三浦小太郎に突っ込む(2022年7月6日分)

ラグタイムララバイ(三浦小太郎)のアマゾン書評

◆熊倉潤*1新疆ウイグル自治区中国共産党支配の70年*2』(2022年、中公新書)
 本書最終部のこの言葉は、確実に現在の中国政府の政策が、民族の精神と歴史を抹殺するものであることを指摘しています。その部分を引用します。
「(ウイグル人はじめ現地ムスリムは)中華民族として生まれ変わって、生きていかなければならないことになる。反発したり抗議することは許されない。ましてや独立を企んだりしてはならない。中華民族の一員として、祖国中国を賛美し、漢人と団結していかなければならない。政権側は、(ボーガス注:政府に協力的と評価した?)選別された現地ムスリムには社会的上昇の道を与える。そこに飛びつく人も出てくる。」

 この引用(特に赤字部分)だけでも熊倉本がウイグル統治を「飴と鞭」と認識していることが分かります。
 統治という物は通常、鞭だけではやっていけない。
 そして「熊倉氏ではなく」、「飴があっても所詮、鞭とセット」と中国批判する「ダブスタの三浦」に呆れます。
 それは三浦らウヨが美化する「日本の植民地支配(台湾、朝鮮)」にも該当することではないのか。まさか三浦は「日本の統治は飴オンリー」あるいは「鞭で叩いたのは事実だが、鞭で叩かれるような反日行為をするからだ。中国とは違う」とかいう気なのか。
 日本の植民地支配は「近代化した」「恩恵を受けた人もいる」で美化する三浦らウヨが「中国のウイグル統治」についてはそのような美化をしないのは全くもって醜いご都合主義です。
 なお、「熊倉本を未読」なので何とも評価できませんがいくつか「俺的に興味深いアマゾンレビュー」をいくつか紹介しておきます。
 またぐぐって見つけた熊倉論文も紹介しておきます。

父親の英断はどこへ? 習近平の少数民族統治を阻む「壁」 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)2022.5.19(熊倉潤)
 2009年にウルムチ*3騒乱が起こると、その前年のチベット・ラサ*4暴動もあって、新疆、チベットの問題が深刻であることは誰の目にも明らかとなった。さらに新疆の少数民族が実行したとされる事件が、2013年に北京の天安門で、14年に雲南省昆明*5駅で発生すると、内地の世論の突き上げも強まった。極め付きは2014年の習近平*6主席の新疆視察にあわせて起こったウルムチ南駅爆発事件であった。これを受けて政権は新疆の少数民族に対し容赦ない攻勢に打って出た。それが「テロリスト」への先制攻撃も辞さない「反テロ人民戦争」であり、また「テロリスト」予備軍と目された人を先手先手で収容、改造する政策であったと考えられる。
 習近平政権が中華民族共同体意識を声高に唱えるようになったのに伴い、少数民族地域では中国語教育の拡充が強行されることとなった。
 ここで見逃してはならないことは、デモ参加者は概して民族言語での教育と中国語での教育を並行的に行うという中国の従来の民族政策には反対しておらず、従前どおりの教育を求めていたにすぎないことである。中華民族を作り出す習近平政権の攻勢によって、かえって民心が離れる事態を招いたと見ることもできよう。少数民族一人ひとりを、中国語を話し、中国国家への帰属意識を持つ「まっとうな中華民族」に改造しているといっても過言ではないだろう。
 これら一連の政策を指揮していた新疆ウイグル自治区党委員会の陳全国*7書記は、21年12月に離任し、馬興瑞という人物に交代となった。馬氏はもともとハルビン*8工業大学の教員*9で、中国航天科技集団の指導者となった後、政界*10に転じ、深圳市党委員会書記、広東省長などを歴任した。その馬氏が新疆に送り込まれた背景に関して、科学技術の専門家、また経済の先進地域である広東省の指導者としての経験を生かし、新疆の経済発展を指導することが期待されているといわれる。
 とはいえ、これによってこれまでの引き締めが全面的な緩和に向かうかといえば、その道筋は不透明である。

【熊倉本のアマゾンレビュー】

◆美しい夏
 本書は共産党支配が始まってから約70年の新疆の歴史を描く本である。新疆問題については、在外ウイグル人、欧米からの非難と、中国側の反論が激しく対立しているが、著者は第三者的な立場から本書を書くように心がけ、自己抑制し、どちらにもくみせず、通史を客観的に論じたつもりとのことである。
 著者は、中国共産党の新疆政策には「ジェノサイド」ないし「文化的ジェノサイド」に重なるものがあるが、根本的には「集団の破壊」とは考えにくいとする。ウイグル人の党員、幹部が現地ムスリムの中から登用、養成されており、党機関紙「新疆日報」ウイグル語版の発行も続いている。つまり、行われているのは「民族の破壊」というよりは「民族の改造」である。つまり、ウイグル人中華民族の一員として、祖国中国を賛美し、漢人と団結して生きていくように強制的に改造されているのである。
【蛇足】
 最後に、(ボーガス注:ウイグル出身の)現役華流美人女優ディルラバ・ディルムラト*11の写真が出てきてドキッとする。ちょっと気の毒な扱いである。

◆ブサイクなワンワン
 欲を言えば、もう少し中国共産党の民族政策全体の政策の分析や他民族・他地域への政策との比較を通じた検証があれば更に良かった

◆Robert Thouless
 図表としては新疆の地図が1個(出典は何と「地球の歩き方」で、本文と都市の名称が異なる)、表が1個(新疆ウイグル自治区の人口の推移)しかありません。多数の人物、用語が出てくるが索引がないため、説明のある初出個所を探すのに下手をすると最初から読まなければならず読むのに大変苦労します。但し、歴史書なので年表はあります。
 「新書」は高校生、専門外の大学生、一般社会人向けの啓蒙書。近代中国の政治家や事件の名前を暗唱している国際政治専門の大学生しか読めない本ではいけません。索引だけ付ければ誰でも容易に読める本になります。ワープロ原稿であろうから索引を付けるのは簡単(自動)なはずです。
 内容が悪くないだけに残念です。著者のみならず編集者の責任。早急な改訂が必要です。

*1:法政大学准教授。著書『民族自決と民族団結:ソ連と中国の民族エリート』(2020年、東京大学出版会

*2:1949年(今から約73年前)の中国建国当時から、新疆ウイグル中国共産党統治下ですが、新疆ウイグル自治区の設置自体は1955(今から約67年前)年でそれ以前は「新疆省」です(新疆ウイグル自治区 - Wikipedia 参照)。

*3:新疆ウイグル自治区の首府

*4:チベット自治区の首府

*5:雲南省省都

*6:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て、現在、党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席。党中央宣伝部長、副首相(以上、文革での失脚以前)、広東省長、全国人民代表大会全人代)常務副委員長(以上、文革終了後)などを歴任した習仲勲の長男

*7:河北省長、チベット自治区党委員会書記、新疆ウイグル自治区党委員会書記など歴任

*8:黒竜江省省都

*9:馬興瑞 - Wikipediaによればハルビン工業大学教授

*10:馬興瑞 - Wikipediaによれば中国工業情報化部副部長、国家航天局長、国家国防科技工業局第二局長といったエンジニア関係の官職

*11:1992年生まれ。2010年、女優を目指し、上海戯劇学院パフォーマンス部に入学、2014年に卒業。2018年、テレビドラマ『逆転のシンデレラ 〜彼女はキレイだった〜』で中国電視金鷹奨の観客賞と女優賞をダブル受賞(ディルラバ・ディルムラット - Wikipedia参照)