高世仁に悪口する(2022年9/1日分)

ゴルバチョフ死去のニュースに - 高世仁のジャーナルな日々
 多少の感慨はありますが既に過去の人ですからね。
 なお「冷戦を終わらせた」という「日本でよくある高評価」は一面的でしょう。ゴルバチョフは「経済立て直し」には失敗し「政治の民主化」も道半ばで挫折しました。その結果が今のプーチン政権であり「酷なこと」を言えば「プーチン誕生」にはゴルビーの責任もあります。
 しかし、ロシアでの「プーチン独裁」を見ていると「権力の刷新は難しい」と改めて実感します。
 権力者という物は通常自然に退場しない。「退陣を要求されない限り」、権力の座に「何とか居座ろう」とするわけです(その特に酷い例がモリカケ桜の安倍)。そのため、ソ連崩壊後も「旧勢力」が政府内部に残存し、その結果が今のプーチン独裁でしょう(プーチンは旧勢力の一つKGB出身)。
 日本においても

岸信介
 戦犯容疑者。戦前、満州国総務庁次長、商工次官、東条内閣商工相。戦後、公職追放されるが逆コースによって解除され政界に復帰。日本民主党幹事長、自民党幹事長(鳩山総裁時代)、石橋内閣外相を経て首相。首相退任後も実弟・佐藤首相、子分・福田首相(岸が派閥を禅譲)、女婿・安倍晋太郎*1を通じ無視できない政治力を保有した。
賀屋興宣
 第一次近衛、東条内閣蔵相。戦後、終身刑判決を受けるが逆コースで仮釈放。公職追放も解除され政界に復帰。池田内閣法相、自民党政調会長(池田総裁時代)など歴任
重光葵
 東条、小磯内閣外相。戦後禁固7年の刑に服し、公職追放されるが逆コースによって解除され政界に復帰。改進党総裁、日本民主党副総裁(鳩山総裁時代)、鳩山内閣外相など歴任

と戦後も「旧勢力の実力者」が「逆コースによる公職追放解除」もあって、何人か「戦前の反省ゼロ」で政界に居座りました。
 その結果が今の「慰安婦、徴用工問題」の一原因の訳です。また、祖父・岸が復権したからこそ安倍晋三も首相になれたわけです。
 「繰り返しますが」韓国においても「朴槿恵」が「韓国民主化後も、朴正熙の七光りで大統領」など「一度構築された権力構造」はそう簡単には崩壊しません。

 共産党の書記長つまり権力の中枢にゴルバチョフがついて、ど真ん中から体制を食い破っていったわけで、なぜあんなことが可能だったのか、今でも不思議だ。あれ以来、北朝鮮や中国でも、体制の内部から、ゴルビーのような「鬼っ子」が出現してくれないかな、といつも思っている。

 ゴルビーの場合、少なくとも彼の主観では「改革」は「ソ連生き残り」であり「ソ連崩壊」ではない。
 しかし彼の思惑を裏切って事態はソ連崩壊に進んだわけです。そういう意味ではゴルビーは「クーデターを起こした保守派」の主観はともかくゴルビー個人の主観では「鬼っ子」ではない。
 なお、「北朝鮮はともかく」中国においても「ゴルビーのような改革者」はいます。「改革開放の鄧小平」です。
 ただし彼は「経済改革」には乗り気でも政治改革には乗り気ではなく、彼の改革は「中国を経済大国にし、中国共産党体制を強固にして」、ゴルビーとは逆の道になったわけです。
 そういえば「ソ連クーデター(1991年8月19日)」と言えば「当時、俺(1970年代生まれの団塊ジュニア)は高校生で夏休み期間中だった記憶」がありますが、「ヤナーエフ副大統領、パヴロフ首相、プーゴ*2内相、ヤゾフ国防相、クリュチコフKGB議長と政権幹部複数(それもKGB、軍という暴力機構の幹部もいる)がクーデター派では、仮にゴルバチョフが勝利するにしても、残念ながらさすがに8月中には決着はつかないだろう、夏休み明けても問題は続くだろう」と思っていたところ、数日で保守派が敗北したことには仰天したことを思い出しました。それだけソ連体制が「予想以上に崩壊していた」ということでしょうが。

 日本共産党が、政権を取ったら中国みたいに人権を弾圧するのではないかと疑問を持たれることについて、中国の誤りには「自由と民主主義」を体験することなく革命にいたったという歴史が横たわっているので、「発達した資本主義国からの社会変革をめざす日本では絶対にこんなことはおこりません」と主張している。
 しかし、発達した資本主義国だったドイツでもナチスが選挙*3によって独裁権力を築いたわけで、この理屈には説得力を欠く。

 おいおいですね。ドイツなんか例外的事象でしょうに。
 かつ、ドイツが「第一次大戦敗北による帝政崩壊(1919年)からナチス政権獲得(1934年)」まで「完全な民主主義の期間」は「たった15年程度」しかなかったことにも注意が必要でしょう。「発達した資本主義国&民主主義の長い経験」があるならば、まず「独裁」なんてことはありえません。戦後日本の民主主義経験は既に77年に及びます。
 というかドイツ、イタリア、日本のファシズムは一般に「発達した先進資本主義国(米英仏)」と違い「後進資本主義国(そして王政、帝政など民主主義の観点でも遅れていた)だったことが一因*4」と評価されるのであって高世のような理解は普通しないと思います。
 いずれにせよ、仮に「日本共産党が政権獲得した場合」に独裁が起こるとしたらそれは「共産党の責任」云々と言うよりも「それ以前の民主主義に問題があった」と見るべきでしょう。強固な民主主義が構築されていれば、共産党だろうがどこだろうが与党独裁などそう簡単にできるもんではない。
 まあ現状では、細川非自民政権、村山自社さ連立政権のような連立政権参加ならともかく「共産党の単独政権」はあり得ないし、「300議席獲得した中曽根政権」「モリカケ桜の安倍政権」ですら何でもかんでも好き勝手できたわけではない(例えば結局、中曽根も安倍も明文改憲はできなかった)ので、高世の主張は杞憂です。
 と言うより今懸念すべき事は「モリカケ桜」「閣議決定による安倍国葬」など「近年起きた、あるいは現在進行形で起きている反民主主義行為(多くの場合主犯は自民党)」にどう対抗していくかであって、それを無視して「共産党の独裁の危険ガー」などとんちんかんにもほどがある。
 「そんなことを気にするより自民党の独裁的政治を批判しろよ」「自民党の独裁はきれいな独裁なのか?」ですね。
 なお、中国において「民主主義の経験が不十分だった→蒋介石毛沢東の独裁」は「日本が侵略したこと」が大きいでしょう。
 「侵略に対抗するため」には「挙国一致体制」が求められる。そうなると「民主主義は後回し」にされがちです。
 この点、俺が危惧するのはウクライナです。同様の理屈で「ウクライナにおいてゼレンスキー独裁体制が成立する危険」は十分にあると俺は見ます。高世やid:kojitakenなどはゼレンスキー礼賛しかしませんが。

*1:三木内閣農林相、福田内閣官房長官自民党政調会長(大平総裁時代)、鈴木内閣通産相、中曽根内閣外相、自民党幹事長(竹下総裁時代)など歴任

*2:クーデター失敗後、将来を悲観して自殺

*3:選挙だけではなく「国会議事堂放火事件での社民党共産党弾圧(1933年)」「長いナイフの夜(1934年:シュライヒャー前首相、ブレドウ国防軍官房長、グスタフ・フォン・カール元バイエルン州首相、突撃隊指導者レームなど反ヒトラー派を違法殺害)」を無視する高世には「げんなり」ですね。ナチスは謀略や暴力も使用して政権を獲得、維持したのであって民主主義的な選挙だけで政権獲得、維持したわけではない。

*4:こうした「後進性」を重視し、大日本帝国において「民主主義革命」+「その後の社会主義革命」の「二段階革命」を主張したのが戦前のいわゆる講座派です。いわゆる「敵の出方論」もこうした「後進性重視」が根拠の一つでしょう。