教授。著書『現代アメリカの通商政策』(1999年、有斐閣)、『ウォール・ストリート支配の政治経済』(編著、2020年、文眞堂

*4:筑波大学教授。著書『アメリカ型福祉国家の形成:1935年社会保障法ニューディール』(2013年、筑波大学出版会)、『アメリカの福祉改革とジェンダー』(2014年、彩流社)、『フランクリン・ローズヴェルト』(2021年、中公新書

*5:明海大学准教授。著書『現代アメリカ経済分析』(中本悟との編著、2013年、日本評論社

*6:獨協大学教授。著書『アメリカの資本蓄積と社会保障』(2016年、日本評論社)、『長期停滞の資本主義』(2019年、大月書店)

*7:院内総務は日本の国対委員長に当たる重要ポスト。

*8:これについて「チェイニーが追放されて嬉しい。トランプこそがこれからも共和党の最高指導者であるべきだ(俺の要約)」とツイッターで放言した「トランプ盲従分子」の一人が島田洋一です。島田は正気じゃありませんね。

*9:阪南大学教授。著書『アメリカ経済の新展開』(共著、2008年、同文舘出版)

*10:流通経済大学准教授。著書『現代アメリカの経済社会』(共著、2018年、東京大学出版会

*11:横浜国立大学非常勤講師

*12:立命館大学准教授

*13:NPO法人気候ネットワーク主任研究員。大阪成蹊大学非常勤講師。著書『地域資源を活かす温暖化対策』(共著、2011年、学芸出版社

*14:JA全中全国農業協同組合中央会)広報部長、日本農業新聞常務取締役、JC総研理事長など歴任。著書『2つの「油」が世界を変える:新たなステージに突入した世界穀物市場』(2010年、農山漁村文化協会)、『歴史教科書の日米欧比較:食料難、移民、原爆投下の記述がなぜこれほど違うのか』(2017年、筑波書房)、『アメリカ農業と農村の苦悩』(2020年、農山漁村文化協会

*15:著書『北の反戦地主・川瀬氾二の生涯』(2009年、高文研)、『日米密約 裁かれない米兵犯罪』(2010年、岩波書店)、『ルポ・イチエフ:福島第一原発レベル7の現場』(2012年、岩波書店)、『災害派遣と「軍隊」の狭間で』(2012年、かもがわ出版)、『経済的徴兵制』(2015年、集英社新書)、『日報隠蔽:自衛隊が最も「戦場」に近づいた日』(共著、2020年、集英社文庫

*16:衆院議員。現在、日本共産党名誉役員。著書『暮らしのなかのエネルギー危機』(1981年、新日本新書)、『転換期の日本経済』(1983年、新日本出版社)、『おしよせる大失業:財界の21世紀戦略と産業空洞化』(1987年、新日本ブックレット)、『変貌する財界:日本経団連の分析』(2007年、新日本出版社)、『財界支配:日本経団連の実相』(2016年、新日本出版社)、『日本の支配者』(2019年、新日本出版社)など

*17:埼玉食健連(農林業と食糧を守る埼玉連絡会)会長。弁護士