高世仁に突っ込む(2022年8/21日分)

ロシア軍の実態が説得力を失わせる「即時停戦」論 - 高世仁のジャーナルな日々

 杉田氏は一昨年、自民党の性暴力対策の予算などを議論した会議で「女性はいくらでもウソをつけますから」と発言して物議をかもしたが、こういう言動は、右とか左とか政治的な立場の問題ではなく、人格の低俗さを露呈するものだ。

 ただし、そうした「女性差別暴言」なら例えばいいかげん家族会も、島田洋一に対して苦言くらいは呈したらどうか - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)が批判する「救う会副会長」島田の暴言がありますが、島田について当時何一つ批判しなかったクズが高世です。まあ、自分を棚上げしてよくも偉そうなことが言えたもんです。
 それにしても「お仲間ウヨしかいない場所」ならともかく、自民党の性暴力対策の予算などを議論した会議で「性暴力被害者(伊藤詩織氏)への当てこすり」としてこういうことが言えるのは杉田は常軌を逸していますね。

 ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「和平派」と「正義派」の論争があった。

 「和平派」と呼ぶなら、対立概念は「抗戦派」でしょう。「正義派」と呼ぶ時点で「お前にとって抗戦が正義なのか?。抗戦支持という結論ありきか?」と疑われても仕方がない。

 富田武*1成蹊大学名誉教授が、軌道修正ともいえる論説を毎日新聞(12日朝刊)に出した。
 ロシアの一方的で残忍な侵略の実態が明らかになるにつれ、即時停戦論は説得力を失ってきたように見える。
《ブチャなど各地でロシア軍による虐殺が明るみに出た。(略)ドンバス地方で、マリウポリをはじめ破壊の限りを尽くした。
 この段階で、会の内部に「即時停戦一本やりではロシアを利する」「戦争の行く末を見すえた公正な講和」を提示すべきだという意見が出た。ベトナム反戦運動の先例が想起された。

 「軍隊や戦争の性格が違う」ので単純比較できないとはいえ「南京事件(1937年12月)以降にトラウトマン和平工作(1938年1月)がされていること」を考えれば「ブチャの虐殺があるから停戦できない」というのは「理屈がおかしいんじゃないか」と思いますね。
 問題は「2月末の開戦から6ヶ月経っても戦争の終わりが見えないこと」や「ウクライナ側が何を戦争の終わりと考えてるのか見えないこと*2」にあります。
 ウクライナ側は何を目指してるのか。2月末の開戦前に戻すことか?。それともクリミアや「ロシア勢力が支配する自称共和国」も含めてウクライナ全土からロシアを撤退させることか。
 だからこそ「先の見えない戦争を続けるより停戦してはどうか」と言う話になる。朝鮮戦争が「建前では停戦」であるように「停戦で終わった戦争の前例」もある。「ウクライナが開戦前の状況に戻す見込みが大いにある」「いやそれどころか、クリミアなどウクライナ全土から(以下略)」なら停戦論なんか出てきません。俺もどっちかというと「停戦論寄り」の立場です。
 なお、トラウトマン和平工作について言えば「日本は今中国に勝ってる、首都南京も陥落した。この程度の和平なら、和平しないで戦争を継続した方が日本にとっていい」という近衛内閣の判断で日本側から交渉を打ち切りました。

 さらに富田氏はこう続ける。
 《私たちは、国際的な反戦世論でウクライナの抵抗を支援して交渉のテーブルを設け、早急な停戦と公正な(両成敗ではない)講和*3を目指す。「年内に戦争を終わらせたい*4」とするウクライナのゼレンスキー大統領を支持》
 同じ紙面に、東野篤子・筑波大教授の「ウクライナだけに決定権」と題する論考が載っている。

 つまりは毎日は会社全体として「抗戦論」にすることにしたのでしょう。
 そりゃ俺だってそれが可能ならそうしたい。停戦論者は「一部のロシアシンパ(きれい事を抜かしてるが内心はロシアを利したい)を除いて」皆そう思ってるでしょう。しかしそれは果たして可能なのか。
 この点、バーター取引論を北朝鮮拉致問題で主張する和田春樹氏が「停戦論」を主張していることは興味深い。
 そりゃ「徹底抗戦」は勇ましい、かっこいい。でも「現実性があるんですか?」と言う話です。
 小説やテレビドラマ、映画なら「苦心惨憺」の結果、正義が勝つことが多い。でも現実はそうではない。

 日本でロシアを信用しすぎたり融和的な意見が出たりする背景には「根強い反米意識」があると東野氏は指摘する。

 少なくとも俺はロシアを信用はしていません。
 俺の「停戦論の前提」は「徹底抗戦に展望が見えないこと」です。展望があれば徹底抗戦すればいいでしょう。まあ「徹底抗戦派」は「展望がある」というわけですが、俺には「展望がある」ようには見えません。
 そして俺には「反米意識」はあることを正直に認めますがそれも停戦論とは関係ない。
 というか「沖縄基地問題」など米国の問題行為を見ながら反米意識が全くないとしたらその方がおかしい。
 そしてこんなことを言う東野氏は「停戦派=親ロシア、反米」と言うレッテルを貼ってるだけではないか。
 救う会、家族会の

「バーター取引論」「段階的帰国容認論」=「北朝鮮シンパ」と言う暴論

と何が違うのか。

《日本外交は「中小国が大国に脅かされない秩序を守るには、武力による現状変更を黙認してはならない」と、愚直に説き続けるべきだ。》との東野氏の結論に賛成する。

 で、そういう東野氏は例えば「大国(米国)が中小国(アフガン、イラク)の政権を武力で転覆し、現状変更した事件」において「当事者の米国」や「米国を容認した日本政府」をどれほど批判したのだろうかと聞きたくなります。
 まあ、この種の御仁は「親米右派、自民党支持、日本外務省支持が多い」ので東野氏が「米国や日本政府を批判してなくても何ら不思議ではない」ですが(確認すればいいのですがなかなか難しいので現時点では確認していません)。

*1:著書『スターリニズムの統治構造』(1996年、岩波書店)、『戦間期の日ソ関係』(2010年、岩波書店)、『シベリア抑留者たちの戦後』(2013年、人文書院)、『シベリア抑留』(2016年、中公新書)、『日本人記者の観た赤いロシア』(2017年、岩波現代全書)、『歴史としての東大闘争』(2109年、ちくま新書)、『シベリア抑留者への鎮魂歌(レクイエム)』(2019年、人文書院)、『日ソ戦争 1945年8月』(2020年、みすず書房)、『抑留を生きる力:シベリア捕虜の内面世界』(2022年、朝日選書)、『日ソ戦争 南樺太・千島の攻防』(2022年、みすず書房)、など

*2:まあ、これはロシア側も同じですが。まさか「ウクライナ全土支配」ではないと思いますが。

*3:「公正な講和」と言うのも真面目に考えれば難しい話です。例えば領土について言えば「どのレベルが公正なのか」「2月末の開戦前に戻すことか」「それともウクライナ全土からのロシア軍撤退か」。あるいはNATOEUの加盟について言えば「ロシアの言い分を飲んでひとまず当面加入しないこと」は公正なのか。

*4:ウクライナ政府にとっての終戦」が何を意味するのか不明ですが、仮に「2月末の開戦前に戻すこと」ならあと4ヶ月で終わらせるとするのはどう考えても無理でしょう(勿論クリミアを含むウクライナ全土からのロシア撤退はもっと無理です)。但しその無理なことを放言するのがウクライナ政府のようです。無理なことを放言するゼレンスキーには「戦争を真面目に考えてるのか?」という疑念を感じます。