岸田首相記者会見(12/21)で拉致の風化を改めて実感(追記あり:12/22や12/23の岸田講演でも拉致の風化を実感)

令和3年12月21日 岸田内閣総理大臣記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
 かなり長くなりますが、まずは引用です。

【岸田演説(一部抜粋)】
 本日の会見では、私が所信表明を行った後に政策の方針や実行面で進展があった7項目について簡潔に説明をいたします。
 第1に、水際対策です。
 第2に、国内における感染封じ込め対策の強化です。
 第3に、予防・検査・早期治療のための包括強化策です。
 第4に、新型コロナでお困りの方への支援です。
 第5に、新しい資本主義です。
 第6に、外交・安全保障です。来年は、積極的に首脳外交を推し進める1年にしたいと思っています。先般、オンラインで開催された民主主義サミットに参加いたしました。自由、民主主義、人権、法の支配といった我々が大切にする基本的価値を損なう行動に対して、同志国が一致してワンボイスで臨んでまいります。
 日程は調整中ですが、バイデン大統領と早期に会談を行い、日米同盟の抑止力、対処力を一層強化していくとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を新たなレベルに引き上げてまいります。
 経済面では、私が掲げる新しい資本主義の考え方を説明し、ビルド・バック・ベターを掲げるバイデン大統領との連携を深め、グローバルな議論をリードしてまいります。
 私が目指す核兵器のない世界の礎石と言うべきNPT(核兵器不拡散条約)の運用検討会議が、7年ぶりに、年明け1月4日から、ニューヨークにおいて開催されます。極めて重要なこの会議を成功させるために、我が国として全力を尽くしてまいります。
 先般のアフガニスタンにおける経験を踏まえ、海外で邦人が危機に晒(さら)された際の輸送に万全を期すため、自衛隊法の改善について検討を指示いたしました。
 第7に、憲法改正です。

 拉致が関係するとしたら「第6」でしょうが、第6にはご覧の通り「拉致」という言葉は出てきません。これでよくもまあ、岸田も「拉致が最重要課題」といえたもんです。
 まあ

私が所信表明を行った後に政策の方針や実行面で進展があった7項目

と言ってるので「所信表明後、今に至るまで、拉致には何の進展もなかったから」と岸田は言い訳するかもしれませんが(苦笑)。
 次に質問を見てみましょう。岸田の回答は省略します。どれ一つとして拉致についての質問などありません。拉致の風化を改めて実感します。

【質問(一部抜粋)】
(記者)
 西日本新聞の古川と申します。
 10万円の給付をめぐっては、やはり地方や現場は混乱した感は否めないと思います。総理は「聞く力」を掲げておられますけれども、より制度設計に入る前、もしくはもっと早く「聞く力」を発揮することはできなかったのでしょうか。

記者)
 幹事社のNHKの長谷川と申します。
 冒頭でも触れられました水際対策についてお伺いします。当面の間、現在の水際対策を延長されるとおっしゃられましたけれども、これは現状どの程度まで延長するお考えでしょうか。
 それから、北京オリンピックへの対応に関しまして、現在、(ボーガス注:いわゆる外交ボイコットで)政府関係者を派遣しないと表明する国が相次いでおりますけれども、改めまして日本政府としての対応をお伺いしたいと思います。

(記者)
 毎日新聞の小山です。
 10万円相当の給付、(中略)世論の中でばらまき批判とか財政規律の緩みを懸念する声が増え始めています。6月の骨太の方針ではプライマリーバランスの黒字化目標について、今年度中に2025年度の黒字化目標を再確認するというふうにしていますけれども、この再確認するというのは、よほどのことがない限りこの目標年度に沿って、目標年度を確認するために検証作業をするということでしょうか。

(記者)
 朝日新聞の池尻です。
 今国会中に森友問題をめぐる改ざんの問題で、近畿財務局に勤められていた赤木さんの御家族が起こしていた損害賠償の訴訟について、国は一転して賠償責任を認めました。御家族の願いは真相究明にあったと思います。今回の決定は御家族の中には落胆の声が上がっています。首相はこれまで政治的に説明が必要であるなら説明をするとおっしゃってきました。今後も首相は自ら対応されるおつもりはないのでしょうか。

(記者)
 TBSの室井です。
 訪米について、バイデン大統領との会談について意欲を示されましたけれども、(中略)通常国会までに決まらない場合、他の国との会談を考えているのか、あるいはアメリカをあくまで優先させるのかということも教えてください。

(記者)
 ウォール・ストリート・ジャーナルのランダースと申します。
 経産省の消費・流通政策課長を務めている中野さん*1という方が、自国通貨を創造できる国家には歳出の予算制約はないと、高いインフレではない限りは財政赤字自体には何の問題もない*2と言っています。総理はこの中野さんの論理について正しいと思いますか。

(記者)
 中国新聞社の下久保です。
 被害者が望んでいる核兵器禁止条約の締約国会議オブザーバー参加についてですが、先日、アメリカ政府のほうから日本政府のほうにオブザーバー参加しないようにという要請があり、日本政府もこれに同調したと報じられています。この事実関係についてお伺いしたい

(記者)
 テレビ朝日の山本です。
 来年は日中国交正常化50周年の節目の年でもあります。総理は先ほど、来年は首脳外交を進める1年にしたいとおっしゃっていましたけれども、習近平主席との会談、あるいはその日中関係、これについては今後どういうふうに進めていくお考えでしょうか。

(記者)
 日本経済新聞社の秋山です。
 政府はGDP(国内総生産)600兆円を目指すという目標があったかと思うのですけれども、これについては今どのようにお考えで、目指すのであればいつ頃を目標とされるのか、その辺を教えてください。

(記者)
 共同通信の手柴です。
 来年夏には参院選が予定されていると思うのですけれども、総理は参院選の目標、勝敗ラインをどのようにお考えか

(記者)
 河北新報社の桐生と申します。
 本日、内閣府日本海溝・千島海溝地震について被害想定を公表しました。最大で19万人が亡くなるという被害であって、ただ、一方で津波避難タワーを整備することで大体8割の被害を抑えることができるとされています。ただ、現行の特措法では、こういったタワーなどを整備する財源というものが裏付けがございません。こういった財源措置には特措法の改正というのが必要になってくると思うのですけれども、来年の通常国会で取り組むお考えはありますでしょうか。

(記者)
 京都新聞の国貞と申します。
 一票の較差を是正するいわゆる衆議院小選挙区の10増10減についてお伺いします。
 人口の多い東京など首都圏を中心に5都県で定数が10増える一方、宮城とか滋賀とか、あと総理の地元である広島とか、10県では各1ずつ減るということになるため、地方の声がより国政の場に届きにくくなるのではないかというような指摘もあります。
 地方選出の国会議員が減っていくということになれば、一段と過疎化が進んだり、都市と地方の偏在というものが進む懸念もあるわけですけれども、そういう危惧について総理はどのようにお考えでしょうか。

(記者)
 フリーランス江川紹子*3と申します。
 さっきの中国新聞の方の質問のお答えがちょっとよく分からなかったので、ちょっと確認をしたいのが1つあります。
 それは、核兵器禁止条約のオブザーバー参加の問題で、まずはアメリカと信頼関係を構築していくということをおっしゃったのですけれども、なぜオブザーバー参加をするとアメリカとの信頼関係が構築できないのかというのがよく分からなくて、ドイツができるのに日本の岸田首相ができないはずがないというふうに思うのですけれども。
(中略)
 首相補佐官に国際人権問題担当の方も置かれたということもありました。
 (ボーガス注:入管での人権侵害など)日本の人権、国内の人権状況についてどうお考えになるのか。そして、国内の人権問題担当の補佐官も置いて、国内の人権についての施策をより重視していくというお考えはないでしょうか。

(記者)
 ラジオフランス及びリベラシオン新聞、西村と申します。
 水際対策について質問させていただきます。1年8か月前からほとんどの外国人、留学生は日本に入国できません。彼らにとっては、もう限界です。なぜ、例えば施設で1か月隔離、ワクチンパスポート、毎日PCR検査など厳しい条件をつけて、入国を認めませんか。物理的に不可能でしょうか。

【12/23追記】
 その後行われた岸田の講演

令和3年12月22日 読売国際経済懇話会(YIES)講演会 岸田内閣総理大臣講演 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ(12月22日:読売新聞主催)
令和3年12月23日 2021特別講演会 | 令和3年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ(12月23日:日経新聞テレビ東京主催)

にも「コロナ対策」「新しい資本主義」「デジタル田園都市構想」などは出てきても、「拉致」は一言も出てこず、当然、これらの講演を報じた

【12月22日講演】
岸田首相 コロナ禍乗り越え参院選勝ち抜く 都内で講演 | 選挙 | NHKニュース
希望者全員にコロナ無料検査 オミクロン株、拡大懸念地域で―岸田首相:時事ドットコム
「デジタル推進委員」全国に1万人 産業空洞化へ対処―岸田首相講演:時事ドットコム
岸田首相、「新時代リアリズム外交」推進(時事通信) - Yahoo!ニュース
日米基軸に主体的外交実現したい、中国と対話は必要=岸田首相 | ロイター

【12月23日講演】
新型コロナ: 首相、経済成長に「人へ投資」 グリーンやデジタルも: 日本経済新聞
日銀の努力に期待 物価目標実現で―岸田首相:時事ドットコム
首相 オミクロン株 大阪京都など念頭 無症状でも無料検査へ|NHK 関西のニュース

にも「記事タイトル」にも「記事本文」にも「拉致」なんか出てきません。
 「拉致は最優先課題」とは「家族会、救う会と面会したときだけに出てくるリップサービス」に過ぎないことは明白です。

【12/25追記】

令和3年12月23日 内外情勢調査会全国懇談会 岸田内閣総理大臣講演 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
 最重要課題である拉致問題については、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく全力で取り組みます。

 一応令和3年12月23日 内外情勢調査会全国懇談会 岸田内閣総理大臣講演 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページでは拉致が出てきましたが、これだけです。実に中身がない。
 なお、他にもコメントしておきます。

 私が育ってきた宏池会(こうちかい)は、リアリズムの外交を掲げてきました。日中国交正常化の大平外交。PKO(国連平和維持活動)法を作った宮澤政権*4

 「日中国交正常化の大平外交」というなら流れ的に「天皇訪中の宮沢政権」でしょうに。
 なお「PKO法の是非」はともかく、米国の要望に応えてPKO法を成立させた宮沢政権は「岸政権」「中曽根政権」「安倍政権」等と比べれば、ハト派とは言え「PKO法は違憲」と言う立場ではないこと(『左派の護憲』とは大分立場が違うこと)に注意が必要ですね。これは他の宏池会政権(池田、大平、鈴木)も同じですが。ただし過去の宏池会政権は「明文改憲」を主張したことはないので、岸田がどう強弁しようともその点で明らかに岸田は「過去の宏池会政権」とは違います。「安倍の支援を受ける政権」と言う「岸田の限界」でしょう。
 また、「安倍が未だにでかい面をする」からでしょうが、ここで「河野談話の宮沢政権(宮沢首相も河野官房長官宏池会)」と言わないのが興味深い。あの談話も「日韓関係の問題を解決したい」と言う意味で「ある種の現実主義」だったのですが。

 来年、自民党は、全国で、自民党が掲げる改憲4項目を中心に、憲法改正に関する国民との車座対話を進め、国民的な議論を喚起していきたいと考えています。
 自民党が掲げている4項目、これはどれも現代的な課題ばかりであり、国民にとって大きな関心事であるはずだと思っていますが、その辺りを丁寧に国民に示していきながら、憲法改正について、議論を進めていくことが重要であると思います。

 ここで注目したいのは岸田が
1)「国民的な議論を喚起したい」というにとどまり改憲したいとは明言しないこと
2)「現代的な課題」「国民にとって大きな関心事」と言いながら「改憲四項目」が何か、具体的に説明しないこと(当然、なぜ「現代的な課題」「国民にとって大きな関心事」と岸田が主張するのかという理由についても説明など無い)
ですね。
 「改憲四項目が何かは過去の自民党文書を読めば分かる」というのは不親切すぎるでしょう。実際、岸田はこの演説において「改憲四項目」以外は「それなりの説明」をしています。
 つまり岸田はここで「改憲四項目」に触れることで護憲派の批判を招くことを恐れてるとみるべきでしょう。
 なお、自民改憲4項目 そろって「推進」/総裁選4候補表明などによれば改憲四項目は1)「自衛隊の明記」、2)「緊急事態条項創設」、3)「参議院の合区解消」、4)「教育の充実」です。
 1)については「自衛隊の国軍化であり支持できない」、2)については「地震や新型コロナなどにおいて緊急事態条項など必要ない」、3)については「合区解消には改憲は必要ない(例えば共産党が主張する比例区の採用)」、4)については「教育予算を大幅に増加すれば良いだけで改憲の必要が無い。そもそも国立大学予算など教育予算を『財政難』を理由に削減し続けた自民党が何を言っているのか!」などの批判がそれぞれあります。
 なお、改憲四項目の「最大の肝」はやはり「自衛隊」でしょうが「参議院の合区解消」、「教育の充実」など、他の物(それも九条改憲反対派の一部が賛成しそうなこと)に混ぜ込むことによって、「改憲の危険性をごまかそうとしていること」は「それなりに狡猾」といえるでしょう。

*1:1996年、通商産業省に入省。現在、経済産業省商務情報政策局消費・流通政策課長。著書『国力とは何か』(2011年、講談社現代新書)、『TPP亡国論』(2011年、集英社新書)、『日本思想史新論』(2012年、ちくま新書)、『保守とは何だろうか』(2013年、NHK出版新書)、『反・自由貿易論』(2013年、新潮新書)、『世界を戦争に導くグローバリズム』(2014年、集英社新書)、『資本主義の預言者たち』(2015年、角川新書)、『経済と国民』(2017年、朝日新書)、『真説・企業論』(2017年、講談社現代新書)、『日本の没落』(2018年、幻冬舎新書)、『日本経済学新論』(2020年、ちくま新書)、『小林秀雄政治学』(2021年、文春新書)など(中野剛志 - Wikipedia参照)

*2:いわゆるMMT理論のこと

*3:著書『私たちも不登校だった』(2001年、文春新書)、『人を助ける仕事』(2004年、小学館文庫)、『勇気ってなんだろう』(2009年、岩波ジュニア新書)、『名張毒ブドウ酒殺人事件』(2011年、岩波現代文庫)、『「カルト」はすぐ隣に:オウムに引き寄せられた若者たち』(2019年、岩波ジュニア新書)など

*4:池田政権、鈴木政権について名前を挙げないのは「リアリズム外交」として宣伝しやすいネタが無いという評価なのでしょう。